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第8章 深紅の花嫁
3. 吸血鬼の迷い
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次の相手を探そうと辺りを見回していると、視界に女子生徒の大群が飛び込んできた。女子は男子から話しかけられるのを待つことしかできないため、その人物を取り囲んでそわそわしている。あの先にいるのは攻略対象に違いない。よし、手っ取り早く声をかけてもらおう。わたしは強いヒロインが通りますよ、と心の中で声をかけつつさりげなく近づいた。
後ろ姿はマントだ。大きな襟が立っていて誰かよくわからない。回り込んでみると、マントの人物とバッチリ目があった。
「会えて嬉しいです」
「どうも……ごきげんよう」
一瞬たじろいだのは、レイがヴァンパイアの衣装を着ていたからだ。口周りにメイクだと思うが、血がついていてひやりとした。本当に吸っていそうだし、吸われそうだし。けれど、ブロンドヘアにヴァンパイアの衣装はよく映える。飾りも瞳の色に合わせて緑っぽく統一されていて、ヴァンパイア界のファッションリーダーになれそうだ。ジルデビルもよかったけれど、レイヴァンパイア略してレイヴァンもとっても良い。この乙女ゲーム、衣装に凝っていて製作者さんと気が合いそうだ。
「もう誰かと会ってきたんですか?」
「あ、はい。さっきジル様と」
「……そうですか」
じゃあ2人目ってことですね、とレイは笑った。少し不満気なのが気になるところではあるが、それはもう気にしないことにした。
「さて、ではいきますよ。ブラッディ・ブライドさん」
そう声をかけられて、思わずはい、と力んだ。周りの女子生徒も疎ましがったり、ドキドキしていたりと様々だ。
さて、作中屈指のヤンデレと称されているレイは一体何をしでかす――?
万全の覚悟で待っていると、突然腕を引っ張られ人混みを駆け抜けていく。そのまま人気のない建物の裏までやってきた。人気のない、ヤンデレ、監禁、色んな言葉が浮かび上がってきて青ざめる。まずい、逃げた方がいいかもしれない。そうこうしているうちに、レイはわたしの髪の毛に触れ、首筋を触り始めた。噛まれてしまう。これは、噛まれる。レイの顔が首筋に埋まる。そこでわたしはやっと「や、やめてください」と声を出すことができた。
「……しませんよ。大切な女性を傷つけるわけにはいきませんから」
レイは顔を上げると、わたしを見つめて微笑んだ。一瞬どきりとしたけれど、すぐにヴァンパイアの口説きセリフだと気がつく。
「10点、と言いたいですが9点にしておきますね」
「……残念ですね。何がいけなかったか教えて欲しいです」
「それは内緒で」
噛まれると思って怖かったから、とは言わない。これでも強ヒロインでやっているつもりなのだから弱みを見せたくはないという意地である。
「惜しいことをしたかもしれませんね」
「何がです?」
「ふふ、内緒にしておきます」
レイはくすくすと笑った。目の前で笑うレイはなんだか普通の男の子、という感じで姉の情報があっていたのかわからなくなってくる。なんだか前世の姉のせいですっかりヤンデレ監禁キャラだと思い込んでしまっているけれど、実際はあまりひどくないような気がする。てっきりお兄さんとの確執を取り除くというヒロイン行動をとってしまったから執着されると思っていたけれど、とわたしは首を傾げた。
「これから他のファントムの元へ向かうのですよね」
レイはデフォルメされたレイヴァンスタンプを押しつつ、名残惜しそうに言った。あと4人もこの心臓に悪いイベントをするのかと思うとなんだか胃が痛くなってくる。ハロウィン衣装を見るために頑張るけれど。レイは「気をつけてくださいね」と助言した。少しだけブーメランな気がしたけれど、それはそれで事実なので素直に頷いた。
「ああ、それから、お手紙読んでいただけると嬉しいです」
「えっ……わ、わかりました」
わたしはレイに会釈をし背を向ける。
おにいさま、まさか王族からの手紙も燃やしちゃったりなんてしてないよね……頭をぶんぶんと横に振る。さすがの兄もそれはないだろう、とは思うけれど2人目の被害者が出ている以上聞いてみた方がいいかもしれない。わたしはとりあえず兄を探そうと辺りを見回し始めたのだった。
後ろ姿はマントだ。大きな襟が立っていて誰かよくわからない。回り込んでみると、マントの人物とバッチリ目があった。
「会えて嬉しいです」
「どうも……ごきげんよう」
一瞬たじろいだのは、レイがヴァンパイアの衣装を着ていたからだ。口周りにメイクだと思うが、血がついていてひやりとした。本当に吸っていそうだし、吸われそうだし。けれど、ブロンドヘアにヴァンパイアの衣装はよく映える。飾りも瞳の色に合わせて緑っぽく統一されていて、ヴァンパイア界のファッションリーダーになれそうだ。ジルデビルもよかったけれど、レイヴァンパイア略してレイヴァンもとっても良い。この乙女ゲーム、衣装に凝っていて製作者さんと気が合いそうだ。
「もう誰かと会ってきたんですか?」
「あ、はい。さっきジル様と」
「……そうですか」
じゃあ2人目ってことですね、とレイは笑った。少し不満気なのが気になるところではあるが、それはもう気にしないことにした。
「さて、ではいきますよ。ブラッディ・ブライドさん」
そう声をかけられて、思わずはい、と力んだ。周りの女子生徒も疎ましがったり、ドキドキしていたりと様々だ。
さて、作中屈指のヤンデレと称されているレイは一体何をしでかす――?
万全の覚悟で待っていると、突然腕を引っ張られ人混みを駆け抜けていく。そのまま人気のない建物の裏までやってきた。人気のない、ヤンデレ、監禁、色んな言葉が浮かび上がってきて青ざめる。まずい、逃げた方がいいかもしれない。そうこうしているうちに、レイはわたしの髪の毛に触れ、首筋を触り始めた。噛まれてしまう。これは、噛まれる。レイの顔が首筋に埋まる。そこでわたしはやっと「や、やめてください」と声を出すことができた。
「……しませんよ。大切な女性を傷つけるわけにはいきませんから」
レイは顔を上げると、わたしを見つめて微笑んだ。一瞬どきりとしたけれど、すぐにヴァンパイアの口説きセリフだと気がつく。
「10点、と言いたいですが9点にしておきますね」
「……残念ですね。何がいけなかったか教えて欲しいです」
「それは内緒で」
噛まれると思って怖かったから、とは言わない。これでも強ヒロインでやっているつもりなのだから弱みを見せたくはないという意地である。
「惜しいことをしたかもしれませんね」
「何がです?」
「ふふ、内緒にしておきます」
レイはくすくすと笑った。目の前で笑うレイはなんだか普通の男の子、という感じで姉の情報があっていたのかわからなくなってくる。なんだか前世の姉のせいですっかりヤンデレ監禁キャラだと思い込んでしまっているけれど、実際はあまりひどくないような気がする。てっきりお兄さんとの確執を取り除くというヒロイン行動をとってしまったから執着されると思っていたけれど、とわたしは首を傾げた。
「これから他のファントムの元へ向かうのですよね」
レイはデフォルメされたレイヴァンスタンプを押しつつ、名残惜しそうに言った。あと4人もこの心臓に悪いイベントをするのかと思うとなんだか胃が痛くなってくる。ハロウィン衣装を見るために頑張るけれど。レイは「気をつけてくださいね」と助言した。少しだけブーメランな気がしたけれど、それはそれで事実なので素直に頷いた。
「ああ、それから、お手紙読んでいただけると嬉しいです」
「えっ……わ、わかりました」
わたしはレイに会釈をし背を向ける。
おにいさま、まさか王族からの手紙も燃やしちゃったりなんてしてないよね……頭をぶんぶんと横に振る。さすがの兄もそれはないだろう、とは思うけれど2人目の被害者が出ている以上聞いてみた方がいいかもしれない。わたしはとりあえず兄を探そうと辺りを見回し始めたのだった。
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