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第6章 揺らぐ文化祭
2. 馬鹿だよな
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「主役、ですか……! ローズさんが、舞台に!」
「そんなに喜んでもらえるとは……はは」
ウィルに主役のジュリアンヌを演じると話したら、なぜか泣きながら喜ばれてしまった。以前花の乙女だと伝えたときもこんなふうに拝まれたけれど、パワーアップしている気がする。
「可憐さ、美しさ、どれを鑑みてもローズさんが1番なのは当然ですから、ローズさんがヒロイン役以外などあり得ませんね」
「それはさすがに褒めすぎですよー」
「いえ、美に関する形容詞は全てローズさんのためにあると言っても過言ではないので」
むしろ褒め足りなくてもどかしい、とウィルは悔しがる。ウィルはかなりオーバー気味に褒めてくれるタイプらしく、このやり取りは割とよくあることだ。ヒロインパワーなのか、ウィルにはわたしがかなり美化されて見えるのだろう。わたしはお使いのメモを見ながらウィルの店で物を購入していく。怪しげなクッキーたちは相変わらず並んでいるが、ちゃんとした品物もあるみたいだ。
「あと、植物園のお花も少しいただけたら嬉しいのですが」
メモには飾り用のお花も書かれていた。どうせなら当日に本物の花が咲いている方が見栄えもよさそうだ。そう伝えればウィルは快く了承してくれた。「どれがいいか確認してほしい」と言うので植物園に移動した。
紅茶を飲みながら、久々の植物園にほっとする。きっとそろそろジルがサボりすぎだと怒るだろうなあと思いつつもまだ戻るつもりはない。ウィルと一通り劇に使いそうな花を確認し終えて、わたしたちは紅茶片手に歓談中だ。高等部に入ってからはここにくる頻度も下がっていたから癒しタイムがなくて辛かったのだ。
「そうでした、この花よければ……」
「ヒマワリ! まだあまり見かけませんがウィルさんのお手入れの賜物ですね……!」
ウィルが渡してくれたのは手のひらに収まるほどのサイズのヒマワリだ。初夏ということもありまだ咲ききっているのはあまり見ない。すごく喜んだからか、ウィルは照れつつもヒマワリをブーケにして手渡してくれた。クラスに持ち帰って飾れば慌ただしい雰囲気も落ち着くだろうか。そんな風にこれを手土産にしてクラスに帰れば怒られないだろうと踏んだわたしは植物園をあとにした。
……とはいえ、やはりジルはそんなに甘くなかった。
にこにことヒマワリを抱えて帰ってきたわたしを見て怪訝な顔をしたかと思えば、「お前って馬鹿だよな」となぜか悪口まで言われた。少し寄り道したくらいでそんなに怒らなくても。なんて思ったのが見透かされたらしく。
「じゃあ、3日後にセリフ暗記テスト兼ねて合わせ練習するからな」
と、ペナルティを課されてしまったのだった。
そしてあっという間に3日後、ペナルティチェックの日。
放課後の空き教室でそれは行われていた。なんとか一通り通してぜーはーと息をするわたしに対してジルは澄まし顔のままだ。
「うーん、まあまあいいんじゃねーの」
「よかった……」
「棒読みだったけどな」
ぐっ。
しかし、ジルの言う通り台本一冊分丸々セリフを覚えるのに必死で感情など込めている余裕はなかった。正直、ストーリーも把握しきれていない。わたしは台本をめくりながら、そういえばと口を開いた。
「これ、バッドエンドだって聞いていたんですけど、違うんですね」
前世で知る話が元になっているはずで、兄も悲恋だと言っていた。けれど読む限りハッピーエンドだ。2人が試練を乗り越えて結ばれている。兄がこれを許したのか、と疑問に思っていたのだ。
「ああー、それ俺が脚本変えるよう頼んだ」
「え、そうなんですか?」
「…………悲恋にするつもりねーから」
どういうことですか、と冗談混じりに言おうとしたわたしは、思わず口をつぐんだ。
ジルはなぜか熱っぽい目でわたしを見ていたから。
「そんなに喜んでもらえるとは……はは」
ウィルに主役のジュリアンヌを演じると話したら、なぜか泣きながら喜ばれてしまった。以前花の乙女だと伝えたときもこんなふうに拝まれたけれど、パワーアップしている気がする。
「可憐さ、美しさ、どれを鑑みてもローズさんが1番なのは当然ですから、ローズさんがヒロイン役以外などあり得ませんね」
「それはさすがに褒めすぎですよー」
「いえ、美に関する形容詞は全てローズさんのためにあると言っても過言ではないので」
むしろ褒め足りなくてもどかしい、とウィルは悔しがる。ウィルはかなりオーバー気味に褒めてくれるタイプらしく、このやり取りは割とよくあることだ。ヒロインパワーなのか、ウィルにはわたしがかなり美化されて見えるのだろう。わたしはお使いのメモを見ながらウィルの店で物を購入していく。怪しげなクッキーたちは相変わらず並んでいるが、ちゃんとした品物もあるみたいだ。
「あと、植物園のお花も少しいただけたら嬉しいのですが」
メモには飾り用のお花も書かれていた。どうせなら当日に本物の花が咲いている方が見栄えもよさそうだ。そう伝えればウィルは快く了承してくれた。「どれがいいか確認してほしい」と言うので植物園に移動した。
紅茶を飲みながら、久々の植物園にほっとする。きっとそろそろジルがサボりすぎだと怒るだろうなあと思いつつもまだ戻るつもりはない。ウィルと一通り劇に使いそうな花を確認し終えて、わたしたちは紅茶片手に歓談中だ。高等部に入ってからはここにくる頻度も下がっていたから癒しタイムがなくて辛かったのだ。
「そうでした、この花よければ……」
「ヒマワリ! まだあまり見かけませんがウィルさんのお手入れの賜物ですね……!」
ウィルが渡してくれたのは手のひらに収まるほどのサイズのヒマワリだ。初夏ということもありまだ咲ききっているのはあまり見ない。すごく喜んだからか、ウィルは照れつつもヒマワリをブーケにして手渡してくれた。クラスに持ち帰って飾れば慌ただしい雰囲気も落ち着くだろうか。そんな風にこれを手土産にしてクラスに帰れば怒られないだろうと踏んだわたしは植物園をあとにした。
……とはいえ、やはりジルはそんなに甘くなかった。
にこにことヒマワリを抱えて帰ってきたわたしを見て怪訝な顔をしたかと思えば、「お前って馬鹿だよな」となぜか悪口まで言われた。少し寄り道したくらいでそんなに怒らなくても。なんて思ったのが見透かされたらしく。
「じゃあ、3日後にセリフ暗記テスト兼ねて合わせ練習するからな」
と、ペナルティを課されてしまったのだった。
そしてあっという間に3日後、ペナルティチェックの日。
放課後の空き教室でそれは行われていた。なんとか一通り通してぜーはーと息をするわたしに対してジルは澄まし顔のままだ。
「うーん、まあまあいいんじゃねーの」
「よかった……」
「棒読みだったけどな」
ぐっ。
しかし、ジルの言う通り台本一冊分丸々セリフを覚えるのに必死で感情など込めている余裕はなかった。正直、ストーリーも把握しきれていない。わたしは台本をめくりながら、そういえばと口を開いた。
「これ、バッドエンドだって聞いていたんですけど、違うんですね」
前世で知る話が元になっているはずで、兄も悲恋だと言っていた。けれど読む限りハッピーエンドだ。2人が試練を乗り越えて結ばれている。兄がこれを許したのか、と疑問に思っていたのだ。
「ああー、それ俺が脚本変えるよう頼んだ」
「え、そうなんですか?」
「…………悲恋にするつもりねーから」
どういうことですか、と冗談混じりに言おうとしたわたしは、思わず口をつぐんだ。
ジルはなぜか熱っぽい目でわたしを見ていたから。
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