上 下
25 / 35

25話 神聖術

しおりを挟む
 ミリアが真剣な表情で、自分も術を使えるようになりたいと訴えてきた。

「ミリア、お前は無理して戦いに参加しなくても、いいんだぞ」
「わたしも力になれるならなりたいです! 後ろで見ているだけは、いやです!」

 語気を荒げるミリア。基本的には大人しい子なので、こうなるのは非常に珍しい。

「いいわ。聖女の使う術、正式にいうと神聖術を教えてあげる。まだ難しい術は使えないでしょうけど、簡単でその上、戦闘で役に立つ術があるわ」
「おい、いいのか?」
「いいでしょう。聖女が戦いに役に立つのなら、あなたも戦いやすいでしょう。やる気も十分みたいだし、教えない理由がないわ」

 確かにそれはそうだ。
 ミリア自身がやる気なら、俺に止める理由はないか。
 出来れば子供のうちに、ミリアに負担はかけたくなかったんだが、少し過保護だったようだな。

「では、あなたには、【バリア】を教えるわ」
「ばりあ?」
「見えない壁を作る神聖術よ。これを覚えるには二つの意義があるわ。まずは自分の身を守ること。壁を張って攻撃を防げばある程度、自分でも身を守れるわ。守護騎士が防御にかかる負担も下がると、戦いやすくもなる。聖女が死んだら守護騎士も死ぬんだから、自分の身は自分でも守れる術を持っておくべきね」
「待て、聖女が死んだら、守護騎士も死ぬのか?」
「ん? 知らなかったの?」
「知らなかった。守護騎士が死んだら聖女はどうなるんだ」
「守護騎士が死んでも聖女は別に死にはしないわ」
「そうか……」

 しかし、ミリアが死んだら俺も死ぬのか。
 元々死ぬ気で守るつもりだったから、だからどうというわけではないがな。

「それでもうひとつ、【バリア】を覚える理由だけど、守護騎士を守ることよ。守護騎士も首を斬られたり、頭をぐちゃぐちゃにされたら、死んでしまうわ。多方面からの攻撃などに対処するときは、守護騎士一人ではたりない場合もあるから、【バリア】で守ってあげる必要もあるの」

 結構長くて難しい話であるが、ミリアは真剣に聞いて頷いていた。
 理解しきれているのかは分からないが、結構賢い子なのでちゃんと理解しきれていると思う。

「どうやったら【バリア】を使えるんですか?」
「呪文を唱えるわ。攻撃を防御せよ! ってね単純でしょ。ちなみに今の呪文で私の目の前に、【バリア】が作成されたわ」

 そういうイリーナの目の前には、何かがあるように見えない。
 見えない壁なのか。
 イリーナに向かって手を伸ばしてみると、確かに壁があった。
 ミリアも近づいてきて、同じく壁に触ってみる。

「ほんとだ……壁がある」
「私の【バリア】はそう簡単に壊せないわ。守護騎士が斬っても一度で完全に斬ることは不可能でしょうね」

 そこまで硬いなら、間違いなく戦闘で使えるな。
 大抵の敵の攻撃は防げることになる。

「これを何重にも張ったりしたら、さらに壊せなくなるわ。五重に張った【バリア】を四方八方に張れば、鉄壁になるわ。私はまだ出来ないんだけど、大聖女さまは出来るわね。術の使用には、力を使うから一度に張れる数には限度があるのよ。私は十が限界ね」

 確かにそれなら鉄壁だな。
 イリーナの話を聞くミリアの表情は真剣そのものである。

「まずはミリアちゃんは一枚の【バリア】をちゃんと張れるようにならないとね。呪文を唱えれば、取り敢えず【バリア】は張れるでしょうけど、それが戦闘で使えるレベルになるには、結構練習しないといけないわね。頑張れる?」
「はい」

 ミリアはそうして、呪文を唱え、練習を始めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

処理中です...