42 / 66
第8章 深紅の花嫁
1. ハロイベ到来
しおりを挟む
「ブラッディ・ブライド?」
わたしが聞き返すとウィルははい、と頷いた。それから快くその単語について説明してくれた。
ちなみに、ここは購買だがわたしはプレーンのクッキーを買いに来ただけである。隣に並ぶアブノーマルカラークッキーを買いに来たわけでは断じてないのだ。
――昔、ある魔法使いの女性が結婚式直前に刺し殺された。それが狂った愛情を持った夫によるものだとはつゆしらず、彼女はあの世で夫の姿を探し続けていた。血染めになったドレスを引き摺る彼女を憐れみの目で見つめていたのはファントムたち――前世でいうドラキュラなどの都市伝説的存在――だった。見かねた彼らは彼女の未練を断ち切ってやろうと、彼女の愛情を自分たちの誰かに向けられやしないかと考え――
「彼女はファントムたちの優しさに触れて、その中の1人と恋に落ちて結ばれたらしいんです」
「らしい、ということはそれが誰かはわからないってことですか?」
ウィルは眉を下げて頷く。そこ1番大事なところなのに。
「彼女が王族の女性であったために、そのファントムは彼女と共に王城に一度だけ来たのだそうで、一連の話と彼女との結婚を伝えにきたらしいですよ」
え、王族の女性だったの? さっきから話が重かったり、急に雑だったり色々とおかしな話だ。そもそもどうして急にこんな話をし始めたのだろう。そんなわたしにはお構いなく、ウィルは「記録が曖昧で、ファントムの種族まではわからないらしいです」と言う。わざわざ王城に来たのだからその辺りはきちんと記録しておいてほしいものだ。
「けれどあの世とこの世をつなぐきっかけになったこの出来事を忘れないでいよう、と彼女の母校であったハイドレンジア学園で年に一度行事が行われるようになったんですよ」
行事、と言われて気がついた。あ、これハロウィンイベントだ、と。
「学園の女子生徒さんたちは皆さんブラッディ・ブライドとして、男子生徒さんたちが扮するファントムたちと親交を深めるんです」
「な、なんだそれ……」
もはやそれはただの合コンなのでは? そうつっこまなかったわたしを誰か褒めてほしい。
たしかに季節的にハロイベがあってもおかしくないし、サポートキャラのウィルが唐突にこの話をしたのも頷けるけれども。執着がテーマの乙女ゲームだけあって、話の設定も重い。攻略対象たちに仮装をさせたかったのも、ハロウィンを使って恋愛イベントを作りたかったのも分かるけれど。全っ然嬉しくないんですが……
「当日僕は参加できませんが……ここでブラッディ・ブライド用のドレスを販売しています。ああ、よろしければローズさんのドレスを取り置いておきますよ!」
ドレス購入制なのか……などと思いつつもドレス購入のためにもみくちゃにされるのはご免なのでわたしはありがたくそうしてもらうことにしたのだった。
あっという間にハロイベ、『ブラッディ・ブライド』の日になった。学園内はハロウィンらしく装飾されてどこか怪しげだ。目につくのは仮装をする男子生徒、それからどこかソワソワする花嫁姿の女子生徒たち。やっぱり昔の出来事にかこつけた告白イベントじゃん……
はは、と乾いた笑みを浮かべつつウィルの購買へ向かう。すると、すすす、と白いスーツを着たウィルが姿を現した。「ゴーストの衣装を着てみたんです」とウィルは照れくさそうに言う。やはり名前がついている乙女ゲームキャラは仮装のレベルが高い。ゴーストといえば白い布にマジックペンで黒目描くだけだと思っていたのに。
「取り置いておきましたよ。ささ、店の奥で着替えてきてください!」
「ありがとうございます……」
上機嫌なウィルに半ば押される形で店の奥へ向かい、ドレスに着替えた。純白のウェディングドレスで、胸辺りが赤いバラで覆われている。サイズもぴったりだし、どこか先ほど見かけた女子生徒たちとドレスの質やデザインが違う気がするけれど……まあ、ヒロイン補正だろうと気にしないことにした。
「わあ、やっぱり似合うと思っていたんですよ! 素敵です!」
「はは、照れちゃいますね……」
「いえ、ローズさんが誰よりも綺麗なことは当然のことですから、恥ずかしがる必要はありませんよ!」
押し切られる形でありがとうございます、とお礼を告げるとウィルがスタンプカードのような紙を手渡してきた。
「出会ったファントムたちにスタンプを押してもらってください。ちなみに、同じ種族のファントムに押してもらうのは禁止ですよ! 本当は僕も押したいですが……」
スタンプカードに視線を落とす。6枠ある、ということは6人からスタンプを押してもらう必要がありそうだけれど……ん、ちょっと待って。6枠?
乙女ゲームだし、わたしは攻略対象からスタンプをもらうのだろうと思っていたのだが……今まで出会っている攻略対象の数を数えても5人にしかならない。
つまり、わたしがまだ出会っていない攻略対象がもう1人いるってこと?
わたしが聞き返すとウィルははい、と頷いた。それから快くその単語について説明してくれた。
ちなみに、ここは購買だがわたしはプレーンのクッキーを買いに来ただけである。隣に並ぶアブノーマルカラークッキーを買いに来たわけでは断じてないのだ。
――昔、ある魔法使いの女性が結婚式直前に刺し殺された。それが狂った愛情を持った夫によるものだとはつゆしらず、彼女はあの世で夫の姿を探し続けていた。血染めになったドレスを引き摺る彼女を憐れみの目で見つめていたのはファントムたち――前世でいうドラキュラなどの都市伝説的存在――だった。見かねた彼らは彼女の未練を断ち切ってやろうと、彼女の愛情を自分たちの誰かに向けられやしないかと考え――
「彼女はファントムたちの優しさに触れて、その中の1人と恋に落ちて結ばれたらしいんです」
「らしい、ということはそれが誰かはわからないってことですか?」
ウィルは眉を下げて頷く。そこ1番大事なところなのに。
「彼女が王族の女性であったために、そのファントムは彼女と共に王城に一度だけ来たのだそうで、一連の話と彼女との結婚を伝えにきたらしいですよ」
え、王族の女性だったの? さっきから話が重かったり、急に雑だったり色々とおかしな話だ。そもそもどうして急にこんな話をし始めたのだろう。そんなわたしにはお構いなく、ウィルは「記録が曖昧で、ファントムの種族まではわからないらしいです」と言う。わざわざ王城に来たのだからその辺りはきちんと記録しておいてほしいものだ。
「けれどあの世とこの世をつなぐきっかけになったこの出来事を忘れないでいよう、と彼女の母校であったハイドレンジア学園で年に一度行事が行われるようになったんですよ」
行事、と言われて気がついた。あ、これハロウィンイベントだ、と。
「学園の女子生徒さんたちは皆さんブラッディ・ブライドとして、男子生徒さんたちが扮するファントムたちと親交を深めるんです」
「な、なんだそれ……」
もはやそれはただの合コンなのでは? そうつっこまなかったわたしを誰か褒めてほしい。
たしかに季節的にハロイベがあってもおかしくないし、サポートキャラのウィルが唐突にこの話をしたのも頷けるけれども。執着がテーマの乙女ゲームだけあって、話の設定も重い。攻略対象たちに仮装をさせたかったのも、ハロウィンを使って恋愛イベントを作りたかったのも分かるけれど。全っ然嬉しくないんですが……
「当日僕は参加できませんが……ここでブラッディ・ブライド用のドレスを販売しています。ああ、よろしければローズさんのドレスを取り置いておきますよ!」
ドレス購入制なのか……などと思いつつもドレス購入のためにもみくちゃにされるのはご免なのでわたしはありがたくそうしてもらうことにしたのだった。
あっという間にハロイベ、『ブラッディ・ブライド』の日になった。学園内はハロウィンらしく装飾されてどこか怪しげだ。目につくのは仮装をする男子生徒、それからどこかソワソワする花嫁姿の女子生徒たち。やっぱり昔の出来事にかこつけた告白イベントじゃん……
はは、と乾いた笑みを浮かべつつウィルの購買へ向かう。すると、すすす、と白いスーツを着たウィルが姿を現した。「ゴーストの衣装を着てみたんです」とウィルは照れくさそうに言う。やはり名前がついている乙女ゲームキャラは仮装のレベルが高い。ゴーストといえば白い布にマジックペンで黒目描くだけだと思っていたのに。
「取り置いておきましたよ。ささ、店の奥で着替えてきてください!」
「ありがとうございます……」
上機嫌なウィルに半ば押される形で店の奥へ向かい、ドレスに着替えた。純白のウェディングドレスで、胸辺りが赤いバラで覆われている。サイズもぴったりだし、どこか先ほど見かけた女子生徒たちとドレスの質やデザインが違う気がするけれど……まあ、ヒロイン補正だろうと気にしないことにした。
「わあ、やっぱり似合うと思っていたんですよ! 素敵です!」
「はは、照れちゃいますね……」
「いえ、ローズさんが誰よりも綺麗なことは当然のことですから、恥ずかしがる必要はありませんよ!」
押し切られる形でありがとうございます、とお礼を告げるとウィルがスタンプカードのような紙を手渡してきた。
「出会ったファントムたちにスタンプを押してもらってください。ちなみに、同じ種族のファントムに押してもらうのは禁止ですよ! 本当は僕も押したいですが……」
スタンプカードに視線を落とす。6枠ある、ということは6人からスタンプを押してもらう必要がありそうだけれど……ん、ちょっと待って。6枠?
乙女ゲームだし、わたしは攻略対象からスタンプをもらうのだろうと思っていたのだが……今まで出会っている攻略対象の数を数えても5人にしかならない。
つまり、わたしがまだ出会っていない攻略対象がもう1人いるってこと?
7
お気に入りに追加
488
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。
「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」
黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。
「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」
大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。
ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。
メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。
唯一生き残る方法はただ一つ。
二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。
ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!?
ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー!
※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜
野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。
生まれ変わった?ここって異世界!?
しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!?
えっ、絶世の美女?黒は美人の証?
いやいや、この世界の人って目悪いの?
前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。
しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?
聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します
陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。
「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。
命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの?
そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる