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第一章 相田一郎
過ぎ去りし日常
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けたたましい電子音が部屋中に広がると、所々くすんだ白い天井、そしてその中央にある照明器具が瞬時に視界へ現れた。
俺は今、ベッドの中で仰向けになっているようだ。
ああ、起きたのか……
やはりあれは夢だったのか。変な夢だった。
今日もまた始まる。いつもの一日が。
半ば無意識に手を伸ばしベッドの棚に置いてある頭上の目覚まし時計の大きな天板スイッチを叩くと、部屋に静寂が戻るとともに爽やかな太陽光の漏れるカーテンの向こうから雀の鳴き声が聞こえてくる。
首をひねり時計を見つめて間違いなく七時であることを確認すると、できるものならもう少し眠りたいと主張するだるい余韻を残したまま唸り声とともに体を起こした。
部屋を出て壁に手を伝い、階段を幼児のような足取りで一段一段ノロノロと降りてゆく。
一階へ着き扉を開けると、すでにリビングテーブルの上に朝食が用意されており、シンクで母さんが手際良く洗い物をしている。親父といえばいつもこの時間はすでに出勤している。
「おはよう一郎!」
母さんはいつも元気だ。なんでこうも朝っぱらからこんな大きな声を出せるんだろうか? 俺にはとても真似できそうにない。
「ああ…おはよう……」
息子の俺から見ても母さんは美人だと思う。背も女性にしてはそこそこ高いしスタイルも良いし要領も多分良いのだろう。正に今も親父の分の洗い物を溜め込むことなく片付け終わりそうなところだ。
なんだろうな、どうして俺みたいなのが生まれたんだろうか?
身長こそかろうじて平均ほどあるものの、もっとあっても良かったんじゃないだろうか?
親父だってけっこうデカいのに。
とにかく普通なんだ。身長も体型も。顔は…うーんあんまり良くないと自分自身でそう思う。
何より活力がない。才能らしきものが見当たらない。何一つ優れた部分が見当たらない。
あれ、俺ってもしかすると失敗作なんじゃないのだろうか。たった一人の子供がこれだなんて…
「どうしたの一郎? ボーっとして」
「あ、いや…ちょっと寝起きで頭が起きてなくて」
「早く食べないと遅刻するよ」
「ああ、分かってるよ」
座椅子にあぐらをかき、正面にあるテレビの地域ニュース番組を眺めながら食パンをかじる。何か面白いニュースでも入ってないものか。
『本日より鮎釣りが解禁され、朝早くから釣人たちが多く集まり…』
なんてことのない町だ。実にこの町のニュースにふさわしい。THE平凡ニュース。
大きな事件といえばせいぜい交通事故がたまに起きる程度、地元のサッカーチームが三連勝する程度。それだけこの町は平和だということだ。
ふと振り返ってみると母さんがシンク前で皿を持ったままこちらを向いて硬直している。
どうやら母さんもニュースを見ているようだ。
しかしまあこんなつまらないニュースなんてわざわざ手を止めるほどじゃないのでは。
その時、テレビの方から特徴的な効果音が鳴った。それは多くの人間を惹きつけるであろうあの音だ。俺は反射的にテレビへと視線を戻した。
『ニュース速報
中国で新種のウィルスが発生
人体への感染確認 中国政府が発表』
俺は今、ベッドの中で仰向けになっているようだ。
ああ、起きたのか……
やはりあれは夢だったのか。変な夢だった。
今日もまた始まる。いつもの一日が。
半ば無意識に手を伸ばしベッドの棚に置いてある頭上の目覚まし時計の大きな天板スイッチを叩くと、部屋に静寂が戻るとともに爽やかな太陽光の漏れるカーテンの向こうから雀の鳴き声が聞こえてくる。
首をひねり時計を見つめて間違いなく七時であることを確認すると、できるものならもう少し眠りたいと主張するだるい余韻を残したまま唸り声とともに体を起こした。
部屋を出て壁に手を伝い、階段を幼児のような足取りで一段一段ノロノロと降りてゆく。
一階へ着き扉を開けると、すでにリビングテーブルの上に朝食が用意されており、シンクで母さんが手際良く洗い物をしている。親父といえばいつもこの時間はすでに出勤している。
「おはよう一郎!」
母さんはいつも元気だ。なんでこうも朝っぱらからこんな大きな声を出せるんだろうか? 俺にはとても真似できそうにない。
「ああ…おはよう……」
息子の俺から見ても母さんは美人だと思う。背も女性にしてはそこそこ高いしスタイルも良いし要領も多分良いのだろう。正に今も親父の分の洗い物を溜め込むことなく片付け終わりそうなところだ。
なんだろうな、どうして俺みたいなのが生まれたんだろうか?
身長こそかろうじて平均ほどあるものの、もっとあっても良かったんじゃないだろうか?
親父だってけっこうデカいのに。
とにかく普通なんだ。身長も体型も。顔は…うーんあんまり良くないと自分自身でそう思う。
何より活力がない。才能らしきものが見当たらない。何一つ優れた部分が見当たらない。
あれ、俺ってもしかすると失敗作なんじゃないのだろうか。たった一人の子供がこれだなんて…
「どうしたの一郎? ボーっとして」
「あ、いや…ちょっと寝起きで頭が起きてなくて」
「早く食べないと遅刻するよ」
「ああ、分かってるよ」
座椅子にあぐらをかき、正面にあるテレビの地域ニュース番組を眺めながら食パンをかじる。何か面白いニュースでも入ってないものか。
『本日より鮎釣りが解禁され、朝早くから釣人たちが多く集まり…』
なんてことのない町だ。実にこの町のニュースにふさわしい。THE平凡ニュース。
大きな事件といえばせいぜい交通事故がたまに起きる程度、地元のサッカーチームが三連勝する程度。それだけこの町は平和だということだ。
ふと振り返ってみると母さんがシンク前で皿を持ったままこちらを向いて硬直している。
どうやら母さんもニュースを見ているようだ。
しかしまあこんなつまらないニュースなんてわざわざ手を止めるほどじゃないのでは。
その時、テレビの方から特徴的な効果音が鳴った。それは多くの人間を惹きつけるであろうあの音だ。俺は反射的にテレビへと視線を戻した。
『ニュース速報
中国で新種のウィルスが発生
人体への感染確認 中国政府が発表』
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