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第一章 相田一郎

事故現場

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 まさかこの平和な町でこんな悲惨な事故が目の前で起こるなんて……

 俺は医者じゃない。ただの製造業労働者だ。
 だが素人目線からでも分かる。これはもう生きている人間の顔ではない。たとえ虫の息だったとしても助かることはもうないだろう。ましてやかなりの高齢だ。
 しかしこのまま放っておくわけにはいかない。

 ズボンのポケットに入っているスマートフォンへと手を伸ばす。

 119番はさっき自分自身が会社で試したが、全くの無駄だった。
 しかし時間が経った今なら誰か別の人間が対応してくれるのではないだろうか?
 あの時はたまたま感染者が対応しただけの可能性がある。
 ここにだって感染を免れた人達の車がそれなりに走っているじゃないか。
 ついでに母さんを俺の代わりに病院まで搬送してもらうチャンスだってある。

 そんな期待を込めて通話を試みる。

 「……………………」

 いつまでも繰り返される待機音。
 出ない……もう一分は経過しただろうか、全く繋がる気配がない。
 ここは小さな町だ。通報があまりにも多くて対応が混雑しているのだろうか?
 こっちだってあまり時間がないんだ!

 ……そうだ丁度良い機会だ。やるなら今しかないだろう。
 とにかく一刻も早く家へ帰ろうとずっと運転していたせいで一切触ることがなかった。
 本当は母さんを病院へ連れてからやろうと思っていたが、このスマホのインターネットで少しだけ情報収集しよう。きっと何かニュースになっているはずだ。
 あまり時間はかけられない。ほんの少しだけだ。

 テレビはまるで駄目だったが、日本全域をカバーするインターネットならきっと繋がるはず……俺は画面のブラウザアイコンをクリックする。

 「お、おいっ!」

 『ネットワークに接続できません』

 期待外れの文章が画面に表示された。
 そんな、こっちまで駄目だというのか!?

 「………………」

 クソッ何度やっても駄目だ!
 読み込みが遅いからというわけではない。告知が瞬時に表情される。
 サーバーダウンしているというのか?

 もしかすると俺と同じようにネットで情報収集しようと大勢の人達が集中しすぎて回線をパンクさせてしまったのかもしれない。
 その場合、非感染者はけっこうな数に上ると思われる。

 きっとそうに違いない!!

 いずれこの通信障害は回復するだろうが、それがいつになるかは全く予想がつかない。
 そんなものいちいち待っていられない。今は早く家へ帰る事を優先するべきだ。

 この事故の後処理は他の『誰か』が何とかしてくれるだろう。事故を起こしたのは俺じゃない。
 俺は出来る限りの事はやったんだ、他にどうしようもないだろ!

 辺りを見回せば、悲惨な事故現場の前を何台かの車が通り過ぎてゆく。
 期待とは裏腹に非情にも誰一人として止まる者はいない。
 
 みんなそれどころではないのだろうか?

 「……」

 気付きがある……

 みんな同じ●●だ。違和感がする……体中がゾワゾワしてくる……

 何故こうもみんな冷静●●なのだろうか?

 助けないにしても普通、こんな派手な事故現場を目撃すれば速度を落として野次馬気分で眺めたりするものではないだろうか?
 なのにどうして急がず止まらず何事もないかのようにみんな同じペースで通り抜けていくのか?
 これではまるでいつもの出勤の様子と変わらないじゃないか。

 また一台、車がやって来る。やはり一定の速度で。

 疑惑の視線をフロントガラスの向こうへと送る。

 「ああ……」

 俺は運転手の顔を見て確信した。
 
 こいつらもロボット化している●●●●●●●●●●●●●●

 奴はこちらを全く気にする素振りも見せず無表情で正面だけを見ていた。

 畜生、こいつらみんなやられている!!
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