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第2章
4,「初デートといえば映画でしょ」
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俺は最寄駅に辿り着いて、足を止めた。着いてしまった。心なしか、足が落ち着かない。約束の時間まであと五分だ。
実咲がきたら、まず笑顔で迎える。口は開けないで、唇だけで余裕を見せて笑う。そして、手を繋ぐ。手を繋いだら、何しようか。
俺は時計を見る。ああ、もう実咲くるよ。あとは天に任せよう。そう決心した直後に、その音が聞こえた。明らかに、ブーツかヒールの音。
「陽くん、こんにちは」
先輩は顔をほころばせて、俯き俺を見上げた。照れてるんだ、実咲。可愛い。俺も笑っていた。実咲は春らしく、淡いオレンジ系のフレアスカート履いていた。靴はその色に合うような、深い赤のヒールだった。
「先輩、ほら」
俺はそう言いかけて、手を伸ばそうとした。が、シュミレーション通りにはいかなかった。
「どうしたの? 陽くん」
手を繋ぐのは、延期しよう。
「ううん、なんでもない。それより」
俺は時計を見た。
「映画まで時間あるから、ちょっとショッピングでもしない? 」
「ショッピング、してくれるの?」
おかしな質問だなと、俺は思った。ショッピング、してくれるの? だってさ。ショッピングくらい、普通にするよ実咲。
「先輩」
俺は実咲と距離を詰めて、言った。
「今、だれ思い浮かべた?」
実咲は固まって、目を泳がせた。もう返事をしなくても、わかってしまうよ。
「いいんだよ、先輩。俺は、承知の上で付き合ってるんだからさ。ただ」
俺は、しばらく間を空けた。
「そんな、悲しい顔するなら。今くらいは俺だけを見てて」
さあ、行くよ。俺はそう言った。
シネマはこの大型ショッピセンターの中に設けられてて、各フロアには店が雑多にある。俺は実咲を連れて、二階のフロアに向かった。このフロアはアクセや服が主な商品だ。
物色していると、カラフルなアクセが売っている店を見つけた。
「先輩、こっちきて」
近寄ってきた実咲に、それを見せた。
「あ、可愛い!」
「でしょ? 先輩に似合うんじゃないかなって思って」
シンプルなデザインだけど、チャーム がアクセントを効いている。
「素敵……」
実咲は完璧に女の子の顔をして、それを見つめている。俺はズボンの後ろポケットに、手を当てた。
「買ってあげようか?」
そういえば、実咲は俺を見上げて。
「……いいの?」
そう言ってきた。目がキラキラしてるし。犯罪級だなこの笑顔。
「いいよ、全然。先輩可愛いから」
俺は会計を終えると、ブレスレットを実咲の腕につけた。
「ほら、すっごい可愛い」
「ふふ、ありがとう」
実咲が笑ってる最中、同じく笑顔の俺は葛藤していた。
いま、いま、いまじゃない?。いまいけるっしょ。ほら。手をつなげ、手をつなげ。
「どうしたの?」
実咲は、首をかしげる。俺は、我に返って首を振った。
「いや、なんでもないよ。そろそろだね、行こう」
なーんで、なーんでなんで!いま繋げたろ!
歩きながら俺は自分のヘタレさに地団駄を踏むが、正気に戻った。ほら、映画館でなら手、握れるだろ。
列に並んでいると、実咲は無意識なのか落ち向かない様子だった。
「先輩、どうしたの?」
「え、あ、うん。あはは、ごめん。誰かと一緒に映画観るのはじめてだから、嬉しくて」
先輩は下唇を噛んで、笑みを隠そうとしているが隠しきれていない。それが、可愛いかった。
チケットを見ながら薄暗いなかに入っていくと、俺までワクワクしはじめた。
十番に入ると、より一層暗くなる。俺は横目で実咲をちらりと見た。さっきよりも胸がうるさい。
「俺らは、後ろの方だよ。しかも真ん中」
「そうだね、嬉しいな。ありがとう、良い席を選んでくれたんだよね」
俺は頷いて席を探した。チケットを見て、俺はなんとなくで見つけてしまう。先輩を先に通して、俺も座った。
「緊張、するね」
まだ明るい場内、実咲が言う。俺は、そうだねと頷いた。
「ドキドキするよね、上映前って」
「うん。今日は、陽くんもいるし」
センパーイ。そんな可愛いこと言わないで。俺は内心でそう訴えた。いやでも、言ってくれてよかった。いま最高に喜んでる。俺。
CMを終えていよいよ場内が静まり、隣を見てみると、うっすらと実咲が見えた。
映画は壮大な音楽から始まった。そして、まもなく映ったのは黒い狼。ダークウルフと言うらしい。てっきり、狼の話なのかなと思っていたら違った。ビーバーや、名前は忘れたけどツノのでかい生き物。
実咲はこう言うのが好きなんだ。始めは実咲にしか興味なかったけどドキュメンタリーもたまにはいいなと思えた。
映像はクライマックスに差し掛かった。最後、また狼が現れた。全身血だらけで、その歩みが遅くなる。急に迎えた寒風と吹雪に力果てて——倒れる。
実咲を横目で見ると、ハンカチで涙を拭いているのがわかる。泣いているのか、鼻をすすっている。
俺は、その手に手を重ねた。そしてしっかりと握った。この時はなぜか緊張するとか考えてなかった。実咲の手は震えていた。
実咲がきたら、まず笑顔で迎える。口は開けないで、唇だけで余裕を見せて笑う。そして、手を繋ぐ。手を繋いだら、何しようか。
俺は時計を見る。ああ、もう実咲くるよ。あとは天に任せよう。そう決心した直後に、その音が聞こえた。明らかに、ブーツかヒールの音。
「陽くん、こんにちは」
先輩は顔をほころばせて、俯き俺を見上げた。照れてるんだ、実咲。可愛い。俺も笑っていた。実咲は春らしく、淡いオレンジ系のフレアスカート履いていた。靴はその色に合うような、深い赤のヒールだった。
「先輩、ほら」
俺はそう言いかけて、手を伸ばそうとした。が、シュミレーション通りにはいかなかった。
「どうしたの? 陽くん」
手を繋ぐのは、延期しよう。
「ううん、なんでもない。それより」
俺は時計を見た。
「映画まで時間あるから、ちょっとショッピングでもしない? 」
「ショッピング、してくれるの?」
おかしな質問だなと、俺は思った。ショッピング、してくれるの? だってさ。ショッピングくらい、普通にするよ実咲。
「先輩」
俺は実咲と距離を詰めて、言った。
「今、だれ思い浮かべた?」
実咲は固まって、目を泳がせた。もう返事をしなくても、わかってしまうよ。
「いいんだよ、先輩。俺は、承知の上で付き合ってるんだからさ。ただ」
俺は、しばらく間を空けた。
「そんな、悲しい顔するなら。今くらいは俺だけを見てて」
さあ、行くよ。俺はそう言った。
シネマはこの大型ショッピセンターの中に設けられてて、各フロアには店が雑多にある。俺は実咲を連れて、二階のフロアに向かった。このフロアはアクセや服が主な商品だ。
物色していると、カラフルなアクセが売っている店を見つけた。
「先輩、こっちきて」
近寄ってきた実咲に、それを見せた。
「あ、可愛い!」
「でしょ? 先輩に似合うんじゃないかなって思って」
シンプルなデザインだけど、チャーム がアクセントを効いている。
「素敵……」
実咲は完璧に女の子の顔をして、それを見つめている。俺はズボンの後ろポケットに、手を当てた。
「買ってあげようか?」
そういえば、実咲は俺を見上げて。
「……いいの?」
そう言ってきた。目がキラキラしてるし。犯罪級だなこの笑顔。
「いいよ、全然。先輩可愛いから」
俺は会計を終えると、ブレスレットを実咲の腕につけた。
「ほら、すっごい可愛い」
「ふふ、ありがとう」
実咲が笑ってる最中、同じく笑顔の俺は葛藤していた。
いま、いま、いまじゃない?。いまいけるっしょ。ほら。手をつなげ、手をつなげ。
「どうしたの?」
実咲は、首をかしげる。俺は、我に返って首を振った。
「いや、なんでもないよ。そろそろだね、行こう」
なーんで、なーんでなんで!いま繋げたろ!
歩きながら俺は自分のヘタレさに地団駄を踏むが、正気に戻った。ほら、映画館でなら手、握れるだろ。
列に並んでいると、実咲は無意識なのか落ち向かない様子だった。
「先輩、どうしたの?」
「え、あ、うん。あはは、ごめん。誰かと一緒に映画観るのはじめてだから、嬉しくて」
先輩は下唇を噛んで、笑みを隠そうとしているが隠しきれていない。それが、可愛いかった。
チケットを見ながら薄暗いなかに入っていくと、俺までワクワクしはじめた。
十番に入ると、より一層暗くなる。俺は横目で実咲をちらりと見た。さっきよりも胸がうるさい。
「俺らは、後ろの方だよ。しかも真ん中」
「そうだね、嬉しいな。ありがとう、良い席を選んでくれたんだよね」
俺は頷いて席を探した。チケットを見て、俺はなんとなくで見つけてしまう。先輩を先に通して、俺も座った。
「緊張、するね」
まだ明るい場内、実咲が言う。俺は、そうだねと頷いた。
「ドキドキするよね、上映前って」
「うん。今日は、陽くんもいるし」
センパーイ。そんな可愛いこと言わないで。俺は内心でそう訴えた。いやでも、言ってくれてよかった。いま最高に喜んでる。俺。
CMを終えていよいよ場内が静まり、隣を見てみると、うっすらと実咲が見えた。
映画は壮大な音楽から始まった。そして、まもなく映ったのは黒い狼。ダークウルフと言うらしい。てっきり、狼の話なのかなと思っていたら違った。ビーバーや、名前は忘れたけどツノのでかい生き物。
実咲はこう言うのが好きなんだ。始めは実咲にしか興味なかったけどドキュメンタリーもたまにはいいなと思えた。
映像はクライマックスに差し掛かった。最後、また狼が現れた。全身血だらけで、その歩みが遅くなる。急に迎えた寒風と吹雪に力果てて——倒れる。
実咲を横目で見ると、ハンカチで涙を拭いているのがわかる。泣いているのか、鼻をすすっている。
俺は、その手に手を重ねた。そしてしっかりと握った。この時はなぜか緊張するとか考えてなかった。実咲の手は震えていた。
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