世にも微妙な喪の語り〜2024春の特別編〜

家頁愛造(やこうあいぞう)

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2024春の特別編

美少女になれる薬

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 俺の名は俊夫としお、45歳の派遣工だ。

 年齢から分かると思うが、俺はドンピシャの氷河期世代だ。

 未だに定職に就かず派遣をして一人でボロアパートに住んでいるのは社会が悪いからであって俺は何も悪くない。

 周りの人間は俺に対して「自分が変わらないと何も変えられないよ」と説教するが、変わらないといけないのは俺ではなく世の中だ。
 間違っているのは世の中なんだ。女なんだ。

 若い女はズルい。
 ただ若い女というだけで全てにおいて得をする。
 所詮は男より全てにおいて劣った下等生物のバカの分際で調子に乗りやがって!!

 俺だって可愛い若い女だったら間違いなく人生は上手くいっていただろう。

 フンッ!! 女は二次元で十分だ。
 美少女アニメ、そして美少女フィギュア収集が俺の生き甲斐。

 『ピンポーン』

 玄関のチャイムが鳴った。

 おっ、通販で注文していたフィギュアが届いたようだな。

 ウキウキ気分でハンコを持って玄関のドアを開けると瞬く間に俺から笑顔は消えた。
 配達員ではない誰だか知らない冴えない感じのスーツ姿のオッサンがそこに立っていたからだ。

 クソッ受信料の催促か!?

 「こんな夜分遅くに失礼します。わたくしこういうものです」

 男はそう言うと俺に名刺を渡した。

 『幸福人生研究所 夢尾 望』

 畜生、宗教の勧誘だったか! 冗談じゃない、追い返してやる!

 「いや、うちはそういうのには興味ないんで……」

 「おっと、少し待って下さい。私は宗教団体の者ではございません。我々は企業団体で、実は今日は新商品のモニターになってもらいたいと思いまして訪問させていただいた次第であります」

 何だ? こいつは何が目的なんだ?

 男は話を進めてゆく。

 「今の世の中、あまりにも女性が有利だとは思いませんか? 特に若くて可愛い女性はチートです」

 おっ、こいつなかなか分かってる奴じゃないか。

 「そこでです! 我々はそこに目をつけ、誰でも美少女になれる薬を開発することに成功したのです!!」

 ふざけやがって、ただのイカレ野郎じゃねえかよ。何かしら理由をつけて追い出してやる。

 「えっ、そんなこと現実に可能なんですか⁉」

 「あなたが疑いたくなる気持ちはよく分かります! しかし! 本当に開発できてしまったのです!!」

 男は熱意を込めてそう言うと俺に一本の缶ジュースを差し出した。

 「これです! 美少女になりたいと心に強く思いながらこれを飲めば美少女になれるのですっ!!」

 何が入っているか分からないこんな得体の知れないものを飲めるわけねえだろ!

 「さ あ !! 飲 ん で !!」

 エナジードリンクのような味がする。

 昔から押しに弱い俺は男の勢いに押されて飲んでしまったのだ。
 そして男は満足した顔でこう言った。

 「これであなたは美少女になれます! 効果が出るまで少し時間がかかりますが、明日の朝にでも目覚めた時にあなたは美少女になっているはずです!」

 そして男は帰っていった。

 あー変なもの飲んじまった。まあいいや、今日はもう寝よう。  

 ――次の朝――

 そんなことが本当にあるのか!?
 俺は美少女になっていた!!
 なんて可愛いいんだ! そこらのアイドルなんて目じゃない位の可愛さだ!
 
 そうだ、この可愛い自分をみんなに見せてやろう!
 きっとチヤホヤされるだろうな。
 これで俺の人生は約束された!

 幸いブルセラショップで買ったセーラー服がこの部屋にはある。こいつに着替えて外出だ!!

 その後……

 「何あれ…」

 「関わっちゃいけないよ、行こう」

 「ウッソー、マジウケる」

 美少女化したはずの俊夫に人々の冷ややかな視線が飛ぶ。
 『関わってはならない』そんな感じだ。

 「私を見て~!!」

 俊夫の叫び声が街にこだまする。

 その奇声を聞いた警察官が俊夫を発見すると無線で報告する。

 「こちら田中巡査、通報されていた不審者を発見。これより職務質問を始めます」

 そこにはセーラー服を着た小太りの中年男性の姿が。
 俊夫は何も変わってはいなかったのだ。
 

 後に俊夫の自宅で押収された飲料の残りカスから強力な幻覚作用を引き起こす違法な物質が検出された。  
 警察は違法薬物配布事件として男の行方の捜査を続けている。


――――――――――――――――――

喪田「夢というものは人それぞれです。たとえどんなものであれ本人が満足ならばそれは夢といえるのではないでしょうか?」

―美少女になれる薬 完―
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