向日葵畑の君へ

茶碗蒸し

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4月

私立楊栄高等学校

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「あの、今日どこと戦るんですか?」



無理矢理連れてこられた部室内で着替える先輩達に問いかけた。他の部員はもう体育館へ行ってアップしてるらしくここには四人以外誰もいない。妙に充満する男臭さは健全な部活の臭いでどこかホッとする。自分が最近一番嗅いでいたのは性行為のおぞましいものだったから、。まぁ、男子高生の部室はくさいっちゃくさいけど。



「んー、私立楊栄高等学校」と姫路が答えてくれた。

「ようえい?」

「お、興味ある?」

「別に」

「えー、冷たーい。強い奴らいっぱいいるぞー?」


姫路先輩はなんかドSそう。なんか絡まれたらめんどくさい感じがして無関心を貫いた。
うーんなんか聞いたことある、楊栄高等学校の名前。心にざわつきを覚えるがどうしても思い出せない。なんでこんなに楊栄の名前が引っかかるのだろう。


首を傾げている間に先輩達は準備が終わったらしい。姫路と南條はすでに靴を履いて部室の外へ出るところだった。珱柳もゆっくりと立ち上がり彼らに続こうとした…ところで松葉に呼び止められる。




「馬渕、あのさ」


「はい?」


「絶対守るから」




その言葉の意味を理解する前に松葉先輩は俺の横を通り過ぎていった。少し遅れて俺も続く。「俺を守る」
の意味を考えながら。




体育館へ向かうとちょうど向こうの学校もついたとこらしい。バスから続々と人が降りてきていた。強い選手が多いとあの姫路が言うのだから全国屈指の強豪校なのだろう。だが自分はバレー部に入る気はない為、さして興味がない。彼らには目もくれず先輩らのあとに続いた。





「へぇ、バレー続けてるんだ。ふふ、どうしよっかな」



だから気づかなかった、その声に。





キュッキュとバレーシューズが床に擦れて耳に馴染む心地よい音がする。俺はアップする彼らを自分は上階の観客席から眺めていた。



懐かしいなー、なんてぽけっとしながら。



なんだかんだでアップも終わりいよいよ試合スタート。俺は自分の高校のスタメンを確認した。



セッター、3年落合慎太朗


ミドルブロッカーが3年佐倉愛斗と2年南條若


オポジット、1年橘晴貴


アウトサイドヒッターが3年中村雨汰、2年姫路陸


リベロ…はいるけど試合出てねぇな珍しい。





1年で何回も選抜同じだった晴貴はあの面々の中でバリバリのスタメンって流石だなぁと思う。それ以外は山陽学園の特徴を知らないため何も思わなかった。強いて言うなら松葉、姫路、南條の三人は目を引くほどのイケメンだ。




「は?」




こっちのメンバーに目を通し、次に相手チームの選手へと視線を移したときだった。俺は目を見開いて硬直した。




何で…あいつらが。





向こうのチームカラーである緑色のジャージに袖を通していた奴ら。


本田敦人、立松涼介、そして…俺を過去に監禁するよう命じた主犯の如月多喜。



そこでやっと思い出した。どうして楊栄の名前を聞いたことがあったのか。




『何?お前から僕に聞きたいことって』


『高校の推薦…どこにしたんだ』


『んー?何で?』


『…』


『あぁ僕と同じとこには行きたくないのか。でも残念、聞きに来てくれたのは嬉しいけどまだ決まってないよ?迷ってるとこなんだけど…あ、参考までに聞いていい?珱柳の高校もう決まってるんだよね?』


『言わない』


『いいよ、別に。お前が言いたくなくてもどうせ言わなきゃいけなくなるから。ほら、いつもの薬でヤろっか?』




ああ、ここで無理矢理ヤられたんだっけ。記憶を探りながら呆然と思い出す。ぐにゃりと場面が切り替わった。




『いいな?言ったらやめてあげるよ』


『ひっ……やだ…いや…だ』


『強情だなぁ、ほら楽になりたいでしょ?』


『言ったら…ゆる…してくれ…る?』


『うん、もちろんだよ』


『さ、んよー…』


『へぇ、俺と近いね。俺は楊栄だよ』




あーそうだった。確か俺に吐かせようとしてまた無理やりされて、実は決まってて、偶然近いんだった。






ビーッ




試合開始の合図が鳴り響いて俺は現実に目を向ける。奴らと…多喜と目があった気がした。



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