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20.明日に向けて
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半年がすぎ、いよいよ百貨店オープンが間近に迫っていた。ひとまず仕事がひと段落した鏡花と玲は2人でお茶の時間だ。
「明日いよいよオープン、なんだな」
「ええ。それにしても、この半年本当に色んなことがあったわよね」
鏡花はしみじみと百貨店オープンに向けた準備の数々を思い返す。
まずは白羽家はもちろん、花山院家などの有数商家に声をかけまくった。鏡花がセンスのいい商品しか選ばないという噂が流れたからか、ちょっぴり小競り合いみたいなものが起こったりもしたけれど。だけど贔屓なし、純粋に良い商品を選んだつもりだ。それに鏡花くらいの世代が気兼ねなく入れるように店舗の色調や雰囲気、それからすっごい頑張って値も抑えてある。これは鏡花の会話術のなせる技だ。少し戦闘モードも使った。
「玲さんが良い宝石やアクセサリーショップを参入してくれたのも本当に助かったわ」
「ああ、俺がこの目で選び抜いた上質なものばかりだ」
玲は宝石の話になると相変わらず得意げになる。鏡花はそんなところも今では面白いと思えてしまう。
もちろん宝石を選び抜く審美眼は本物だ。柳浪やジョニーも大いに手伝ってくれた。柳浪が見つけて玲が選ぶ。そしてジョニーが作る。
「3人って本当いいチームよね」
「? ああ、そうだな」
玲は少しだけ含んだ笑みを浮かべた。鏡花は褒められて嬉しいのね、と勘違いしたまま話を移す。
優雅とはあれからたまに会うといくらか話せるようになった。玲はその度少し不機嫌そうにするけれど、どうやらどちらの意も汲んでくれてはいるようだった。冗談を言い合えるくらいの仲になった、とまだ徹底して敏腕悪女だったころの自分に教えてあげたい。
「葵の和菓子屋も楽しみだな」
「ふふ、玲さんったらすっかり葵の和菓子のファンだものね」
「あそこの上生菓子が1番美味しい」
そういう今も葵の作った和菓子を頬張っている。ちなみに玲と葵もいい友達だ。
「オスカーにも店内の飾りを手伝ってもらえてよかったわ。彼とのコラボ商品も作れて大満足よ」
オスカーが外国商家の御曹司だったと知った後、オスカーに会う機会があった。ダンディな父親と並びスーツに身を包んではいたが、ワンコのような人懐っこさは変わっていなかった。オスカーは日本でも海外でも彫刻家として活躍している。それを開花させてくれたのは鏡花のおかげだとか言って盛大にお礼をされてしまった。そしてつくづく兄は恐ろしい策士だと思うのだった。
「それに、天皇皇后両陛下にも2人で謁見する機会もあったな」
「あれはもう、寿命が縮みそうだったわ」
「その割には嬉々としていたように見えたが?」
「ま、まあね? 商人名利に尽きるわ」
髪飾りのお礼という名目で始まったその謁見……という名のお喋り会は楽しくもあったが同時に緊張した。それにあの輝かんばかりの美形夫婦を長時間見続けるのは目が幸せすぎた。
『これからも応援しています』なんて言われてしまって。つまりこの百貨店は花山院家のいう通り皇室ご用達になる、ということだ。
「まあ、今でも1番驚きなのは、あのお父さまがすぐに認めてくださったことよねぇ。本当、お兄さまの交渉術、恐ろしすぎるわ」
「ああ、そうだな」
「そういえば、玲さんもあの後お父さまと話していたわよね? 私、ずっと何を話していたのか気になっていたのよ」
鏡花がそう尋ねれば、玲は少しだけ黙り込んで。
「今から、俺が何を話していたのか分かると思う」
玲は少し笑って鏡花の手をとった。その手はよく見れば少し震えているし、顔だって緊張を隠しきれない。それでもその落ち着く、優しい雰囲気に鏡花も自然と玲の手を握り返す。すると、玲は少しだけ安心したように微笑んで。
「伝えたいことがあるんだ」
「明日いよいよオープン、なんだな」
「ええ。それにしても、この半年本当に色んなことがあったわよね」
鏡花はしみじみと百貨店オープンに向けた準備の数々を思い返す。
まずは白羽家はもちろん、花山院家などの有数商家に声をかけまくった。鏡花がセンスのいい商品しか選ばないという噂が流れたからか、ちょっぴり小競り合いみたいなものが起こったりもしたけれど。だけど贔屓なし、純粋に良い商品を選んだつもりだ。それに鏡花くらいの世代が気兼ねなく入れるように店舗の色調や雰囲気、それからすっごい頑張って値も抑えてある。これは鏡花の会話術のなせる技だ。少し戦闘モードも使った。
「玲さんが良い宝石やアクセサリーショップを参入してくれたのも本当に助かったわ」
「ああ、俺がこの目で選び抜いた上質なものばかりだ」
玲は宝石の話になると相変わらず得意げになる。鏡花はそんなところも今では面白いと思えてしまう。
もちろん宝石を選び抜く審美眼は本物だ。柳浪やジョニーも大いに手伝ってくれた。柳浪が見つけて玲が選ぶ。そしてジョニーが作る。
「3人って本当いいチームよね」
「? ああ、そうだな」
玲は少しだけ含んだ笑みを浮かべた。鏡花は褒められて嬉しいのね、と勘違いしたまま話を移す。
優雅とはあれからたまに会うといくらか話せるようになった。玲はその度少し不機嫌そうにするけれど、どうやらどちらの意も汲んでくれてはいるようだった。冗談を言い合えるくらいの仲になった、とまだ徹底して敏腕悪女だったころの自分に教えてあげたい。
「葵の和菓子屋も楽しみだな」
「ふふ、玲さんったらすっかり葵の和菓子のファンだものね」
「あそこの上生菓子が1番美味しい」
そういう今も葵の作った和菓子を頬張っている。ちなみに玲と葵もいい友達だ。
「オスカーにも店内の飾りを手伝ってもらえてよかったわ。彼とのコラボ商品も作れて大満足よ」
オスカーが外国商家の御曹司だったと知った後、オスカーに会う機会があった。ダンディな父親と並びスーツに身を包んではいたが、ワンコのような人懐っこさは変わっていなかった。オスカーは日本でも海外でも彫刻家として活躍している。それを開花させてくれたのは鏡花のおかげだとか言って盛大にお礼をされてしまった。そしてつくづく兄は恐ろしい策士だと思うのだった。
「それに、天皇皇后両陛下にも2人で謁見する機会もあったな」
「あれはもう、寿命が縮みそうだったわ」
「その割には嬉々としていたように見えたが?」
「ま、まあね? 商人名利に尽きるわ」
髪飾りのお礼という名目で始まったその謁見……という名のお喋り会は楽しくもあったが同時に緊張した。それにあの輝かんばかりの美形夫婦を長時間見続けるのは目が幸せすぎた。
『これからも応援しています』なんて言われてしまって。つまりこの百貨店は花山院家のいう通り皇室ご用達になる、ということだ。
「まあ、今でも1番驚きなのは、あのお父さまがすぐに認めてくださったことよねぇ。本当、お兄さまの交渉術、恐ろしすぎるわ」
「ああ、そうだな」
「そういえば、玲さんもあの後お父さまと話していたわよね? 私、ずっと何を話していたのか気になっていたのよ」
鏡花がそう尋ねれば、玲は少しだけ黙り込んで。
「今から、俺が何を話していたのか分かると思う」
玲は少し笑って鏡花の手をとった。その手はよく見れば少し震えているし、顔だって緊張を隠しきれない。それでもその落ち着く、優しい雰囲気に鏡花も自然と玲の手を握り返す。すると、玲は少しだけ安心したように微笑んで。
「伝えたいことがあるんだ」
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