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序ノ章 禁縛師
緊縛師伝説
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※語り部:森友ライオン
時は戦国の世、満月が辺り一面を照らしている。深い雑草が茂る野原にて二人の男が対峙していた。
一人は全身に重厚な武者鎧を纏った屈強な大男、そしてもう一方は縄を手にし、能面そっくりな顔立ちをした束帯姿の男である。
垂直に反り立つ逞しい大刀を両手で握り、どっしりと構え、兜のつばのすぐ下から鋭い眼差しを向ける武者からは鬼神の如く凄まじい殺気が放たれているが、束帯の男はその気迫に全く動じることなく力を抜いた自然体の様子で無表情、無言で立ち続けている。
「ついに姿を現したか禁縛師よ、我は剣聖、豪田真衛門なり。きさまの存在は噂には聞いておるわ」
「……」
「その力、どれほどのものか見せてもらおうではないか。我が一撃受けてみよ」
先に仕掛けたのは武者であった。
「でやあーーーーっ!!」
力強い踏み込み、そして大きな風切り音とともに武者の刀が禁縛師の脳天めがけまっすぐ振り下ろされた。それは重厚な刀身からは想像もできないほどの素早い見事な一撃である。
「何……だと?」
空気が止まった。
どういうわけか間違いなくさっきまでそこに居たはずの禁縛師の姿が見当たらないではないか。数々の兵を仕留めてきたであろうその自信に満ちた必殺の一振りはただ虚しく空を斬っただけであった。
「どこへ行った!?」
そんな馬鹿なとうろたえる剣豪からは戸惑いを隠しきれない様子がうかがえられる。その時だ。
「こっちだ」
すぐ後ろから禁縛師の声が聞こえた。声に反応した武者は反射的に振り向く。奴はいつの間にか真後ろに移動していたのだ。
「おのれぇ、ちょこまかとぉぉ……今度こそ……今度こそ刀の錆にしてくれるわぁーーーっ!!」
自慢の一撃をかわされ熱く煮えたぎる武者とは対照的に禁縛師は冷静そのものの様子で口を開く。
「そなたに今度などない。勝負はすでに決まった。まだ気付かぬか?」
「何ぃっ!?」
武者はようやく気付いたのだ。自身の胴体が縄で亀甲縛りされていることに。
「ばっ、馬鹿なぁっ!?」
亀甲縛りの縄は禁縛師の握っている縄へと繋がっている。何だろう? 凄く嫌な予感がする……。かつて豪の者だった哀れな武者は未だかつて味わったことのない得体の知れない恐怖を全身に感じ取っていた。
「や…やめてぇーーーっ!!」
「禁!!」
禁縛師の勇ましいかけ声が鳴り響くと縄は更に食い込み、鎧を粉砕して肉体にまで達した。大蛇の如きその締めつけから武者にはもはや逃れる術はなかった。
「アーーーーーッ!!」
様々な気持ちが込められた情けない断末魔を上げて武者は崩れ落ちる。絶叫するその表情からは痛み、恐怖、そして喜びなど一概には言えない何とも言えない複雑なものが読み取れた。
「縛合終了」
倒れ込んで悶絶している獲物に決めの台詞を放つと禁縛師は次なる獲物を求めて静かに何処へと去っていった。
そして時は流れ……
─AD.20XX TOKYO─
禁縛師たちはすでに歴史から存在を消していた。この国でもはや戦など行われることはなくなり世界一治安の良い国と呼ばれるようになった。だが、人がいる限り悪はどの時代にも必ず存在するものだ。一見平和に見える社会であるが、その影には常に邪悪な魔の手が伸びているのである。
消えた禁縛師の一族……その技は失われたのだろうか?
否! 彼らは人々に正体を隠しつつもその強大な奥義を現代においても密かに継承していたのだ。弱者の哀しみがこだまする夜、禁縛師伝説は蘇り、邪悪なる者たちに正義の裁きが下されることだろう。
破邪の縄は眠らない……
時は戦国の世、満月が辺り一面を照らしている。深い雑草が茂る野原にて二人の男が対峙していた。
一人は全身に重厚な武者鎧を纏った屈強な大男、そしてもう一方は縄を手にし、能面そっくりな顔立ちをした束帯姿の男である。
垂直に反り立つ逞しい大刀を両手で握り、どっしりと構え、兜のつばのすぐ下から鋭い眼差しを向ける武者からは鬼神の如く凄まじい殺気が放たれているが、束帯の男はその気迫に全く動じることなく力を抜いた自然体の様子で無表情、無言で立ち続けている。
「ついに姿を現したか禁縛師よ、我は剣聖、豪田真衛門なり。きさまの存在は噂には聞いておるわ」
「……」
「その力、どれほどのものか見せてもらおうではないか。我が一撃受けてみよ」
先に仕掛けたのは武者であった。
「でやあーーーーっ!!」
力強い踏み込み、そして大きな風切り音とともに武者の刀が禁縛師の脳天めがけまっすぐ振り下ろされた。それは重厚な刀身からは想像もできないほどの素早い見事な一撃である。
「何……だと?」
空気が止まった。
どういうわけか間違いなくさっきまでそこに居たはずの禁縛師の姿が見当たらないではないか。数々の兵を仕留めてきたであろうその自信に満ちた必殺の一振りはただ虚しく空を斬っただけであった。
「どこへ行った!?」
そんな馬鹿なとうろたえる剣豪からは戸惑いを隠しきれない様子がうかがえられる。その時だ。
「こっちだ」
すぐ後ろから禁縛師の声が聞こえた。声に反応した武者は反射的に振り向く。奴はいつの間にか真後ろに移動していたのだ。
「おのれぇ、ちょこまかとぉぉ……今度こそ……今度こそ刀の錆にしてくれるわぁーーーっ!!」
自慢の一撃をかわされ熱く煮えたぎる武者とは対照的に禁縛師は冷静そのものの様子で口を開く。
「そなたに今度などない。勝負はすでに決まった。まだ気付かぬか?」
「何ぃっ!?」
武者はようやく気付いたのだ。自身の胴体が縄で亀甲縛りされていることに。
「ばっ、馬鹿なぁっ!?」
亀甲縛りの縄は禁縛師の握っている縄へと繋がっている。何だろう? 凄く嫌な予感がする……。かつて豪の者だった哀れな武者は未だかつて味わったことのない得体の知れない恐怖を全身に感じ取っていた。
「や…やめてぇーーーっ!!」
「禁!!」
禁縛師の勇ましいかけ声が鳴り響くと縄は更に食い込み、鎧を粉砕して肉体にまで達した。大蛇の如きその締めつけから武者にはもはや逃れる術はなかった。
「アーーーーーッ!!」
様々な気持ちが込められた情けない断末魔を上げて武者は崩れ落ちる。絶叫するその表情からは痛み、恐怖、そして喜びなど一概には言えない何とも言えない複雑なものが読み取れた。
「縛合終了」
倒れ込んで悶絶している獲物に決めの台詞を放つと禁縛師は次なる獲物を求めて静かに何処へと去っていった。
そして時は流れ……
─AD.20XX TOKYO─
禁縛師たちはすでに歴史から存在を消していた。この国でもはや戦など行われることはなくなり世界一治安の良い国と呼ばれるようになった。だが、人がいる限り悪はどの時代にも必ず存在するものだ。一見平和に見える社会であるが、その影には常に邪悪な魔の手が伸びているのである。
消えた禁縛師の一族……その技は失われたのだろうか?
否! 彼らは人々に正体を隠しつつもその強大な奥義を現代においても密かに継承していたのだ。弱者の哀しみがこだまする夜、禁縛師伝説は蘇り、邪悪なる者たちに正義の裁きが下されることだろう。
破邪の縄は眠らない……
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