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21.夢のような
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「伝えたいことがあるんだ」
鏡花はごくりと息を呑む。目の前でぎゅっと手を握りしめる玲を見つめたまま次の言葉を待った。玲は私の手に視線を落とす。その目が捉えているのはいつか買ったペアリング。
「ずっと、着けていてくれて嬉しい」
「そう言う玲さんこそ」
「もし、新しいものを贈りたいと言ったら、嫌か?」
鏡花はふるふると首を横に振る。すると玲は嬉しそうに微笑んで、ポケットから小さなケースを取り出した。手渡されて鏡花が開けると大粒のダイヤが輝く指輪が現れる。
「俺、碧澄玲はあなたを愛しています。どうか、受け取ってほしい」
まっすぐ、貫くような青い目に鏡花の胸が高鳴り始める。
思い返せば、たしかに思い当たる節は多いように感じた。心を許していて、一緒に頑張ってきて明日からは2人で新しいスタートを切る。もし、ただの婚約者ではなく、それが『愛し合っている2人』になったら、明日からの生活はどうなってしまうのだろう。
そう迷う鏡花だったが、ダイヤの中に映り込む自分の顔を見た瞬間、はっと気付かされた。真っ赤になっている顔を見て、ようやく自分の気持ちに気付かされるなんて。鏡花はその真っ赤になった顔のまま、玲を見つめ返した。玲は小さく笑って指輪を鏡花の薬指にそっとつけた。
「すごく綺麗」
「それが似合うなんて、鏡花くらいだよ」
「もう……これ以上私の顔を赤くさせないで」
ふいっと顔を背けた後、鏡花は大きく息を吸った。それから玲を見つめて想いを口にする。
「私も、玲さんのことが好きだわ。うん、好き」
確かめるように言い、恥ずかしさでいっぱいになっていると、玲はぎゅうっと鏡花は抱きしめた。耳元で「嬉しい、俺も」なんて言うからますます赤くなってしまう。
「もう一つ、渡したいものがあるんだ」
そう言って、そばに置いてあった紙袋から玲は何かを取り出した。綺麗に包装されたそれを鏡花の前で解いていく。そうして現れたのは、宝石が散りばめられた綺麗なアクセサリーケースで。指輪をここにしまってくれ、ということなのだろうかと鏡花が一瞬首をひねれば、玲は「それもだが」と前置きした。
「これからも俺はたくさん鏡花に贈り物をするから。その度、俺との思い出が増えていってくれたら嬉しい……と思って」
「気持ち悪かっただろうか」と申し訳なさそうにする玲に鏡花は「そんなことないわ」と強く手を取った。
「ありがとう、私は幸せ者ね」
「いいや、それは俺もだ」
アクセサリーケースを抱きしめてから鏡花はふいにある場所のことが恋しくなった。玲の大好きな宝石の部屋、まるで玲に包まれているようなそんな気分になれる部屋。
「私、玲さんのコレクションルームに行きたい」
「構わないが……急にどうしたんだ?」
「……今日は一緒にいたいなって、思っただけ」
玲はそのこそばゆくなる反応に、思わず大きく頷いた。
百貨店オープンは明日。それと2人は共に一歩前進したのだった。
***
「オープンいたします!」
壁に大きく掲げられた開店の文字。賑わう人々。老若男女、身分も違う、そんな人たちが同じ空間で楽しそうに買い物をして、幸せそうに店を後にする。
「本当、夢みたいだわ。まだ信じられない」
「全部現実だよ、俺たちの目指してきたお店だろう?」
若手オーナーである2人は、店内で自ら接客を行なっている。もちろん、こうして店のイメージアップと信頼性アップを図っている。鏡花は相変わらずの敏腕っぷりだ。店の前に飾られたたくさんの花飾りには、様々な人たちからのメッセージも贈られていた。中には『成就おめでとう』など2人の恋路を祝福するものまであって。商家界隈の噂の広がりは本当に恐ろしい。
夢のようだ、と10分に一度は呟く鏡花に玲も思わず笑ってしまう。見た目は完全に敏腕経営者なのに、どうしてもその幸せそうなオーラは隠しきれていないのだから。
「私、本当に玲さんと一緒にお店が開けて嬉しいの。伝わっているかしら?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、これからもずっと2人で頑張っていきたいって思ってることも?」
少ししたり顔で言う鏡花に、玲は目を細める。
「ああ、もちろんだ。俺だってそう思ってる」
玲の返答に鏡花は微笑んだ。それから薬指につけているダイヤモンドの指輪に視線を落とす。そのまま目線は夢の結晶である店内へと移り、最後に玲を捉える。そうして思いっきり笑顔を見せる。
「一緒にこの百貨店を最高のお店にしましょ!」
利益重視の敏腕悪女と、重度の宝石オタク――そんな2人はもうすっかり互いを理解しあう、敏腕オーナーになった。今日から鏡花と玲の最高の百貨店を目指した奮闘がスタートする。
鏡花はごくりと息を呑む。目の前でぎゅっと手を握りしめる玲を見つめたまま次の言葉を待った。玲は私の手に視線を落とす。その目が捉えているのはいつか買ったペアリング。
「ずっと、着けていてくれて嬉しい」
「そう言う玲さんこそ」
「もし、新しいものを贈りたいと言ったら、嫌か?」
鏡花はふるふると首を横に振る。すると玲は嬉しそうに微笑んで、ポケットから小さなケースを取り出した。手渡されて鏡花が開けると大粒のダイヤが輝く指輪が現れる。
「俺、碧澄玲はあなたを愛しています。どうか、受け取ってほしい」
まっすぐ、貫くような青い目に鏡花の胸が高鳴り始める。
思い返せば、たしかに思い当たる節は多いように感じた。心を許していて、一緒に頑張ってきて明日からは2人で新しいスタートを切る。もし、ただの婚約者ではなく、それが『愛し合っている2人』になったら、明日からの生活はどうなってしまうのだろう。
そう迷う鏡花だったが、ダイヤの中に映り込む自分の顔を見た瞬間、はっと気付かされた。真っ赤になっている顔を見て、ようやく自分の気持ちに気付かされるなんて。鏡花はその真っ赤になった顔のまま、玲を見つめ返した。玲は小さく笑って指輪を鏡花の薬指にそっとつけた。
「すごく綺麗」
「それが似合うなんて、鏡花くらいだよ」
「もう……これ以上私の顔を赤くさせないで」
ふいっと顔を背けた後、鏡花は大きく息を吸った。それから玲を見つめて想いを口にする。
「私も、玲さんのことが好きだわ。うん、好き」
確かめるように言い、恥ずかしさでいっぱいになっていると、玲はぎゅうっと鏡花は抱きしめた。耳元で「嬉しい、俺も」なんて言うからますます赤くなってしまう。
「もう一つ、渡したいものがあるんだ」
そう言って、そばに置いてあった紙袋から玲は何かを取り出した。綺麗に包装されたそれを鏡花の前で解いていく。そうして現れたのは、宝石が散りばめられた綺麗なアクセサリーケースで。指輪をここにしまってくれ、ということなのだろうかと鏡花が一瞬首をひねれば、玲は「それもだが」と前置きした。
「これからも俺はたくさん鏡花に贈り物をするから。その度、俺との思い出が増えていってくれたら嬉しい……と思って」
「気持ち悪かっただろうか」と申し訳なさそうにする玲に鏡花は「そんなことないわ」と強く手を取った。
「ありがとう、私は幸せ者ね」
「いいや、それは俺もだ」
アクセサリーケースを抱きしめてから鏡花はふいにある場所のことが恋しくなった。玲の大好きな宝石の部屋、まるで玲に包まれているようなそんな気分になれる部屋。
「私、玲さんのコレクションルームに行きたい」
「構わないが……急にどうしたんだ?」
「……今日は一緒にいたいなって、思っただけ」
玲はそのこそばゆくなる反応に、思わず大きく頷いた。
百貨店オープンは明日。それと2人は共に一歩前進したのだった。
***
「オープンいたします!」
壁に大きく掲げられた開店の文字。賑わう人々。老若男女、身分も違う、そんな人たちが同じ空間で楽しそうに買い物をして、幸せそうに店を後にする。
「本当、夢みたいだわ。まだ信じられない」
「全部現実だよ、俺たちの目指してきたお店だろう?」
若手オーナーである2人は、店内で自ら接客を行なっている。もちろん、こうして店のイメージアップと信頼性アップを図っている。鏡花は相変わらずの敏腕っぷりだ。店の前に飾られたたくさんの花飾りには、様々な人たちからのメッセージも贈られていた。中には『成就おめでとう』など2人の恋路を祝福するものまであって。商家界隈の噂の広がりは本当に恐ろしい。
夢のようだ、と10分に一度は呟く鏡花に玲も思わず笑ってしまう。見た目は完全に敏腕経営者なのに、どうしてもその幸せそうなオーラは隠しきれていないのだから。
「私、本当に玲さんと一緒にお店が開けて嬉しいの。伝わっているかしら?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、これからもずっと2人で頑張っていきたいって思ってることも?」
少ししたり顔で言う鏡花に、玲は目を細める。
「ああ、もちろんだ。俺だってそう思ってる」
玲の返答に鏡花は微笑んだ。それから薬指につけているダイヤモンドの指輪に視線を落とす。そのまま目線は夢の結晶である店内へと移り、最後に玲を捉える。そうして思いっきり笑顔を見せる。
「一緒にこの百貨店を最高のお店にしましょ!」
利益重視の敏腕悪女と、重度の宝石オタク――そんな2人はもうすっかり互いを理解しあう、敏腕オーナーになった。今日から鏡花と玲の最高の百貨店を目指した奮闘がスタートする。
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