変異の町―create new life―

家頁愛造(やこうあいぞう)

文字の大きさ
上 下
6 / 44
第一章 相田一郎

過ぎ去りし日常

しおりを挟む
 けたたましい電子音が部屋中に広がると、所々くすんだ白い天井、そしてその中央にある照明器具が瞬時に視界へ現れた。

 俺は今、ベッドの中で仰向けになっているようだ。

 ああ、起きたのか……

 やはりあれは夢だったのか。変な夢だった。

 今日もまた始まる。いつもの一日が。
 
 半ば無意識に手を伸ばしベッドの棚に置いてある頭上の目覚まし時計の大きな天板スイッチを叩くと、部屋に静寂が戻るとともに爽やかな太陽光の漏れるカーテンの向こうから雀の鳴き声が聞こえてくる。

 首をひねり時計を見つめて間違いなく七時であることを確認すると、できるものならもう少し眠りたいと主張するだるい余韻を残したまま唸り声とともに体を起こした。

 部屋を出て壁に手を伝い、階段を幼児のような足取りで一段一段ノロノロと降りてゆく。

 一階へ着き扉を開けると、すでにリビングテーブルの上に朝食が用意されており、シンクで母さんが手際良く洗い物をしている。親父といえばいつもこの時間はすでに出勤している。

 「おはよう一郎!」

 母さんはいつも元気だ。なんでこうも朝っぱらからこんな大きな声を出せるんだろうか? 俺にはとても真似できそうにない。

 「ああ…おはよう……」

 息子の俺から見ても母さんは美人だと思う。背も女性にしてはそこそこ高いしスタイルも良いし要領も多分良いのだろう。正に今も親父の分の洗い物を溜め込むことなく片付け終わりそうなところだ。

 なんだろうな、どうして俺みたいなのが生まれたんだろうか?
 身長こそかろうじて平均ほどあるものの、もっとあっても良かったんじゃないだろうか?
 親父だってけっこうデカいのに。
 とにかく普通なんだ。身長も体型も。顔は…うーんあんまり良くないと自分自身でそう思う。
 何より活力がない。才能らしきものが見当たらない。何一つ優れた部分が見当たらない。
 あれ、俺ってもしかすると失敗作なんじゃないのだろうか。たった一人の子供がこれだなんて…

 「どうしたの一郎? ボーっとして」

 「あ、いや…ちょっと寝起きで頭が起きてなくて」

 「早く食べないと遅刻するよ」

 「ああ、分かってるよ」

 座椅子にあぐらをかき、正面にあるテレビの地域ニュース番組を眺めながら食パンをかじる。何か面白いニュースでも入ってないものか。

 『本日より鮎釣りが解禁され、朝早くから釣人たちが多く集まり…』

 なんてことのない町だ。実にこの町のニュースにふさわしい。THE平凡ニュース。
 大きな事件といえばせいぜい交通事故がたまに起きる程度、地元のサッカーチームが三連勝する程度。それだけこの町は平和だということだ。

 ふと振り返ってみると母さんがシンク前で皿を持ったままこちらを向いて硬直している。
 どうやら母さんもニュースを見ているようだ。
 しかしまあこんなつまらないニュースなんてわざわざ手を止めるほどじゃないのでは。

 その時、テレビの方から特徴的な効果音が鳴った。それは多くの人間を惹きつけるであろうあの音だ。俺は反射的にテレビへと視線を戻した。

 『ニュース速報
  中国で新種のウィルスが発生
  人体への感染確認 中国政府が発表』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

Strange Days ― 短編・ショートショート集 ―

紗倉亞空生
ミステリー
ミステリがメインのサクッと読める一話完結タイプの短編・ショートショート集です。 ときどき他ジャンルが混ざるかも知れません。 ネタを思いついたら掲載する不定期連載です。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

処理中です...