40 / 66
第7章 夏休みは安全快適?
2. 夜のデート?
しおりを挟む
「え、どうしてここが……」
だってここってマイナー領地じゃなかったの? すんごい田舎にあって少なくとも「来ちゃった」のテンションで来れるようなところではない。おまけに全身黒ずくめ。スパイかなにかかと疑ってしまうほど、スタイリッシュだ。なのに登場の仕方はきちんと乙女ゲームっぽいというアンバランスさ。
「強いて言うなら、匂い?」
「はい?」
レディになんて失礼な。わたしは勢いよく香水を取り出してきて吹きかけた。ケイトは何が面白いのか、けらけら笑っている。
「で、夜中に何のご用です? またわたしのことを拉致でもしにきたんですか?」
生憎、今のわたしには強力な武器があるのだ。わたしが大声で叫べばたぶん駆けつけてくれる。
「そんなに睨まないでよ。じゃあさ、夜のデートのお誘いって言ったら一緒に来てくれんの?」
げえ、と顔を歪ませると「露骨だなあ」と肩をすくめられた。胡散臭すぎて信用なんて出来ないんですが。けれどケイトはイエスと言わなければ帰ってくれなさそうだ。わたしは「1つだけ確認を」と渋々前置きする。
「わたしの安全は保証してくれますか?」
「うーん、微妙。でも花の乙女ちゃんなら大丈夫なんじゃない?」
そのセリフでこれから何をするのか、大体察知した。この怪しい男について知るチャンスだ、みすみす逃してなるものか。わたしは窓枠に足をかけてケイトに向かって手を差し出した。
「どーう? この辺り割と出るんだよねー!」
「本当、キリ、ないですね……!」
わたしとケイトは夜のデート、もとい夜のロスト討伐を行なっていた。
わたしは拳で戦うゴリゴリのパワー近接系なので疲労も凄まじい。ただでさえ視界の悪い夜で、森の中だから足場も悪いから体力がどんどんなくなっていく。それなのに、ケイトは顔色一つ変えず、淡々とロストに攻撃を繰り出している。もちろん、浄化作業はわたししかできないためわたしの方が重労働ではあるが。
「ケイト様も、お強いんですね」
「まあね。でも花の乙女ちゃんほどじゃないかなあ。たぶん殴るのは初めてだと思うよ」
堪えきれない、というようにケイトは笑い出す。ロストをぶん殴って倒している花の乙女なんて今まで文献で見たことがないらしい。そういう文献ってあったのか、と思ったけれど彼は怪しいので色々つっこまないことにした。
「歴代の花の乙女ってろくでもないやつばっかだって知ってる?」
と、ケイトはふいに尋ねてきた。辺りのロストはもう一掃されていてわたしは肩で息をしながら「でしょうね」と何も考えず返してしまった。
「ふふっ、でしょうねって。自分だって花の乙女でしょ」
ケイトはけらけら笑いつつ、まともだったのは初代と次代くらいだったと付け足した。きっと花の乙女だから、という理由で横暴が許されてきたのだろう。権力があると人は簡単にわがままになってしまうから。この乙女ゲームで執着逆ハーが成り立つのも頷ける。そう考えるとヒロインって結構性悪なのかな。何人も男の人をめろめろにさせるなんて、策士でもない限り出来ないだろう。
「俺さ、最初にローズちゃんを見た時もまたかって思ったんだよね。だって周り男子ばっかじゃん?」
「……そうですけど。ジルとラギーは友達ですし」
「そうっぽいよね。それはそれでカワイソーな気もするけど」
少しだけ脳裏にジルの告白勘違い事件が浮かぶ。勘違いだったのにケイトに慰められてすごい恥ずかしい。たぶん、ケイトは誤解したままだ。
「あの、この前の件ですが……その、あれは勘違いなので」
忘れてください、と縮こまったがケイトは適当に相槌を打つだけだ。忘れているのか、はたまた興味がないのか。どちらにせよ好都合なので掘り返さないことにした。
「まあ、とにかく。ローズちゃんはマシってこと」
「はあ」
「それから、最初拉致っちゃってごめんねって言いにきた」
ケイトがきまり悪そうに言うので、しばらくぽかんとしたままケイトを見つめ続けてしまった。
「えっと、もしかしてそれだけのためにわざわざ?」
「え、悪い?」
「いや、ちょっとびっくりしたっていうか」
最初に拉致った人とは思えないくらいずいぶん礼儀正しいではないか。まあ夜に窓から、という点は除いて。「今度は普通にドアから入ってきてくださいね」とからかってみる。ケイトは少しむっとした顔になり、それから思い出したように声を上げた。
「そろそろおにいさまがお怒りになりそうだし、部屋に戻るよ」
そろそろ抜け出して2時間くらい経つ気がする。いくら夜中とはいえ、バレている可能性は高い。
問い詰められたら面倒だなあ、と思っているとケイトがぱちんと指を鳴らす。すると、不思議なことに部屋に戻ってきていた。ケイトは「じゃあね」と窓から軽々飛び降りて行く。一瞬慌てて下を覗き込むも、もうそこにケイトの姿はなく。
今のって高等魔法の転移魔法? しかも2連発で使うなんて。すごく強いし、ロストについても詳しい。王子であるレイが知らなかった花の乙女の戦い方についてまで知っていて……
「本当、一体何者なの……?」
だってここってマイナー領地じゃなかったの? すんごい田舎にあって少なくとも「来ちゃった」のテンションで来れるようなところではない。おまけに全身黒ずくめ。スパイかなにかかと疑ってしまうほど、スタイリッシュだ。なのに登場の仕方はきちんと乙女ゲームっぽいというアンバランスさ。
「強いて言うなら、匂い?」
「はい?」
レディになんて失礼な。わたしは勢いよく香水を取り出してきて吹きかけた。ケイトは何が面白いのか、けらけら笑っている。
「で、夜中に何のご用です? またわたしのことを拉致でもしにきたんですか?」
生憎、今のわたしには強力な武器があるのだ。わたしが大声で叫べばたぶん駆けつけてくれる。
「そんなに睨まないでよ。じゃあさ、夜のデートのお誘いって言ったら一緒に来てくれんの?」
げえ、と顔を歪ませると「露骨だなあ」と肩をすくめられた。胡散臭すぎて信用なんて出来ないんですが。けれどケイトはイエスと言わなければ帰ってくれなさそうだ。わたしは「1つだけ確認を」と渋々前置きする。
「わたしの安全は保証してくれますか?」
「うーん、微妙。でも花の乙女ちゃんなら大丈夫なんじゃない?」
そのセリフでこれから何をするのか、大体察知した。この怪しい男について知るチャンスだ、みすみす逃してなるものか。わたしは窓枠に足をかけてケイトに向かって手を差し出した。
「どーう? この辺り割と出るんだよねー!」
「本当、キリ、ないですね……!」
わたしとケイトは夜のデート、もとい夜のロスト討伐を行なっていた。
わたしは拳で戦うゴリゴリのパワー近接系なので疲労も凄まじい。ただでさえ視界の悪い夜で、森の中だから足場も悪いから体力がどんどんなくなっていく。それなのに、ケイトは顔色一つ変えず、淡々とロストに攻撃を繰り出している。もちろん、浄化作業はわたししかできないためわたしの方が重労働ではあるが。
「ケイト様も、お強いんですね」
「まあね。でも花の乙女ちゃんほどじゃないかなあ。たぶん殴るのは初めてだと思うよ」
堪えきれない、というようにケイトは笑い出す。ロストをぶん殴って倒している花の乙女なんて今まで文献で見たことがないらしい。そういう文献ってあったのか、と思ったけれど彼は怪しいので色々つっこまないことにした。
「歴代の花の乙女ってろくでもないやつばっかだって知ってる?」
と、ケイトはふいに尋ねてきた。辺りのロストはもう一掃されていてわたしは肩で息をしながら「でしょうね」と何も考えず返してしまった。
「ふふっ、でしょうねって。自分だって花の乙女でしょ」
ケイトはけらけら笑いつつ、まともだったのは初代と次代くらいだったと付け足した。きっと花の乙女だから、という理由で横暴が許されてきたのだろう。権力があると人は簡単にわがままになってしまうから。この乙女ゲームで執着逆ハーが成り立つのも頷ける。そう考えるとヒロインって結構性悪なのかな。何人も男の人をめろめろにさせるなんて、策士でもない限り出来ないだろう。
「俺さ、最初にローズちゃんを見た時もまたかって思ったんだよね。だって周り男子ばっかじゃん?」
「……そうですけど。ジルとラギーは友達ですし」
「そうっぽいよね。それはそれでカワイソーな気もするけど」
少しだけ脳裏にジルの告白勘違い事件が浮かぶ。勘違いだったのにケイトに慰められてすごい恥ずかしい。たぶん、ケイトは誤解したままだ。
「あの、この前の件ですが……その、あれは勘違いなので」
忘れてください、と縮こまったがケイトは適当に相槌を打つだけだ。忘れているのか、はたまた興味がないのか。どちらにせよ好都合なので掘り返さないことにした。
「まあ、とにかく。ローズちゃんはマシってこと」
「はあ」
「それから、最初拉致っちゃってごめんねって言いにきた」
ケイトがきまり悪そうに言うので、しばらくぽかんとしたままケイトを見つめ続けてしまった。
「えっと、もしかしてそれだけのためにわざわざ?」
「え、悪い?」
「いや、ちょっとびっくりしたっていうか」
最初に拉致った人とは思えないくらいずいぶん礼儀正しいではないか。まあ夜に窓から、という点は除いて。「今度は普通にドアから入ってきてくださいね」とからかってみる。ケイトは少しむっとした顔になり、それから思い出したように声を上げた。
「そろそろおにいさまがお怒りになりそうだし、部屋に戻るよ」
そろそろ抜け出して2時間くらい経つ気がする。いくら夜中とはいえ、バレている可能性は高い。
問い詰められたら面倒だなあ、と思っているとケイトがぱちんと指を鳴らす。すると、不思議なことに部屋に戻ってきていた。ケイトは「じゃあね」と窓から軽々飛び降りて行く。一瞬慌てて下を覗き込むも、もうそこにケイトの姿はなく。
今のって高等魔法の転移魔法? しかも2連発で使うなんて。すごく強いし、ロストについても詳しい。王子であるレイが知らなかった花の乙女の戦い方についてまで知っていて……
「本当、一体何者なの……?」
4
お気に入りに追加
498
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。
「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」
黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。
「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」
大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。
ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。
メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。
唯一生き残る方法はただ一つ。
二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。
ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!?
ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー!
※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。
作者のめーめーです!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

フィジカル系令嬢が幸せを掴むまで~助けた年下王子からの溺愛~
ナカジマ
恋愛
【完結済み】
レアル王国オーレルム辺境伯領、そこは魔物が生息する大森林を監視し魔物から王国を守る要所である。そこで生活している辺境伯家の令嬢エストリアは、ちょっとだけ、他の人より少し、フィジカルに頼って生きて来た女性だ。武の名門であるオーレルム家では、力こそ全てであり民を守ってこそ貴族だと考えられて来た。それ故に致し方ない部分はあれど、他のご令嬢に比べれば随分と勇ましく逞しい所がある。そんなエストリアが趣味の遠乗りに出掛けた先で、怪しい者達に襲われている馬車を見つける。正義感が強いエストリアは当然加勢するが、なんとその馬車に乗っていたのは庇護を求めてオーレルム領にやって来た王国の第3王子。助けに入った事で知り合いになった王子と一緒に生活する事になり、気がつけば婚約を申し込まれてしまった。ちょっと(?)脳筋なご令嬢エストリアは、立派なお嫁さんになれるのか!?

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる