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第2話 皇帝

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 い、異世界……!?

 俺はオタク系の趣味を持っているので、その手の作品はよく見てはいるのだが、現実にそんな事起こり得るわけ……

 でも、正直今の状況が夢というわけなければ、それ以外考えられないような気がする。

「に、兄さん! 異世界、異世界だって!」

 普段冷静な青葉が目を輝かせている。
 青葉は俺の影響で、オタクっぽい趣味を持っている。
 中でも異世界系が大好きなようだ。

「い、異世界って何ぃ……?」

 茜は一人不安そうな表情をしている。
 茜だけはその手の文化に、一切触れてきて来なかったので、その手の知識は一切なさそうだ。仕方のないことだろう。

「あなた達は、我がアストファス帝国の皇帝、ルシエル・グラトニス陛下の名により、ここに召喚されることになりました。我々は召喚魔法を発動させた魔術師で、私はその指揮を取っている、魔術師長のイーサン・クラークと申します」

 皇帝の命令か……
 魔術師って、普通に魔法とかあるんだな。
 こんな大勢で発動させたと言うことは、結構俺たちを召喚するのには手間がかかっているのかもしれない。

 そこまでして俺たちを召喚した理由は……
 無難なところだと、魔王とかがいて、そいつを倒すために俺たちを呼んだとか。

 ここが本当に魔物とかがいる異世界かどうかは分からないが、仮に戦えとなったら面倒だな。

「何で僕たちを召喚したんですか……!?」

 少し興奮気味に青葉が尋ねる。
 いつも冷静な我が弟も、自分の好きな異世界に転移したというシチュエーションを前にして、冷静さを保つことは出来ていないようだ。

「それは……」

 イーサンは気まずそうな表情を浮かべた。
 何やら説明しづらい理由でもあるのだろうか?

「あなた達は、何か特殊な能力を持っていますか?」

 イーサンはそう尋ねてきた。

「え、いや、ないですけど」

 当たり前だが、俺たち3人は一般庶民だ。
 双子はもちろん珍しいが、それだけで別に超能力とかが使えるわけではない。
 てか、そんなん異世界に来て与えられたりするもんじゃないのか?

 俺の返答を聞いた後イーサンとほかの魔術師達は、気の毒な物を見るような目で俺たちを見てきた。

 どういうことだ?
 特殊な能力がないとまずかったのか?
 てか、青葉の質問に答えてないぞこいつら。

 再び理由を聞こうかと思うと、

「皇帝陛下が来られます!」

 かなり慌てた様子の女が、そう言いながら部屋に入ってきた。
 これを聞いた魔術師達が、慌てて膝を着き首を垂れて平伏した。

「あ、あなた達も早く!」

 そう急かされたので、仕方なく俺も平伏をした。

「これ頭下げないと駄目なの~?」

 茜が駄々をこねるように言った。

「やんないと何されるか分かんないから、とりあえず下げとけ!」
「わかったよー。何なんだよもー!」

 状況を理解できていない茜は、物凄く不満そうに平伏した。

 異世界に召喚された主人公が王様とかに失礼な態度を取ったりするというのは、よくあるシチュエーションだが、現実だとそんなことしたら、即殺されるかもしれない。
 ここは流石に従っておかないとな。

 しばらく同じ体勢のままでいると、カツンカツンと、足音が聞こえてきた。
 誰かが入ってきたようだ。皇帝だろうか。

「面を上げよ」

 威厳のある低い声が聞こえてきた。
 それに従い、魔術師達が頭をあげる。
 俺たちも顔を上げた。

 2mくらいありそうな大男がいた。
 鋭い眼光の男だ。
 髪は赤く、瞳も赤い。
 髭をかなり生やしている。整えられているので、粗暴な男という印象は受けない。
 年齢は30代くらいと、そこまで年寄りではなさそうだ。
 背中に、巨大な剣を背負っている。

 俺はその男を見ただけで、気圧されてしまった。
 その巨体、鋭い眼光。
 常に強力な威圧感を全身から放っており、はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。

 間違いないこの男が皇帝だろう。

 魔術師達も皇帝を見て震えていた。
 俺たちより皇帝をよく知っている魔術師達が怯えているので、見た目だけでなく中身も怖いのだろう。

「貴様らが異界から召喚されし者か?」
「……は、はい」

 物凄く低い声でそう尋ねられた。
 俺は情けない声でそう返事をする。

 皇帝は俺たちをじっくりと見る。
 その鋭い眼光に見られると、全てを見抜かれているような錯覚を覚える。

「……つまらぬな」

 俺たちをしばらく見つめた後、皇帝はそう呟いた。

「異界から他者を召喚できると聞いた時は、面白そうだと思いやらせてみたが……見たところ、そこいらにいる普通の人間と何ら変わらんではないか」

 がっかりしたような表情で皇帝はいった。

 いや、そんながっかりされても……。
 仕方ないじゃん。
 普通のサラリーマンだぜ俺なんて。
 
 ……え? てか、さっき面白そうだから、やらせてみたとか言ってた?

 ……まさか、特に深い理由はなく、好奇心があったから召喚してみたのか?

 そ、そんな馬鹿な。
 いくら何でもそんなくだらない理由はないだろ。
 世界を救うためだとか、やむ終えない事情があるならともかく。

 流石にむかついた。
 これは抗議したいが、文句なんて言ったら、どうなるか分からないしな……

「あのー元の世界へ戻して貰えたりは……」 
「世の許可なく口を開くなゴミが」

 下手に出て頼んだら、心底俺を見下すような表情で、皇帝はそう言ってきた。

 は、腹たつ!
 何様だこいつは!
 ……いや、皇帝だったか。
 でも、皇帝だからって何でもしていいわけじゃないだろ!

「ふん。世は少し腹が立った。期待させてこの様とはな。そいつらは、"巣"へと放り込んでおけ」

 俺たちのことをゴミを見るかのような目で見ながら、皇帝はそう魔術師たちに命令をした。

「"巣"!? し、しかし、それは……」

 命令を受け、イーサンは慌て始めた。
 どうやら、従うのに抵抗があるようだ。

「何だ? 世の考えに異論でもあるのか?」

 皇帝はそう言いながらイーサンを睨んだ。
 イーサンは睨まれた瞬間、真っ青な表情を浮かべ、首を垂れながら、

「滅相もございません! 陛下のお言葉通り、この者達は"巣"へと放り込んでまいります」

 と言った。

 "巣"って何の"巣"何だよ。

 イーサンの反応からして、そんな生易しい生物の巣ではないように思える。

「兄さん……何か嫌な予感がする……逃げた方がいい……」

 少し怯えたような声で青葉は言った。

「それは俺も同じ意見だが……」

 逃げると言ったって、可能か?
 相手は数十人いる。
 しかも魔術師らしい。
 何の力もない俺たちに太刀打ちできる相手じゃない。

「バインド」

 イーサンがそう口にすると、白い放つ糸がイーサンの手から放たれ、俺の全身に巻きついてきた。

「ぐっ!?」

 完全に縛り上げられ身動きが取れない。

「ちょっ!?」「……っ!?」

 茜と青葉も同じように糸で縛り上げられてしまった。

 しばられた俺たちを魔術師たちが二人がかりで抱えていく。

「おい! 離せ! どこに連れて行く気だ!」
「悪く思わないでくれ」

 イーサンはそう呟いた後、

「そやつらを"巣"へと運べ」

 魔術師達へ命令を下した。
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