いけないですか

雪乃都鳥

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第1章

3,「誘いは古風で」

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 俺は、しばらく呼吸をするのを忘れてしまった。

「ごめんなさい。私、まだ無理なの」

 そう言った先輩に日が差して、温かく見えた。学校が終わり次第の、放課後。


 ★

 その日、宣言通りに自分のクラスにこもってあることをしていた。水色の便箋に下手な字を並べていく。

手紙なんていつぶりだっけ。

 確か中学の卒業式に母親に贈った日以来。西村に言ったら、原始的だなと言われたけど。やばい、ちょっと重たいかな。

 俺でもらしくないと思いながら、でもやっぱり書き続けた。

 赤い夕陽が、窓を染めて空に広がっていった。カラスの声が聞こえて、アナウンスが流れる。

「こんなもんか、な」

 書き上げた紙を一望して、封筒にその手紙を入れた。この封筒も、女が好きそうなものを選んだ。


 そして、下駄箱の靴に入れて下校したんだけど。




 先輩は困った顔をして、首をかしげていた。俺はその言葉の意味がわからなくて聞き返したいが、どう聞こうか。
 
「えっと、っていうんですか? 」

 先輩はやんわりと首を振って、空を見上げる。空はまるでブルーハワイの色をしていた。

 だが、正直空の色など興味がない。

 俺は重ねて、尋ねる。

「あの、ではいつならいいんです?」

 わざと確信を突かない遠回りな言い方をすると、先輩は沈黙して何かを考えた。

「わからない。あの人が記憶から消えるまで」

 あの人、って誰だ?。

「俺の、知らない人ですか?」
「うん。きっと知らないよ。でも、この高校の卒業生ではあるけれど」

 そういって、先輩は遠くを見る。その視線はどこに繋がってるの? 先輩。

「じゃあ、このままだと俺では無理なんですね」
「うん。ごめんなさい」

 そうですか。と俺は言った。彼女は髪をなびかせて、歩いていく。その後ろ姿を追っているうちに、俺の心が酷く軋んだ——諦められない。

 先輩の後ろ姿にその名前を呼んで、「もし、」と俺は言った。先輩は振り向いて、足を止める。

「もし、それでも構わないって言ったら付き合ってくれますか」

 彼女は、ほんとうに困った顔をして俺を見る。

「それは、キミに悪いよ」
「いいんです。二番目でもいいから」

 俺は、彼女に近付いて言った。

「二番目でもいいから、先輩のこと、もっとおしえてよ」


 校庭には、ちらほら名前も知らない花々が控えめに顔を出している。亜麻色の髪に、くっきりとした小さな顔が、ちょうどあの花に似ていた。
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