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2024春の特別編
地獄のラーメン屋
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俺は茂、56歳の営業マンだ。
今日は出張で見知らぬ町へ来ている。
仕事は既に午前中で終わった。後は昼飯をどこかで食って帰りの新幹線でビールでも飲んで寝てればいいだろう。
さて、どこで飯を食おうか?
ふと辺りを見回せばすぐ目の前にどデカく目立つ黄色い看板が見える。そして看板には勇ましい筆書きの太文字が。
『麺屋 豚大将』
ラーメン屋か。それにしてもまるでプレハブ小屋みたいな建物だ。えらく小汚ねえ店だな。だが俺には分かるぞ、こういう店は大体ウマいんだよ。建物に金をかけずその分、料理に金をかけているに違いない。
「よしっここにキメた!」
早速俺は期待を胸にのれんをくぐる。
『ズボボ!! ズビュルゥッ!! ズビュー ズビュー…』
店の中には、どいつもこいつも似たような風貌の小太りの若者たちが何かに取り憑かれているかのように黙々と大量の麺を汚い音を立てて啜っていた。
「ヘイラァッシャアァイッッ!!」
いかにも昔ながらの頑固そうでイカつい店のオヤジが俺に気付き挨拶をした。
とりあえず券売機でどれにしようか迷ったが、オススメにされている『豚大将ラーメン』というのを選択し券をオヤジに渡す。
「ハァイィッッ! タイショーラァーメンハイリマシタァーーーッ!!」
カウンターの空いてる7番席に座りラーメンの出来上がりを待つ間、店の中を見回せば壁にサインが大量に飾ってあった。しかしそのどれもが一体誰なのか全く分からなかった。
そしてその中から店の注意書きを発見する。
一つ、女は入るべからず 3点
※当店は神聖な場所です
一つ、私語厳禁 1点
一つ、店内撮影禁止 3点
一つ、ネットでのレビュー禁止 3点
一つ、水はコップ一杯まで 1点
一つ、ティッシュは一人二枚まで 1点
一つ、ラーメンを残すべからず 2点
※汁はセーフ
合計3点で入店禁止とします。
まったく面倒くさい店へ入ったもんだ…
今時女性差別なんてまかり通らないだろ。
まあ、俺は男だし黙って食ってればそれでいいだろう。
「それでは7番のお客さん、ラーメンいってみましょう! ニンニク入れますか?」
7番? あっ俺だ。とりあえずニンニクは入れるか。
「はい」
「ニンニク入れますか!?」
ん? うまく聞こえなかったのかな?
「はい」
「ニ ン ニ ク 入 れ ま す か !?」
オヤジの口調がどんどん荒くなってゆく。どういうことだ? なぜ伝わらない? じゃあ言葉を変えるか。
「普通で」
「お客さん…うちには普通なんてないんですよ」
呆れ顔のオヤジ。ふと目の前にある張り紙を見れば『ニンニク入れますか?』のトッピングの際にはニンニク、ヤサイ、アブラ、カラメの中から追加する単語だけを言うことになってるらしい。
「ニンニク…」
「ハァイィッ!! ニンニク入りマシタァーーッ!!」
クソッ、べつに『はい』でも通じるだろうが。全く融通の効かないオッサンだな。
モヤシが山盛りに入ったラーメンがテーブルに乗った。とりあえずスープの味見をしよう。
「濃!」
思わず言葉が出る。これは五十代の中年にとってなかなかのキツさだ。
「10点……おいテメェ…俺の自慢のスープになんか文句あんのか?」
どうやら聞こえてしまったようだ。店のオヤジが物凄く不機嫌そうにしている。
「いや、ちょっと濃かったからさあ…」
「どうせテメーも女の作ったゴミを食って味覚狂ってんだろ? 何がフレンチだ、気取りやがって!!」
「女性とかフレンチとか関係ないですよ」
「あーもういいわ、帰れよテメー」
「そんな……何もこんなことで怒らなくてもいいでしょ?」
「ここは俺の店だ!! 言うこと聞かねえと……痛い目に遭うぜ!」
そう言うと奴は包丁を取り出し、その刃先を俺に突き付けた。
目つきがバキバキにキまってる……駄目だこいつ狂ってやがる。
「ファシストが!!」
ああ出ていってやるよこのイカレ野郎。去り際のついでに腹いせにウォーターサーバー横に積んであるコップをなぎ倒し床にバラ撒いてやった。
「アアッ、テメーなんてことを!! 汚い手で触りやがってェ!! テメーは120点ダァッ!!」
背後から奴の怒鳴り声が聴こえたが、ただのイカレのたわごとだ。全く気にすることなくポケットに手を突っ込み振り返ることなく俺は店を出た。
後にあのラーメン屋についてネットのグルメサイトで調べると、点数を言い渡され理不尽に追い出された客の苦情で★1だらけとなっていた。
そして俺は「私は120点もらえました。みなさんもハイスコア狙いましょう。そういう店です」と★5を入れてやった。
その後、あのラーメン屋は迷惑系ユーチューバーたちによってオモチャにされたという。
――――――――――――――――――
喪田「ルールというものはあちこちに存在します。そしてそれを決める決定権を持った者が異常者だった場合、そこには地獄が生成されるのです」
―地獄のラーメン屋 完―
今日は出張で見知らぬ町へ来ている。
仕事は既に午前中で終わった。後は昼飯をどこかで食って帰りの新幹線でビールでも飲んで寝てればいいだろう。
さて、どこで飯を食おうか?
ふと辺りを見回せばすぐ目の前にどデカく目立つ黄色い看板が見える。そして看板には勇ましい筆書きの太文字が。
『麺屋 豚大将』
ラーメン屋か。それにしてもまるでプレハブ小屋みたいな建物だ。えらく小汚ねえ店だな。だが俺には分かるぞ、こういう店は大体ウマいんだよ。建物に金をかけずその分、料理に金をかけているに違いない。
「よしっここにキメた!」
早速俺は期待を胸にのれんをくぐる。
『ズボボ!! ズビュルゥッ!! ズビュー ズビュー…』
店の中には、どいつもこいつも似たような風貌の小太りの若者たちが何かに取り憑かれているかのように黙々と大量の麺を汚い音を立てて啜っていた。
「ヘイラァッシャアァイッッ!!」
いかにも昔ながらの頑固そうでイカつい店のオヤジが俺に気付き挨拶をした。
とりあえず券売機でどれにしようか迷ったが、オススメにされている『豚大将ラーメン』というのを選択し券をオヤジに渡す。
「ハァイィッッ! タイショーラァーメンハイリマシタァーーーッ!!」
カウンターの空いてる7番席に座りラーメンの出来上がりを待つ間、店の中を見回せば壁にサインが大量に飾ってあった。しかしそのどれもが一体誰なのか全く分からなかった。
そしてその中から店の注意書きを発見する。
一つ、女は入るべからず 3点
※当店は神聖な場所です
一つ、私語厳禁 1点
一つ、店内撮影禁止 3点
一つ、ネットでのレビュー禁止 3点
一つ、水はコップ一杯まで 1点
一つ、ティッシュは一人二枚まで 1点
一つ、ラーメンを残すべからず 2点
※汁はセーフ
合計3点で入店禁止とします。
まったく面倒くさい店へ入ったもんだ…
今時女性差別なんてまかり通らないだろ。
まあ、俺は男だし黙って食ってればそれでいいだろう。
「それでは7番のお客さん、ラーメンいってみましょう! ニンニク入れますか?」
7番? あっ俺だ。とりあえずニンニクは入れるか。
「はい」
「ニンニク入れますか!?」
ん? うまく聞こえなかったのかな?
「はい」
「ニ ン ニ ク 入 れ ま す か !?」
オヤジの口調がどんどん荒くなってゆく。どういうことだ? なぜ伝わらない? じゃあ言葉を変えるか。
「普通で」
「お客さん…うちには普通なんてないんですよ」
呆れ顔のオヤジ。ふと目の前にある張り紙を見れば『ニンニク入れますか?』のトッピングの際にはニンニク、ヤサイ、アブラ、カラメの中から追加する単語だけを言うことになってるらしい。
「ニンニク…」
「ハァイィッ!! ニンニク入りマシタァーーッ!!」
クソッ、べつに『はい』でも通じるだろうが。全く融通の効かないオッサンだな。
モヤシが山盛りに入ったラーメンがテーブルに乗った。とりあえずスープの味見をしよう。
「濃!」
思わず言葉が出る。これは五十代の中年にとってなかなかのキツさだ。
「10点……おいテメェ…俺の自慢のスープになんか文句あんのか?」
どうやら聞こえてしまったようだ。店のオヤジが物凄く不機嫌そうにしている。
「いや、ちょっと濃かったからさあ…」
「どうせテメーも女の作ったゴミを食って味覚狂ってんだろ? 何がフレンチだ、気取りやがって!!」
「女性とかフレンチとか関係ないですよ」
「あーもういいわ、帰れよテメー」
「そんな……何もこんなことで怒らなくてもいいでしょ?」
「ここは俺の店だ!! 言うこと聞かねえと……痛い目に遭うぜ!」
そう言うと奴は包丁を取り出し、その刃先を俺に突き付けた。
目つきがバキバキにキまってる……駄目だこいつ狂ってやがる。
「ファシストが!!」
ああ出ていってやるよこのイカレ野郎。去り際のついでに腹いせにウォーターサーバー横に積んであるコップをなぎ倒し床にバラ撒いてやった。
「アアッ、テメーなんてことを!! 汚い手で触りやがってェ!! テメーは120点ダァッ!!」
背後から奴の怒鳴り声が聴こえたが、ただのイカレのたわごとだ。全く気にすることなくポケットに手を突っ込み振り返ることなく俺は店を出た。
後にあのラーメン屋についてネットのグルメサイトで調べると、点数を言い渡され理不尽に追い出された客の苦情で★1だらけとなっていた。
そして俺は「私は120点もらえました。みなさんもハイスコア狙いましょう。そういう店です」と★5を入れてやった。
その後、あのラーメン屋は迷惑系ユーチューバーたちによってオモチャにされたという。
――――――――――――――――――
喪田「ルールというものはあちこちに存在します。そしてそれを決める決定権を持った者が異常者だった場合、そこには地獄が生成されるのです」
―地獄のラーメン屋 完―
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