生産スキルで国作り! 領民0の土地を押し付けられた俺、最強国家を作り上げる

未来人A

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1巻

1-2

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「俺の土地の領民がゼロってどういうことだ! 領民だけじゃなく建造物なんかも当然ゼロだ! ふざけてるのか!?」

 詰め寄る坂宮に、神はどこ吹く風で言う。

「あちゃー、領民ゼロ引いちゃったか。大ハズレ枠として一つ入れてたんだよねー」
「入れてたんだよねー、じゃないだろ! お前領主になってくれとか言っていたが、領民ゼロの領主って、存在するかそんなもん! 領民がいてこそ領主っていうんじゃないのか!?」

 もっともな意見だ。ただなんとなく漫才っぽいやり取りに、こんな状況ながら少し笑いが起きる。
 それを聞いた坂宮が、こめかみを引きつらせて怒鳴る。

「何笑ってんだ、お前ら!」

 クラスのリーダーのヒステリックな叫び声に、再び場が静まり返った。
 坂宮は深呼吸をして落ち着きを取り戻したのか、いつもの澄まし顔に戻った。

「お前達、これが現実だってまだ認識できてないだろ。このままじゃ本当にわけわからん世界の領主にされてしまうんだぞ。そうなると、領民ゼロの土地に行かされる俺は野垂のたぬかもしれない。他にも危険な土地の領主にされたものは、戦争に巻き込まれて殺されることだってあり得る。現実をしっかり認識すれば、笑っている余裕なんてないと理解出来るはずだ」

 クラスメイト達は坂宮の言葉を聞いて、おろおろし始める。
 坂宮、意外に良いことを言ってきたな……確かになんとなく気持ちが緩んでいたところがあったかもしれない。
 異世界と聞くとどうしても都合のいい想像をしてしまう。俺なんか、若干わくわくしていた。
 しかし実際に異世界に行くとなると、そう甘いことばかりではないだろう。マジで死の危険はあると考えていい。Sランクの領主になる俺だって、例外じゃない。

「なーに暗くなってんだろ。スキル貰えるし、たぶんなんとかなるでしょ」

 一方……メイはお気楽だった。

「いや、お前さ。コミュ障じゃん。まともに会話できない奴が、領主なんて無理だと思うぞ」
「……は!?」

 そこまで頭が回っていなかったのか、メイは青くなる。
 冷静に考えればこいつが一番やばそうだな。俺のと交換してやるか? いやでも、人が多いほうがメイには逆効果かも。難しい話だ。

「ど、どうしよう……領主なんて、無理に決まってるよ」

 坂宮の言葉で不安にかられたらしい女子生徒の一人が、おどおどと呟く。他の生徒達も不安そうだ。
 坂宮はクラスメイト達を扇動せんどうするように言う。

「この神とやらに力ずくでいうことを聞かせて、教室に帰してもらう。人数ならこちらにがある」

 それは、ちょっと頓珍漢とんちんかんじゃないか? 神っていうのはどうやら嘘じゃないっぽいし、それなら俺達が勝てるわけない。
 ただその言葉に触発されたのか、何人かが神に殴りかかった。

「無駄だよー」

 神は回避も反撃も防御もせず、ただたたずんでいた。男子生徒のこぶしは神の体をすり抜けた。

「僕をやるのは、ム・リ。君達はあと二十分後に異世界に転移します。イケメンの君が言った通り、これが君達に与えられた現実だよ」
「くっ……」
「確かに大きな間違いを犯したり、運が悪ければ死んだりするかもしれないけど、基本的には面白い場所だよ~。領主になれば割と贅沢ぜいたくできるし、ポジティブに考えようよ」

 神はあっけらかんと告げてくる。
 それから約十五分間――坂宮達はあの手この手で神をどうにかしようとしていたが、通用しない。
 俺はというと……もう領主になる覚悟を固めていた。

「くそ、駄目だ……」

 坂宮はついに諦めたように吐き捨てた。

「でも徹君、このままだと領民ゼロの土地に……」
「可哀そう」
「わ、わたしのと交換……」

 そんな坂宮の周りに、女子が群がる。こ、こんな時でも心配されやがって……

「いや……俺の身代わりにするわけにはいかない」

 坂宮はリーダー格のプライドがあるのか、土地の交換には応じようとしなかった。
 だが明らかに強がりと分かるくらい、動揺している。
 ふいに坂宮がハッとした表情を浮かべ、誰かを探すように周囲を見た。そして、俺と目が合う。
 途端に坂宮が俺を指さして、叫ぶ。

「こいつだ! 体操着泥棒! こいつの領地と取り換えればいい!」

 はぁ? なんで俺が坂宮と領地を交換せねばならんのだ。
 ふざけるなと思ったが、クラスメイト達は次々に賛同する。

「それいいわね!」
「そうだ! あいつは犯罪者みたいなもんだから、罰を与えられるし一石二鳥だろ!」
「いいアイデアだ! 流石に領民ゼロよりはましな土地を持っているだろうし」

 ……そういえばこいつらの中では、俺は体操着泥棒だったんだな。
 だが、こんな無茶なことめるわけがない。誰が行くかよ、領民ゼロの土地なんか。

「おい! こいつの領地Sランクだぞ!」

 俺の紙を覗き見た男子生徒が叫んだ。

「マジか!?」
「あんな奴にはもったいないわ。絶対取り換えましょう」
「そうよそうよ。坂宮君が領民ゼロの土地で、あの犯罪者がSランクって理不尽すぎでしょ」
「こいつには領民ゼロの土地がお似合いだ」

 いやいや、だからふざけんなよ! なんなんだこいつら……なぜなんの証拠もないのに、俺が悪人だと決めてかかる。
 坂宮は勝ち誇ったような笑みを浮かべながら手を差し出してくる。

「そういうことだ。その紙を俺によこせ」
「どういうことだよ。ふざけんじゃねぇ」

 俺は怒りを込めて言う。
 いつも悪人扱いされてはいたが、直接危害を加えられたことはない。しかし、今回は違う。流石に黙っているわけにはいかない。

「時間がないよ坂宮君! 強制的に取り上げたほうがいいでしょ!」
「ああ、手伝うぜ!」

 クラスメイト達が、俺を囲むようにして集まってきた。
 おいおい、マジか。逃げ場がない。抵抗しても、これじゃどうしようもない。

「さあ渡せ」
「ぐっ……あのなぁ、前も言ったが俺は体操着なんて盗んでねぇ! 無実だ!」

 俺は必死に叫ぶが、周りを囲んでいる奴らは誰一人聞く耳を持たない。

「嘘をつけ! お前がやったんだ!」
「そうだ、お前万引きして捕まったんだってな!」
「中学じゃいじめの主犯だったって話も聞いたぞ」
「人間は顔じゃないっていうが、お前は性根しょうねが腐っているところが、顔に出てるんだよ!」

 万引きもいじめも全部デタラメだ。どっかの誰かが適当に話したのが噂になったのだろう。
 しかし、ここで反論しても無意味だ。こいつらの中で俺は悪党だと決めつけられているのだ。
 この理不尽すぎる仕打ちだって、正義のため、友達のためにやっていることだと、本人達は思っているに違いない。
 諦めて、差し出すしかないのか……? そう思っていると、声が響いた。

「全部デタラメだ! ゼンジはそんなことしない!!」

 叫んだのはメイだった。涙目になり、震えながら声を振り絞っている。

「お前ら、よく思い出してみろよ! ゼンジがお前らに何かしたのか!? 何か悪いことをしているところを直接見たのか!? 見てないだろ馬鹿野郎! ゼンジは良い奴なんだよ!! そんなゼンジがこんな目に遭うなんて、そんな理不尽なこと許されないんだよ馬鹿野郎ぉぉ!!」

 メイの叫び声に、クラスメイト達は少し気圧けおされている様子だ。普段喋らないメイがいきなり大声を出したので、驚いたのだろう。
 そんなメイを見て、坂宮が同情したような顔で言う。

「君、いつもこいつと一緒にいるけど……脅されてるんだろ?」

 クラスメイト達も坂宮と同じように口にする。

「そうか、だから必死でこんな奴かばおうとしているのか」
「恥ずかしい秘密でも握られているのかしら……可哀そう……」

 見当違いな心配をされて、メイは呆気に取られた表情をしている。

「我々は異世界で別々の領地に行くし、こいつは領民ゼロの土地ですぐ野垂れ死ぬさ。怯える必要は何もない。安心するんだ」

 坂宮が笑みを浮かべ、メイの肩に手をかけた。
 その態度がしゃくさわったのか、メイの顔が怒りで赤くなっていく。

「領民ゼロの土地に行くのはお前だぁ!!」

 そう叫びながら、坂宮の腹に蹴りを入れた。坂宮がよろめき、他の女子生徒が悲鳴をあげる。

「な、何するの!」
「ま、待て、彼女は悪くない……俺としたことが配慮にかけていた。男に触られるのがあいつのせいで怖いんだろう。可哀そうに」
「ちがぁぁう!!」
「とにかく女子は彼女を取り押さえておいてくれ!!」

 坂宮に言われて、クラスの女子達がメイを取り押さえる。
 メイは相当怒っていたが、俺も怒りでどうにかなりそうだった。
 俺とメイは友達だ。親友といってもいいと思う。それを俺が脅しているだとか、知りもしないくせに好き勝手言いやがって。メイが抗議していなければ、俺が暴れていただろう。

「異世界に出発まであと三分だよー」

 そんなことをしているうちに、神が告げてきた。

「ま、まずい! 早くしないと!」
「皆、体操着泥棒を取り押さえて、力ずくで紙を取れ!」

 坂宮の命令で、クラスの体育会系の連中が俺から紙を奪おうと近付いてくる。
 俺はなんとか取られまいと紙を抱え込み、うずくまった。
 しかしその抵抗も意味はなかった。力ずくでひっくり返され、強制的に手を開かされて、紙を奪われてしまった。
 俺のSランクの領地を手にした坂宮が、自分の持っていた紙を俺の目の前に落とす。

「これは君にふさわしい」

 見ると、確かに領民ゼロと書いてあった。ランクは当然のごとく、最低のG。

「……ちくしょう」

 あまりに理不尽な出来事に、俺は立ち上がることが出来ないまま呻いた。

「何を悔しそうにしている。これは当然のことだろうが。君みたいなクズが領民ゼロの土地に行って、俺のようなクラスをまとめ上げる存在が、Sランク領地に行く。これ以上ないくらい正当な出来事だ。悔いるなら今まで悪事を働いてきた、君の人生そのものを悔いるんだな」

 呆然と成り行きを見守っていたメイも、ようやく解放された。

「く、くそ……なんなんだよあいつら、なんでゼンジのことを悪人だって決めてかかるんだ。そして、ボクがゼンジに脅されてるって……なんなんだよ。あいつらが何を知っているっていうんだよ……ゼンジ、取り返しに行こう」

 メイも心から悔しそうに言う。

「あの人数相手に取り返すのは、無理だ……」
「そんなの、やってみないと――」
「残り三十秒だよー」

 神が言った。
 メイは焦った様子で、いきなり口にする。

「そ、そうだ。ボクのと交換すればいいんだ!」
「は?」
「だ、だってほら、ボクってコミュ障だし、領民ゼロならちょうどいいっていうか……」
「メイ……その気持ちだけで十分だ」
「でも……」

 ここでメイに領民ゼロの土地を押し付けるわけにはいかない。友達だからな。

「残り十、九、八」

 神がカウントダウンを始めた。
 奴の言っていることが本当であるならば、俺はもうすぐ領民ゼロの土地へ――どんなところかは行ってみないと分からないが、下手をすれば死地へ行かされる。

「ゼンジ! 絶対探し出すからね! 君を一人になんかさせないから!! 絶対だからね!!」
「――ゼロ」

 メイの声に、神の声が重なる。その瞬間、俺の視界は真っ暗になった。そして、視界が戻った時――俺は一面緑の草原に佇んでいた。



 3 草原の真ん中で


 周りには何もない。人っこ一人おらず、建物一つない。見上げると、空に見知らぬ紫色の鳥が飛んでいた。少し先のほうでは、翼の生えたウサギがもぐもぐと草を食べている。
 ――本当だった。
 俺は神の言ったとおり、領民ゼロの未開拓の土地に飛ばされてしまったんだ。
 覚悟はしていたが――実際にこの光景を見て、絶望が襲ってきた。サバイバル経験ゼロ、日本の首都圏からほとんど出たことのない俺が、今からたった一人、この異世界で生きていかなければならない。

「俺が何をしたってんだよ……」

 膝をついて、呆然と空を眺めながら呟く。そのうちに、さっきの出来事がよみがえってきた。

「……ふざけんなよあいつら」

 思い出すだけで、怒りが高まってくる。あのクラスメイト達のせいでこうなったんだ……特に坂宮の奴が許せん。あいつが皆を扇動した。
 俺は空に向かって叫ぶ。

「ふざけんなよ!! 俺が何をしたってんだよ!!」

 そして、呟いた。

「――見返してやる」

 頭に浮かぶのは、俺を理不尽に責め立て、悪人と決めつけて、ゴミを見るような目を向けてきたクラスメイト達の表情だ。

「絶対に生き延びて見返してやるからな!! 覚悟しやがれ!!」

 俺はこの異世界に散っているであろうクラスメイト達に向かって、声の限りに叫んだ。

「しかし、そうは言っても……」

 俺は周りを確認する。見事に何もない――ただの草原が広がっている。ここで生き残るって、可能か?
 植物が育っている場所なので、なんだかんだ食い物は見つかるかもな……かといって、ここは異世界だ。不用意に物を食べれば、毒でお陀仏だぶつという可能性も……って、ん?
 ふと、足元に何かあることに気付く。見ると、大きめのリュックサックが落ちていた。
 もしかして、支援物資か!?
 これは灯台下暗もとくらしだな。うきうきした気持ちでリュックサックを開けてみる。が、一瞬でテンションが下がった。携帯食料とか役立つものを想像していたのに、中に入っていたのは一冊のノートだけだった。
 期待させやがって……! 苛立いらだちながらも、一応手に取ってみる。五十ページくらいの厚さで、表紙には『生産スキルのレシピ』と書かれてる。
 ――生産『スキル』?
 そういえば神の奴が、全員に一個ずつスキルをくれると言ってたな。そのためにスキル石とやらを貰ったんだった。ズボンのポケットにしまっていたスキル石を取り出してみる。

「おっ!?」

 貰った時はその辺の石ころのように灰色だったスキル石が、綺麗な緑色に変わっていた。神の言っていた通り、スキルによって色が変わるみたいだな。
 それで、このスキル石のおかげで、生産スキルってのが使えるようになったってことか……?
 生産スキル、ねぇ……? 生産っていうからには、物を作ったりするスキルだろうか。
 何もない草原に放り出された今、必要な能力には違いないが、ここは異世界だ。危険な生物がうようよいてもおかしくない。どう考えても戦闘には使えそうにないこのスキルでは、あっさり死んでしまうかもしれない。
 どうせなら戦闘系のスキルの方が良かったなぁ……腕っぷしに自信はない。もっとも多少喧嘩が強かったとしても、異世界の生物に勝てるとは思えないけどな。

「はぁー……」

 思わずため息を吐くが、この生産スキルでなんとかするしかない。
 えーと……いや、つーかどうやって使えばいいんだろう。まさか、誰かに教えてもらわないと使えない系? なら、早速詰んだのか!?
 このノートにはレシピって書いてあるけど……使い方なんて書いてあるんだろうか。不安に駆られながらも開いてみた。
 一ページ目には『生産スキルとは!?』とポップな字体で見出しが書かれている。
 読んでみた内容を要約すると――


 ・『生産スキル』とは、『生産スキルのレシピ』に載っているものを作り出すスキルである。
 ・普通に作ればどんなに時間がかかるものでも、材料さえあればすぐに生産出来る。
 ・レシピには生産出来るものと、必要な材料が書いてある。
 ・材料が揃うとレシピのページに書かれた『作る』の文字が光る。それを触れば生産される。
 ・生産を続ければ経験値がたまり、スキルレベルが上がる。
 ・スキルレベルが上昇すれば、生産出来るものの種類が増える。
 ・生産難度が高いものを作れば、貰える経験値が増える。
 ・スキルレベルの確認は、このノートの裏表紙でできる。
 ・生産難易度は素材獲得難易度と同じである。


 良かった……大体分かったぞ。速攻で詰むのは回避できそうだ。
 それに、レシピに書かれたものを即座に作れるというのは便利な能力だ。でも素材は必要らしいし、集めるのは一筋縄ではいかないかもしれない。命懸けになる可能性だってある。
 人里に行ければ、素材が取引されているかもしれないが……地理も分からないのに、物資もないまま移動するのは危険すぎる気がする。まずはここに拠点を作って、食料とか基本的なものを確保してから行動しよう。
 俺は現時点の生産スキルで作れる物を調べてみた。レシピに目を通すと、武器や建造物など、いかにも異世界で役立ちそうなものから、マタタビスプレーとかいう、どう使えばいいのか分からないものまで載っていた。ちなみに生産物の説明は最低限しか書いておらず、マタタビスプレーの説明は『猫が好む』だけだった。
 レシピには材料として必要な素材の絵が描いてある。絵といっても写真とほとんど変わらないから、よく分からない材料でも、これを見ながら探せば見つけやすくなるな。
 一通りレシピに目を通し、作りたいものを決めた。
 まずは、小屋だ。住める場所はやはり必須だろう。ただ木材が結構たくさん必要そうなので、難度が高いかもしれない。
 次に木の剣と盾だ。最低限の武器と防具は持っておきたい。少量の木で作れるので、これは割と簡単そうだ。
 そして、生命力ポーションと栄養ポーション。生命力ポーションは傷を治し、栄養ポーションはえを癒す効果があるらしい。異世界サバイバルのために、これもぜひとも欲しい。
 材料となるのは、それぞれ命の草という赤い草と、栄養草という黄色い草のようだ。ただ、周囲にそれらしい草はどこにも生えていない。
 とりあえずの目標はこの五種類だが、一番気になったものは別にある。『低級ホムンクルス』というやつだ。説明には『生産者の言うことを聞く、人造生命体』と書いてある。つまりホムンクルスを作れば、労働力をゲットできる可能性がある。
 材料は小さな魔石と、肉十キロと書いてあった。
 小さな魔石とやらはよく分からんが、肉十キロなら小動物を数体狩れば用意できるかもしれない。でも今のところ狩れるか分からんし、狩れたとしても、とりあえずは自分で食べたいよな……余裕が出来たら作ってみよう。
 よし、と俺はノートを閉じた。じゃあ早速、素材集めをしようじゃないか。
 絶対に生き残ってやるんだ――なかなか厳しい状況であるが、絶対ネガティブにはならないと心に決めた。
 俺はリュックサックを背負うと、『生産スキルのレシピ』ノートを片手に草原を歩き出した。基本見渡す限り草しかないが、ところどころ、低木の茂みや木が生えている地帯もあった。木の枝が落ちていたので、拾い集めてリュックサックに収納する。
 たぶんだけど、これで素材である『木材』を集めたことになるんじゃないか?
 普通ならただ木の枝を集めただけで、剣や盾を作ることなんてできないが――俺の貰った生産スキルなら可能なんだろう。俺はそう信じて黙々と集め続ける。
 そのうちに、ノートが一瞬だけピカッと光った。開いてみると、木の剣のページにある『作る』という文字が淡い光を放っている。
 これに触ると、生産されるんだったよな……?
 俺は疑い半分――あと、異世界らしさに対する期待半分で、『作る』の文字に触れる。
 すると、リュックサックが軽くなった。同時に、目の前に何かがポンッと現れて、地面に落ちた。
 そこにあったのは、レシピ通りの木の剣だった。拾い上げて確かめてみると、まるで木材から削り出されたようなしっかりとした造りをしている。
 これが、生産スキル――!
 俺はちょっと感動して、生み出された木の剣でついつい素振りしてしまった。
 木の剣があったからといって、剣技を使えない俺がそこまで強くなるわけではないが、素手で戦うよりはマシだ。ただ、今のところ敵は見当たらないので、木の剣はとりあえずリュックサックにしまった。
 そのあとも草原を歩き回っていると、赤い実がなっている低木を発見した。大きさはイチゴと同じくらいで、食べられるかは分からないが摘んでみた。念入りに匂いを嗅ぐと、美味おいしそうないい匂いだ。皮をいて少しだけ口に入れてみたところ、リンゴに近い味がした。これなら食べられると判断して一個丸ごと食べる。
 うん、美味しい。
 さっきから少し腹が減ってきていたので、これはいい発見だ。十個ほどなっていた実を全部食べた……いくつか取っておいた方が良かったかな。次見つけたら気を付けよう。
 しばらくすると、草原の先に森らしきものが見えてきた。
 ――森か。草原よりもはるかに危険なイメージだ。視界が狭いので危険を察知しにくいし、襲ってくる生物も多くんでいそうだし……しかし、素材の木を収集するには最適の場所だろう。
 なるべく今日のうちに、小屋を作っておきたい。そうしないと今日は野晒のざらしで寝る羽目になってしまう。今の気候は若干肌寒さを感じる。夜はもっと冷え込むだろう。小屋がないと風邪をひくかもしれん。まだまだ物資の足りないこの状況で体を弱らせたら、死につながりかねない。
 小屋を作るために必要な木材の量は二百キロと書かれていた。
 木材二百キロというのがどんな量か想像出来ないが、たぶん生産できるのは物置小屋くらいの大きさかな。足を伸ばして寝ることは難しいかもしれない。それでもないよりはましだ。
 そしてこの量の木材を集めるとなると……今までのペースを考えたら、森に行かないと難しいだろう。森なら枝だけでなく、もっと太い木の幹なども採取できるだろうし、二百キロくらいなら頑張れば集められるかもしれない。
 それに木材以外にも、森でしか取れない素材もあるかもな。現時点で生命力ポーションの素材である命の草や、栄養ポーションの材料である栄養草を発見することは出来ていない。

「よし……行くか」

 俺は危険を覚悟で、森に入ることを決めた。
 とはいうものの……木々の中に足を踏み入れると、鬱蒼うっそうとした森は薄暗く、正直いって怖い。木の剣をリュックサックから引き抜き、両手で構えながら歩く。あまり奥には行かず、すぐ出られる範囲だけ探索すると決めて歩く。
 すると早速、地面に太めの枝が落ちているのを発見した。リュックサックに収められる大きさだったので、拾って収納する。結構な重さだが、運べないことはない。同じようにして、いくつか枝を拾ったら森を出て、リュックサックから出して草原に積んでおく。
 一度で何キロ集められたかは分からない。多分、五キロくらいか? まだまだ先は長そうだ。
 こんな感じで森をうろついていると、緑色の実を見つけた。食べられるだろうか……いや、その前に、なんか見覚えがあるな。確かついさっき……そうだ、レシピノートで見たんだった。


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