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第四話
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「エミル・トール! 見参したわ!」
その女はそう高らかに名乗りを上げた。
長い金髪は、癖毛で所々はねている。
目つきは鋭く吊り上がっている。
顔は整っており、肌は白い。
へそが出ている露出の高い服装をしているが、胸が小さく体も全体的に小柄なため、色気はあまりない。
エミル・トールって名乗ったか、この女。
会ったことは無いが、名前には聞き覚えがある。
恐らく高位の『冒険者』だろうな。
冒険者とは魔物退治を生業とする連中の事だ。
何で魔物退治する連中なのに、冒険者と呼ばれているかは知らない。
まあ、何か理由があるんだろう。
冒険者は実績によって決まる、『冒険者ランキング』というものがあり、300位以上になると、冒険者ギルドから色々支援をしてもらえる。
トップ10入りするような冒険者だと、知名度が高いので、町に行く頻度はそれほど多くない俺でも、名前は知っている。
「あの大きさ。Aランクね」
エミルは不敵に笑う。
普通、Aランクの魔物は一人で倒すことはできない。
俺もレベル9999になる前までは、Bランクまでしか一人で倒せなかった。
しかし、エミルは一人で十分という態度だ。
よっぽど腕に自信があるのだろう。
「……そこのアンタ! この私が来たからもう安心よ! さあ早く避難しなさい!」
俺を指さしながらそう言って来た。
いやまあ、来なくても安心は安心なんだが。
一匹も釣ってないのに釣りをやめるのは嫌だし。
この女が倒してくれるのなら、わざわざ俺が倒す必要もない。
このまま釣りを続けることにした。
「コラァ! 聞こえてんのアンタ! 早く逃げなさい!」
逃げる気のない俺に苛立ったのか、エミルが怒鳴ってくる。
「おかまいなく。俺は釣りしてるんで」
「いや構うわよ! 巻き込まれるわよ!」
「何だよ、巻き込まないように戦えないのかよ。その程度も出来ないのかよ」
「な、何ですって」
エミルはカチンときたのか、額に青筋を浮かべる。
「私を誰だと思っているの! 巻き込まずに戦うくらい余裕だわ!」
ちょろい。
単純な頭脳の持ち主のようだ。
不意にエミルがゲートの方に視線を移す。
俺もゲートを見ると、魔物が出てきていた。
全身を濃い灰色の包帯で覆った魔物だ。
右手でボロボロになっている剣を持っている。
右目だけが包帯覆われていない。
赤色の目が怪しく光り輝いている。
ゲートが消滅する。
包帯の魔物は重力に逆らいずっと宙に浮いている。
浮遊魔法が使えるようだな。
結構習得が難しい魔法だが、まあ、Aランクの魔物なら普通は使えるか。
ふと、エミルの方を見るといない。
宙に浮く魔物目がけて一目散に駆けていっていた。
何も聞かずに問答無用で殺しに行くつもりだな。
冒険者はだいたいそうだ。
魔物の事情など聞かずに殺しに行く。
相手がそんなに悪い奴じゃなさそうなら、止めに入るか。
「出てきてそうそう来るとはな。しかし、この"逆襲の刃ベルフォンド"に単身で向かって来るとは、よほどの命知らずと見た。人間千人斬りの最初の一人になってもらおう」
エミルを見て魔物ベルフォンドがそう呟き、臨戦態勢に入る。
人間千人斬りとか言ってる。確実に悪い奴だ。
それはそうとして、こいつら存在名で能力が分かりそうなもんなのに、絶対に名乗ってくるんだよな。何か決まり事でもあんのか? ただのアホなのか?
逆襲の刃って名前だから……何なんだろうな?
死にそうになると強くなって復活するとか?
エミルは地面を勢いよく蹴りジャンプ。
持っていた剣を振りかぶり、ベルフォンドに斬りかかる。
ベルフォンドは持っていた剣で受け止める。
刃と刃が当たった瞬間、ビリビリッ! と電撃が迸った。
その後、エミルも浮遊魔法を使ったのか、川には落ちず、そのまま川の上で斬り合いを始める。
剣と剣がぶつかり合う度に、ビリビリッと電撃が迸る音が鳴り響き、非常にやかましい。
この放電はエミルの力だろう。
雷属性の魔法か? いや、そうじゃないな。
恐らく、エミルの扱っている剣事態に、雷属性の魔力が込められているのだろう。
川に電撃が当たると面倒だが、高い位置で斬り合っているので、川までは来ないようだ。
やかましくはあるが、戦っている所を見るのは嫌いではない。
流石に釣れなさ過ぎて退屈していた所だ。
魚がかかるまでのちょうどいい退屈しのぎにはなるだろう。
斬り合いを見る限り剣の腕は互角。
しかし、斬り合う度にベルフォンドは苦悶の表情を浮かべている。
エミルの放電によるダメージを受けているようだ。
このまま斬り合い続けるのはまずいと判断したのか、ベルフォンドはエミルから距離を取るように川岸の辺りまで移動し、地面に降り立つ。
「ふん、貴様、中々出来るみたいだな。この俺と互角に渡り合うとはな」
「互角? ダメージ受けたのはアンタだけでしょ? 確かに剣術は中々だけど、アンタ雷耐性がないでしょ。それじゃあ、私にはどう頑張っても勝てないわね」
「っち」
余裕の表情で挑発するエミルを、ベルフォンドは睨みつける。
エミルの優勢みたいだな。
一応人間の端くれとして、エミルの方を応援するとしよう。
ふと、ベルフォンドの剣を見てある事に気付く。
最初は物凄くボロボロだった。
どうやって斬るんだというくらい、刃が欠けていた。
今も所々欠けているが、だいぶ修復されている。
何度も剣を交わしているから、普通もっとボロボロにならないとおかしいはずだ。
逆に修復されているとうことは…………
奴の能力か。
ベルフォンドの存在名は、逆襲の刃。
ダメージを食らうと、剣が修復されて切れ味が上がるとかそんな能力だろう。
なら、変にダメージを与えて苦しめて倒そうとするのではなく、急所を見つけて一撃で倒すのがいいだろう。
あの女も、高位の冒険者ならそのくらいの事は気付いているはず……
「あはははははは! アンタ程度の魔物がこの私に勝てるわけはないってことよ! さあ大人しく死になさい!」
うわ~。
めっちゃ見下してる。
完全に勝ちを確信してやがる。
ベルフォンドの剣なんか見ちゃいない。
あいつ結構バカな奴なんだな。
これは……
嫌な予感がしてきたぞ~。
「さあ"雷轟剣"! もっともっと迸りなさい!」
エミルはそう叫ぶ。
すると、持っていた剣が強力な電気を発し始める。
持っているエミルにもちろん電気は当たっているが、雷耐性が高いのか苦しんでいる様子はない。髪のはね方がひどくなっただけである。
「雷(らい)・轟(ごう)・滅(めつ)・斬(ざん)!」
技名を叫びながら、エミルは剣を振った。
剣から斬撃と雷撃が同時に飛ばされ、ベルフォンドに向かう。
奴はその攻撃を避けなかった。
避けられなかったのではない。
恐らくあえて避けなかった。
今までのベルフォンドの反応速度を考えると、決して避けられない攻撃でなかったはずだ。
それでも全く避けるそぶりもなく当たったという事は、何か考えがあっての事だろう。
ベルフォンドは攻撃を食らった後、膝をついた。
どんな考えがあったか知らないが、大ダメージを貰ったのは間違いない。
それこそ今の一撃で戦闘不能になってもおかしくないはずだ。
「ふふふ、勝負あったわね」
完全に勝ちを確信したエミルは、気を抜いてとどめを刺そうと地上に降りる。
そして、近づいたその時、
膝をついてベルフォンドが立ち上がり、エミルに物凄い勢いで斬りかかった。
不意を突かれたエミルは、何とか避けるが、腰のあたりに斬撃を受けた。
「ぐっ!」
痛みに顔をしかめる。
平然と立っているので、傷は深くはなさそうだ。
「その剣……」
ベルフォンドの持つ剣。
最初はボロボロだった刀が完全に修復されている。
それに加えて、剣から禍々しい色のオーラが発せられている。
嫌な感じを受けるオーラだ。
「ぬかったな。俺は追い込まれれば追い込まれるほど、逆襲するため力を上げる。今の俺をさっきまでの俺と思うな。貴様の雷撃もそれほどダメージは受けないだろう」
奴の口ぶりから察するに、剣が修復されるだけでなく、身体能力や耐性も上がるっぽいな。
「ふん、どうせ最後の力を振り絞っただけでしょ? 私には勝てないわよ」
強がるエミルだったが、焦りが表情に出ている。
直感でやばいという事を理解しているのだろう。
その後、ベルフォンドは剣を構え、
「さあ俺の剣の錆となれ!」
奴はそう言って剣を振る。
さっきまでのベルフォンドとは、パワーと速度が確実に上がっている。
雷撃にも当たっているが、苦しそうな表情はしていない。
エミルは付いていくので精いっぱいといった様子である。
――――これは放っておけば負けるな。
仕方ない助けるか。
しかし、俺が助けたとばれたくないな。
物陰に隠れて魔弾(マジック・バレット)で撃ち殺すか。
助けた後、エミルが追って来たら全力で逃げよう。
仮面を付けてもばれる可能性が高いしな。
釣りをやめて助けに行こうとした……まさにその時、
「!!!!」
魚が引っ掛かった。
こ、これは大物だ!
しかし、エミルを助けないと……
いやいや、逃すのかこいつを!?
こいつはかなりの大物だぞ!?
そうそう釣れるチャンスはないレベルだ、こんな大物。
逃がすわけにはいかん!
大丈夫、こいつを釣り上げる間くらいは、エミルも持つはずだ。
俺は釣り上げる体勢に入る。
力に任せて釣ってしまったら竿が折れてしまう。
その為、慎重に力を調整しながら釣り上げる必要がある。
そこが釣りの難しいところであり、面白いところである。
俺以外の人間には、理解してもらえない面白さかもしれないけど。
上手く丁度いい力具合を見つけて、釣り上げる。
よし釣れた!
デカい! 今まで釣ったピネールの中では、最大くらいだ!
そう思った、直後、
斬撃が飛んできて、釣り糸が斬れ、釣り上げたピネールが川に落ちていった。
「は?」
呆然と口を開けてその様子を見守る?
そんな俺の耳に、
「ほう避けたか俺の飛逆斬を」
ベルフォンドの声が飛び込んできた。
飛逆斬?
斬撃を飛ばす技?
そうか。
あの斬撃を放ったのは、ベルフォンドか。
「ふう……」
俺は息を吐く。
……久しぶりに切れちまったよ。
俺は右手で銃を作る。
そして、人差し指をベルフォンドに向け、
「死ねえええええええええええ! このクソ野郎おおおおおおおおおおお!」
と叫びながら魔弾(マジック・バレット)を発射。
魔弾(マジック・バレット)は物凄い勢いで、ベルフォンドに飛んでいき命中。
物凄い爆発が起こる。
ベルフォンドは跡形もなく消滅した。
その女はそう高らかに名乗りを上げた。
長い金髪は、癖毛で所々はねている。
目つきは鋭く吊り上がっている。
顔は整っており、肌は白い。
へそが出ている露出の高い服装をしているが、胸が小さく体も全体的に小柄なため、色気はあまりない。
エミル・トールって名乗ったか、この女。
会ったことは無いが、名前には聞き覚えがある。
恐らく高位の『冒険者』だろうな。
冒険者とは魔物退治を生業とする連中の事だ。
何で魔物退治する連中なのに、冒険者と呼ばれているかは知らない。
まあ、何か理由があるんだろう。
冒険者は実績によって決まる、『冒険者ランキング』というものがあり、300位以上になると、冒険者ギルドから色々支援をしてもらえる。
トップ10入りするような冒険者だと、知名度が高いので、町に行く頻度はそれほど多くない俺でも、名前は知っている。
「あの大きさ。Aランクね」
エミルは不敵に笑う。
普通、Aランクの魔物は一人で倒すことはできない。
俺もレベル9999になる前までは、Bランクまでしか一人で倒せなかった。
しかし、エミルは一人で十分という態度だ。
よっぽど腕に自信があるのだろう。
「……そこのアンタ! この私が来たからもう安心よ! さあ早く避難しなさい!」
俺を指さしながらそう言って来た。
いやまあ、来なくても安心は安心なんだが。
一匹も釣ってないのに釣りをやめるのは嫌だし。
この女が倒してくれるのなら、わざわざ俺が倒す必要もない。
このまま釣りを続けることにした。
「コラァ! 聞こえてんのアンタ! 早く逃げなさい!」
逃げる気のない俺に苛立ったのか、エミルが怒鳴ってくる。
「おかまいなく。俺は釣りしてるんで」
「いや構うわよ! 巻き込まれるわよ!」
「何だよ、巻き込まないように戦えないのかよ。その程度も出来ないのかよ」
「な、何ですって」
エミルはカチンときたのか、額に青筋を浮かべる。
「私を誰だと思っているの! 巻き込まずに戦うくらい余裕だわ!」
ちょろい。
単純な頭脳の持ち主のようだ。
不意にエミルがゲートの方に視線を移す。
俺もゲートを見ると、魔物が出てきていた。
全身を濃い灰色の包帯で覆った魔物だ。
右手でボロボロになっている剣を持っている。
右目だけが包帯覆われていない。
赤色の目が怪しく光り輝いている。
ゲートが消滅する。
包帯の魔物は重力に逆らいずっと宙に浮いている。
浮遊魔法が使えるようだな。
結構習得が難しい魔法だが、まあ、Aランクの魔物なら普通は使えるか。
ふと、エミルの方を見るといない。
宙に浮く魔物目がけて一目散に駆けていっていた。
何も聞かずに問答無用で殺しに行くつもりだな。
冒険者はだいたいそうだ。
魔物の事情など聞かずに殺しに行く。
相手がそんなに悪い奴じゃなさそうなら、止めに入るか。
「出てきてそうそう来るとはな。しかし、この"逆襲の刃ベルフォンド"に単身で向かって来るとは、よほどの命知らずと見た。人間千人斬りの最初の一人になってもらおう」
エミルを見て魔物ベルフォンドがそう呟き、臨戦態勢に入る。
人間千人斬りとか言ってる。確実に悪い奴だ。
それはそうとして、こいつら存在名で能力が分かりそうなもんなのに、絶対に名乗ってくるんだよな。何か決まり事でもあんのか? ただのアホなのか?
逆襲の刃って名前だから……何なんだろうな?
死にそうになると強くなって復活するとか?
エミルは地面を勢いよく蹴りジャンプ。
持っていた剣を振りかぶり、ベルフォンドに斬りかかる。
ベルフォンドは持っていた剣で受け止める。
刃と刃が当たった瞬間、ビリビリッ! と電撃が迸った。
その後、エミルも浮遊魔法を使ったのか、川には落ちず、そのまま川の上で斬り合いを始める。
剣と剣がぶつかり合う度に、ビリビリッと電撃が迸る音が鳴り響き、非常にやかましい。
この放電はエミルの力だろう。
雷属性の魔法か? いや、そうじゃないな。
恐らく、エミルの扱っている剣事態に、雷属性の魔力が込められているのだろう。
川に電撃が当たると面倒だが、高い位置で斬り合っているので、川までは来ないようだ。
やかましくはあるが、戦っている所を見るのは嫌いではない。
流石に釣れなさ過ぎて退屈していた所だ。
魚がかかるまでのちょうどいい退屈しのぎにはなるだろう。
斬り合いを見る限り剣の腕は互角。
しかし、斬り合う度にベルフォンドは苦悶の表情を浮かべている。
エミルの放電によるダメージを受けているようだ。
このまま斬り合い続けるのはまずいと判断したのか、ベルフォンドはエミルから距離を取るように川岸の辺りまで移動し、地面に降り立つ。
「ふん、貴様、中々出来るみたいだな。この俺と互角に渡り合うとはな」
「互角? ダメージ受けたのはアンタだけでしょ? 確かに剣術は中々だけど、アンタ雷耐性がないでしょ。それじゃあ、私にはどう頑張っても勝てないわね」
「っち」
余裕の表情で挑発するエミルを、ベルフォンドは睨みつける。
エミルの優勢みたいだな。
一応人間の端くれとして、エミルの方を応援するとしよう。
ふと、ベルフォンドの剣を見てある事に気付く。
最初は物凄くボロボロだった。
どうやって斬るんだというくらい、刃が欠けていた。
今も所々欠けているが、だいぶ修復されている。
何度も剣を交わしているから、普通もっとボロボロにならないとおかしいはずだ。
逆に修復されているとうことは…………
奴の能力か。
ベルフォンドの存在名は、逆襲の刃。
ダメージを食らうと、剣が修復されて切れ味が上がるとかそんな能力だろう。
なら、変にダメージを与えて苦しめて倒そうとするのではなく、急所を見つけて一撃で倒すのがいいだろう。
あの女も、高位の冒険者ならそのくらいの事は気付いているはず……
「あはははははは! アンタ程度の魔物がこの私に勝てるわけはないってことよ! さあ大人しく死になさい!」
うわ~。
めっちゃ見下してる。
完全に勝ちを確信してやがる。
ベルフォンドの剣なんか見ちゃいない。
あいつ結構バカな奴なんだな。
これは……
嫌な予感がしてきたぞ~。
「さあ"雷轟剣"! もっともっと迸りなさい!」
エミルはそう叫ぶ。
すると、持っていた剣が強力な電気を発し始める。
持っているエミルにもちろん電気は当たっているが、雷耐性が高いのか苦しんでいる様子はない。髪のはね方がひどくなっただけである。
「雷(らい)・轟(ごう)・滅(めつ)・斬(ざん)!」
技名を叫びながら、エミルは剣を振った。
剣から斬撃と雷撃が同時に飛ばされ、ベルフォンドに向かう。
奴はその攻撃を避けなかった。
避けられなかったのではない。
恐らくあえて避けなかった。
今までのベルフォンドの反応速度を考えると、決して避けられない攻撃でなかったはずだ。
それでも全く避けるそぶりもなく当たったという事は、何か考えがあっての事だろう。
ベルフォンドは攻撃を食らった後、膝をついた。
どんな考えがあったか知らないが、大ダメージを貰ったのは間違いない。
それこそ今の一撃で戦闘不能になってもおかしくないはずだ。
「ふふふ、勝負あったわね」
完全に勝ちを確信したエミルは、気を抜いてとどめを刺そうと地上に降りる。
そして、近づいたその時、
膝をついてベルフォンドが立ち上がり、エミルに物凄い勢いで斬りかかった。
不意を突かれたエミルは、何とか避けるが、腰のあたりに斬撃を受けた。
「ぐっ!」
痛みに顔をしかめる。
平然と立っているので、傷は深くはなさそうだ。
「その剣……」
ベルフォンドの持つ剣。
最初はボロボロだった刀が完全に修復されている。
それに加えて、剣から禍々しい色のオーラが発せられている。
嫌な感じを受けるオーラだ。
「ぬかったな。俺は追い込まれれば追い込まれるほど、逆襲するため力を上げる。今の俺をさっきまでの俺と思うな。貴様の雷撃もそれほどダメージは受けないだろう」
奴の口ぶりから察するに、剣が修復されるだけでなく、身体能力や耐性も上がるっぽいな。
「ふん、どうせ最後の力を振り絞っただけでしょ? 私には勝てないわよ」
強がるエミルだったが、焦りが表情に出ている。
直感でやばいという事を理解しているのだろう。
その後、ベルフォンドは剣を構え、
「さあ俺の剣の錆となれ!」
奴はそう言って剣を振る。
さっきまでのベルフォンドとは、パワーと速度が確実に上がっている。
雷撃にも当たっているが、苦しそうな表情はしていない。
エミルは付いていくので精いっぱいといった様子である。
――――これは放っておけば負けるな。
仕方ない助けるか。
しかし、俺が助けたとばれたくないな。
物陰に隠れて魔弾(マジック・バレット)で撃ち殺すか。
助けた後、エミルが追って来たら全力で逃げよう。
仮面を付けてもばれる可能性が高いしな。
釣りをやめて助けに行こうとした……まさにその時、
「!!!!」
魚が引っ掛かった。
こ、これは大物だ!
しかし、エミルを助けないと……
いやいや、逃すのかこいつを!?
こいつはかなりの大物だぞ!?
そうそう釣れるチャンスはないレベルだ、こんな大物。
逃がすわけにはいかん!
大丈夫、こいつを釣り上げる間くらいは、エミルも持つはずだ。
俺は釣り上げる体勢に入る。
力に任せて釣ってしまったら竿が折れてしまう。
その為、慎重に力を調整しながら釣り上げる必要がある。
そこが釣りの難しいところであり、面白いところである。
俺以外の人間には、理解してもらえない面白さかもしれないけど。
上手く丁度いい力具合を見つけて、釣り上げる。
よし釣れた!
デカい! 今まで釣ったピネールの中では、最大くらいだ!
そう思った、直後、
斬撃が飛んできて、釣り糸が斬れ、釣り上げたピネールが川に落ちていった。
「は?」
呆然と口を開けてその様子を見守る?
そんな俺の耳に、
「ほう避けたか俺の飛逆斬を」
ベルフォンドの声が飛び込んできた。
飛逆斬?
斬撃を飛ばす技?
そうか。
あの斬撃を放ったのは、ベルフォンドか。
「ふう……」
俺は息を吐く。
……久しぶりに切れちまったよ。
俺は右手で銃を作る。
そして、人差し指をベルフォンドに向け、
「死ねえええええええええええ! このクソ野郎おおおおおおおおおおお!」
と叫びながら魔弾(マジック・バレット)を発射。
魔弾(マジック・バレット)は物凄い勢いで、ベルフォンドに飛んでいき命中。
物凄い爆発が起こる。
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