変異の町―create new life―

家頁愛造(やこうあいぞう)

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第一章 相田一郎

合理的な手段

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 この巨大隔離壁、廃人ウイルス、そしてミミズの木……これらはほぼ同時期に発生した。
 そしてそのどれもが人類の判断から見て超自然的なものだ。

 だが、もし高度なテクノロジーを有したエイリアンが何かの目的●●●●●によってそれらを意図的に仕掛けたというのならば、そこには一貫した整合性が存在する。

 侵略●●だ。

 各地へとばら撒いたウイルスにより自らが直接手を下す事なく有無も言わず人類をあっという間に無力化させ、万が一に俺のような耐性を持った者が大勢集まらないようにエリア毎に壁で分けて隔離する。
 そして後はじっくりと邪魔をされずに自分達の惑星の生物を植え付ていく……テラフォーミングだ。

 それならなぜ人々はさっさと殺されないのだろうか?
 きっとそれは後で集めてまとめて始末するか、何らかの方法で労働力や知識を含めた資源として再利用するからなのだろう。
 利用できるものは残しておくというわけか。

 体が震えてくる……

 なんて恐ろしいまでに冷徹で合理的で計画性を持った連中なんだ……
 まだ直接攻めてくるのなら悪足掻きに人類の意地を思い知らせてやる事ぐらいは出来ただろうが、人々は奴らの存在すら認知できずそれすらも許されない。
 奴らにとってこれは戦争ですらなくただの作業だ。

 あまりにも手慣れている……無理だ……
 人類ごときが勝てる相手じゃない!!
 
 きっと壁の向こうの地方都市、いや日本全土は既に奴らの支配下にあるのだろう。
 ヘリの一台も飛んでやしない。
 もし無事であるならば、これだけ目立つ物体があるのだから調査しに地上が駄目でも空から誰かしら近寄ってくるはずだ。

 俺が足掻いてきた事は何もかも無駄だったというのか……

 「帰ろう母さん」

 車へ乗り込み、今はもうもの言わぬ母さんへそう伝えると俺達は来た道を引き返していった。

 帰りの峠道で考え続ける。

 これから俺はどうすればいいのだろうか?
 愛してやまないこの町で人類の歴史が終わってゆくのを、為すがままにただ黙って眺めていくしかないというのか。
 多分、俺は奴らに見つかり次第イレギュラーな存在と見なされ処刑されるか、より完璧なウイルス作成のため、研究材料にされるのだろう。
 人生で何も成せず、誰も救えず、最後の時が来るまで家に住み着いた鼠のように惨めに怯えてコソコソと生き続けなければならないというのか。

 この世の本質は弱肉強食。
 弱者に正義や選択肢など存在しない。
 一方的に強者からあらゆるものを搾取され、何もかもが力によって定められる。
 勝った者こそが正義なのだから。

 それも運命か……
 
 また海岸沿いを走る。
 海は相変わらず荒れている。
 いっそのことボートに乗ってどこかへ行くことも許されそうにない。
 タイミングが良すぎる。きっとこれも攻撃の一部なのだろう。
 奴らは徹底的にどこまでも抜かりがない。
 この町は既に奴らに管理されているんだ。

 ほら、また例のものが見えてきた。もうあまり驚きはしないぞ。
 せっかくだから近くで見てやろうじゃないか。
 
 もう必要のなくなった行為ではあるが、交通文化の名残りにより路肩に車を停めた。

 「母さん、少し待っててくれ」

 そして海沿いの草の茂みへと入り、侵略生物の前へと歩み寄った。
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