向日葵畑の君へ

茶碗蒸し

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4月

脅迫

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楊栄のスタメンには多喜を含め中学のころの同期3人とも入っていた。上手かったもんな、とどこか他人事の様に分析しながら試合を見つめた。



「!」


多喜と目があった。早く逸らすべきだと思うのに、彼に躾と称されてされたことの恐怖で目を瞠目させてしまう。そんな俺を見て多喜はふっと微笑んで口パクでこういった。




あ と で ね




勘違い、見間違いかも。そう思いたい。俺が過去に囚われてびびってるだけなんだ。



再びフラッシュバックしそうになる記憶を必死に堰き止めて試合に集中するふりをする。


「わ、すっご…」



バシーンっと物凄い威力でスパイクが決まった。その目を瞠るほどの美しいフォームに素直に感嘆の声が漏れた。



松葉先輩だった。




彼は身長190センチないくらいだろうか。やはり高い方ではあるけど相手チームには同じくらいかそれ以上に高いブロッカーもいる。結構穴がないブロックたと思うのに、すごくよく見えてるんだろう。捕まるんじゃないかってくらいの隙間をスレスレで通り抜けていく。ボールの角度コントロールも凄いけど、No.1と呼ばれる所以はやはり威力にある。松葉のスパイクは爆発力がすごくノッてきたら誰にも止められない。




’’エース"の名にこれほどまでに相応しいプレイヤーを初めて見た。


松葉先輩はスパイクを決めたあとニカッと笑って俺を見た。その笑顔が「お前のバレーを俺が救ってやる」って言ってるみたいでなんとなく泣きそうになってしまった。目に滲んだ涙を慌てて袖で拭ったら先輩が今度は呆れたように笑う。



その後No.1、2プレイヤーの松葉先輩、姫路先輩がその名に違わないスパイクでボコボコと点数を決めた。南條先輩もミドルブロッカーとして一人で3、4本止めている。



だが、




「八雲だっ!…」



コート側の応援から声が上がる。その名前を耳にして俺は正直びっくりした。



八雲七瀬



彼は高校3年生で去年までイタリアにいて今年から日本に来たと聞いている。父親がイタリア人でセリエAのトッププレイヤーなんだとか。週刊誌で彼はすごいピックアップされていたし、実際相当な実力者らしい。そんな彼のポジションはオポジット。見たところ右利きのようだが…



ドガーンッ



今決めたスパイクは左打ちだなぁ。両利きなんだ。へぇ、俺と同じだ珍しい。



状況に応じて右だったり左だったりと打ち方を変える変則的なプレイヤーなようだった。180センチあるかないかくらいだろうがジャンプがかなり高く飛ぶ。
彼に対してはうちのブロックは止めづらくレシーブもしにくいみたいで苦戦していた。



俺だったらどうやってレシーブすっかなぁ。


と、割と色々考えれて結構楽しかった。一試合目は2-0でうちが勝って、二試合目は2-1でまたうちが勝って。八雲は確かに目覚ましい活躍っぷりだったけど1年生が3人もいるからチームとしてまだ完全に出来上がってないのだろう。山陽と比べるとまだまだだった。これからが怖いっていうところか。



次、公式戦で当たるなら八雲の両利き打ちにもっとなれないとちょっと危険だな。




「ふ、相変わらずのバレーバカだね珱柳」



不意に耳元で話しかけられる。本能的に危機感を感じでバッと距離を取りながら振り返った。



「多喜…」


「流石に傷つくんだけどその距離のとり方」


ニコニコと人のいい笑みを絶やさない彼は俺をかつて散々苦しめた多喜だった。身長が伸びたのか俺よりも背が高くなっており中学のころは可愛らしいという言葉が似合う奴だったのに、…なんと言うか男らしい顔つきになっていた。


「まぁいいや。ところでだけど携帯変えたでしょ?電話番号…あ、レイン(トークアプリ)交換しよ」


「嫌だ」


「あれ?反抗的だな」


「ひっ…」


距離を詰めて俺の頬をそっと多喜が撫でる。つーと指を動かされて怖くて顔を逸らす。


「これバラしてもいーの?」


多喜がおもむろにスマホを取り出し、ある写真を表示した。


ガツンと殴られたみたいな衝撃がしてそれから目が離せなくなる。フラッシュバックよりもより鮮明に俺が犯されている光景がそこに残っていた。


反射的にスマホを奪おうとしてひょいと躱される。その衝撃で前につんのめって多喜の胸にドンとぶつかった。慌てて引こうとして後ずさるもそれを許さないかのように多喜の手が俺の腰に周って引き寄せられた。



「可愛い、動揺してるの?」


「な、なんで…消したはずじゃ」


「んー、もったいなくて」


「な…」



言葉が出ない。写真をたくさん撮られてそれを消すために毎度毎度の行為を受け入れていたのに。全部無意味だったっていうのか。



「おい、何してる」



ショックで動けなくなってるとき、この状況に声をかけてきた第三者がいた。何とかその声の方へ顔を向けると松葉先輩がこれでもかというほど眉間にシワを寄せながらこちらを見ていた。


多喜はあー、残念と呟やいた。すると何を思ったのか俺をより深く抱きしめ耳元に吐息を含ませるように喋りかけてきた。



「今日、夜8時。山陽駅のホテルに来て」



「ひ…っ」



何も言い返せないまま、多喜は俺から離れてその場から離れていった。


「大丈夫か?」



と松葉先輩が駆け寄ってよろけた俺を支えようとする。



「いいです。、触らないで…ください」



心配してくれてるのに突っぱねてしまった。何とか笑顔で先輩に応じてその場を収めたけど。




多喜の言葉が頭から離れない。






もしかして多喜は俺のもう一つの秘密を知っているのかもしれない、と。




恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。

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