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第3章 魔法合宿

3. 秘密の場所

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「アメリアさん、だいぶ魔法のコントロールが上手くなりましたね!」

 わたしは今、先生に披露した魔法を褒められている。
 魔法合宿も6日目となっていた。実技に、試験勉強と毎日とても忙しかったけれどそれも明日で終わり。最終日は軽くお楽しみ会のようなことをして解散となるらしいから、実質今日が山場。
 午前中の今は魔法の実技テストが行われていた。学園側もわたしが白魔法陣の生徒だと把握していて、教師陣から結構心配されていたらしい。
 まず困ったらウィルに指南してもらっていたし、それでも分からなかったらジルやラギーに尋ねたり(ジルには馬鹿にされるのであまり乗り気ではなかったけれど)、兄に尋ねていた。だからあまり心配されるほどではなかった。
 一つ言えば、兄はわたしが頼るのが嬉しいらしく、一つの質問に対して2時間くらいの勢いで応対してくるので嬉しいけれどぶっちゃけ面倒だった。けれど、努力が報われた感じがとっても嬉しい。クラスメイトからも一躍羨望の的だ。うんうん良い調子。兄がくれた杖が非常に性能がいいのもあるかもしれない。先生いわく、魔法の耐性にも優れていてとてもいいものらしい。さすがおにいさまだ。
 わたしは杖を見てふふ、とほくそ笑んだのだった。


 午後の試験は、正直言えばものすごく簡単だった。
 やはり1年間前もって勉強したことがよかったのだと思う。前世の記憶があるからこその倫理観やゲーオタ要素も多少影響しているだろう。なんにせよ、結果が期待できる。これは学年1位も夢ではないかもしれない。一日中笑みが止まらない。強ヒロインへの道は間違いなく開けている。
 ……そんな興奮もあってか、わたしは全く寝付けず、ひっそりとロッジを抜け出して裏の森を歩いていた。先日肝試しという名のハイキングをしたとき、裏の森を少し歩いていったところに少し開けた場所があることを覚えていた。大きな岩もあったから、そこで座って少しこの興奮を冷まそう。

「…………げ、ジル様?」

 わたしが座る予定だった岩にはすでに先客が寝転がっていた。ジルは身体を起こしてわたしを見る。

「……来たなら座れば」
「あ、じゃあお言葉に甘えて……」

 どうやら座る場所を開けてくれたらしく、わたしは横にちょこんと腰掛ける。なるべく場所は取らないようにした。

「ジル様はこんな夜遅くにどうしたんですか?」
「別に。そっくりそのままお前に返すわ、その質問」
「わたしはちょっと寝付けなくて。……ラギーは?」
「寝てる。あいつ部屋戻った瞬間寝たわ」
「はは、試験勉強もしてましたし限界だったんですかね」

 当たり障りのない話をして、すぐに話題がストップした。普段2人で話すこともあるし、それなりに人となりを知っているつもりだけど、どうしてか話題が出ない。ジルはジルでぼーっとしているので、特に話す必要もないか、とわたしは視線を上へ向ける。

「すごい、ここ星空がよく見える……」

 夜空いっぱいに星が煌めいている。視界を遮るものもなく、辺りは木々ばかりだから静かで落ち着く。空気もとても澄んでいて心地いい。

「ここ、前に父親から聞いててさ。来たらこれを見に来ようと思ってた」

 この場所はお忍びで来た貴族たちにもあまり知られていないらしい。言わば秘密の場所。だからジルは「まさかお前がくるとはな」と少し驚いたようだった。

「前々から思ってたけど、お前ってなんかぶっ飛んでるよな。女なのに剣を習って魔法も貪欲に習得しにいって。どうでもいいことでも笑って……俺はお前が何考えてんのか分からない」
「普段からそんな小難しいこと考えてるんですか?」

 反射的にそう答えていた。ジルはぽかんとわたしを見ている。きっと返答を間違えた。ていうか、ジルは心でも読もうと思っているのだろうか。普段から何かしら真意を探られていたのだとしたら少し怖い。

「何を考えているか分からないから楽しいんじゃないですか? ていうか、わたしなんて大したこと考えてませんよ」
「は? そんなことないだろ、何か理由があってやってるんだろ」

 なぜそんなにキレ気味なんだ。ジルはわたしを探るように見ている。「あなたたちの執着から逃れたいんです!」とは言い難い。

「強くなりたいから、ですかね。剣も魔法も勉強も全部1番になれるくらいの勢いでって……ね、大したことないでしょう?」

 ジルはしばらく目を瞬かせていた。びっくりするほど脳筋っぽい返事にきっと困っているに違いない。おそらく、次に出てくる言葉は「馬鹿じゃねーの」とか「なんだそれ」的な感じだろうな。けらけら笑うんでしょ、とじろりとジルを見れば、ジルはオレンジの瞳を真っ直ぐこちらへ向けていた。

「…………なんか、お前の顔、よく見えるわ」
「遠視だったんですか?」
「ちげーよ、馬鹿。ほらもう戻って寝ろよ」

 ジルはそのままわたしをぐいっと押しこくって、わたしは岩から転げるように降りた。もしいつもの照れで目が悪いことを言えていないなら、メガネをプレゼントしてあげた方がいいかもしれない。
 杖を灯り代わりに照らしながら来た道を戻っていく。
 ふいに奥でガサガサと音がした。風は吹いていないけれど。ホラーゲームとかだとこういう物音を聞くことが大事なのよね……となんとなく灯りを消した。その次の瞬間、ほぼ目の前を人影が走り去って行った。この時間に徒競走でもやってるの? とでもいうようなレベルの速さ。なのに異様に物音は少ない。しかも何か小脇に抱えていた。それも割と大きなもの。
 ここは貴族、王族御用達のロッジ。金品が置き忘れてあってもおかしくはない。

「もしかして、泥棒……?」

 そう判断すると同時にわたしは駆け出していた。
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