変異の町―create new life―

家頁愛造(やこうあいぞう)

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第一章 相田一郎

想定外の脅威

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 何故こんな得体の知れないものが通路を妨害するかのように建設されているのか?
 
 俺が最後に地方都市へ行ったのは先々週の日曜日。
 もちろんその時はこんなものなどなかった。
 ということは、これはごく最近になって造られたものだ。
 
 今日は何曜日だったっけ……まあいい、少なくとも二週間以内にこれが建築されたことになる。

 霧の中、見回すと壁は左右どちらにも満遍なく延びていて、見上げれば目視できる限界までそびえている。

 なんて巨大な建造物なんだ……具体的な数値は分からないが、少なく見積っても百メートル以上の高さがあるようだ。
 こいつのせいで地方都市との往来が途絶えていたんだな。
 
 これは紛れもなく人工物だ。
 自然にできたというのならこんな奇麗な面になるはずがないだろう。
 じゃあどうやってこんな短期間で……

 もういい、今はそんな事を考えている場合じゃない!

 クソッ、このままでは先へと進めない……
 どこかで途切れていないだろうか?

 しかし参ったぞこれは……探すにしてもここから壁沿いに進むには急斜面の崖を自力で登ってゆくしかないようだ。
 
 左右の崖には土砂災害対策のためにコンクリートの補強がなされている。
 それには規則正しい菱形模様の細かな溝がある。
 そこに指を入れていけば少しずつだが登っていけるのかもしれないが、俺は鍛え上げられたクライマーじゃない。

 溝に指を入れ、試しにほんの少し壁を登ろうとするが、かなりキツい。指の力が全然足りていないのを実感する。

 やはりこのやり方は危険だ、命綱すらないんだぞ。
 これなら戻って登れそうな場所を探す方が良いのかもしれない。

 どうしようかと壁と崖の近くをウロウロしているうちにある事に気付いた。

 視界が……広くなっている?
 間違いない。どんどん霧が晴れてきているんだ!

 今日、目覚めた時からずっとこの町を包んで、遠くの視界を隠していた霧はようやく消滅の時を迎えそうだ。
 これならどこか見晴らしの良い高い場所にでも移動すれば楽に壁の終わりが見つかるだろう。探せばどこかにあるはずだ。
 
 思っているよりずっと早く霧は引いてゆく。
 ここぞと言わんばかりに黒壁の範囲を左右上方向と満遍なく確認し続けるが、それでもまだまだ面積は増えてゆく。止まらない。

 「そ ん な は ず は な い !!」
 
 俺は思った事をありのままに叫んだ。
 あまりにも常識外れで馬鹿馬鹿しかったからだ。
 霧は完全に晴れていた。
 全てが視える。遥か先の景色まで。
 
 黒の面は果てしなく続いていた。
 この峠の山は最大で標高七百メートル程だ。
 壁の高さは山の頂上よりやや低い程度だが、それでも五百メートル近くはあるだろう。
 幅に至っては終わりがどこにも見つからない。

 「ここまでするか……」

 この氷のような垂直の壁を人力で越えるのは不可能。
 『させはしない』という強い意志を感じる。
 これは……明確に、町と町とを隔離するために造られたものだ!!

 人類の技術ではこんなもの二週間どころか百年かけても完成できないだろう……

 だが実際にこれは存在している……
 どういうことだ……?

 頭の中で一つの可能性が浮かび上がる。
 それは子供がまず最初に考えそうなとても馬鹿げた推理……
 
 エイリアンだ……

 「こんな事出来るのは宇宙人しかいない!!」
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