執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海

文字の大きさ
上 下
36 / 66
第6章 揺らぐ文化祭

4. 愛憎渦巻く演劇

しおりを挟む
 文化祭当日、『ロミーとジュリアンヌ』お披露目の日はあっという間にやってきた。
 舞台袖から客の様子を窺うと、大勢の人たちの中にはもちろん保護者がいるわけで、つまり爵位を持つ人がたくさんだ。無論、アメリア一家も来ている。さらに前席の方には伝統の演劇というだけあって王族まで来ていた。レイの兄、ルークも座っている。
 わたしは袖幕の反対側にいるジルに目をやる。あれからジルとはあまり会話をしていない。というのも避けているとかではなくて、普通に話す時間がないほど忙しかったのだ。けれど話しかけたら対応はしてくれる。先ほども「頑張りましょうね」と声をかけたら頷いてはくれた。本当は、ぎこちないままの演技は嫌だけれど……

「ローズ、そろそろ始まるよ。頑張って!」
「うん、ありがとうラギー」

 ラギーは裏方で、今日は舞台袖から演技の進行チェックをする。ラギーの励ましを受けて、最後の深呼吸をした。
 幕が上がると、舞台は一気に仮面舞踏会の会場になった。シャンデリアが煌めいている。豪華な装飾と荘厳な音楽であっという間に『ロミーとジュリアンヌ』の世界に染まった。ジルが一足早く舞台に立ち、演技を始めた。ジル演じるロミーが敵家の仮面舞踏会に密かに参加することからこの物語は始まる。

「ああ、あそこにいらっしゃる美しい方は一体どなたなのだろう」

 ジルの声を合図に、わたしは一歩進み出る。ぐわっとスポットライトがわたしを照らしつける。緊張のせいもあるのかもしれないけれどいつもより眩しさを感じる。目を細めていると、いつの間にか手を取られて口づけられていた。目の前には跪いてわたしを見上げるジルの姿がある。手袋越しでよかった……違う、早くセリフを言わなければ。

「ああ、貴方の顔をどうしても見たいわ」
「……私がどんな顔でも、どんな男でも貴女は受け入れてくださいますか」
「? ええ……」

 はて、そんなセリフはあっただろうか。でもジルは脚本を公爵家の力で変更したくらいだからちょこまかセリフを変えているのだろう。
 仮面を外したジルはなぜか、脚本にあったうっとりとは到底あわない、ひどく歪んだ笑みを浮かべていた。


「待て。彼女は僕のものだ」

 演技半ば、ジュリアンヌの婚約者でありロミーの宿敵であるデュークが決闘を申し込むシーンに差し掛かった。ジルはわたしを庇うように立ち、レイ演じるデュークと対峙する。
 演技とはいえ、乙女ゲーム的にはドキドキする展開なのだろう、とどこか他人事に思いつつ剣を交える2人を見守る。わたしは今はハラハラした顔を作っているだけでいい。いわば休憩時間だ。

「僕はようやく自分の気持ちに気がついたんだ。彼女が必要なんだ」
「…………今まで君は彼女を利用してきただけだろう。今更何を言うんだ」

 どうやらジルは演技派らしい。険しい表情が上手だ。2人のやりとりのシーンはすっとばして練習していたのでよく知らないが、なんだか長い気がする。

「君こそ、敵家の彼女に手を出すなんて信じられないな」

 あ、ここは読んだ。この後ジルが『私たちは愛し合っている』と叫ぶのと同時に駆け出して一旦フェードアウトだ。寄り添ってジルを見上げると、目があった。しかしジルはなぜか視線を外し、そのままわたしの手首を掴んで舞台袖へ歩き出す。「ちょっと?」と小声で声をかけてみるも、ジルは何も言わない。暗転するとわたしはまた舞台へと押し出されてしまった。

 そのあとは滞りなく進んでいった。
 敵家嫡男ロミーとの恋愛がばれ、わたしは教会へと逃げ込む。そこで仮死の薬をもらう。死んだと思わせ、運ばれた先でロミーと落ち合い駆け落ちする、という寸法だ。一方のロミーはジュリアンヌが死んだと怒るデュークと再び決闘し、デュークを殺してしまう。本来の予定よりも早くジュリアンヌの死が伝わってしまい、ロミーは本当にジュリアンヌが死んだと嘆く。それにしてもあのときのデュークを刺し殺すシーンは禍々しかった。血糊だと分かっていても本当に刺してしまったのではと思うほどだった。

 そうして、いよいよラストシーン。
 ロミーが仮死したジュリアンヌの傍らで愛を語り、嘆く。

「ああ、ジュリアンヌ……私も一緒に……」

 ジルは懐から短剣を取り出し、自らの胸に突き立てる。たしか、ジルが脚本を少し変更してわたしはここで目覚めることになっている。ジルがすんでのところで涙を流し愛を告げる最中に、目を覚ませばいい。

「大好きだ、愛してる、叶うなら一緒になりたい」

 セリフまた違う、と困惑したのと同時に抱き起こされた。わたしたちを見てなのか、会場が色めく。薄く目を開けるとジルの綺麗な顔が迫ってきていた。
 もちろん、脳内はパニックだ。キスの流れは絶対になかったはず。でもジルは脚本を変えていたし、わたしが知らないだけの可能性もある……けれどアドリブなんてわたしには無理だし、会場のキス待ちの雰囲気に抗える気もしない。きつく目を閉じる。会場の色めきは最高潮へ……その中で悲鳴が混じった。ジルのファン? いや違う、そんな種類の悲鳴じゃない。もっと差し迫るような――

「ローズ、ジル、危ない!!」

 ラギーの叫び声とほぼ同時に頭上で何かが崩れる音がした。視界いっぱいに落下してくるシャンデリアが映る。

 ――避けられない。

 次の刹那、衝撃音が会場に鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

処理中です...