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第一章 相田一郎

生まれ育った小さな町1

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 とある地方都市から車で国道99号線を北上してゆくと田んぼや畑が広がる長閑な風景へと変わり、やがて峠道へと入る。
 さらにそれを三十分ほど飛ばし気味で進んで越えると山と海に囲まれた平地へとつながる。 

 そこが俺が生まれ育った小さな町だ。

 人口は二万人ほど。
 辺境の町としてはそこそこの人々が住んでいる。

 この町は驚くほどにその姿を変化させない。
 この外部から隔離されたかのような特殊な立地がそうさせているのだろか?
 それはまるでガラパゴスのようだ。

 近年では大手のショッピングモールやチェーン店によって昔ながらの味のある個人商店が駆逐される傾向にあるが、この町にはほとんどそれがない。
 最近になって商業エリアの端に小さなコンビニが奇跡的に一軒できた程度だ。

 昔からある本屋
 昔からある床屋
 昔からあるバスステーション
 昔からある衣料店
 そして町の中心部とも言える、他ではあまり見かけられない昔からある地域密着型の中規模な二階建てのショッピングセンター

 これらのものがほとんど見た目を変えることなく、少なくとも俺が物心ついた頃から存在し続けている。
 
 つまらないと思うか?
 いや、俺はそうは思わない。

 多くの若者は新しいものを求めたがる。それは本当に幸せなことなのだろうか? 変わらないほうがいいことだってあるはずだ。
 世の中はどんどん悪い方へと向かっているような気がする。それは合理主義で複製だらけのつまらない無機質な世界だ。
 
 俺は歳の割に老人のような偏屈な変わり者かもしれないが、この考えを改めるつもりはない。これからもずっとこのままでいいと思っている。ずっとこの景色が続いてくれればいいと。

 きっと俺はこの町で一生を終えるだろう。

 いつもの本屋で本を読み、いつもの床屋で髪を切り、いつもの衣料店で服を買い、いつものショッピングセンターで時間を潰す。

 俺は多くを望まない。

 それでいい。

 それでいいんだ…
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