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34話 選択
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牢に入れられた俺は、まずロープを外され、手錠をかけられた。これも、守護騎士の力では壊れない特別製らしい。檻も同じく特別製だ。
そして、俺の看守役をカンツァスとミエが務めた。分身を使ったら、すぐさま拷問に移ると言われる。確かにここで分身が使えれば、逃げられるかもしれないが、この二人に見張られていたのでは、中々厳しい。
牢の中で俺は、大いに悩んでいた。
あの液体を飲み、やめると宣言したら守護騎士をやめることになる。
それをしなければ、やるというまで相手は拷問を加えてくるだろう。
傷ついてもすぐ回復するこの体ではあるが、痛みは感じる。
冒険者として、ある程度痛みには慣れている俺であったが、拷問による痛みとなると、また別である。
どんなことをされるのか、少し考えてみたが、恐怖で胸が張り裂けそうになったので、考えすぎないことにした。
三日。
三日のうちに結論を出さなければならない。
相手に従うのか、もしくは拷問を受ける覚悟を決めるのかを。
俺は元々望んで守護騎士になったといわけではない。
死にそうだったから、ミリアが緊急措置として、守護騎士にしただけだ。
別にアレスト教の信者というわけでもない。
案外そこまで意地を通さなければ、ならない理由はないかもしれない。
奴らの口ぶりから察するに、ミリアを無下に扱うということはしなさそうである。恐らくミリアに悪い印象をなるべく与えたくないから、ミリア自信に危害は加えないし、俺への拷問も三日時間を与えて、自主的に言ってくるのを待っているのだろう。
仮にここで俺が粘りに粘っても、最終的にしびれを切らして、ミリアに危害を加えると脅してくる可能性もある。
そうなると、どっちにしろ俺は折れるしかない。なら最初から折れておいた方がいい。
奴らのいうことを聞くということに、俺の心は傾き始める。
ふと、横にいるミリアを見た。
不安そうな表情で俺を見つめている。
俺が悩んでいるあいだ、ミリアは何も言って来なかった。
俺が難しい決断を迫られているということを、理解しているのだろう。
彼女の顔を見ると、愛しさがこみあげてくる。
過ごしたの期間はそれほど長くはない。
しかし、それでもミリアは俺にとって、何よりも大事な存在となっていた。
ずっと一緒にいると心に誓った。
それを破っていいのか?
それはミリアに対しての裏切りではないのか?
ここで俺が裏切ったら、やっと少しずつではあるが、他人が信用できるようになってきたミリアの心を、完全に閉ざしてしまうということになるのではないか?
でも、じゃあ、拷問を受けるのか?
結局、ミリアに危害を加えようとして来たら、俺は従うしかないというのに。
ここから出るのは、正直難しい。あの強力な守護騎士と聖女に常に見張られている状態なのだ。仮に分身を使ったりしたら、速攻であの結界を張られて、カンツァスにやられて終わりだろう。あのカンツァスには動きを予知するようなスキルがある。どんな強者でも動きが読まれてしまえば、どうしようもない。
八方塞がりなのだ。
「あの…………リストさん」
ミリアが声をかけてきた。
先程まで黙っていたのだが、流石に悩みまくっている俺を見て、心配になったのだろうか?
「何だ?」
「あの人たちの言う通り、あの液体を飲んで、守護騎士をやめるって言ってください」
意外な申し出をミリアは口にしてきた。
「わたしリストさんが拷問をされているところなんて見たくありません。仕方ないですこうなったら。たぶんですけど、私はそれほど酷い目に合わされないはずです。あのエルシーダ会とは少し違うようですから」
「しかし……」
「いいんです。リストさんと過ごした日々は、今まで生きてきた中で一番楽しい時間でした。もう十分です。この思い出さえあれば、きっとわたしはこれからも生きていけます。だから……もう」
ミリアは少し微笑みを浮かべている。
なんだかその微笑みが俺は、悲しげな表情に見えた。
「それは……本心か?」
「……」
「俺がいなくても、もういいのか? 本当の本当に心のそこからそう思っているか?」
「ッ……!」
そう言われて、ミリアは俯いた。
そして肩を震わせながら、
「…………だ……いじょう……ぶです……リストさんがいなくても……だい……じょう……ぶ……なわけないじゃないですか……!」
俯いた顔を前に向けながらミリアは叫んだ。その目には涙を浮かべている。
ボロボロと彼女の両目から、次々に涙が溢れてポタポタと地面に落ちていく。
「大丈夫じゃありませんよ。もっとリストさんと一緒にいたいですよ……。でもしょうがないじゃいないですか。ほかに方法なんてないじゃないですか。逃げられないじゃないですか……。諦めるしかないんですよ……!」
今まであった中で、一番悲しげな表情、声、でミリアはそう言った。
俺は彼女のその様子を見て心に決めた。
絶対に連中のいいなりになどならないと。
必ずどうにかして、逃げ切ってみせると。
仮に拷問を受けることになっても、絶対に耐え切ってみせると。
固く固く、心に誓った。
そして、俺の看守役をカンツァスとミエが務めた。分身を使ったら、すぐさま拷問に移ると言われる。確かにここで分身が使えれば、逃げられるかもしれないが、この二人に見張られていたのでは、中々厳しい。
牢の中で俺は、大いに悩んでいた。
あの液体を飲み、やめると宣言したら守護騎士をやめることになる。
それをしなければ、やるというまで相手は拷問を加えてくるだろう。
傷ついてもすぐ回復するこの体ではあるが、痛みは感じる。
冒険者として、ある程度痛みには慣れている俺であったが、拷問による痛みとなると、また別である。
どんなことをされるのか、少し考えてみたが、恐怖で胸が張り裂けそうになったので、考えすぎないことにした。
三日。
三日のうちに結論を出さなければならない。
相手に従うのか、もしくは拷問を受ける覚悟を決めるのかを。
俺は元々望んで守護騎士になったといわけではない。
死にそうだったから、ミリアが緊急措置として、守護騎士にしただけだ。
別にアレスト教の信者というわけでもない。
案外そこまで意地を通さなければ、ならない理由はないかもしれない。
奴らの口ぶりから察するに、ミリアを無下に扱うということはしなさそうである。恐らくミリアに悪い印象をなるべく与えたくないから、ミリア自信に危害は加えないし、俺への拷問も三日時間を与えて、自主的に言ってくるのを待っているのだろう。
仮にここで俺が粘りに粘っても、最終的にしびれを切らして、ミリアに危害を加えると脅してくる可能性もある。
そうなると、どっちにしろ俺は折れるしかない。なら最初から折れておいた方がいい。
奴らのいうことを聞くということに、俺の心は傾き始める。
ふと、横にいるミリアを見た。
不安そうな表情で俺を見つめている。
俺が悩んでいるあいだ、ミリアは何も言って来なかった。
俺が難しい決断を迫られているということを、理解しているのだろう。
彼女の顔を見ると、愛しさがこみあげてくる。
過ごしたの期間はそれほど長くはない。
しかし、それでもミリアは俺にとって、何よりも大事な存在となっていた。
ずっと一緒にいると心に誓った。
それを破っていいのか?
それはミリアに対しての裏切りではないのか?
ここで俺が裏切ったら、やっと少しずつではあるが、他人が信用できるようになってきたミリアの心を、完全に閉ざしてしまうということになるのではないか?
でも、じゃあ、拷問を受けるのか?
結局、ミリアに危害を加えようとして来たら、俺は従うしかないというのに。
ここから出るのは、正直難しい。あの強力な守護騎士と聖女に常に見張られている状態なのだ。仮に分身を使ったりしたら、速攻であの結界を張られて、カンツァスにやられて終わりだろう。あのカンツァスには動きを予知するようなスキルがある。どんな強者でも動きが読まれてしまえば、どうしようもない。
八方塞がりなのだ。
「あの…………リストさん」
ミリアが声をかけてきた。
先程まで黙っていたのだが、流石に悩みまくっている俺を見て、心配になったのだろうか?
「何だ?」
「あの人たちの言う通り、あの液体を飲んで、守護騎士をやめるって言ってください」
意外な申し出をミリアは口にしてきた。
「わたしリストさんが拷問をされているところなんて見たくありません。仕方ないですこうなったら。たぶんですけど、私はそれほど酷い目に合わされないはずです。あのエルシーダ会とは少し違うようですから」
「しかし……」
「いいんです。リストさんと過ごした日々は、今まで生きてきた中で一番楽しい時間でした。もう十分です。この思い出さえあれば、きっとわたしはこれからも生きていけます。だから……もう」
ミリアは少し微笑みを浮かべている。
なんだかその微笑みが俺は、悲しげな表情に見えた。
「それは……本心か?」
「……」
「俺がいなくても、もういいのか? 本当の本当に心のそこからそう思っているか?」
「ッ……!」
そう言われて、ミリアは俯いた。
そして肩を震わせながら、
「…………だ……いじょう……ぶです……リストさんがいなくても……だい……じょう……ぶ……なわけないじゃないですか……!」
俯いた顔を前に向けながらミリアは叫んだ。その目には涙を浮かべている。
ボロボロと彼女の両目から、次々に涙が溢れてポタポタと地面に落ちていく。
「大丈夫じゃありませんよ。もっとリストさんと一緒にいたいですよ……。でもしょうがないじゃいないですか。ほかに方法なんてないじゃないですか。逃げられないじゃないですか……。諦めるしかないんですよ……!」
今まであった中で、一番悲しげな表情、声、でミリアはそう言った。
俺は彼女のその様子を見て心に決めた。
絶対に連中のいいなりになどならないと。
必ずどうにかして、逃げ切ってみせると。
仮に拷問を受けることになっても、絶対に耐え切ってみせると。
固く固く、心に誓った。
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