いけないですか

雪乃都鳥

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第2章

8,「矛盾してるよね、ごめん」

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「ねー、先輩。これさ——」

 実咲は隣で眠ってしまっていた。俺は仕方なく実咲を横にならせて、そこにあったブランケットをかけた。

 寝顔、可愛いな。しゃがんで、その寝顔をしばらく見ていた。

 可愛いと思えばムラムラも同伴してくるが、この子だけはそれに負けてしまってはいけないと何故かそうおもった。

 俺が、汚れているからかもしれない。

 実咲の頬に手をあてて、親指で撫でる。胸から溢れてくるこの感情は、なんなのだろうか。

 薄いピンク色の唇。

「……実咲」

 起こそうと声をかけようとして、口を開こうとした。でも、実咲の寝言の方が先だった。

「……京一きょういち

その言葉は胸に重く突き刺さり、俺は口を閉ざした。

「おもってたより、きついや」

 自嘲気味に笑い、虚しさだけが、心に残る。




 実咲の肩をゆすって起こすと、準備を整えていた俺は言った。できるだけ、愛情を込めて。

「先輩。俺たち、距離置こう」

 その言葉に実咲はやがて意味がわかったようで、下を向いて俯いたがなんの言葉もなかった。

 玄関を出て、俺は靴を履いて外へ出た。息を吸い込むと、夜の冷たい風が気持ちよかった。

 俺は振り向かずに、歩いた。早く、家へ帰ってシャワー浴びて寝てしまおう。



 街灯が並ぶ土手に差し掛かった時、家へ帰る気力を失いその場へ立ち止まった。土手の向こうには、何も無い。時々、川面かわずらが街灯の明かりを反射していているだけだった。

「ごめん、実咲。それでもいいって言ったのは俺の方なのにな」

遠くに投げた石が沈んで、虚しい音がして俺まで情けなかった。

「だけど、実咲は必要なんだよ」

——その忘れられない人と、向き合う時間がさ。
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