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第七話 水曜日
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聞き慣れたアラームを止め、洗面所へ行き顔を洗う。冷たい水で顔を洗っても、まだ少し眠い。
部屋に戻り着替えを済ませる。そのままベットへダイブして二度寝を決めたかったが、何とか思いとどまった。
朝食を取り学校へ向かう。ここまで見れば、まるでループなんてしていないいつも通りの日常なんだけどな。僕は歩きながら今日何をするべきか考えていた。
正直、月曜日と火曜日は自分が何を我慢していたか、不満に思っていたかは簡単に自覚できた。だからこそすぐに実践して、解決することが出来たのだ。
ただ、水曜日に関しては自覚していない。特に嫌な授業も無いし、一週間の中で一番平凡とも言える。まさか、平凡な一日を変えろとかじゃないだろうな?
もしそうだったらどうする、このまま学校へは行かずサボるか。制服で堂々とサボる事に少しだけ憧れはあるけど、心からしたいという程ではない。大丈夫だよね?
自問自答を繰り返しているうちに、気づいたら教室の前だった。いつもなら誰とも挨拶を交わすこと無くホームルームを迎えるところだが、今日は違う。
「おはよー」
隣の席の小平さんと軽く挨拶を交わし席についた。僕がリュックから引き出しに教材を入れ終えたところで小平さんが話しかけてくる。
「ねね、古典の課題やった? 『何故かぐや姫は帝に不死の薬を送ったのか』ってやつ」
ああ、そういえばそんな課題が出ていたな。登場人物の心情を読み取りなさいという、よくあるタイプの問題だ。
「うんやったよ」
「そっかー、うちまだ書けてないんだよね。登場人物の気持ちとか読み取るの苦手でさ」
僕も得意というわけではない。解答と照らし合わせたら全く違う事を書いてしまったときもあるし、今回の課題もちょっと正解とは違う気がしている。
でも、全員が同じ答えを書いたのなら、その登場人物はわかりやす過ぎないかな? こうゆうのは皆違ったほうが面白い気がする。だから少しだけアドバイスをすることにした。
「同じ班だから答えは見せれないけど、人それぞれ解釈が違っていいと僕は思うよ。その方が素敵だと思う」
小平さんはふふっと笑ってありがとうって言ってくれた。まぁ、小平さんがどんな事を書いたかはお楽しみにしておこうと思った。
古典は四限。お昼前だから皆おなかが空いていてテンションが低い。僕もその1人だ。
授業が始まると、さっそく課題の確認。近くのメンバーで班を作って、1人ずつ書いた内容を読んでいく。
僕と小平さん、そして前の席に座る男女二人を入れて四人班を作った。
男女二人は、自分が愛した人に死んで欲しくないからという風に捉えていた。うーん、僕も似ているけど少し違う
小平さんは、二人とは少し違った解釈をしていた。
帝に生きていて欲しいという所は同じ。ただ、長い年月を生きていればその分多くの人と出会い、私の事を忘れてしまうほど素敵な女性と会えるかもしれない。私のことは忘れて、幸せになって欲しい。そんな風に捉えていた。
テストの解答であれば、前半は点を貰えても、後半は不適切になるだろう。でも、僕は素敵だと思った。
愛した人の幸せを一番に願っている。例え、他の女と結ばれたとしても。
かぐや姫は、帝のことを心から愛していたんだって、小平さんは読み取ったのかもしれない。彼女のことはまだ知らない事だらけだけど、何となく彼女らしいなと思った。
そんな小平さんと違って、僕はテストなら丸を貰える解答を用意した。月並みで、模範解答のようだなって自分で思った。本当の答えは、別に用意してあるけど言わない。言った所で理解してもらえるか分からないし、あえて言うこともないだろうと思っていた。
「ねぇ、本当にそれが答えなの?」
え?
小平さんは睨みつけるように言った。最近の彼女は、前より柔らかい印象が強くなった。でも、今はそれが元に戻っている。トゲトゲしくて、近寄りがたい。少し怒っている気がする。
「七草君はそんなつまらない答えしか書けないの?」
つまらない、か。高圧的な彼女の態度に、班の二人は驚いて顔を合わせていたけど何も出来ないだろう。
彼女にはバレている。僕が言いたいことを我慢していると。
ああ、そうなのか。
これまでのループでは、小平さんにこんなことを言われることは無かった。それもそのはずだ、仲が良くなかったから。
でも今回は違う。僕と小平さんの距離は近くなり、前に比べれば言いたいことも言えるようになった。というか小平さんはズバズバいうタイプだ。
これが、水曜日の不満。彼女に言われなければ、気にするほどのことでは無かったのかもしれない。そもそも、朝アドバイスをしなければ彼女はこんな回答を持ってくることは無かった。先週までは一度も見たことがない。
僕が彼女を変えたのと同時に、彼女は僕を変えている。自分の意見を言ってみたいという欲望が、彼女のせいで溢れてしまった。
そういえば、ありのままの自分を嫌ってもらえって言われたな。それなら、ありのままの自分を見せてみよう。
僕は深呼吸をして息を整える。そして、饒舌に語りだした。
かぐや姫は帝のことを諦められなかったんだと思うんだ。自分が地球にいることは出来ないけれど、帝に月まで追いかけてきて欲しかったんっじゃないかって。
現代を生きる僕たちでさえ気軽に月へは行けない。帝の時代なんて月に行くなんて発想がそもそも無かっただろう。だからかぐや姫は、どんなに時間がかかってもいいから私に会いに来て。私はいつまでも待っているから。
「そんな風に僕は思ったよ」
班のメンバーを見ると、口を開いたままポカンと固まっていた。やばい、周りのことを全く気にせず語ってしまった。
僕はやってしまったと、この気まずい空気を何とかしなければいけない考えていたら拍手が起きた。
「七草お前、すげーな!」
「七草君の考えめっちゃ好き!」
まさかの大好評だった。予想外の反応にどうしていいか分からず僕の方が固まってしまった。でも、悪い気はしなかった。
「ね? 言って良かったでしょ?」
小平さんがドヤ顔をしている。その顔を忘れることはないだろうな。彼女のおかげで自分の意見を言うことができたから。
「ありがとう小平さん。自分の意見を言うのって気持ちいね」
その後、班ごとに意見をまとめてクラス内で発表することになった。最初の2人の考え方が1番正解に近いはずなのに、皆僕の案を採用するって聞かなかった。恥ずかしかったけどクラスのみんなに聞いてもらい、なるほどなとか、素敵な考え方だよねって言ってもらえた。
僕は家に帰ってすぐにベットへ倒れ込んだ。今日は疲れた、一度に多くの人と話すのは苦手だな。
今日1日を振り返ってみると、やっぱり古典の授業を思い出す。あれは小平さんと話すようになっていなければ、気にすることは無かったと思う。いやーー気にしてたのかな。ほんの小さな些細なことでも、積み重なれば大きくなる。水曜日はそうゆう日だったのかもしれない。まだループが終わると決まったわけではないけれど。
残りの二日間はゆっくりと過ごした。普段より人と話す機会は増えたけど、変わったことはない。
金曜日の夜眠りにつき、木曜日の朝目を覚ました。
部屋に戻り着替えを済ませる。そのままベットへダイブして二度寝を決めたかったが、何とか思いとどまった。
朝食を取り学校へ向かう。ここまで見れば、まるでループなんてしていないいつも通りの日常なんだけどな。僕は歩きながら今日何をするべきか考えていた。
正直、月曜日と火曜日は自分が何を我慢していたか、不満に思っていたかは簡単に自覚できた。だからこそすぐに実践して、解決することが出来たのだ。
ただ、水曜日に関しては自覚していない。特に嫌な授業も無いし、一週間の中で一番平凡とも言える。まさか、平凡な一日を変えろとかじゃないだろうな?
もしそうだったらどうする、このまま学校へは行かずサボるか。制服で堂々とサボる事に少しだけ憧れはあるけど、心からしたいという程ではない。大丈夫だよね?
自問自答を繰り返しているうちに、気づいたら教室の前だった。いつもなら誰とも挨拶を交わすこと無くホームルームを迎えるところだが、今日は違う。
「おはよー」
隣の席の小平さんと軽く挨拶を交わし席についた。僕がリュックから引き出しに教材を入れ終えたところで小平さんが話しかけてくる。
「ねね、古典の課題やった? 『何故かぐや姫は帝に不死の薬を送ったのか』ってやつ」
ああ、そういえばそんな課題が出ていたな。登場人物の心情を読み取りなさいという、よくあるタイプの問題だ。
「うんやったよ」
「そっかー、うちまだ書けてないんだよね。登場人物の気持ちとか読み取るの苦手でさ」
僕も得意というわけではない。解答と照らし合わせたら全く違う事を書いてしまったときもあるし、今回の課題もちょっと正解とは違う気がしている。
でも、全員が同じ答えを書いたのなら、その登場人物はわかりやす過ぎないかな? こうゆうのは皆違ったほうが面白い気がする。だから少しだけアドバイスをすることにした。
「同じ班だから答えは見せれないけど、人それぞれ解釈が違っていいと僕は思うよ。その方が素敵だと思う」
小平さんはふふっと笑ってありがとうって言ってくれた。まぁ、小平さんがどんな事を書いたかはお楽しみにしておこうと思った。
古典は四限。お昼前だから皆おなかが空いていてテンションが低い。僕もその1人だ。
授業が始まると、さっそく課題の確認。近くのメンバーで班を作って、1人ずつ書いた内容を読んでいく。
僕と小平さん、そして前の席に座る男女二人を入れて四人班を作った。
男女二人は、自分が愛した人に死んで欲しくないからという風に捉えていた。うーん、僕も似ているけど少し違う
小平さんは、二人とは少し違った解釈をしていた。
帝に生きていて欲しいという所は同じ。ただ、長い年月を生きていればその分多くの人と出会い、私の事を忘れてしまうほど素敵な女性と会えるかもしれない。私のことは忘れて、幸せになって欲しい。そんな風に捉えていた。
テストの解答であれば、前半は点を貰えても、後半は不適切になるだろう。でも、僕は素敵だと思った。
愛した人の幸せを一番に願っている。例え、他の女と結ばれたとしても。
かぐや姫は、帝のことを心から愛していたんだって、小平さんは読み取ったのかもしれない。彼女のことはまだ知らない事だらけだけど、何となく彼女らしいなと思った。
そんな小平さんと違って、僕はテストなら丸を貰える解答を用意した。月並みで、模範解答のようだなって自分で思った。本当の答えは、別に用意してあるけど言わない。言った所で理解してもらえるか分からないし、あえて言うこともないだろうと思っていた。
「ねぇ、本当にそれが答えなの?」
え?
小平さんは睨みつけるように言った。最近の彼女は、前より柔らかい印象が強くなった。でも、今はそれが元に戻っている。トゲトゲしくて、近寄りがたい。少し怒っている気がする。
「七草君はそんなつまらない答えしか書けないの?」
つまらない、か。高圧的な彼女の態度に、班の二人は驚いて顔を合わせていたけど何も出来ないだろう。
彼女にはバレている。僕が言いたいことを我慢していると。
ああ、そうなのか。
これまでのループでは、小平さんにこんなことを言われることは無かった。それもそのはずだ、仲が良くなかったから。
でも今回は違う。僕と小平さんの距離は近くなり、前に比べれば言いたいことも言えるようになった。というか小平さんはズバズバいうタイプだ。
これが、水曜日の不満。彼女に言われなければ、気にするほどのことでは無かったのかもしれない。そもそも、朝アドバイスをしなければ彼女はこんな回答を持ってくることは無かった。先週までは一度も見たことがない。
僕が彼女を変えたのと同時に、彼女は僕を変えている。自分の意見を言ってみたいという欲望が、彼女のせいで溢れてしまった。
そういえば、ありのままの自分を嫌ってもらえって言われたな。それなら、ありのままの自分を見せてみよう。
僕は深呼吸をして息を整える。そして、饒舌に語りだした。
かぐや姫は帝のことを諦められなかったんだと思うんだ。自分が地球にいることは出来ないけれど、帝に月まで追いかけてきて欲しかったんっじゃないかって。
現代を生きる僕たちでさえ気軽に月へは行けない。帝の時代なんて月に行くなんて発想がそもそも無かっただろう。だからかぐや姫は、どんなに時間がかかってもいいから私に会いに来て。私はいつまでも待っているから。
「そんな風に僕は思ったよ」
班のメンバーを見ると、口を開いたままポカンと固まっていた。やばい、周りのことを全く気にせず語ってしまった。
僕はやってしまったと、この気まずい空気を何とかしなければいけない考えていたら拍手が起きた。
「七草お前、すげーな!」
「七草君の考えめっちゃ好き!」
まさかの大好評だった。予想外の反応にどうしていいか分からず僕の方が固まってしまった。でも、悪い気はしなかった。
「ね? 言って良かったでしょ?」
小平さんがドヤ顔をしている。その顔を忘れることはないだろうな。彼女のおかげで自分の意見を言うことができたから。
「ありがとう小平さん。自分の意見を言うのって気持ちいね」
その後、班ごとに意見をまとめてクラス内で発表することになった。最初の2人の考え方が1番正解に近いはずなのに、皆僕の案を採用するって聞かなかった。恥ずかしかったけどクラスのみんなに聞いてもらい、なるほどなとか、素敵な考え方だよねって言ってもらえた。
僕は家に帰ってすぐにベットへ倒れ込んだ。今日は疲れた、一度に多くの人と話すのは苦手だな。
今日1日を振り返ってみると、やっぱり古典の授業を思い出す。あれは小平さんと話すようになっていなければ、気にすることは無かったと思う。いやーー気にしてたのかな。ほんの小さな些細なことでも、積み重なれば大きくなる。水曜日はそうゆう日だったのかもしれない。まだループが終わると決まったわけではないけれど。
残りの二日間はゆっくりと過ごした。普段より人と話す機会は増えたけど、変わったことはない。
金曜日の夜眠りにつき、木曜日の朝目を覚ました。
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