19 / 66
第3章 魔法合宿
6. あと2年
しおりを挟む
兄がよれよれになって帰ってきた魔法合宿だが、まさか本当にボロボロになって帰ってくることになるとは。
事件は秘密裏に片付けられたらしいけれど、さすがにお楽しみ会をやっている場合ではなかったのか全員解散となった。
わたしはあれからほぼ丸一日寝ていたらしい。後で診にきた医者がかなり危ない状態だったと言っていた。あの短時間で魔力の消費量がすごかったらしい。厳重注意された。そのあと眠るわたしを両親とナインが連れ帰ったらしい。帰宅して目が覚めたばかりのわたしは両親に抱きしめられて、それからみっちり危ないことをしないでと怒られた。母いわく、ナインが夜中急に「ローズが危ないかも」と騒ぎ出したらしく、急遽使いと兵を出したらしい。そのまま事件の犯人を素早く捕縛し事件解決に尽力したのだとか。おにいさまの妹センサー、怖すぎる。驚異の的中ではないか。
「でもまさか、ローズがそんな危ないものに襲われるなんて……」
もちろん事件のあらましは関係者のわたし、家族にも伝わっていた。両親は黒いモノ『ロスト』の存在を知っていたけれど兄は知らない。それもそのはずで本来、『ロスト』の存在を知るのは高等部に入ってからだ。兄が知るはずもなく。
兄は話を聞くなり、ずっとこの調子だ。ロストへの恨みを吐き、自らも反省する。ぶつぶつとまるで呪詛のよう。すると呪咀吐きの兄がへらりと笑って何かを差し出してきた。
「で、これは何? どうして急に求婚なんかされてるのかな」
兄が見せてきたのは、レイから届いた手紙。主に求婚のセリフばかりが書き連ねられている。ちなみに3日連続。まだ返事を書けるほど回復していない、と伝えてもらってなんとか返事を先延ばしている。兄にバレたら面倒そうだったから黙っていたのに。
「その、助けたときに一目惚れした、とのことで……でも、わたしはお断りするつもりです、釣り合いませんし」
「相手は王族なんだよ? それが通用すると思う?」
……思わない。
監禁してくるやばいやつだと分かっている以上、絶対に婚約だけはまずい。でも監禁するという思考回路を持つ相手に今の言い分が通用するのだろうか。本当に、面倒な人に好かれてしまった。手錠をつけられて、暗い部屋に閉じ込められる……監禁を想像してみる。そんな生活、考えただけでおかしくなる。
「なんとか説得します。きっと、今は助けられたのを好意と勘違いしているんだと思うんです」
吊橋効果のように。ピンチを救われたら、その救ってくれた相手を一生慕うだろう、たぶんその感覚なのだと思う。そう信じたい。
「……王子と結婚すれば今まで以上に贅沢な暮らしができるんだよ? なんでもできるよ?」
「いえ、たぶん今までより質素になりますよ」
即答した。だって監禁されるから。自由なんてないも同然。自由がないなら贅沢だって意味がない。
兄は少し驚いたようにわたしを見た。普通の女の子なら泣いて喜ぶところだと思う。正直、兄が賛成っぽい質問を投げかけてくるとは思わなかった。
「ローズが婚約する気がないなら、僕はそれでいいと思うよ。愛のない結婚だなんて、嫌だよね」
兄は満足げに笑っている。
兄が愛のある結婚にこだわっているのは、おそらく両親が貴族には珍しい恋愛結婚だからだろう。といっても、両親の身分はほぼ差がなかったので逆境を乗り越えた、とかではないけれど。そのせいなのか、両親は恋愛に対してやたらガバガバ判定だ。兄に婚約者を強要することはないし、わたしはジルを薦められてはいるけれど、わたしが本当に好きな人ができたらそちらとの結婚を認めてくれるはず。そして、おそらくだけど、ナインとそういう雰囲気になったとしてもオッケーを出すと思う。
わたしは返事を書いてきます、と自室へ戻ったのだった。
***
あれからすぐ復活して学園に通っているけれど。
わたしは大きくため息をついていた。ため息の理由は主に2つ。
「アメリア様、ごきげんよう」
「ふふ、ごきげんよう」
通り過ぎていくご令嬢たちにわたしはへらりと笑顔を浮かべた。
魔法合宿のときの試験は見事、学年1位を収め、わたしはそれから才女として知れ渡った。初めは嬉しかったけれど媚びてくる子も多いため少し疲れてしまう。もちろん、妬み嫉みの対象にもなるわけで。
「まーた王子から求婚されたのか?」
「ああ、おはようございます、ジル様。そうなんですよ……」
何度も断っておるけれど、レイは手紙を送り続けてくるし、お誘いなどもすごい。わたしは監禁されたくないから、なんとか理由をつけてのらりくらり交わしているけれど。
ジルはわたしの顔を覗き込んでしたり顔だ。わたしが困っているのを見るのが楽しいのか、ジルはレイから求婚があって断るのが大変だ、と伝えるごとに喜んでいる。
「ま、レイ王子が学園に通ってくるまであと2年もあるしな。それまでには諦めてくれるんじゃねーの?」
「そうだといいんですけどね……」
「それまでに、俺もやることいっぱいあるしな」
王族は、つまりレイは高等部から学園に通うことになっている。今は家庭教師なのだと手紙に書いてあった。
ジルは最近やることが山積みだと頻繁に言う。それが何かは教えてくれないけれど、彼も公爵を継ぐのだからそれなりにやることが多いのだろうと深く追及しないことにしている。
高等部入学まで、あと2年。
それまでに自他共に認める強いヒロインになって、執着逆ハーに備えなければ。
事件は秘密裏に片付けられたらしいけれど、さすがにお楽しみ会をやっている場合ではなかったのか全員解散となった。
わたしはあれからほぼ丸一日寝ていたらしい。後で診にきた医者がかなり危ない状態だったと言っていた。あの短時間で魔力の消費量がすごかったらしい。厳重注意された。そのあと眠るわたしを両親とナインが連れ帰ったらしい。帰宅して目が覚めたばかりのわたしは両親に抱きしめられて、それからみっちり危ないことをしないでと怒られた。母いわく、ナインが夜中急に「ローズが危ないかも」と騒ぎ出したらしく、急遽使いと兵を出したらしい。そのまま事件の犯人を素早く捕縛し事件解決に尽力したのだとか。おにいさまの妹センサー、怖すぎる。驚異の的中ではないか。
「でもまさか、ローズがそんな危ないものに襲われるなんて……」
もちろん事件のあらましは関係者のわたし、家族にも伝わっていた。両親は黒いモノ『ロスト』の存在を知っていたけれど兄は知らない。それもそのはずで本来、『ロスト』の存在を知るのは高等部に入ってからだ。兄が知るはずもなく。
兄は話を聞くなり、ずっとこの調子だ。ロストへの恨みを吐き、自らも反省する。ぶつぶつとまるで呪詛のよう。すると呪咀吐きの兄がへらりと笑って何かを差し出してきた。
「で、これは何? どうして急に求婚なんかされてるのかな」
兄が見せてきたのは、レイから届いた手紙。主に求婚のセリフばかりが書き連ねられている。ちなみに3日連続。まだ返事を書けるほど回復していない、と伝えてもらってなんとか返事を先延ばしている。兄にバレたら面倒そうだったから黙っていたのに。
「その、助けたときに一目惚れした、とのことで……でも、わたしはお断りするつもりです、釣り合いませんし」
「相手は王族なんだよ? それが通用すると思う?」
……思わない。
監禁してくるやばいやつだと分かっている以上、絶対に婚約だけはまずい。でも監禁するという思考回路を持つ相手に今の言い分が通用するのだろうか。本当に、面倒な人に好かれてしまった。手錠をつけられて、暗い部屋に閉じ込められる……監禁を想像してみる。そんな生活、考えただけでおかしくなる。
「なんとか説得します。きっと、今は助けられたのを好意と勘違いしているんだと思うんです」
吊橋効果のように。ピンチを救われたら、その救ってくれた相手を一生慕うだろう、たぶんその感覚なのだと思う。そう信じたい。
「……王子と結婚すれば今まで以上に贅沢な暮らしができるんだよ? なんでもできるよ?」
「いえ、たぶん今までより質素になりますよ」
即答した。だって監禁されるから。自由なんてないも同然。自由がないなら贅沢だって意味がない。
兄は少し驚いたようにわたしを見た。普通の女の子なら泣いて喜ぶところだと思う。正直、兄が賛成っぽい質問を投げかけてくるとは思わなかった。
「ローズが婚約する気がないなら、僕はそれでいいと思うよ。愛のない結婚だなんて、嫌だよね」
兄は満足げに笑っている。
兄が愛のある結婚にこだわっているのは、おそらく両親が貴族には珍しい恋愛結婚だからだろう。といっても、両親の身分はほぼ差がなかったので逆境を乗り越えた、とかではないけれど。そのせいなのか、両親は恋愛に対してやたらガバガバ判定だ。兄に婚約者を強要することはないし、わたしはジルを薦められてはいるけれど、わたしが本当に好きな人ができたらそちらとの結婚を認めてくれるはず。そして、おそらくだけど、ナインとそういう雰囲気になったとしてもオッケーを出すと思う。
わたしは返事を書いてきます、と自室へ戻ったのだった。
***
あれからすぐ復活して学園に通っているけれど。
わたしは大きくため息をついていた。ため息の理由は主に2つ。
「アメリア様、ごきげんよう」
「ふふ、ごきげんよう」
通り過ぎていくご令嬢たちにわたしはへらりと笑顔を浮かべた。
魔法合宿のときの試験は見事、学年1位を収め、わたしはそれから才女として知れ渡った。初めは嬉しかったけれど媚びてくる子も多いため少し疲れてしまう。もちろん、妬み嫉みの対象にもなるわけで。
「まーた王子から求婚されたのか?」
「ああ、おはようございます、ジル様。そうなんですよ……」
何度も断っておるけれど、レイは手紙を送り続けてくるし、お誘いなどもすごい。わたしは監禁されたくないから、なんとか理由をつけてのらりくらり交わしているけれど。
ジルはわたしの顔を覗き込んでしたり顔だ。わたしが困っているのを見るのが楽しいのか、ジルはレイから求婚があって断るのが大変だ、と伝えるごとに喜んでいる。
「ま、レイ王子が学園に通ってくるまであと2年もあるしな。それまでには諦めてくれるんじゃねーの?」
「そうだといいんですけどね……」
「それまでに、俺もやることいっぱいあるしな」
王族は、つまりレイは高等部から学園に通うことになっている。今は家庭教師なのだと手紙に書いてあった。
ジルは最近やることが山積みだと頻繁に言う。それが何かは教えてくれないけれど、彼も公爵を継ぐのだからそれなりにやることが多いのだろうと深く追及しないことにしている。
高等部入学まで、あと2年。
それまでに自他共に認める強いヒロインになって、執着逆ハーに備えなければ。
6
お気に入りに追加
498
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。
「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」
黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。
「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」
大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。
ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。
メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。
唯一生き残る方法はただ一つ。
二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。
ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!?
ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー!
※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。
作者のめーめーです!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

フィジカル系令嬢が幸せを掴むまで~助けた年下王子からの溺愛~
ナカジマ
恋愛
【完結済み】
レアル王国オーレルム辺境伯領、そこは魔物が生息する大森林を監視し魔物から王国を守る要所である。そこで生活している辺境伯家の令嬢エストリアは、ちょっとだけ、他の人より少し、フィジカルに頼って生きて来た女性だ。武の名門であるオーレルム家では、力こそ全てであり民を守ってこそ貴族だと考えられて来た。それ故に致し方ない部分はあれど、他のご令嬢に比べれば随分と勇ましく逞しい所がある。そんなエストリアが趣味の遠乗りに出掛けた先で、怪しい者達に襲われている馬車を見つける。正義感が強いエストリアは当然加勢するが、なんとその馬車に乗っていたのは庇護を求めてオーレルム領にやって来た王国の第3王子。助けに入った事で知り合いになった王子と一緒に生活する事になり、気がつけば婚約を申し込まれてしまった。ちょっと(?)脳筋なご令嬢エストリアは、立派なお嫁さんになれるのか!?

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる