王子様と僕

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曙菫

12 こはくの行く先

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「どんな方ですか?御家族とかは...?」

 そう言われた時、先程見ていたの情景が目に浮かんだ。

『聞いたわよ。ご近所だもの。子供一人残して自殺なんて無責任よねぇ?』

『両親二人死んじゃって施設行きらしいわよ』

 この会話の主体がこはくなのならば、適当にそこら辺の言葉と組み合わせれば、こはくが今どうしてるのだとか、もしかしたら分かるかもしれない。

「ミヤマ じさつって探して!」

 僕はじさつがなんだか分からなかったがさっきのおばさんたちが言っていた言葉を当たり障り調べることにした。

 じさつ、は全く知らない言葉。

「どこでそんな物騒な言葉覚えたんですか!!」

 そう言って、執事さんが"ミヤマ  自殺"と入力しエンターキーを押した。

 机が高くて、あまり見えないけど、ぴょこぴょこと飛びながら画面を見る。
 何が書いてあるのかはよく分からないけれど。

 そして、その事件は新しかったからかすぐに見つかった。

 そこに書いてあったのは、

____________
児童一人を残し母親自殺。

20△×年某月某日午前六時ごろ、○○町の一軒家で母親 深山〇〇さん(32)が首吊り状態で発見された。発見当時には死後硬直が始まっており、既に父親も亡くなっている事から、深山〇〇さんの息子、児童、深山琥珀くん(8)は児童養護施設へと送られた。......
____________

「こちら...ですか.......?」

 執事さんがその記事を読んで眉を下げ、悲痛な表情を浮かべた。

「こはくの名前だ!同じだ!ねぇ!これ、なんて書いてあるの?」

 ぼくには漢字がいっぱいで読むことが出来なかった。単語単語の意味は分かっても次に知らない言葉が来たなら全く分からなくなる。

 良く、目を凝らしてみてると、漢字の中で唯一、こはくの名前だけを読み取ることが出来た。

 執事さんは何やら苦しげな、言難い表情をしながら俯きがちに答えた。

「......坊っちゃまが言っていたコハクさんのお母さんとお父さんは、もう亡くなっています。」

 

 こはくは前に、自分の両親について話してくれたことがあった。

 そのときの表情は優しく朗らかで、両親から愛されて育ったのだと見てわかった。

「お母さん、は、こわいけど....でもね、すごくやさしくて、つくってくれるご飯が、...おいしいの。お父さんは、....もう、いないけど、でも、...背が高くて、僕をたくさん、ほめてくれるの」

「ふたりとも、大好きなんだ」

 そう言って笑うこはくの表情を思い出した。

 こはくはお父さんとお母さんが大好きなのに、その大好きな人が死んじゃったの...?

「こはく今、どこにいるの!?こはくが泣いちゃう!」

 自分が両親を失ったわけじゃないのにこはくが泣いて苦しんでると思うと、胸が痛くなって涙がぽろぽろと溢れてくる。

 ぼくは執事さんに縋り付くようにして、泣きついた。

 こはくは今、ひとりぼっちだ。そんなの寂しいに決まってる。辛くて苦しくて、心にぽっかりと穴が空いたように空白になる。

 でも、ひとりぼっちだから誰も隙間を埋めてくれない。

 ぼくのことじゃないのに、涙が止まらない。空なんてことを知らずとめどなく溢れてくる。

 拭っても拭っても零れ続ける涙は執事さんの服にシミをつくった。

 前にこはくから教えてもらったこと。
 うさぎさんはひとりぼっちで寂しいと死んでしまう。

 もしかしたら、寂しくて寂しくて、こはくがうさぎさんのように死んでしまうんではないかと、心配と絶望に心が支配される。

 そんなことはないのに。

「やだ!こはくしんじゃいや!!」

 こはく死んじゃう...?もう会えない?

 まだ、さよならも言えてないのに。

「琥珀さんはまだ亡くなっておりません!茉白坊っちゃま!!」

 ぼくはこの場から駆け出した。



 いつものように裏口から出て、西日が沈む方向へとにかく走った。

 この方向にはこはくのお気に入りの公園がある。

「こはくっ...!」


 公園に着いた頃には日が地平線を超えて、空はさっきまで西日が差して暖かな橙だったのに、もう橙から紫、青色、黒色へと変化していた。

 きっとここにこはくが居たら、紅掛空色だとか、竜胆色だとか、ぼくの知らない知識をたくさん教えてくれるだろう。

 ぼくはこはくが教えてくれたこと、ちゃんと覚えてるんだよ。

 いつものようにベンチに座って、空を仰ぐ。当然、右側は空けて。

 絶対、こはくが来てくれるから。こはくの場所は空けておかなきゃ。

「こはくが来るまで、ずっと待つ。」

 口に出したら、もう後には変えられない。

 こはくは必ず来る。来てくれるから。
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