執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海

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第8章 深紅の花嫁

2.悪魔の囁き

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 まだ攻略対象いたのか……いや、でもきちんと攻略対象の人数が知れたと思えば、良いことではないか。100人とかいなくて本当、よかった。
 学園内はなんだかハロウィンとは思えないほど甘いムードが漂っている。あちらこちらで照れくさそうにする男女が目に入る。この学園の女子生徒たちもきちんと恋愛をしているみたいで少し安心した。それから、どうやらこのイベントは女子側、つまりブラッディ・ブライドが話しかけられるのを待つらしいのだが、なぜか全然話しかけてきてくれない。話しかけにくいのかと近寄ってみたけれど、みんな『俺は無罪です!!』と謝り倒しながら凄い勢いでいなくなっていってしまう。何に罪意識を感じているのか知らないが、やっぱり攻略対象以外とはだめなのだろう。

 ……というわけで、早々に諦めたわたしは今知り合いを探しているわけで。

 この合コンみたいなムードの中避けられ続けているのがそろそろ辛くなってきた、というのもなくはないけれど。
 今回は純粋に美形の仮装を拝みたいがゆえに積極的なのだ。前世ゲーマーのわたしとしては、コスチュームには目がないわけで。特にこういうイベント事のときの限定コスチュームを集めるのが大好きだった。正直言えば、わたしも花嫁ではなくファントムの仮装がしたかったくらいだ。ため息を吐きながら、重たいドレスをたくし上げながら歩いていると。

「お嬢さん、なんだか浮かない顔だな」

 と、頭上から声がした。顔を上げると、木の上でジルがにまにまと笑っている。ぴょいっと飛び降りてきて華麗に着地。ようやく仮装の全貌が明らかになって、わたしは一瞬興奮で鼻血を出しかけた。

「……俺がお前の不安や嫌なこと全部丸ごと奪ってやるよ」
「デ、デビルさんですね……!?」

 怪しく光るオレンジの瞳を黒のメイクが引き立てている。黒い光沢のある巻き角に、黒い羽。おまけにシックすぎるベルベットのスーツ。はわわ、と悶えるわたしにジルは少し拍子抜けしたように笑う。

「好みだったのかよ?」
「は、はい。ジル様デビル似合いますね……!?」
「そ、よかったわ。まあ、俺悪魔みたいなもんだし……似合って当然だろうな」

 黒髪が悪魔っぽい、ということだろうか。ジルは含み笑いをして「ルールはきちんと聞いてるんだよな?」と確認する。わたしはこくりと頷いた。親交を深めてスタンプをもらう。もちろん、ただの親交ではないけれども。ジルは満足げに笑って、切り替えるように咳を一つした。
 途端に、表情は一変し見透かすような視線を向けられる。

「なあ、ブラッディ・ブライド。他の男なんて忘れて、全部捨てて俺のものになれよ」

 わたしはぷるぷると震え、ぐっと「満点ですね! デビルっぽくて最高です!」と叫んだ。ジルは「そういうのじゃないんだよなあ」と呆れ気味に笑う。

「あれ、でも上手に口説けたファントムに点数をあげるシステムですよね? 10点満点でいいですよ?」

 点数を競って人気ファントムを決める……そう聞いていたので満点だと言ったのだけど。ジルはそんなに嬉しそうではなかった。

「ま、いいけど。はい、じゃあスタンプ」
「わあ、ありがとうございます……ってすんごい可愛いんですね」

 スタンプカードにはデフォルメされて可愛らしくなったデビルジルが押されていた。これはなんとも収集欲が湧く。満足してでは、と頭を下げると、なぜか突然後ろから抱きしめられた。それから耳元で囁く。

「なあ、お前なんで俺の婚約話ずっと返さねーの?」
「え? 婚約?」

 耳がゾワゾワする。というか婚約話なんて初耳なのだが。反射的に振り返りかけたけれど、ジルと顔がぶつかってしまうと気がついてこの不思議な体勢のまま会話をすることにした。

「えっと、そんなの初めて聞きました……お手紙か何かで?」
「……あー、なるほどな。うん、了解」

 怠そうな声でそう言うとジルはパッと両腕を離す。

「ずっと婚約者候補ではあっただろ? 俺もそろそろ爵位継承の準備に入りたいしな。お前だったら手っ取り早くていいかなって」

 ジルはへらりと笑って見せた。前々から体裁気にするマンではあったけれど、とうとう本気で来たか。それにしてもそんな大事そうな手紙、見ていたら覚えているはずだけど。一瞬、兄が暖炉で手紙を燃やしていたのを思い出した。まさか……いや、さすがに違うだろう。

「今度俺が直接、伝えに行くから」
「え、ちょっとまっ……」

 呼びかけたものの、ジルはふわりと浮遊してどこかへ行ってしまった。その魔法どうやるの……じゃなくて。
 だいぶ面倒なことになってしまった。貴族としてさらに花の乙女である以上婚約は逃れられないとは思っていたけれど。でもジルと婚約なんてしたら一気にシナリオがジル方向へいってしまうのでは。せめてヒロインの役目が終わるまでどうにかかわせないだろうか、と頭を捻らせながらわたしはまたドレスをたくし上げた。
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