執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海

文字の大きさ
上 下
57 / 66
第10章 花の祝祭

4. ヒロイン返上

しおりを挟む
「え、えっとつまり、ケイト様のひいおじいさまがロストの根源で、ケイト様はそれをずっと守ってきたご長寿さんで、わたしは今からそれを浄化しに行く……であってます?」
「正解ー」

 わたしとケイトは、グリンデルバルド家にいる。一応、とケイトがお茶を準備してくれたはいるが先ほどの話がお茶を飲むどころの話ではなかったのでほぼ手付かずだ。やはり、わたしの読み通り、ケイトはキーパーソンだったみたいだ。それも年が分からないとんだご長寿という追加属性まで備えて。顔や歳はどうやって誤魔化して学園に入ったのか聞くのは野暮な気もする。けれど、ケイトが悪いひとではなかったことに安心した。ラスボスだったら倒すつもりではいたけれど、少し情が出てしまいそうだったから。
 ちらりと窓の外を見る。といっても、窓から見えるのは森だけだ。ケイトは一体どれだけの年月をこの暗い場所で過ごしてきたのだろう。ずっと1人で、ロストになった曽祖父を眺めながら……

「そんな顔しないでよ、もう慣れたよ」
「……考えてること見透かさないでください」

 ケイトは困ったように笑う。わたしはなんとなく目を合わせづらくて俯き「慣れちゃいけないんですよ、そういうのは」と小さく漏らした。ケイトがどんな顔をして反応したかは分からないけれど、わたしは勢いよく立ち上がった。

「よし、早速その洞窟へ案内してください! 『本物の花の乙女』として責務を全うして見せましょう!」


 家の脇に突然にその洞窟は現れた。洞窟、といっても水滴がポタポタ落ちているようなものではなくていくらか整備されている。きっと長年ここで魔術の研究が行われていたのだろう。ケイトの後についていくと、少しして目的の場所に到着したようだった。睨むように見るケイトの目線を追うといくらか人の形を保ったロスト――ケイトの曽祖父の姿がそこにはあった。
 彼はわたしを見るや否や飛びかかる勢いでこちらに突進する――けれど結界の作用が働いてわたしの目の前で彼は跳ね返された。それと同時に目の前の透明な壁に亀裂が入った。

「この通り、もう限界なんだ。きっともうそろそろ破れる」

 それもこれも一度緩めた俺のせいだ、とケイトは自分を責める。長年この切迫感と、花の乙女への嫌悪が募ればきっと、誰だって嫌になる。わたしは「そんなふうに言わないでください」とケイトを宥めてまたケイトの曽祖父に向き直った。

「やってみます、ひいおじいさまを必ず助けてみせます」

 きっと祈れば彼は消えてしまうだろう……けれど浄化という言葉はなんだか本人の前で使うには失礼だと思った。それにケイトにとっても。嫌いとはいえど家族なのだから。
 わたしは祈る体制に入った。先ほどよりは自然に、両膝が地面についた。ドレスの汚れも気にならない。正直、これで合っているかは分からないし、「神様お願いします!」の要領で手を組んでいるだけだけれど。わたしにはなんの力もない。シナリオの力で今まで花の乙女をやってこれただけだ。
 これでロストがこの世界からいなくなるなら、この国の人々が苦しまなくてよくなるなら、ケイトたちグリンデルバルド家の人々はもちろんわたしも、みんなも幸せな日々を送っていけるなら。柄にもなく、そんなヒロインめいたことを心の中で言い続けた。
 パリンパリン、と封印が解けていく音がした。いくつかわたしの頬や手をかすめていく。
 まぶたの裏まで眩しい。目の前は一体どうなってしまっているんだろう。

 けれど最後まで目を開けなかった。きつくきつく、閉じたまま。



「……ふぁああ」

 大きく伸びをして上半身を起こした。なんだか身体が変な気分だ。
 花の乙女になってからはずっと変な(なんていっていいか分からないし言葉にするほどの違いもないけれど)感覚があったというのに。

「はっ、そういえばひいおじいさまは!?」
「あ、起きたんだね! よかった!」

 パタパタとケイトが駆け寄ってきた。どうやらケイトの家のソファで眠ってしまったらしかった。
 ケイトによれば、あのあと無事封印が解けて、ひいおじいさまは消えていってしまったらしい。それと同時にケイトは今まで感じていたロストの気配を感じなくなったとのことだ。わたしはたぶん耐えかねて気絶したらしかった。

「まあ、今日一日祈ってばかりでしたし、意外と体力も魔力も使っていたんでしょうか……」

 そう言って手をぐーぱー、と筋肉をほぐしてみる。そこであれ、と首を傾げた。違和感の正体を突き止めようと杖を取り出して、試しに小さく火を出してみる――けれど出ない。マッチレベルのか細い火すら出ない。魔力を使い果たした? いや、この感じは――

「わたし、魔力を失ってる……?」
「え」
「何も感じないんです、いつもだったら炎とかつるとかなんでも出せるのに」

 動転して捲し立ててしまう。今までずっと訓練してきたのに。ケイトはふむ、と考えるようにわたしを見て、

「もしかしたら、曽祖父が居なくなってロストが世界から消えたから……もう、花の乙女は必要ない。だから……花の乙女じゃなくなって魔力もなくなった?」

 と呟いた。それってつまり。わたしはあることに思い当たった。
 花の乙女じゃない。きっとわたしはシナリオを超えたんだ。だって、この国で逆ハーが成り立つのは花の乙女がそれを許されているから。だから、この乙女ゲームはきっとロストをきっちり倒すエンディングはおそらく存在しない。それか、いいとこノーマルエンド、誰ともくっつかない乙女ゲーム的にはアンハッピーなエンディングだ。

 つまり、わたしはもう、シナリオに縛られるヒロインじゃない。
 花の乙女でも、ヒロインでもない、魔力も失ったただの伯爵令嬢ローズ・アメリアになったんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。 「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」 黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。 「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」 大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。 ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。 メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。 唯一生き残る方法はただ一つ。 二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。 ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!? ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー! ※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

フィジカル系令嬢が幸せを掴むまで~助けた年下王子からの溺愛~

ナカジマ
恋愛
【完結済み】 レアル王国オーレルム辺境伯領、そこは魔物が生息する大森林を監視し魔物から王国を守る要所である。そこで生活している辺境伯家の令嬢エストリアは、ちょっとだけ、他の人より少し、フィジカルに頼って生きて来た女性だ。武の名門であるオーレルム家では、力こそ全てであり民を守ってこそ貴族だと考えられて来た。それ故に致し方ない部分はあれど、他のご令嬢に比べれば随分と勇ましく逞しい所がある。そんなエストリアが趣味の遠乗りに出掛けた先で、怪しい者達に襲われている馬車を見つける。正義感が強いエストリアは当然加勢するが、なんとその馬車に乗っていたのは庇護を求めてオーレルム領にやって来た王国の第3王子。助けに入った事で知り合いになった王子と一緒に生活する事になり、気がつけば婚約を申し込まれてしまった。ちょっと(?)脳筋なご令嬢エストリアは、立派なお嫁さんになれるのか!?

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

処理中です...