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第2話 領地を貰う
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「りょ、領地?」
誠司は聞き間違いかと思った。
それだけ予想外の言葉だったからだ。
「こんなことではお詫びになるか分からぬが、それ以上のお詫びは思いつかなかったのでな」
「いや、あの……領地を貰うってどこのですか? 人がいない場所とか?」
詐欺か何かだと思った誠司はそう質問した。
「そんなところは領主とは言わん。少しこの王都からは遠いが、数百人の暮らす土地をそなたには渡す。そこを治めておった領主がちょうど問題を起こし、現在は王家が直接治めておる土地だ。わしの一存で渡すことができる」
「あの……領地経営とかしろってことですか? そんな経験生まれてこの方ないんですけど……」
「大丈夫だ。村には補佐役がおるし、何なら完全に補佐役に任せても構わん。お主はどっしりと屋敷で過ごすだけでも何も問題ない」
「は、はぁ……」
あまりのことに誠司は困惑する。
(まあ、殺されたり城の外に放り出されるよりかはだいぶマシか。住めるところは確保できそうだし。領地経営なんてできるか分からないけど……でも別に領地を良くしてくれって話でもないから、任せっぱなしでもいいか)
冷静に考えれば悪い話ではないなと誠司は思った。
「不満があれば申しても良いぞ」
「あ、いえ、大丈夫です。それでいいです」
気が変わって処遇が悪化するのはまずい。
誠司はすぐにOKした。
こうして誠司は異世界の領地を貰うことになった。
○
「もうすぐ着きますよ~」
馬車の御者がそう言った。
誠司は自らが治めることになった領主に行くため、馬車に乗っていた。
地名はタールトン。
出発前に地図で場所を確認したが、辺境に土地のようだ。
王都よりだいぶ離れている。
出発して3日でようやく到着するようだ。
しばらく待つと、御者の言葉通り、タールトンに到着した。
馬車から降りる。
「ここが……俺が治める領地?」
お世辞にも発展しているとは言い難い場所だった。
建物は木造。
ボロボロで、年季が入っている。
道もまともに塗装されていない。
歩いている人たちも、あまり身なりは裕福に見えない。
「あなたが新しい領主の……セイジ様です?」
男に声をかけられた。
真面目そうな顔の男だ。年齢は20代後半くらい。
髪は黒く、顔は整っている。
「は、はい。そうです」
「お待ちしておりました。私は今まで国王陛下の命令でタールトン村の領地運営をしていた、ルックと申します。すでに書状が送られて来ておりますので、事情は知っています。ついて来てください」
ルックの案内についていく。
案内されたのは屋敷だった。
かなり年季が入っている。
だが、住めないというほどボロくはない。
「領主様のお屋敷でございます。今日からここでお過ごしください」
「案内ありがとうございます……」
「それでは、お屋敷のことは中のものに聞いてください。私はこれで」
そう言い残しルックは去ろうとする。
慌てて誠司は引き止める。
「ま、待ってください」
「何でしょうか?」
「あの、俺領主なんですが、何かやらなくていいんですか?」
領地経営は任せても良いとは、国王に言われていたが、何もせずに生活するだけなのは気が引けた。
出来ることがあればやりたいと思っていた。
「そうですね……お気持ちはありがたいですが、いきなりここに来て領地に関して意見を言うと言うのも難しいでしょうし、しばらくはこの領地で普通に生活してみてはいかがでしょうか? 何か気づいたことがあれば、随時私の方に報告していただければありがたいです」
「わ、わかりました」
「それは私はこれで」
今度こそルックは去っていった。
(うーん、ようはなるべく口は出すなってことなのか? まあ、俺は素人だしそうしたほうがいいんだろうけど)
どこか釈然としない思いを抱え、誠司は屋敷に入った。
屋敷にないには使用人が数人いた。
料理や家事などは全て使用人が担当するそうだ。誠司は特に何もしなくていいと言われた。
(至れりつくせりだな……これが領主か……でも、本当にこのままでいいのかな?)
不安と釈然としない思いを抱えた状態で、誠司のタールトンでの生活がスタートした。
○
「本当に良かったのですか? タールトンの地を与えて」
王城。
国王プライスは、家臣の魔術士シーラにそう問い詰められていた。
「辺境の地だし構わんさ。あの者をそのまま追い出したり殺したりすれば、同じ故郷を持つ救世主様を怒りをかう。また王都に住まわせておけば、あの者が王家への悪評を流すかもしれん。辺境の土地に置いておけば、悪評も王都までは広められまい。そして、領地を与えたといえば、救世主様も納得するだろう」
「……それだけが理由ですか?」
怪しむような視線をシータは国王に向ける。
「そなたに嘘はつけんのう……実を言うと本当の理由は違う。あの者は職業が生産魔術士だとそなたは報告したな?」
「はい。私自身が調べたので間違いありません」
「生産魔術は戦に向いておる職ではないが、内政をする際は大きな力を発揮する。もしかしすると、あの者は辺境の地の田舎を化けさせるかもしれん。そうなると、我が王国にとっても大きな利となる」
プライスは決して親切で土地を与えたのではなく、打算もありで誠司を領主にしたのだった。
「しかし、陛下はあの者に領地経営をしなくても良いとおっしゃってましたよね」
「やらぬ時はその時はその時だ。別に辺境の価値の低い土地であるし、特に痛くはない。
だが、余所者の領主としていきなり置かれたあの男は、領民にどういう目で見られるだろうな。そのまま何もせずいるという選択ができるほど、図太い神経の持ち主には見えなかったぞ」
「…………陛下のおっしゃる通りですね」
「はっはっは、まあなるようになるじゃろう。せっかく面白い人材を召喚したんじゃ。有効活用せぬ手はあるまい」
プライスは上機嫌に笑った。
その時、まだプライスは知らなかった。
タールトンに封印されているもののことを。
その封印を誠司が解いて、とんでもない事態になることを――
誠司は聞き間違いかと思った。
それだけ予想外の言葉だったからだ。
「こんなことではお詫びになるか分からぬが、それ以上のお詫びは思いつかなかったのでな」
「いや、あの……領地を貰うってどこのですか? 人がいない場所とか?」
詐欺か何かだと思った誠司はそう質問した。
「そんなところは領主とは言わん。少しこの王都からは遠いが、数百人の暮らす土地をそなたには渡す。そこを治めておった領主がちょうど問題を起こし、現在は王家が直接治めておる土地だ。わしの一存で渡すことができる」
「あの……領地経営とかしろってことですか? そんな経験生まれてこの方ないんですけど……」
「大丈夫だ。村には補佐役がおるし、何なら完全に補佐役に任せても構わん。お主はどっしりと屋敷で過ごすだけでも何も問題ない」
「は、はぁ……」
あまりのことに誠司は困惑する。
(まあ、殺されたり城の外に放り出されるよりかはだいぶマシか。住めるところは確保できそうだし。領地経営なんてできるか分からないけど……でも別に領地を良くしてくれって話でもないから、任せっぱなしでもいいか)
冷静に考えれば悪い話ではないなと誠司は思った。
「不満があれば申しても良いぞ」
「あ、いえ、大丈夫です。それでいいです」
気が変わって処遇が悪化するのはまずい。
誠司はすぐにOKした。
こうして誠司は異世界の領地を貰うことになった。
○
「もうすぐ着きますよ~」
馬車の御者がそう言った。
誠司は自らが治めることになった領主に行くため、馬車に乗っていた。
地名はタールトン。
出発前に地図で場所を確認したが、辺境に土地のようだ。
王都よりだいぶ離れている。
出発して3日でようやく到着するようだ。
しばらく待つと、御者の言葉通り、タールトンに到着した。
馬車から降りる。
「ここが……俺が治める領地?」
お世辞にも発展しているとは言い難い場所だった。
建物は木造。
ボロボロで、年季が入っている。
道もまともに塗装されていない。
歩いている人たちも、あまり身なりは裕福に見えない。
「あなたが新しい領主の……セイジ様です?」
男に声をかけられた。
真面目そうな顔の男だ。年齢は20代後半くらい。
髪は黒く、顔は整っている。
「は、はい。そうです」
「お待ちしておりました。私は今まで国王陛下の命令でタールトン村の領地運営をしていた、ルックと申します。すでに書状が送られて来ておりますので、事情は知っています。ついて来てください」
ルックの案内についていく。
案内されたのは屋敷だった。
かなり年季が入っている。
だが、住めないというほどボロくはない。
「領主様のお屋敷でございます。今日からここでお過ごしください」
「案内ありがとうございます……」
「それでは、お屋敷のことは中のものに聞いてください。私はこれで」
そう言い残しルックは去ろうとする。
慌てて誠司は引き止める。
「ま、待ってください」
「何でしょうか?」
「あの、俺領主なんですが、何かやらなくていいんですか?」
領地経営は任せても良いとは、国王に言われていたが、何もせずに生活するだけなのは気が引けた。
出来ることがあればやりたいと思っていた。
「そうですね……お気持ちはありがたいですが、いきなりここに来て領地に関して意見を言うと言うのも難しいでしょうし、しばらくはこの領地で普通に生活してみてはいかがでしょうか? 何か気づいたことがあれば、随時私の方に報告していただければありがたいです」
「わ、わかりました」
「それは私はこれで」
今度こそルックは去っていった。
(うーん、ようはなるべく口は出すなってことなのか? まあ、俺は素人だしそうしたほうがいいんだろうけど)
どこか釈然としない思いを抱え、誠司は屋敷に入った。
屋敷にないには使用人が数人いた。
料理や家事などは全て使用人が担当するそうだ。誠司は特に何もしなくていいと言われた。
(至れりつくせりだな……これが領主か……でも、本当にこのままでいいのかな?)
不安と釈然としない思いを抱えた状態で、誠司のタールトンでの生活がスタートした。
○
「本当に良かったのですか? タールトンの地を与えて」
王城。
国王プライスは、家臣の魔術士シーラにそう問い詰められていた。
「辺境の地だし構わんさ。あの者をそのまま追い出したり殺したりすれば、同じ故郷を持つ救世主様を怒りをかう。また王都に住まわせておけば、あの者が王家への悪評を流すかもしれん。辺境の土地に置いておけば、悪評も王都までは広められまい。そして、領地を与えたといえば、救世主様も納得するだろう」
「……それだけが理由ですか?」
怪しむような視線をシータは国王に向ける。
「そなたに嘘はつけんのう……実を言うと本当の理由は違う。あの者は職業が生産魔術士だとそなたは報告したな?」
「はい。私自身が調べたので間違いありません」
「生産魔術は戦に向いておる職ではないが、内政をする際は大きな力を発揮する。もしかしすると、あの者は辺境の地の田舎を化けさせるかもしれん。そうなると、我が王国にとっても大きな利となる」
プライスは決して親切で土地を与えたのではなく、打算もありで誠司を領主にしたのだった。
「しかし、陛下はあの者に領地経営をしなくても良いとおっしゃってましたよね」
「やらぬ時はその時はその時だ。別に辺境の価値の低い土地であるし、特に痛くはない。
だが、余所者の領主としていきなり置かれたあの男は、領民にどういう目で見られるだろうな。そのまま何もせずいるという選択ができるほど、図太い神経の持ち主には見えなかったぞ」
「…………陛下のおっしゃる通りですね」
「はっはっは、まあなるようになるじゃろう。せっかく面白い人材を召喚したんじゃ。有効活用せぬ手はあるまい」
プライスは上機嫌に笑った。
その時、まだプライスは知らなかった。
タールトンに封印されているもののことを。
その封印を誠司が解いて、とんでもない事態になることを――
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