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第4章 卒業パーティー
3. 16歳の夜
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「こんばんは、レイ様」
ああー、なんで来ちゃうかな。婚約話はだいぶ落ち着いたけれど、この3年間お誘いがけっこうあった。けれどなるべく断っていたし、数回くらいしか会ってない。なのに、なんで。
「僕に来てほしくなかったって顔してますね?」
顔に出過ぎていたか。わたしは乾いた笑みを浮かべる。
「家族水いらずのパーティですもんね……僕は大人しく帰ります。ああ、身体が冷えてしまったみたいだけれど……」
レイはくしゅん、とわざとらしくくしゃみをしながら自分の馬車に向かって歩き始める。その身体を震わせる名演技っぷりに、「じゃあ早く帰ってください」と言うわけにもいかず……
「ど、どうぞ上がってください……」
と、わたしは近い未来わたしを監禁するやばいやつ筆頭を家に招き入れることとなった。
重い気持ちで家に入ると兄ナインがお出迎えに来た。いつもは嬉しいけれど今だけは全然嬉しくない。レイを見た途端兄の顔色は急変。雰囲気の違いが伝わったのか玄関に両親やメイドさんたち家族大集合。レイはこの奇妙なお出迎えにもたじろぐことなく優雅に礼をした。彼はとてつもない美青年であって、メイドさんの何人かは鼻血を出しかけた。
「僕の命の恩人であるローズさんの祝い日を、ぜひ共に過ごしたいと思いまして」
そうレイが言えば両親も顔を見合わせた。ちなみに両親はわたしがレイに婚約を迫られていることはもちろん知っていて、わたしが幸せなら、と言ってくれている。もちろんわたしは嫌だと伝えているため、この反応なのだ。ナインは憎悪を隠しきれていなかった。ジャックナイフかのように切れ味の良さそうな眼差しでレイを見ている。
もちろん監禁予備軍のレイがそんなのに表情を変えるわけもなく。水面下の争いがひどい中、彼はわたしの誕生日パーティに飛び入り参加することとなった。
……どうしよう、話題が見つからない。一応わたしが連れてきた客人だから、わたしがもてなさないといけないのだけれど。
「あ、あの……あれからレイ様は襲われたり、とか危険な目には遭っていませんか?」
絶対に質問間違えた。レイにとってあれはトラウマなはずなのに、掘り返してどうする! レイは一瞬わたしに暗い目を向けてにこりともとの王子スマイルに戻す。
「大丈夫ですよ。あんな下賤な暗殺者どもには僕は殺させないので」
いやな笑みだ。怖すぎる。もうこの話題はしないと決めた。
「そういえば、以前鍛えることが趣味、と手紙にありましたが、握力などもお強いのですか?」
「あ、まあまあですかね。少なくともご令嬢方よりは強いかと」
レイは「そうですか」と満足そうに笑う。むしろ、うっとりに近い。握力が強い女の子が好みなのだとしたら今の回答も間違えたことになる。
「殿下、我が妹ローズは少々お転婆なところもありますから……少々苦労させるかと」
兄はだいぶ濁しているけれど、つまり「ローズはやめておけ」と伝えたいのだろうと思う。わたしは兄の助け舟にぶんぶんと首を縦に振った。そうですよ、お転婆なわたしに王子の相手なんて務まりませんよ。
「ふふ、お転婆なくらいがちょうどいいと思いますよ」
だめだ。レイはにこにこと笑っている。いつもは冷静で頭のいい兄だけれど、レイと向かい合っているとレイの方が強そうな気がする。
ていうか、そろそろ足が限界になってきた。帰ってきたらすぐ脱ごうと思ったのにレイがいるせいで抜け出せない。なんとか足をもぞもぞ動かしてみると、かかとがじいんと痛んだ。
「……殿下、少し席を外させていただきます」
「お、おにいさま?」
兄がわたしを横抱きにしている。驚く暇もないままわたしは空いている部屋に連れられ、ソファに下ろされた。そのまま躊躇なく靴を脱がせてきた。
「あー、やっぱり血が出てる。靴擦れしていたならそう言わないと」
踵は血みどろになっていた。今日一日ほぼ立ちっぱなしだったし、ダンスもしたし無理もない。兄は踵に布を当ててささっと手当てをしてくれた。
「だめだよ、こんなに無理をしては」
「はあい、ごめんなさい……」
「疲れているだろうし、王子もいて面倒だし、早めにお開きにしてしまおうか」
たしかに、それならありがたい。十分お祝いはしてもらったし、家族でならいつでも美味しいご飯が食べられるからパーティを無理にやらなくてもいいのでは。それに早くレイに帰ってもらいたいし。わたしは兄に向かって「そうしましょう」と返答した。兄は「父と母に話を通してくるね」と部屋出るなり一目散に両親のもとへ行ってしまった。
それから光の速さで父がパーティの終了を宣言し、わたしが軽く挨拶をしてお開きとなった。レイは「ずいぶんと早いですね」と勘繰っていたけれど、なんとかお帰りいただいた。
「はあーー。やっと終わったー!」
お祝いされただけなのに、この疲労感。ベッドに横たわった途端一気に襲いかかってきた。とりあえず、卒業おめでとうわたし、16歳おめでとうわたし。
16になった、ということは。もう少しで乙女ゲームが始まる。
3年間でかなり強ヒロインに近づいたと思うけれど、やっぱり不安だ。それに入学前だというのにもうかなりの人数と出会っている気がする。
ナイン・アメリアは義兄だから仕方ないけれど。
兄はまたしても生徒会長になったらしく。乙女ゲームではきっと生徒会長キャラでいくのだと思う。執着がシスコン方向でやばいのか、義妹だけど恋愛をするみたいな危険な香りの方面でいくのか。どっちにしろ、普通の頼れる優しい兄でいてほしい。
ジル・ブラックウェル。彼は幼馴染ポジでいいと思う。
きっと本来あるはずだったヒロインの忘却力により、わたしは高等部に入るまでジルのことをほぼ忘れている設定だったのだと思う。けれどわたしは普通に仲良くしてしまっていて、ただの友人になりつつある。最近、シナリオ補正なのか知らないがジルが婚約話を掘り返そうとしているのが気になる。無理やり甘い空気にしたいのかもしれないけれど、ジルとはお友達でいたい。
ラギー・サンメール。本来剣術をヒロインがやるはずはないので、本編ではじめましてだったのだと思う。最近騎士団に加入したから、鍛錬しているところを見てときめいたりするはずだったのだろう。だがそれはもうない。むしろ最近のラギーは強すぎて怖い。ラギーはわたしの癒しで大切な友達だ。たぶんゲームでは明るいキャラなのだと思うけれど、少々内向的なのが心配だ。
ウィル・アドラーはサポートキャラだと踏んでいる。
高等部でお店をやっている、と言っていたから攻略対象ではないはず。すごく熱心に魔法を教えてくれるし、行くたびお菓子や紅茶が出てきて至れり尽くせりで申し訳なかったけれど、ぜひこれからも魔法を教えてほしい。
そして、レイ・ウィステリア。現時点で1番気をつけるべき相手。
今更ながら、攻略対象ならあの場で助けなくても彼は助かっていたのだと思う。助けたことを後悔しているわけではないけれど、無駄に接点を持ってしまった感が否めない。姉いわく、わたしは監禁されてしまう。どうしたら回避できるか切実に教えてほしい。お願いだから、婚約は諦めてほしい。
攻略対象だけでも4人。まだいるのかもと思うとゾッとする。
それにあの化け物『ロスト』もいるし、これからはもっと大変になるに違いない。
でも負けない。今までこのために剣も魔法も勉強も筋トレも頑張った。何があっても身は守れる。それに、可愛らしいヒロインの身体つきじゃ無くなってきたし、きっと勝手に興ざめしてくれる。
執着逆ハーを跳ね除けて、ロストもバンバン倒してやるんだから。待ってなさい、乙女ゲーム!!
ああー、なんで来ちゃうかな。婚約話はだいぶ落ち着いたけれど、この3年間お誘いがけっこうあった。けれどなるべく断っていたし、数回くらいしか会ってない。なのに、なんで。
「僕に来てほしくなかったって顔してますね?」
顔に出過ぎていたか。わたしは乾いた笑みを浮かべる。
「家族水いらずのパーティですもんね……僕は大人しく帰ります。ああ、身体が冷えてしまったみたいだけれど……」
レイはくしゅん、とわざとらしくくしゃみをしながら自分の馬車に向かって歩き始める。その身体を震わせる名演技っぷりに、「じゃあ早く帰ってください」と言うわけにもいかず……
「ど、どうぞ上がってください……」
と、わたしは近い未来わたしを監禁するやばいやつ筆頭を家に招き入れることとなった。
重い気持ちで家に入ると兄ナインがお出迎えに来た。いつもは嬉しいけれど今だけは全然嬉しくない。レイを見た途端兄の顔色は急変。雰囲気の違いが伝わったのか玄関に両親やメイドさんたち家族大集合。レイはこの奇妙なお出迎えにもたじろぐことなく優雅に礼をした。彼はとてつもない美青年であって、メイドさんの何人かは鼻血を出しかけた。
「僕の命の恩人であるローズさんの祝い日を、ぜひ共に過ごしたいと思いまして」
そうレイが言えば両親も顔を見合わせた。ちなみに両親はわたしがレイに婚約を迫られていることはもちろん知っていて、わたしが幸せなら、と言ってくれている。もちろんわたしは嫌だと伝えているため、この反応なのだ。ナインは憎悪を隠しきれていなかった。ジャックナイフかのように切れ味の良さそうな眼差しでレイを見ている。
もちろん監禁予備軍のレイがそんなのに表情を変えるわけもなく。水面下の争いがひどい中、彼はわたしの誕生日パーティに飛び入り参加することとなった。
……どうしよう、話題が見つからない。一応わたしが連れてきた客人だから、わたしがもてなさないといけないのだけれど。
「あ、あの……あれからレイ様は襲われたり、とか危険な目には遭っていませんか?」
絶対に質問間違えた。レイにとってあれはトラウマなはずなのに、掘り返してどうする! レイは一瞬わたしに暗い目を向けてにこりともとの王子スマイルに戻す。
「大丈夫ですよ。あんな下賤な暗殺者どもには僕は殺させないので」
いやな笑みだ。怖すぎる。もうこの話題はしないと決めた。
「そういえば、以前鍛えることが趣味、と手紙にありましたが、握力などもお強いのですか?」
「あ、まあまあですかね。少なくともご令嬢方よりは強いかと」
レイは「そうですか」と満足そうに笑う。むしろ、うっとりに近い。握力が強い女の子が好みなのだとしたら今の回答も間違えたことになる。
「殿下、我が妹ローズは少々お転婆なところもありますから……少々苦労させるかと」
兄はだいぶ濁しているけれど、つまり「ローズはやめておけ」と伝えたいのだろうと思う。わたしは兄の助け舟にぶんぶんと首を縦に振った。そうですよ、お転婆なわたしに王子の相手なんて務まりませんよ。
「ふふ、お転婆なくらいがちょうどいいと思いますよ」
だめだ。レイはにこにこと笑っている。いつもは冷静で頭のいい兄だけれど、レイと向かい合っているとレイの方が強そうな気がする。
ていうか、そろそろ足が限界になってきた。帰ってきたらすぐ脱ごうと思ったのにレイがいるせいで抜け出せない。なんとか足をもぞもぞ動かしてみると、かかとがじいんと痛んだ。
「……殿下、少し席を外させていただきます」
「お、おにいさま?」
兄がわたしを横抱きにしている。驚く暇もないままわたしは空いている部屋に連れられ、ソファに下ろされた。そのまま躊躇なく靴を脱がせてきた。
「あー、やっぱり血が出てる。靴擦れしていたならそう言わないと」
踵は血みどろになっていた。今日一日ほぼ立ちっぱなしだったし、ダンスもしたし無理もない。兄は踵に布を当ててささっと手当てをしてくれた。
「だめだよ、こんなに無理をしては」
「はあい、ごめんなさい……」
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たしかに、それならありがたい。十分お祝いはしてもらったし、家族でならいつでも美味しいご飯が食べられるからパーティを無理にやらなくてもいいのでは。それに早くレイに帰ってもらいたいし。わたしは兄に向かって「そうしましょう」と返答した。兄は「父と母に話を通してくるね」と部屋出るなり一目散に両親のもとへ行ってしまった。
それから光の速さで父がパーティの終了を宣言し、わたしが軽く挨拶をしてお開きとなった。レイは「ずいぶんと早いですね」と勘繰っていたけれど、なんとかお帰りいただいた。
「はあーー。やっと終わったー!」
お祝いされただけなのに、この疲労感。ベッドに横たわった途端一気に襲いかかってきた。とりあえず、卒業おめでとうわたし、16歳おめでとうわたし。
16になった、ということは。もう少しで乙女ゲームが始まる。
3年間でかなり強ヒロインに近づいたと思うけれど、やっぱり不安だ。それに入学前だというのにもうかなりの人数と出会っている気がする。
ナイン・アメリアは義兄だから仕方ないけれど。
兄はまたしても生徒会長になったらしく。乙女ゲームではきっと生徒会長キャラでいくのだと思う。執着がシスコン方向でやばいのか、義妹だけど恋愛をするみたいな危険な香りの方面でいくのか。どっちにしろ、普通の頼れる優しい兄でいてほしい。
ジル・ブラックウェル。彼は幼馴染ポジでいいと思う。
きっと本来あるはずだったヒロインの忘却力により、わたしは高等部に入るまでジルのことをほぼ忘れている設定だったのだと思う。けれどわたしは普通に仲良くしてしまっていて、ただの友人になりつつある。最近、シナリオ補正なのか知らないがジルが婚約話を掘り返そうとしているのが気になる。無理やり甘い空気にしたいのかもしれないけれど、ジルとはお友達でいたい。
ラギー・サンメール。本来剣術をヒロインがやるはずはないので、本編ではじめましてだったのだと思う。最近騎士団に加入したから、鍛錬しているところを見てときめいたりするはずだったのだろう。だがそれはもうない。むしろ最近のラギーは強すぎて怖い。ラギーはわたしの癒しで大切な友達だ。たぶんゲームでは明るいキャラなのだと思うけれど、少々内向的なのが心配だ。
ウィル・アドラーはサポートキャラだと踏んでいる。
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そして、レイ・ウィステリア。現時点で1番気をつけるべき相手。
今更ながら、攻略対象ならあの場で助けなくても彼は助かっていたのだと思う。助けたことを後悔しているわけではないけれど、無駄に接点を持ってしまった感が否めない。姉いわく、わたしは監禁されてしまう。どうしたら回避できるか切実に教えてほしい。お願いだから、婚約は諦めてほしい。
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でも負けない。今までこのために剣も魔法も勉強も筋トレも頑張った。何があっても身は守れる。それに、可愛らしいヒロインの身体つきじゃ無くなってきたし、きっと勝手に興ざめしてくれる。
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