変異の町―create new life―

家頁愛造(やこうあいぞう)

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第一章 相田一郎

推測

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 オペレーターが全く同じ言葉を同じ抑揚のないトーンで繰り返している。

 そっくりだ……それはまるでこの会社の人達と同じで単純な行動を反復するロボットのようだった。
 もしこれが自動音声であるならば、番号選択の案内が続くはずだ。

 だが、いくら待とうがそれは一向に来ない。
 つまりこれは人間が直に発音しているものだ。

 まさかそんなはずがない……
 全身の血の気が引いていく感覚に襲われる。
 木の板を裏返すと大量に虫がいた時の気分だ。

 この現象は想像している以上に広範囲で●●●●●●●●●●●●●引き起こされているのではないか?

 映らないテレビ、やけに少ない交通量……
 思い返せばそれを裏付けるものは幾つかあった。

 きっと消防署もこの会社と同じように全滅しているに違いない。だってまるで機能していないじゃないか。
 
 原因は何だ?
 昨日と今日とで違う事は何だ!?

 木……いや、木にそんな力はないな。
 
 冷静に頭の中で取捨選択を繰り返し、昨日の映像まで巻き戻すと引っ掛かることが一つだけあった。

 ウイルスだ……

 きっとそうだ。昨日のニュースでやっていたあの隣国のウイルスが日本にまで到達してしまったんだ。
 だとすればとんでもない速さだ。
 
 これはこの町に限ったものなのか、それとも取り返しのつかないレベルで既に日本中に蔓延してしまっているのか?
 
 いや待てよ……本当に感染だけでここまで迅速に広がるものだろうか?
 あの隠蔽体質の中国政府ですら公表までして隔離措置を取っていたわけだ。本気で抑え込もうとしていたのだろう。
 それでも漏れるものは漏れるだろうが海を越えて、都市部ならともかくこんな辺境の町にまでたった一日でこれ程多くの人間が感染するだろうか?

 分からない。
 全て予想に過ぎない。
 クソッ、分からない事だらけだ!
 実際に確認しない限りは何も断定はできない。
 
 だが、これだけの人間を広範囲で短期間で狂わせられる手段は俺が知る限りウイルス以外には考えられない。

 そうだ……インターネットに何かこれに関する記事が載っているかもしれない。

 ズボンのポケットに入っているスマホに手をやるが、すんでの所で止まった。
 
 母さん……

 脅威の対象がより身近なものへと移行してゆく。

 きっと母さんは感染している。
 あの奇妙な行動の謎がようやく解けた。

 「大変だ……」

 今はこんな事をしている場合じゃない。これが感染症だというのなら、一刻も早く●●●●●病院で治療しなければならない!!

 事務所を出て無我夢中で車へと駆け出した。

 極限まで酷使された非力なエンジンは猛烈な唸りを上げる。
 道路に出れば自分以外に一台も他の車を見かけない。そもそも誰も見かけない。
 ここはまだ郊外だ。それは時間帯のせいなのか、この非常事態のせいなのかまるで区別がつかない。
 
 霧がどんどん濃くなってゆく。
 やたら視界が悪い。
 百メートルも先になれば、ぼやけて見えてしまう。
 何でこんな時に限って邪魔をするような真似を!

 焦りと苛立ちの中で視界不良の海岸沿いを爆走し、大きなカーブに差し掛かる。

 急ぎたいところだがさすがにこの見通しの悪さでは危険過ぎる。
 そう判断してアクセルを緩めて長いコーナーを抜けていくと、やがて直線へと変化した。
 ここぞと言わんばかりに再び踏み込むとスピードメーターはグングンと上昇していく。
 
 「えっ!?」
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