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第5話 ダンジョン探索

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(そ、そうだ。武器があったんだ。こいつを持っておこう)

 誠司はリュックから、フェザーストーンで作ったナイフを取り出した。

 武器を使って戦った経験など皆無だ。
 それでも武器があるのとないのとでは、安心感が違う。

 ナイフを構えながら、ゆっくりと先を進む。

 すると、背後からがさっ、という音が聞こえた。
 反射的に振り向く。

 緑の肌の人型の生物が立っていた。
 目つきは鋭く、色は真紅色。
 灰色の角が一本額から生えている。
 背丈は2m弱。木の棍棒を右手に持っていた。

「お、おおおお、お、鬼?」

 恐ろしい風貌に誠司の恐怖心は限界まで高まる。
 震えながらも、ナイフをしっかりと握りしめ、ジリジリと後ずさり、鬼から距離を取る。

「グガアアアアアア!!」

 鬼が棍棒を振り回して襲ってきた。

「うわああああああああ!! こんなん勝てるかああああああああ!!」

 立ち向かうなんて出来ない。
 誠司は逃走を選択した。

「はぁっはぁっ!!」
「ガアアアアア!」

 逃げる誠司と追う鬼。

 幸い鬼は足が遅かった。
 誠司も身体能力は低くはなかったので、徐々に距離が開いていく。

 一心不乱に数分、走り続けた。
 後ろを振り向くと、鬼の姿はなかった。

「はぁはぁ……まいたか?? はぁはぁ……」

 ほぼ全力で数分走ったので、体力をだいぶ消費した。

 周囲を見回して、何もいないことを確認。
 誠司はその場でしゃがみ込んだ。

(何だよあれ……化け物じゃねーか。めっちゃやばいところだここ……マジで死ぬんじゃないのか俺……)

 誠司は恐怖で、ガクガクと震える。
 怪物がいるこの場所で、生きて出口を見つけるのは、自分では不可能なことではと感じていた。

(諦めちゃ駄目だろ。こんなところで死んでたまるか)

 折れかけた心を、誠司は奮い立たせた。
 少しづつ震えは落ち着いてくる。

 そして気づいた。

 ダウジングの音が、脳内に鳴り響いていることに。

(ダウジング……? まだ効果があったのか。これが鳴るということは、近くにレアな素材があるということ……でも、そんな物拾ってる場合か?)

 最初は無視して歩こうと思ったが、すぐに考えを改める。

(レアな素材を入手して、クラフトしたら役に立つアイテムが作れるかもしれない。戦闘とかはど素人俺が何とか生き残って脱出するには、便利アイテムでもないと無理だ)

 そう考え、素材を入手する事にした。

 少し歩いてみる。

 どの方角に行くと音が大きくなるかが判明。その方角へ、慎重に歩いていく。

 ゆっくりゆっくりと歩いて、花がたくさん咲いている場所に到着した。

 青色の花だ。
 形はコスモスに似ている。

(音がかなり大きくなった。この花が素材なのか?)

 一本花を摘んでみる。
 素材が間近くにあると音が消えるみたいだが、消えない。
 花はたくさんあるので、全部取らないと消えないのだろう。

「アプレイザル!」

 この花がどんな素材なのか調べるため、誠司は魔法を使用する。

『ブルーコスモス レア度B 青色のコスモス。花のエキスと水を調合すると、体の丈夫さを上げるポーションを作成できる』

 そう説明が聞こえてきた。

(体の丈夫さ? 防御力みたいなもんか? それを上げるって……これ使えるかも! でも、水がないとクラフトできない……)

 誠司はその場にあったブルーコスモスを全て採集した。全て収集すると、ダウジングが消えた。
 花は全てリュックに入れる。
 
 今度は水を捜索する。

(水なんてあるのか? いや……植物が育ってるんだし、水がないとおかしいと思うけど……でも、ここ異世界だしな)

 現実世界の常識は通用しない。
 水があるとは限らなかった。
 それでもあると信じて探すと、意外と近くにあった。

 池だ。
 濁っている。
 飲み水には使えなささそうだ。

(これクラフトに使えるのか? でも、綺麗な水なんてあるかわからないし……使ってみるか)

 試しにクラフトすることに。

 まずその辺にあった低木の枝を、ナイフで切った。
 クラフトで木のコップを作成する。

 そのコップに、水を汲む。
 ブルーコスモスを一輪入れて、クラフトを使用した。

 水の色が青く変化する。

「でき……たのか?」

 出来上がった飲み物をアプレイザルで調べてみる。

『頑丈強化ポーション。体をより丈夫にする。100mlにつき、頑丈が1上昇する』

 アイテムの説明が頭に鳴り響く。

(頑丈が1上昇する? 1上がったらどのくらい強くなるんだ?)

 1上がるという以外に説明はない。
 量はコップいっぱいくらいなので、200mlほどだ。
 全部飲んだら2上がる計算になる。

 ただ、上がるというのなら、飲んだ方がいい。
 誠司はクンクンとポーションの匂いを嗅いだ。
 甘い匂いが漂ってくる。
 濁った水を使ったが、飲むのに問題はなさそうだ。

 誠司は思い切って、頑丈強化ポーションを飲んだ。

(……?)

 特に何かが変わっという感触はない。
 この世界ではステータスなんてものは見れないので、上がったという実感を得るのが難しかった。

(ちゃんと上がったのか分からないけど、でもとりあえず飲むしかない。
 持ってきたブルーコスモス、全部ポーションにしよう)

 全部収集してきた。
 残りは、ちょうど10輪だった。

 水を汲んでクラフト。
 ポーションを作成。そして、飲む。

 それを10回繰り返した。

(うぷ……もう飲めねぇ……)

 かなりの量を飲み、だいぶお腹に溜まっていた。
 11回飲んだので、頑丈が22上がったはずだ。
 だが、体が頑丈になったという実感は得られない。

(本当に硬くなったのか? 試し見たいけど……どうやって? 木にでも頭突きしてみるか? でも、あんまり硬くなってなかったら、痛いよな……)

 躊躇っていると、後ろからガサッと音が聞こえた。

(こ、このパターンは……)

 嫌な予感を感じて後ろを見る。

 鬼が誠司をジッと睨んでいた。

 咄嗟に逃げようとする。
 しかし、誠司は座っており、さらにポーションを飲みすぎたせいで、動きが鈍くなっており、スムーズに立ち上がることが出来なかった。

 その誠司、鬼は容赦なく棍棒を振り下ろす。

 頭に棍棒が当たる刹那。

 棍棒の動きがスローモーションになる。

 ――――走馬灯。
 今まで生きてきた人生が、脳裏にかけめぐる。

 どれだけ過去を振り返っても、この状況から棍棒を避ける手立ては見つからない。

 誠司はギュッと、目をつぶった。

 棍棒が額に直撃。

 額が割れ致命的な怪我を負う――――はずだった。

 棍棒は誠司の頭に直撃した瞬間、グシャと音を立て無惨に砕けた。

 木の破片が周囲に飛び散る。

「いて!」

 痛みはあった。
 しかし、棍棒で頭を殴られてたと考えると、随分軽い。
 精々、デコピンを食らったくらいの痛みだった。

「ウゥ?」

 獲物を失い、鬼は不思議そうな表情を浮かべた。
 その後、誠司の所為で獲物を失ったのに気付き、恐れるのではなく激昂した。

「ウガアアアアア!!」

 残った柄の部分を捨て、殴りかかってきた。

「うわっ!」

 またも反応が遅れて避けきれなかった。

 拳は頬に突き刺さる。

 しかし、痛みはない。
 棍棒の時は少しは痛かったが、拳は全く痛くなかった。

(こいつ、こんな弱かったのか? いや――)

 ――――頑丈強化ポーション。

 その効果で、自信が頑強な体を手に入れたと思い至った。

 もしポーションを飲んでなかったら、最初の棍棒で頭を割られ、死んでいただろう。

 鬼はもう一回殴ってくる。
 攻撃が効かないとなると怖くはない。
 誠司は避けなかった。
 ナイフを握りしめる。

 相手の攻撃を気にすることなく、誠司は首元を狙ってナイフを突き刺した。

「ぐぎゃ?」

 ナイフは鬼の首に見事命中。
 鬼は何が起こったかわからないと、不思議な表情を浮かべていた。

 誠司はナイフを引き抜く。

「あが……」

 鬼は大量の血を首から噴き出しながら、ばったりと倒れた。

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