27 / 66
第5章 不穏すぎる乙女ゲーム
3. 甘味的監禁
しおりを挟む
目を覚ますと、見覚えのない天井が広がっていた。
起き上がって周囲を確認してアメリア家よりも豪邸であることを察知。ん、待てよ、あれって王家の紋章では……?
「ああ、起きていたんですね」
あー、なるほどね。
なんとも言えない笑みを浮かべたままレイが部屋に入ってくる。よぎるのは最後に口にしたポーション。
「ポーションを飲んだら倒れてしまったんですよ。ですので、こちらで休んで頂こうと」
レイはポーションに疲れが取れるように睡眠作用が入っていてそれが強く効いてしまったのでは、と説明した。いや、たぶん違うだろうけど。
「ああ、それから召使いたちに身体やお洋服を綺麗にしておくよう頼んでおきました。すっかり綺麗ですね」
「え、いつの間に……」
「そうだ、手をかなり酷使していたようなので回復魔法を少しかけておきました」
寝てる間にあれこれとやってもらったらしい。寝たまま身体を洗うのは骨が折れただろう。肌の感じもいつもより良い。さすが王家。
「もう少し休んだらお茶にしませんか。シェフがスイーツをたくさん作ってくれたようなのですが、僕はあまり好まないものですから」
レイが関わっているスイーツとか怪し過ぎる。前科あるし、もうほいほいものは食べないんだから。
「お断りしま……」
「もったいないですね、仕方ありません。ローズさんもお疲れでしょうし、無理強いは良くありませんよね。スイーツは廃棄してもらうしか……」
「食べます……」
屈した。食べ物を粗末にしてはいけない。
おそらく、これが姉の言ってた監禁エピソードなのではないか。
家族に助けを求めたいけれど3日間の仕事だと伝えている以上、2日間は助けを見込めない。なぜか分からないけれど杖や魔法書が詰まった筋トレバッグその他所有物全て手元にない。あとは我が兄ナインの妹センサーに頼るしかない。
ていうか、まだ乙女ゲーム始まって1週間なんですが。序盤で監禁ってかなりまずいゲームなのでは? でも姉は割とゲームをやりこんでいる時に言っていたし……やはり早めに出会ったことが影響しているのだろうか。
ケーキを頬張りながらわたしはレイを盗み見る。テーブルに所狭しと並べられたスイーツたちの安全性は保証された。やはり王子が口にするものだからか毒味があったのだ。紅茶もわたしに近いところにティーポットが置いてあるためこちらも大丈夫そうだ。ということで多少の警戒はしつつ、残してはシェフが可哀想なのでなるべく食べることにした。
「あの、そういえばラギーは」
「ああ、彼なら家に帰しましたよ。彼は元々今日だけのお務めですから」
言葉の文を上手く使ったな……『3日間、僕とラギーくんと』と言うからてっきりラギーも一緒だと思っていた。これではラギーにもわたしのナチュラル監禁には気がついてもらえない。ため息をつきながら紅茶を飲む。
「少し真面目な話をしたいのですが」
「はい、なんでしょう」
「僕とローズさんの婚約にも関わるお話です」
吹き出しかけた。わたしは少し精一杯怪訝な顔になるのを抑えながらレイを見る。レイは脚を組んでなんとも余裕たっぷりだ。
「花の乙女は王族と結婚することが多いんです」
「ああ……なるほど」
口には出さなかったけれど、利用価値があるということなのだろう。政略結婚だ。これは本格的に受け流せなくなってきたかもしれない。
「でも僕は婚約を強制はしませんよ。さすがに僕だって3年間誤魔化されていたら気が付きます」
「えっと……ごめんなさい」
「少しでも僕に好意があると嬉しいとは思っていますが」
「はは……」
「ただ、僕はあまり気が長い方ではないので」
レイは眉を下げて見せた。つまり、婚約は諦めてくれるってこと?
「あんまり嬉しそうにされると悲しいです」
顔に出てしまっていたらしい。わたしが慌てて俯くと、レイが少し困ったように笑う声がした。
「少し考え方が変わったんです。いつまで経っても僕に気が向くようには思えないので」
「……この際言いますが、きっとレイ様は助けたことを好意と勘違いなさってるのだと思います」
「わたしでなくても良いのでは」とそれとなく伝える。レイは含んだ笑みを浮かべるだけで、応えてはくれなかった。しかも急に立ち上がってドアの方へ歩いて行ってしまう。「夕食までお好きに過ごしてくださいね」と言うと出て行ってしまった。
わたしの前には大量のデザートが残されていた。レイは紅茶にしか手をつけていなかった。わたしは疑問に思い、思わず控えていたメイドさんに声をかけたのだった。
結局、泊まることになってしまった。
王宮に留まるよう言われている感じは監禁って感じがするけれど、手厚いもてなしのせいで監禁感が全く無い。
もしかして、これは監禁イベントではないのだろうか。姉が喜ぶレベルの監禁ということはもっと執着じみた愛を感じるものなのかも……今のところその雰囲気はない。それどころか、婚約話を諦めている節すらある。ヒロインらしい可愛さもないし、3年間かわされてプライドが傷ついたのかも。
でもやっぱり何かひっかかる。メイドさんの話もだけど……なんというか、全体的に切迫感を感じる、というか。
明日それとなく聞いてみようか。そう思いながら疲労感に負けて目を閉じた。
――けれど、その疑いは聞くまでもなく確信に変わった。
夜中、妙な感覚に目を覚ましたわたしの目に飛び込んできたのは、歪んだ顔を浮かべるレイだった。わたしの手を自身の首元に持っていき、その上から自分の手を重ねて締め上げている。レイはどこか嬉しそうに、わたしを見下ろしていた。
起き上がって周囲を確認してアメリア家よりも豪邸であることを察知。ん、待てよ、あれって王家の紋章では……?
「ああ、起きていたんですね」
あー、なるほどね。
なんとも言えない笑みを浮かべたままレイが部屋に入ってくる。よぎるのは最後に口にしたポーション。
「ポーションを飲んだら倒れてしまったんですよ。ですので、こちらで休んで頂こうと」
レイはポーションに疲れが取れるように睡眠作用が入っていてそれが強く効いてしまったのでは、と説明した。いや、たぶん違うだろうけど。
「ああ、それから召使いたちに身体やお洋服を綺麗にしておくよう頼んでおきました。すっかり綺麗ですね」
「え、いつの間に……」
「そうだ、手をかなり酷使していたようなので回復魔法を少しかけておきました」
寝てる間にあれこれとやってもらったらしい。寝たまま身体を洗うのは骨が折れただろう。肌の感じもいつもより良い。さすが王家。
「もう少し休んだらお茶にしませんか。シェフがスイーツをたくさん作ってくれたようなのですが、僕はあまり好まないものですから」
レイが関わっているスイーツとか怪し過ぎる。前科あるし、もうほいほいものは食べないんだから。
「お断りしま……」
「もったいないですね、仕方ありません。ローズさんもお疲れでしょうし、無理強いは良くありませんよね。スイーツは廃棄してもらうしか……」
「食べます……」
屈した。食べ物を粗末にしてはいけない。
おそらく、これが姉の言ってた監禁エピソードなのではないか。
家族に助けを求めたいけれど3日間の仕事だと伝えている以上、2日間は助けを見込めない。なぜか分からないけれど杖や魔法書が詰まった筋トレバッグその他所有物全て手元にない。あとは我が兄ナインの妹センサーに頼るしかない。
ていうか、まだ乙女ゲーム始まって1週間なんですが。序盤で監禁ってかなりまずいゲームなのでは? でも姉は割とゲームをやりこんでいる時に言っていたし……やはり早めに出会ったことが影響しているのだろうか。
ケーキを頬張りながらわたしはレイを盗み見る。テーブルに所狭しと並べられたスイーツたちの安全性は保証された。やはり王子が口にするものだからか毒味があったのだ。紅茶もわたしに近いところにティーポットが置いてあるためこちらも大丈夫そうだ。ということで多少の警戒はしつつ、残してはシェフが可哀想なのでなるべく食べることにした。
「あの、そういえばラギーは」
「ああ、彼なら家に帰しましたよ。彼は元々今日だけのお務めですから」
言葉の文を上手く使ったな……『3日間、僕とラギーくんと』と言うからてっきりラギーも一緒だと思っていた。これではラギーにもわたしのナチュラル監禁には気がついてもらえない。ため息をつきながら紅茶を飲む。
「少し真面目な話をしたいのですが」
「はい、なんでしょう」
「僕とローズさんの婚約にも関わるお話です」
吹き出しかけた。わたしは少し精一杯怪訝な顔になるのを抑えながらレイを見る。レイは脚を組んでなんとも余裕たっぷりだ。
「花の乙女は王族と結婚することが多いんです」
「ああ……なるほど」
口には出さなかったけれど、利用価値があるということなのだろう。政略結婚だ。これは本格的に受け流せなくなってきたかもしれない。
「でも僕は婚約を強制はしませんよ。さすがに僕だって3年間誤魔化されていたら気が付きます」
「えっと……ごめんなさい」
「少しでも僕に好意があると嬉しいとは思っていますが」
「はは……」
「ただ、僕はあまり気が長い方ではないので」
レイは眉を下げて見せた。つまり、婚約は諦めてくれるってこと?
「あんまり嬉しそうにされると悲しいです」
顔に出てしまっていたらしい。わたしが慌てて俯くと、レイが少し困ったように笑う声がした。
「少し考え方が変わったんです。いつまで経っても僕に気が向くようには思えないので」
「……この際言いますが、きっとレイ様は助けたことを好意と勘違いなさってるのだと思います」
「わたしでなくても良いのでは」とそれとなく伝える。レイは含んだ笑みを浮かべるだけで、応えてはくれなかった。しかも急に立ち上がってドアの方へ歩いて行ってしまう。「夕食までお好きに過ごしてくださいね」と言うと出て行ってしまった。
わたしの前には大量のデザートが残されていた。レイは紅茶にしか手をつけていなかった。わたしは疑問に思い、思わず控えていたメイドさんに声をかけたのだった。
結局、泊まることになってしまった。
王宮に留まるよう言われている感じは監禁って感じがするけれど、手厚いもてなしのせいで監禁感が全く無い。
もしかして、これは監禁イベントではないのだろうか。姉が喜ぶレベルの監禁ということはもっと執着じみた愛を感じるものなのかも……今のところその雰囲気はない。それどころか、婚約話を諦めている節すらある。ヒロインらしい可愛さもないし、3年間かわされてプライドが傷ついたのかも。
でもやっぱり何かひっかかる。メイドさんの話もだけど……なんというか、全体的に切迫感を感じる、というか。
明日それとなく聞いてみようか。そう思いながら疲労感に負けて目を閉じた。
――けれど、その疑いは聞くまでもなく確信に変わった。
夜中、妙な感覚に目を覚ましたわたしの目に飛び込んできたのは、歪んだ顔を浮かべるレイだった。わたしの手を自身の首元に持っていき、その上から自分の手を重ねて締め上げている。レイはどこか嬉しそうに、わたしを見下ろしていた。
11
お気に入りに追加
504
あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる