変異の町―create new life―

家頁愛造(やこうあいぞう)

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第一章 相田一郎

憎悪の立像

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 改めていざ近くで見るとますます巨大に見えてくる。
 成長はあれから止まっているようだが、建物で言えば三、四階、十五メートル以上はありそうだ。

 粘液で覆われた太いミミズあるいは昆虫の腹のような、電柱よりも太い薄紫の胴体が地面から垂直に突き出しているが、それを固定する根のようなものは見当たらない。
 土の中がどのようになっているのか見当もつかないし想像もしたくない。
 その胴体の十メートル辺りの高さから、木の枝のように横、上へと無数に生えた蛇腹模様の薄紫の触手が不気味にウネウネとゆっくり蠢いている。

 なんて醜い姿なんだ……
 絶対に触りたくはない。
 
 見上げて注意深く観察すると、幾つかの触手が先端部分に蜷局とぐろを巻いたまま静止している。

 「これは一体どういう事なんだ?」

 蜷局の中央には『何か』の物体が包まれている。
 はみ出している茶色い羽、そして三本指の脚。
 戦慄が走る。
 すぐに理由が分かった。
 中にあるのは動かなくなっただ。
 
 こいつは鳥を捕食●●してやがる!!

 遂に地球の生物に直接危害を加え始めたというのか……やはりこいつは間違いなく危険な存在だ!!

 ふと視界の端の方に何かの違和感を覚える。
 以前に見たことのある嫌なもの……厄災の発端。
 それは隣の木の一部から感じとられる。

 「ま、まさか……」

 目線をゆっくりそっちへと向ける。
 木が……隣の木が灰色に変化し始めている……

 ああ……なんて事だ……
 伝染してるじゃないか!!

 頭の中でジグソーパズルのピースが噛み合うイメージでまた一つ謎が解けてゆく。

 そうか分かったぞ!
 元々この侵略生物一号もただの木だったんだ!
 新たに植えたんじゃない……
 ウイルスだ……
 ウイルスは人間だけではなく自然界にも侵食していたんだ!!
 
 畜生……好き勝手にやりやがって!!

 恐怖よりも怒りが上回った。
 俺が産まれた頃より姿をほとんど変えることのなかったノスタルジーに満ちたこの町という聖域が、何処のどいつか全く分からない奴らに何の許可もなく勝手に作り替えられてゆくのだから。

 「ここは俺の町なんだぁーーーっ!!●●●●●●●●●●●●●●●

 一気に頭へと血が上り、飛び込むように車に乗り込んだ。
 向かう先はこの郊外近くにあるガソリンスタンドだ。

 程なくして辿り着くと、スタンド手前の電柱には黒い生物が一羽止まっていた。

 ――カラスか……もしかすると最後まで生き残る地上の知的生命体はこいつらなのかもしれない。
 俺にも翼があればあんな壁なんて乗り越えられるのに……
 
 「くっ!」

 また違和感が来た。
 電線を掴んでいるカラスの脚の形状は触手のように変貌している。そして羽の内側からはホログラフィックな虫の羽のような何かが少しはみ出している。
 外見こそはまだカラスだが、きっと羽の内部、皮膚の部分では恐ろしい事になっているのだろう。

 奴は俺に気付き、こちらを少しの間見つめ、本来の鳴き声と金属を擦る電子音のような音声が融合した不気味な奇声を上げると、黒い羽を目一杯に広げて何処かへと飛び立った。

 「……」
 
 去りゆくカラスだったものをただ呆然と見つめる。
 羽ばたいていたのは黒い翼ではなく、その内側にある高速で上下する虹色の羽の方だった。
 奴はどんどん遠ざかってゆき、やがて見えなくなった。
 
 スタンド内へ入るとやはり中には誰も居ない。
 俺は販売されていたポリタンクに黙々と灯油を注ぎ込み、事務所の引き出しから見つけた使い捨てライターを胸ポケットへ入れると、ミミズの木の元へと戻った。

 「させるかよ~、させるかよ~」

 恨みの言葉を何度も吐きながらバシャバシャと音を立てて奴に灯油を浴びせる。

 見てろよこの野郎……
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