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第1章 執着逆ハーに備えて
4. 背筋が凍るような
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剣術訓練2日目。
ヒロインの体はどうやら慣れるのが早いらしい。もう昨日の筋肉痛はなくなっていた。
今日はトーナメント式の試合がある。わたしは母との「3位以内に入る」という約束を思い出して意気込んでいると、ラギーが声をかけてきた。
「お互い勝ち進んだら、準決であたるな!」
「負ける気なし、だね。ちゃんと上がってきてよ?」
「ローズこそ!」
……というのが30分前ほどの出来事。煽りが効いたのか、わたしもラギーも見事準決であたることとなった。
「なんか緊張でもしてる? 身体固いよー!」
「してない!」
わたしはラギーから間合いをとる。今までの相手と比べたら遥かに強い。すばしっこくて一回一回の打撃が重い。
ゲーム風に例えるなら……このフィールド内にはオブジェクトがたくさん置かれているのだが。
「……パ、パルクール?」
そう、ラギーの動きはまさにそれだった。いつぞやにテレビで見た凄技のよう。あまりにも身体能力が高すぎて、わたしは驚くばかりだ。それでいてあんなに余裕そうにニコニコしている。わたしはというと、オブジェクトの影に隠れている。ここはラギーからしたら死角になっているはずだからもう少し呼吸を整えて――
「みーっけ!」
一瞬で背筋が凍った。振り返って咄嗟に攻撃をかわしたものの、気がつけばわたしは完璧にラギーの間合いに入っていて。わたしは昨日習ったことをよく思い出しながら、剣を構え直す。ゲームのように技を繰り出せないのがもどかしいけれど、今できることは精一杯振り下ろす打撃のみ。わたしはほぼ捨て身でラギーに向かって突進した。3連攻撃なら、攻撃ごとに威力が上がる。一度目は避けられてしまったけれど、2度目は攻撃が通った。
このままもう一度……しかしわたしの剣はラギーの剣に弾かれてしまった。そのまま受け身が取りきれず、わたしはだいぶ不恰好な形でフィニッシュした。
「ローズ、大丈夫か!?」
「うん、大丈夫。ラギー強くてびっくりしちゃった」
「へへっ、ローズと試合すんのめっちゃ楽しかった!」
ラギーは自然な流れでわたしを助け起こした。負けたのは悔しいけれど、わたしも剣で戦える。そう思うと嬉しかった。
その後、3位決定戦に回ったわたしは圧勝し、ラギーも手こずることなく1位に収まっていた。
こうして2日間の剣術訓練は無事終わった。
***
アメリア家に帰宅すると、奥のリビングから「おおおん」と大の男の泣き喚く声が。入る家、間違えたかな。
苦笑いをしていると、ドタドタと父が走ってくる。その後ろからものすごい勢いで兄のナインが追い上げてくる。50メートル走だったら5秒くらいか。
「おかえり、ローズ。どうして何も言わないで行ってしまうんだい!?」
「お母様には許可をもらったので……」
「どこか怪我はない? 僕に見せて」
「擦り傷は少し……」
父に抱きつかれるやら、兄には怪我のチェックをされるやらでわたしは一歩も玄関から動けない。少し後ろで様子を見守っていた母が「どうだった?」と聞いてきたので、わたしは3位の証の銅のバッジを見せた。母はにっこりと嬉しそうだ。
「まさか、あの難しいと言われている剣術訓練の試合で3位をとってきたのかい……?」
「え、そうですが……」
「さっすがローズだなぁー!!」
難しかったのか……ラギーが規格外すぎて、難しいも何も感じなかった。やっぱり彼もれっきとした攻略対象、ということなのか……
感動で騒ぐ父を見ていられなくなったのか、母が連行していった。ようやく静かになった玄関にはわたしとナインの2人だけだ。
「傷、どうでしたか?」
「酷くはないようだけど、治してもいいかな?」
わたしが頷くと、ナインは手のひらサイズの杖を取り出した。ディティールの細かい杖だ。思わず目を煌めかせてしまう。わたしの腕には酷くはないものの、意外と目につく擦り傷がある。ナインがそれに杖を向けると、ぽうっと温かくなって擦り傷が消えた。
「それって上級魔法の回復魔法ですよね?」
「うん。よく知っているね。最近よく魔法書を読んでいるからかな?」
「はい。でも使えるようになるには時間がかかると書いてあったので、びっくりしました」
「ふふ、ローズもコツを覚えればすぐにできるよ。困ったら僕が教えてあげる」
基本は自分で頑張ろうと思う。頼りすぎてしまったらどうなってしまうか分からないし。
「ローズ、なんだか最近変わったね」
「え、あ、そんなことないですよー」
兄の鋭さに狼狽えてしまった。 たしかに、妹が急に剣やら魔法やらに興味を持ち出したのだからびっくりするに決まっている。
「ようやくやりたいなって思えることが見つかった……というか。わたしも早くおにいさまみたいに魔法も使いこなせるようになりたいので!」
ナインは「そっか」と微笑むと、ポンっとわたしの頭を撫でた。けっこう照れくさい。
「帰ってきたばかりで疲れてるでしょ。向こうにお茶とお菓子を用意してあるよ」
「本当ですか! 行きます!」
運動後のお菓子はもう最高で。
パクパクとお菓子を放り込むわたしをにこにこと見守っていた兄に「これからどんなことをするつもりなの?」と尋ねられ、わたしはラギーとの会話を思い出していた。負けてしまった後、「普段どんなトレーニングをしているの?」と聞いた答えだ。
「ひとまず、明日からは馬車に立って乗ります!」
……これに兄が吹き出したのは言うまでもなくて。
ヒロインの体はどうやら慣れるのが早いらしい。もう昨日の筋肉痛はなくなっていた。
今日はトーナメント式の試合がある。わたしは母との「3位以内に入る」という約束を思い出して意気込んでいると、ラギーが声をかけてきた。
「お互い勝ち進んだら、準決であたるな!」
「負ける気なし、だね。ちゃんと上がってきてよ?」
「ローズこそ!」
……というのが30分前ほどの出来事。煽りが効いたのか、わたしもラギーも見事準決であたることとなった。
「なんか緊張でもしてる? 身体固いよー!」
「してない!」
わたしはラギーから間合いをとる。今までの相手と比べたら遥かに強い。すばしっこくて一回一回の打撃が重い。
ゲーム風に例えるなら……このフィールド内にはオブジェクトがたくさん置かれているのだが。
「……パ、パルクール?」
そう、ラギーの動きはまさにそれだった。いつぞやにテレビで見た凄技のよう。あまりにも身体能力が高すぎて、わたしは驚くばかりだ。それでいてあんなに余裕そうにニコニコしている。わたしはというと、オブジェクトの影に隠れている。ここはラギーからしたら死角になっているはずだからもう少し呼吸を整えて――
「みーっけ!」
一瞬で背筋が凍った。振り返って咄嗟に攻撃をかわしたものの、気がつけばわたしは完璧にラギーの間合いに入っていて。わたしは昨日習ったことをよく思い出しながら、剣を構え直す。ゲームのように技を繰り出せないのがもどかしいけれど、今できることは精一杯振り下ろす打撃のみ。わたしはほぼ捨て身でラギーに向かって突進した。3連攻撃なら、攻撃ごとに威力が上がる。一度目は避けられてしまったけれど、2度目は攻撃が通った。
このままもう一度……しかしわたしの剣はラギーの剣に弾かれてしまった。そのまま受け身が取りきれず、わたしはだいぶ不恰好な形でフィニッシュした。
「ローズ、大丈夫か!?」
「うん、大丈夫。ラギー強くてびっくりしちゃった」
「へへっ、ローズと試合すんのめっちゃ楽しかった!」
ラギーは自然な流れでわたしを助け起こした。負けたのは悔しいけれど、わたしも剣で戦える。そう思うと嬉しかった。
その後、3位決定戦に回ったわたしは圧勝し、ラギーも手こずることなく1位に収まっていた。
こうして2日間の剣術訓練は無事終わった。
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アメリア家に帰宅すると、奥のリビングから「おおおん」と大の男の泣き喚く声が。入る家、間違えたかな。
苦笑いをしていると、ドタドタと父が走ってくる。その後ろからものすごい勢いで兄のナインが追い上げてくる。50メートル走だったら5秒くらいか。
「おかえり、ローズ。どうして何も言わないで行ってしまうんだい!?」
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父に抱きつかれるやら、兄には怪我のチェックをされるやらでわたしは一歩も玄関から動けない。少し後ろで様子を見守っていた母が「どうだった?」と聞いてきたので、わたしは3位の証の銅のバッジを見せた。母はにっこりと嬉しそうだ。
「まさか、あの難しいと言われている剣術訓練の試合で3位をとってきたのかい……?」
「え、そうですが……」
「さっすがローズだなぁー!!」
難しかったのか……ラギーが規格外すぎて、難しいも何も感じなかった。やっぱり彼もれっきとした攻略対象、ということなのか……
感動で騒ぐ父を見ていられなくなったのか、母が連行していった。ようやく静かになった玄関にはわたしとナインの2人だけだ。
「傷、どうでしたか?」
「酷くはないようだけど、治してもいいかな?」
わたしが頷くと、ナインは手のひらサイズの杖を取り出した。ディティールの細かい杖だ。思わず目を煌めかせてしまう。わたしの腕には酷くはないものの、意外と目につく擦り傷がある。ナインがそれに杖を向けると、ぽうっと温かくなって擦り傷が消えた。
「それって上級魔法の回復魔法ですよね?」
「うん。よく知っているね。最近よく魔法書を読んでいるからかな?」
「はい。でも使えるようになるには時間がかかると書いてあったので、びっくりしました」
「ふふ、ローズもコツを覚えればすぐにできるよ。困ったら僕が教えてあげる」
基本は自分で頑張ろうと思う。頼りすぎてしまったらどうなってしまうか分からないし。
「ローズ、なんだか最近変わったね」
「え、あ、そんなことないですよー」
兄の鋭さに狼狽えてしまった。 たしかに、妹が急に剣やら魔法やらに興味を持ち出したのだからびっくりするに決まっている。
「ようやくやりたいなって思えることが見つかった……というか。わたしも早くおにいさまみたいに魔法も使いこなせるようになりたいので!」
ナインは「そっか」と微笑むと、ポンっとわたしの頭を撫でた。けっこう照れくさい。
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「本当ですか! 行きます!」
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