45 / 66
第8章 深紅の花嫁
4. 謎めく狼男
しおりを挟む
「……割と渾身の力で脅かしたつもりだったんだけどなあ」
と、目の前でケイトはしょぼくれた。というのも、数分前、彼は突然唸り声を上げて茂みの中から襲い掛かってきたのだ。唸り声だなんてサバイバルゲームっぽいなあ、とわくわくしたのに襲ってきたのがケイトだったからこの通りノーリアクションなのである。たしかに本来のハロウィンは脅し脅かされの、トリックオアトリートなのだから、彼は正しいかもしれないが。
「そんなことよりも、その耳と尻尾はご自分で?」
「ん? ああ、これは魔法でちょちょいっとね。似合うでしょー」
それも上級魔法じゃない。わたしはその疑問は今に始まったことではないと言葉を飲み込む。ケイトは狼男の仮装をしているようだった。彼と同じ髪色の亜麻色のお耳と尻尾が大変可愛らしい。目つきも若干鋭く、牙も生えていて彼の魔法性能の高さが窺える。獣人、魚人、種族を変える魔法はこの学園で習える代物ではないと聞いていたのだけれど。彼は一体何者なのだろうか。
「さて、さっさとやっちゃいましょう。わたし、あと3人も回らなくちゃいけなくて忙しいんですから」
「ねえ、なんか俺の扱い雑になってない?」
「誘拐やたくさんのちょっかいをこの前の謝罪だけで許しているんですから、これでも十分優しいと思います」
「言うねえ」
ケイトはにやにやと楽しそうだ。やっぱり彼は掴めないし、してやられている気持ちになって悔しい。ジト目でケイトを見ると彼は喉をわざとらしく鳴らした。
「わおーん、がうがう、わおっあおーん!」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「え? 今やってる最中なんだけど」
中断しないでよ、とふてくされる。いや、動物言語じゃ何も分からないんですが。
「えっと、何て言ってるんですか?」
「愛してます結婚してください、かな」
「それなら5点ですね」
なんだか嘘くさすぎる。セリフに狼男らしさもないし、全体的におふざけ感が漂いすぎている。
「でもさ、実際の狼男だって人語を介していたわけではないでしょ? だから俺も忠実にやってるだけなんだけどー」
「それならブラッディ・ブライドにだって伝わらなかったのでは?」
ケイトは面倒そうに「そこは愛の力とかで?」と言った。やっぱり動物言語に深い意味はなさそうだ。
「何を言っているか分からないからこそ面白いのかもしれないよ。狼男はもしかしたら今のローズちゃんみたいに食いつくのを待っていたかもしれないじゃん」
真面目な顔で言われると説得力がある。つまり彼は、わたしが「何て言ってるの」と尋ねるのを前提にあの話し方をした、ということなのだろうか。
「例えばさ、直球で好きだと言っても興味のない人からしたら全然効力なんかないでしょ? だから意識させるために違う言葉で、予想外のやり方で、相手に気づかれないようにじわじわその気にさせていくんだよ。そうしたらいつのまにか意中の相手は手の内にってね!」
「な、なるほど」
「はは、他人事じゃないのにね」
恋愛は難しい、ということだけはよく分かった気がする。ケイトは生ぬるい、変な顔でわたしを見るから、居た堪れなくなってスタンプカードを手渡した。
「恋愛の奥深さ? を教えてもらったので6点にしておきます」
「わーい、ラッキー」
ケイトはケイトウルフのデフォルメスタンプを押す。もはやただのワンちゃんだった。
さて、今度こそ本当におにいさまを探さなくては。そう思った矢先、突然悲鳴がした。
「ロストが出た!! 誰か、花の乙女を!!」
「ああ、アメリア様こちらにいらしてください!」
わたしを呼びにきたらしい生徒たちが急かすように叫ぶ。それなら強いケイトも、とわたしはケイトに振り返るけれど焦っている生徒たちに腕を引かれてしまった。生徒たちに引っ張られる最中にどうしても気にかかって振り返ったけれど、もう彼の姿はどこにもなかった。
「やっぱりね」そう、呟いていた気がしたのに。
と、目の前でケイトはしょぼくれた。というのも、数分前、彼は突然唸り声を上げて茂みの中から襲い掛かってきたのだ。唸り声だなんてサバイバルゲームっぽいなあ、とわくわくしたのに襲ってきたのがケイトだったからこの通りノーリアクションなのである。たしかに本来のハロウィンは脅し脅かされの、トリックオアトリートなのだから、彼は正しいかもしれないが。
「そんなことよりも、その耳と尻尾はご自分で?」
「ん? ああ、これは魔法でちょちょいっとね。似合うでしょー」
それも上級魔法じゃない。わたしはその疑問は今に始まったことではないと言葉を飲み込む。ケイトは狼男の仮装をしているようだった。彼と同じ髪色の亜麻色のお耳と尻尾が大変可愛らしい。目つきも若干鋭く、牙も生えていて彼の魔法性能の高さが窺える。獣人、魚人、種族を変える魔法はこの学園で習える代物ではないと聞いていたのだけれど。彼は一体何者なのだろうか。
「さて、さっさとやっちゃいましょう。わたし、あと3人も回らなくちゃいけなくて忙しいんですから」
「ねえ、なんか俺の扱い雑になってない?」
「誘拐やたくさんのちょっかいをこの前の謝罪だけで許しているんですから、これでも十分優しいと思います」
「言うねえ」
ケイトはにやにやと楽しそうだ。やっぱり彼は掴めないし、してやられている気持ちになって悔しい。ジト目でケイトを見ると彼は喉をわざとらしく鳴らした。
「わおーん、がうがう、わおっあおーん!」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「え? 今やってる最中なんだけど」
中断しないでよ、とふてくされる。いや、動物言語じゃ何も分からないんですが。
「えっと、何て言ってるんですか?」
「愛してます結婚してください、かな」
「それなら5点ですね」
なんだか嘘くさすぎる。セリフに狼男らしさもないし、全体的におふざけ感が漂いすぎている。
「でもさ、実際の狼男だって人語を介していたわけではないでしょ? だから俺も忠実にやってるだけなんだけどー」
「それならブラッディ・ブライドにだって伝わらなかったのでは?」
ケイトは面倒そうに「そこは愛の力とかで?」と言った。やっぱり動物言語に深い意味はなさそうだ。
「何を言っているか分からないからこそ面白いのかもしれないよ。狼男はもしかしたら今のローズちゃんみたいに食いつくのを待っていたかもしれないじゃん」
真面目な顔で言われると説得力がある。つまり彼は、わたしが「何て言ってるの」と尋ねるのを前提にあの話し方をした、ということなのだろうか。
「例えばさ、直球で好きだと言っても興味のない人からしたら全然効力なんかないでしょ? だから意識させるために違う言葉で、予想外のやり方で、相手に気づかれないようにじわじわその気にさせていくんだよ。そうしたらいつのまにか意中の相手は手の内にってね!」
「な、なるほど」
「はは、他人事じゃないのにね」
恋愛は難しい、ということだけはよく分かった気がする。ケイトは生ぬるい、変な顔でわたしを見るから、居た堪れなくなってスタンプカードを手渡した。
「恋愛の奥深さ? を教えてもらったので6点にしておきます」
「わーい、ラッキー」
ケイトはケイトウルフのデフォルメスタンプを押す。もはやただのワンちゃんだった。
さて、今度こそ本当におにいさまを探さなくては。そう思った矢先、突然悲鳴がした。
「ロストが出た!! 誰か、花の乙女を!!」
「ああ、アメリア様こちらにいらしてください!」
わたしを呼びにきたらしい生徒たちが急かすように叫ぶ。それなら強いケイトも、とわたしはケイトに振り返るけれど焦っている生徒たちに腕を引かれてしまった。生徒たちに引っ張られる最中にどうしても気にかかって振り返ったけれど、もう彼の姿はどこにもなかった。
「やっぱりね」そう、呟いていた気がしたのに。
4
お気に入りに追加
504
あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる