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第九話 木曜日(二)
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授業の合間には十分間の休憩時間がある。この時間を使って次の授業の準備や移動を行うのだが、今は男子と女子で別れて愚痴大会が開かれている。
僕はと言うと、小平さんを始めとした席が近いメンバーで話し始めている。
「いやー修羅場ですな」
「醜い」
宮川さんと小平さんがそんなことを言っている。醜いって小平さんの口から出るとは思わなかった。
「七草君はどーなると思う? この泥沼の結末は」
「んー。女子の方がしっかり考えられててイメージしやすいよね。でも男子の方はロマンがあるし同じ男として気持ちは分かるしね」
計画的な女子と、勢いの男子って感じ。どっちになっても悪くないと思うんだけどな。
ふと男子のグループの方を見たら健太と目があった。すぐに健太は僕のいる方に走ってきた。
「渚冴助けて、あいつら本気でメイド喫茶以外拒否するっぽい」
健太はため息をついた。空いている椅子がないから窓から落ちないように付けられている銀色のポールに寄りかかっている。
「男子はマジなんだー、女子も引かないと思うけどね」
「今日決まんねーなこりゃ。委員長も可哀想だよな」
確かに。本来出た意見をまとめて、ただの言い合いにならないように仕切るのが仕事のはずが出来ていない。だからこんな小学生がするような話し合いになってしまっている。
「役立たずですみません……」
小平さんの席の近くに委員長が立っていた。いや気づかなかった。
「いやいや、うちらも何もせず聞いてるだけだしこっちこそ何も出来なくてごめん」
「小平さん優しすぎ! 見た目怖いけど好き」
一瞬小平さんの目がピクッと動いたけど気のせいだということにしておこう。それにしても委員長本人を前にあんなこと言えるんだ。ちょっと尊敬する。
「はぁ、今日は進展なさそうだし本読んでてもいいかな?」
前言撤回。この人ちょっと変わってるだけだきっと。
「副委員長が書記頑張ってるんだから頑張ろうよー」
「あの人黒板に字書くのが好きなだけだよ。話なんて何も聞いてなかったもん」
なんでこの二人がクラス委員なんだろう。人選ミスってますやん……。
「なぁ渚冴、お前なんか解決策とかない? このままだとどっちやることになってもクラスの雰囲気やばいし」
そこだよね。片方選ばれれば片方は選ばれないわけだから、メイドじゃないならやらないとかパンケーキじゃないならやらないってなるのが一番最悪なパターン。
つまり双方納得できる案を出すことが必要なわけだ。朝宮川さんと小平さんと話したことを思い出す。その後僕なりに調べて、メイド喫茶でもパンケーキが出るお店もあるみたいだ。萌え萌えキュンはオムライス限定なイメージがあったけど、そんなこともないらしい。委員長もここにいるし、こっそり提案してみようかな。
そして僕はこっそり今いるメンバーに頭の中にある構想を話してみた。委員長はそれだ! って言うと教壇の方に走って行ってしまったが、ちょうど授業開始のチャイムが鳴った。え、僕これ皆んなの前で発言とか無いよね……?
教壇に立っている委員長と目が合った。なぜかウインクされたんだけど、嫌な予感しかしない。
「話し合いを再開する前に少しいいですかー? さっきの休憩時間にとても良い案が出ましたので本人の口から直接言ってもらおうかと! 七草君お願いします!」
全員の視線が僕に集まる。さっき話していた人たちからは期待の眼差しを。さっき言い合ってたボス達からは何やお前引っ込んでろって睨まれていて、それ以外の人たちからは心配そうな目で見られている。こうなるのが分かってたからこっそり言ったのに。
一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。それでも足は少し震えているけど、ここで言わなければループが終わらないから。
「えっと。男子はメイド喫茶がやれれば提供するメニューにこだわりとかは無いんだよね?」
男子のボスが席を立って答える。
「ああ、別にオムライスにこだわりはねぇよ」
やっぱオムライスが定番なんだ……。
「女子の方は、パンケーキがやりたいのと、コスプレするなら男子も何かしてほしいんだよね?」
女子のボスも同じように立って答えた。
「そ。女子だけは平等じゃ無いし」
男子はとにかくメイド喫茶がやりたくて、それが叶うなら他はどうなっても我慢はすると。
女子はパンケーキがやれて、コスプレも女子だけじゃなくて男子もやるならやってもいい。
最初から難しい問題じゃ無い。お互いの良いところを足してあげればいいだけだ。
「それならメイド執事喫茶はどう? メニューはパンケーキで、男子は執事で女子はメイドになって給仕するってのは……」
途中から自信なくて小声になってしまった。それぞれのボスは黙ったまま、手を口の前に持ってきて考えている? ポーズををしている。
それからすぐに、それだ! って2人同時に僕に指を刺してきた。
そこからは早かった。パンケーキは女子が担当し、コスプレは男子が担当することになった。6限の時と違って、止まっていた時間が動き出したかのように次々に決まって行った。僕は提案こそしたものの、内容に関しては2人のボスが協力して決めて行った。あの地獄の空気が嘘のようだ。
あっという間に7限は終わり、続きは明日の放課後行うようだ。
鞄を持って帰宅しようと席を立った時、委員長がこちらへやって来た。
「七草君、今日は本当にありがとう。おかげでクラスが分裂することなくやれそうだよ」
「いやいや、大したことはしてないよ。提案だけしてその後は任せっきりだし」
「それでもありがとう。また困った時は助けてね、七草君が困っている時は私が力になるから!」
弾けるような笑顔だな。悩んでいた時は体調が悪いんじゃ無いかと疑うくらい暗い顔だったのに。いやストレスで悪かったかもしれない。
今日初めて意見を出した。クラスの中で。足が震えるくらい緊張したし、何ならまだ委員長のことを根に持っている。まぁ今度ジュースでも奢ってもらうとしよう。
木曜と金曜だけのループは時間の経過が早く感じる。今日はいつにもまして疲れたからぐっすり寝ることができた。そして金曜日を普段通りこなし、日付が変わる前にベットに入る。今回は1番手応えがあったから、恐らく金曜日の朝に目が覚めるだろう。長かった一週間も、あと金曜日だけ。何をすればいいか、何をしたいか。そんなことを考えていたら、いつのまにか意識が遠くに行ってしまった。
僕はと言うと、小平さんを始めとした席が近いメンバーで話し始めている。
「いやー修羅場ですな」
「醜い」
宮川さんと小平さんがそんなことを言っている。醜いって小平さんの口から出るとは思わなかった。
「七草君はどーなると思う? この泥沼の結末は」
「んー。女子の方がしっかり考えられててイメージしやすいよね。でも男子の方はロマンがあるし同じ男として気持ちは分かるしね」
計画的な女子と、勢いの男子って感じ。どっちになっても悪くないと思うんだけどな。
ふと男子のグループの方を見たら健太と目があった。すぐに健太は僕のいる方に走ってきた。
「渚冴助けて、あいつら本気でメイド喫茶以外拒否するっぽい」
健太はため息をついた。空いている椅子がないから窓から落ちないように付けられている銀色のポールに寄りかかっている。
「男子はマジなんだー、女子も引かないと思うけどね」
「今日決まんねーなこりゃ。委員長も可哀想だよな」
確かに。本来出た意見をまとめて、ただの言い合いにならないように仕切るのが仕事のはずが出来ていない。だからこんな小学生がするような話し合いになってしまっている。
「役立たずですみません……」
小平さんの席の近くに委員長が立っていた。いや気づかなかった。
「いやいや、うちらも何もせず聞いてるだけだしこっちこそ何も出来なくてごめん」
「小平さん優しすぎ! 見た目怖いけど好き」
一瞬小平さんの目がピクッと動いたけど気のせいだということにしておこう。それにしても委員長本人を前にあんなこと言えるんだ。ちょっと尊敬する。
「はぁ、今日は進展なさそうだし本読んでてもいいかな?」
前言撤回。この人ちょっと変わってるだけだきっと。
「副委員長が書記頑張ってるんだから頑張ろうよー」
「あの人黒板に字書くのが好きなだけだよ。話なんて何も聞いてなかったもん」
なんでこの二人がクラス委員なんだろう。人選ミスってますやん……。
「なぁ渚冴、お前なんか解決策とかない? このままだとどっちやることになってもクラスの雰囲気やばいし」
そこだよね。片方選ばれれば片方は選ばれないわけだから、メイドじゃないならやらないとかパンケーキじゃないならやらないってなるのが一番最悪なパターン。
つまり双方納得できる案を出すことが必要なわけだ。朝宮川さんと小平さんと話したことを思い出す。その後僕なりに調べて、メイド喫茶でもパンケーキが出るお店もあるみたいだ。萌え萌えキュンはオムライス限定なイメージがあったけど、そんなこともないらしい。委員長もここにいるし、こっそり提案してみようかな。
そして僕はこっそり今いるメンバーに頭の中にある構想を話してみた。委員長はそれだ! って言うと教壇の方に走って行ってしまったが、ちょうど授業開始のチャイムが鳴った。え、僕これ皆んなの前で発言とか無いよね……?
教壇に立っている委員長と目が合った。なぜかウインクされたんだけど、嫌な予感しかしない。
「話し合いを再開する前に少しいいですかー? さっきの休憩時間にとても良い案が出ましたので本人の口から直接言ってもらおうかと! 七草君お願いします!」
全員の視線が僕に集まる。さっき話していた人たちからは期待の眼差しを。さっき言い合ってたボス達からは何やお前引っ込んでろって睨まれていて、それ以外の人たちからは心配そうな目で見られている。こうなるのが分かってたからこっそり言ったのに。
一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。それでも足は少し震えているけど、ここで言わなければループが終わらないから。
「えっと。男子はメイド喫茶がやれれば提供するメニューにこだわりとかは無いんだよね?」
男子のボスが席を立って答える。
「ああ、別にオムライスにこだわりはねぇよ」
やっぱオムライスが定番なんだ……。
「女子の方は、パンケーキがやりたいのと、コスプレするなら男子も何かしてほしいんだよね?」
女子のボスも同じように立って答えた。
「そ。女子だけは平等じゃ無いし」
男子はとにかくメイド喫茶がやりたくて、それが叶うなら他はどうなっても我慢はすると。
女子はパンケーキがやれて、コスプレも女子だけじゃなくて男子もやるならやってもいい。
最初から難しい問題じゃ無い。お互いの良いところを足してあげればいいだけだ。
「それならメイド執事喫茶はどう? メニューはパンケーキで、男子は執事で女子はメイドになって給仕するってのは……」
途中から自信なくて小声になってしまった。それぞれのボスは黙ったまま、手を口の前に持ってきて考えている? ポーズををしている。
それからすぐに、それだ! って2人同時に僕に指を刺してきた。
そこからは早かった。パンケーキは女子が担当し、コスプレは男子が担当することになった。6限の時と違って、止まっていた時間が動き出したかのように次々に決まって行った。僕は提案こそしたものの、内容に関しては2人のボスが協力して決めて行った。あの地獄の空気が嘘のようだ。
あっという間に7限は終わり、続きは明日の放課後行うようだ。
鞄を持って帰宅しようと席を立った時、委員長がこちらへやって来た。
「七草君、今日は本当にありがとう。おかげでクラスが分裂することなくやれそうだよ」
「いやいや、大したことはしてないよ。提案だけしてその後は任せっきりだし」
「それでもありがとう。また困った時は助けてね、七草君が困っている時は私が力になるから!」
弾けるような笑顔だな。悩んでいた時は体調が悪いんじゃ無いかと疑うくらい暗い顔だったのに。いやストレスで悪かったかもしれない。
今日初めて意見を出した。クラスの中で。足が震えるくらい緊張したし、何ならまだ委員長のことを根に持っている。まぁ今度ジュースでも奢ってもらうとしよう。
木曜と金曜だけのループは時間の経過が早く感じる。今日はいつにもまして疲れたからぐっすり寝ることができた。そして金曜日を普段通りこなし、日付が変わる前にベットに入る。今回は1番手応えがあったから、恐らく金曜日の朝に目が覚めるだろう。長かった一週間も、あと金曜日だけ。何をすればいいか、何をしたいか。そんなことを考えていたら、いつのまにか意識が遠くに行ってしまった。
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