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第一章 相田一郎
迷いの払拭
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また一台、等速で車が横切ってゆく。
それはさっき見た車と同じ……ああクソッ全く同じ車だ!
やられた! みんなやけに落ち着いているとは思っていた。
……そうじゃないんだ。
こいつらみんなただ何も考えずに同じルートをぐるぐると繰り返し走っているだけだったんだ!
まるでプログラムのように。
車だけじゃない……
ここは町の中心部だというのに野次馬一人寄ってこない。
こんな凄い事故が起きているというのに!
こう結論付けるしかない。
この場所で正常なのは俺だけなんだ!
安堵感は長くは続かなかった。それどころか危機感がますます強大なものへと増幅されてゆく。
感染範囲の拡大を実際に目撃し、自分以外にこの町でまだ誰一人として正常な者を発見できていないのだから。
まだだ……それでもまだ町の人間全てが感染したという確証はない。
何でもいい、今すぐ確実な情報を知りたい!
「親父に電話しよう……」
母さんに電話しても仕方ない。もし親父が感染していないのならそっちの状況をいろいろ教えてくれるだろうし、頼もしい存在となるだろう。
もしかすると既に母さんを病院へ連れて行っている可能性すらある。
俺は最後の希望と言わんばかりにスマホに記録されている親父の携帯番号へと電話を繋いだ。
頼む! 頼むから!
「……………………」
終わらない着信音。それは無意味な行為であったことを告げるものだった。
――何となく分かっていた。もし親父が同じ立場にあったなら、同じ事をしていただろう。
一向にこちらへ連絡しないということは、親父も既に手遅れだったというわけだ。
駄目だ! ああ駄目だ駄目だ駄目だ!
全く繋がらない!
親父まで!
誰か……他の番号は……?
また待ち続けてかからなかったらどうする!?
さっきからずっと空回りばかりしている。
グダグダだ……何か一つでも上手くいったことがあったか? 無いだろ!
こうしている間にも母さんの症状はどんどん悪化しているのかもしれないのに、これまでにあまりにも時間がかかり過ぎているじゃないか……
こんな事してられない! 誰もアテにしてはいけない、時間の無駄だ!!
もし他に車を見かけたとしてもそいつは信用ならない。無視を徹底しよう。
迷いを捨て、駆け足で車へ乗り込むと、再び俺は家を目指す。
気のせいかさっきよりも霧が濃くなっているように思える。
今度は自分が事故の被害者になりかねない。
霧の町を走行する中、細心の注意を払うために窓を開け、より車の音を聞き取れるようにする。
慎重に繁華街を抜けると、全く誰も見かけなくなった。恐ろしいほどの静けさだ。
みんな建物の中に居るのだろうか?
広い道路は段階を経て狭くなってゆく。何事もなく古い住宅街へと進み、遂に自宅の前へと着いた。
庭へと車を停め、玄関の鍵を解除するとすかさず引き戸の取っ手に指をかけるが、体の動きがそこから止まってしまった。
最後に母さんと会ったのは玄関の中だった。
もし、そのままずっとそこに居たとしたら……
想像すると怖くなってきた。
玄関の外側からは中の様子が伺い知れない。
そっと扉を引いてゆくと、それに伴って中への薄暗い景色が徐々に広がってゆく。
玄関から伸びる廊下が突き当りの壁まで確認できた。
ここから見る限り母さんの姿はどこにもない。玄関からは移動していたようだ。
少しだけホッとする。
「ただいま!!」
気を取り直し、母さんが家中どこに居ても聞こえるように大きな声で帰宅の挨拶をした。
少なくとも出勤時まで母さんには言葉を返すだけの知能がまだ残されていた。
頼む、どうか返事をしてほしい。
いつもの母さんのように元気な『おかえり』を。
期待を込めてしばらく待ったが何も声は返ってこない。
まさかどこかへ行ってしまったということはないだろうか?
廊下を進み、まずはリビングの前まで進む。
出入口のドアは閉ざされていた。
母さんはこの扉の向こうにまだいるのだろうか?
それはさっき見た車と同じ……ああクソッ全く同じ車だ!
やられた! みんなやけに落ち着いているとは思っていた。
……そうじゃないんだ。
こいつらみんなただ何も考えずに同じルートをぐるぐると繰り返し走っているだけだったんだ!
まるでプログラムのように。
車だけじゃない……
ここは町の中心部だというのに野次馬一人寄ってこない。
こんな凄い事故が起きているというのに!
こう結論付けるしかない。
この場所で正常なのは俺だけなんだ!
安堵感は長くは続かなかった。それどころか危機感がますます強大なものへと増幅されてゆく。
感染範囲の拡大を実際に目撃し、自分以外にこの町でまだ誰一人として正常な者を発見できていないのだから。
まだだ……それでもまだ町の人間全てが感染したという確証はない。
何でもいい、今すぐ確実な情報を知りたい!
「親父に電話しよう……」
母さんに電話しても仕方ない。もし親父が感染していないのならそっちの状況をいろいろ教えてくれるだろうし、頼もしい存在となるだろう。
もしかすると既に母さんを病院へ連れて行っている可能性すらある。
俺は最後の希望と言わんばかりにスマホに記録されている親父の携帯番号へと電話を繋いだ。
頼む! 頼むから!
「……………………」
終わらない着信音。それは無意味な行為であったことを告げるものだった。
――何となく分かっていた。もし親父が同じ立場にあったなら、同じ事をしていただろう。
一向にこちらへ連絡しないということは、親父も既に手遅れだったというわけだ。
駄目だ! ああ駄目だ駄目だ駄目だ!
全く繋がらない!
親父まで!
誰か……他の番号は……?
また待ち続けてかからなかったらどうする!?
さっきからずっと空回りばかりしている。
グダグダだ……何か一つでも上手くいったことがあったか? 無いだろ!
こうしている間にも母さんの症状はどんどん悪化しているのかもしれないのに、これまでにあまりにも時間がかかり過ぎているじゃないか……
こんな事してられない! 誰もアテにしてはいけない、時間の無駄だ!!
もし他に車を見かけたとしてもそいつは信用ならない。無視を徹底しよう。
迷いを捨て、駆け足で車へ乗り込むと、再び俺は家を目指す。
気のせいかさっきよりも霧が濃くなっているように思える。
今度は自分が事故の被害者になりかねない。
霧の町を走行する中、細心の注意を払うために窓を開け、より車の音を聞き取れるようにする。
慎重に繁華街を抜けると、全く誰も見かけなくなった。恐ろしいほどの静けさだ。
みんな建物の中に居るのだろうか?
広い道路は段階を経て狭くなってゆく。何事もなく古い住宅街へと進み、遂に自宅の前へと着いた。
庭へと車を停め、玄関の鍵を解除するとすかさず引き戸の取っ手に指をかけるが、体の動きがそこから止まってしまった。
最後に母さんと会ったのは玄関の中だった。
もし、そのままずっとそこに居たとしたら……
想像すると怖くなってきた。
玄関の外側からは中の様子が伺い知れない。
そっと扉を引いてゆくと、それに伴って中への薄暗い景色が徐々に広がってゆく。
玄関から伸びる廊下が突き当りの壁まで確認できた。
ここから見る限り母さんの姿はどこにもない。玄関からは移動していたようだ。
少しだけホッとする。
「ただいま!!」
気を取り直し、母さんが家中どこに居ても聞こえるように大きな声で帰宅の挨拶をした。
少なくとも出勤時まで母さんには言葉を返すだけの知能がまだ残されていた。
頼む、どうか返事をしてほしい。
いつもの母さんのように元気な『おかえり』を。
期待を込めてしばらく待ったが何も声は返ってこない。
まさかどこかへ行ってしまったということはないだろうか?
廊下を進み、まずはリビングの前まで進む。
出入口のドアは閉ざされていた。
母さんはこの扉の向こうにまだいるのだろうか?
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