その輝きを失わないで

茶碗蒸し

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黒妖国

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予想通りの光景が眼下に広がっていた。赤褐色のおぞましい気体。一番人口密度が高い王都に発生したことといい、天候が強風で直ぐに瘴気が広がることといい、抑えられるのが現時点で俺のみということといい、全てが悪条件だった。



これまでのものよりも高濃度であるのはひと目見ただけでもわかった。紫灯国民だったら触れただけでもほぼ即死だろう。




「おい、ディスタイザーの奴らは俺が張った結界の外側に全部隊待機しろ。全員助けられるかは正直言ってわからん。ただ先に王都民を救出する。その際重症人から軽症人全てを一か所に集めておいてくれ。民間人の救助が完了してから王族、貴族達の救出に向かう。」




「なっ!…」


市民を最優先にするといった時上がりそうになった非難。それを言わせる前に俺は容赦なく遮った。




「まさか、地位の高い王族を優先しろとか言わないよな?。いくら呪力量が高くても王あっての国じゃない。国民あっての国なんだぞ。幸い城まではまだ瘴気が行ってない。今現実に被害を受けてる目の前の人間を助けるのが先だろ、文句言うなよ」




俺の言葉に数十名が恥じ入ったかのように下を向いた。数十名?…いやもっといるな。黒妖国で一番人口が多い王都が壊滅しようとしているのに庶民だ貴族階級だなんだいってるのか。ほんと、呆れる。まぁ、ナタリヤみたいな下衆野郎でも呪力量は国トップだからか崇拝されてるんだろう。




「それと二次災害に備えたい。今までのと比にならないくらい瘴気の量が多いんだろ?。地震、土砂崩れ、洪水…何が起こるかわからない。もしかしたら共鳴して他の地域でも発生するかもしれない。ほんのちょっとでもいい、何かいつもと違うことを感じたら俺に連絡しろ。」




「どうやって?」




答える前に俺は術を繰り出した。



自然躁術ー『雲』




この前こいつらに侵攻されたときは自分では使えなかったから神様に頼むしかなかったけど。先程解放したためか問題なく使える。思ったより術を使うのが辛くなくて安心した。



モワモワと広がる小雲が出現してディスタイザーそれぞれに寄り添った。



ぎょっとして飛び退く奴、好奇心で触って見る奴いろいろいる。こんな反応はめったに見られないからなんとなく面白い。ふっと笑いそうになるのを我慢する。素直にわぁ、すごいっていうやつもいたけど。中には死ねとか言ってるやつもいて。通信機だからね?聞こえてんだよ。とツッコみたくなった。





「それが通信機代わりになる。力を貸してほしければそれごしで頼め。じゃ、救護を任せたぞ。」




軽く指示を出して解散させた後、一人のディスタイザーに声をかけられた。




「あ、っ…あの!」



「何かあった?」


「あ、大したことじゃないんですけど…。貴方は俺の国の敵で…貴方にとっても俺達は殺したいくらい嫌いな敵ですよね。それなのに…俺の国を守ろうとしてくれてありがとうございます。」



…作戦のこととか聞かれるのかと思った…から予想外のこと言われて少しびっくりした。異国の人からお礼とか言われたことなかったから。



「俺が…勝手にやるって言ったことだからそんな気にしないでいいよ」


コミュ障かー!俺!相手は年下なんだからもっとハキハキ喋れよー!って言いたいくらいどもってしまった。恥ずかしい。



「俺達は子供だし未熟だから、今は貴方に憎悪しか向けることしかできません。それでも助けてもらっていることにかわりないのだからお礼は言いたかったんです。」




そう言って、俺の名前はユリシウスです、覚えててくださいって言って去ってった。少年と…ユリシウスともっと話したかったけどそうもいってられない。俺も、また会えたらあとでとそう思って真下に迫るどす黒い瘴気の渦と対面した。



シヴァ聞こえる?




『何だよ。俺の力なんていらないんだろ。呼ぶなこの無礼者』



辛辣な一言だな。封印を力ずくで解いたことは悪かったと思うよ。でももう2年?3年?それくらい経ったんだ。もういいじゃん、許せよ



『自神としてお前を絶対に死なせない。そのために俺はある。守ってやってんのにいらないっつって言うのはお前。怒るこっちの気持ちもわかれ。神様だって万能じゃねーの。再生魔法でだって限度はある。他人にまで気を使えば自分にまわせなくなるぞ。』



お節介だ




『お節介だと?!貴様!』



俺が誰かと重なる?シヴァ



『……』



あはは。ごめんごめん。詮索しないよ。こんなこと言ってる場合じゃない。さっき瘴気吸い込んだときに見えたんだ。見たことない奴らの気配。シヴァと真反対の力の感じがした。シヴァが表の世界の絶対支配者だとしたら、裏の…地面のもっと奥の方に住む…裏の支配者もいるってことだよな。



『それが何だ』


瘴気は間違いなく自然災害じゃない。誰かが故意に引き起こしてるものだ。魔術系統なのかな。俺の自然躁術とは別物の。そういう奴らが何か企んでる。この瘴気は始まりに過ぎない。平和が…終わる気がする



『そんなネガティブになるなよ』



リアンやジュハが死んだのもきっとそいつらの仕業だ。


俺は例え神と同格の地位のやつであったとしても絶対に許さない。



俺の自神なら俺を守るために力を止めるんじゃなく、俺がしたいことを叶えるために力を貸せ。




『……俺を使役するつもりか』




ー悪いけど嫌だっと言ってもそうするよ。



『好きにしろ。俺の力はお前の力だ』




ありがとう。




「結界魔法…塩の壁」






光の柱が瘴気の周辺に何本か発生する。そして瘴気が広がるのを抑えるように包み込み始めた。





これは前回とは違う使い方。この前は人に結界魔法を使ったけど今度は瘴気を止めるために使う。



「次、…テイガイアの涙……」




救助した人を助けるための結界を先程指定しておいた場所へと出現させる。テイガイアの涙っていう結界なんだけど防御力は塩の壁よりも低い分、その場にいるだけで怪我してるすべての人の治癒を進められる能力がある。これは俺とリアンで作った結界魔法で、仲間が死ぬのを少しでも遅らせるために必死で研究して練習して実用化されたもの。雲から俺の気を渡して治すのとでは規模が違う。大勢の人を俺がそばにいなくても救うことができる。


それをまさか、自分の国のため以外で使うなんて。



人生って何があるかわかんないもんだ。




「ディスタイザーらに伝える。結界は張った。救助を開始する。」





俺は真下に広がる煙の中へと突っ込んだ。




「臭っ…くわないか」



ストンと城下へ着地する。道端には予想通り人がバタバタ倒れている。状態を確認している暇はないので片っ端から雲に乗せて結界内へ運ばせた。もちろんその際にある程度の治療はしてから。俺は無事なのか、というとやっぱり平気みたいで。煙に侵されることなく普段どおり。ただ、人が多すぎる。何千人…といる人々を一人ひとり丁寧に見ていく余裕はなかった。街のあちこちを駆けずり回りながら見つけられてない人はいないか精一杯探す。声を出して助けに来ていることを伝えたいけどその際に空気を吸い込んでこれ以上重症になるのは避けたかったから余計に時間がかかる。だけどほんとに一軒一軒見ていってディスタイザーたちにあと何人かも確認してもらいながら救助していくうちに一般人は全員保護できたようだった。





「全員…結界内へ入りました。あとは貴族階級だけです。」




と、連絡が入って、少しホッとする。もちろん治療はまだ済んでないし貴族の奴らを助けに行かなきゃいけないがとりあえず一番助けるべき国民を助けられてよかった。




「了解。これから王城へと入る」



あー嫌だ。なんで俺がナタリヤ達をわざわざ助けに行かなきゃならんのかね。なんて内心では思いながらも素直に救助へと向かう。






「何だっお前!何も…の……ぎゃぁぁぁぁぁ」





「?!」



通信機から突如として聞こえた断末魔。それまで冷静沈着だったディスタイザー達の声が焦ったような声に変わる。



「何があった!?」




頭によぎったのはさっき見た…見せられた幻覚。アスタロトと名乗った何者かの姿だった。嫌な予感を頭で否定する。雲の分布を確認するが悲鳴が聞こえ始めたのはここから少し離れた西地区。他の3つの場所は異常事態は発生していないようだった。




問いかけても応答しない西地区。聞こえるのは悲鳴のみ。嫌な汗が頬を伝った。





「ねぇ?聞こえるかしら?」



悲鳴とは打って変わってはっきりとした声。どこか優雅な感じのする声音にどことなく懐かしさ?を感じながら応答する。



「どうした?瘴気が漏れたか?………待て、お前の気配ディスタイザーじゃない。誰だ」




「あら?バレないと思ったのだけれど相変わらずの鋭さね。」




「……質問に応えろ」





「来ればわかるわ、ここに。貴方がここに来てちゃんと見てほしいの。何が起こっているのか、これは現実なのか」





「俺のどこが寝ぼけてるように見えるんだ。必死に救助して今からお前らの王様助けに行くとこなんだよ」





「ふふふふふふ…あははっ」





頭のイカレタ女だ。絶対に国民じゃない。




「俺にどうしてほしいんだよ」





「あ、ごめんなさい。敵の国の王様を助けるなんてと思って。貴方の好きにすればいいわ。でも、王様を助けに行くのならこっちにいる人間は私の好きにさせてもらうわね?」




「なるほど人質ね。お前が瘴気の黒幕か?」



絶対にそうであってほしくない。そしたら多勢に無勢にもほどがある。俺は首都全員の人間を守って怪我を直して瘴気浄化してナタリヤとかも助けに行かなきゃならんくてそれだけでも大変なのに、瘴気を扱える未知の奴らを相手にしなきゃいけないとか。



「当たりよ。すっごく嫌そうね」



「当たり前だ。どう見ても頑張りすぎてるだろ俺。せめて何人で来たかだけでも教えてくんない?」




「図々しいわね。」




「…教えてくれないならいい。自分で何とかするから」




「わかったわよ。3人、で来たわ。」





「どうも」





そう言ってそれまで通信していた雲を消失させた。西地区に運んだ奴らには耐えてもらうしかない。南、北、東にまで侵入者の好きにさせるわけにはいかなかった。





「…西地区以外の地域の奴ら全員に聞く。西が何者かに襲撃された。」





「!!」



ざわっと大きな声が押し寄せる。通信機からでも彼らの動揺が十分に伝わった。





「狙いはわからない。侵入者は全員で3人。この瘴気発生の黒幕だと想定される。それに西からの通信は応答がない。どういう状況なのかわかっていない。奴らは多分西から南か北を襲撃するはず。いずれにせよ救助させた場所を狙ってる。俺がお前らの王を助けに行けないように。かといって俺が馬鹿正直に国民を守る方を選べば、貴族階級の奴らはどうなるかわからない。俺にこの国の国民を選ぶか、王を取るかは選べない。お前らが話し合って決めてほしい。ただ、…どちらかを見捨てるって言うわけじゃないことはわかってほしい。」





王だ、国民だ、と騒ぐ声が激しくなる。こいつらが決めきれなければ俺は国民の方を助けるつもりだった。ナタリヤを選ぶなんて死んでもゴメンだし。




「国民を選べ」





「お前…セルシウスか?」





ざわざわと響く喧騒の中から一つだけきれいに聞こえた雲があった。さっきまで一緒にいて俺といると危ないって思って離れた、人。少ししか一緒に過ごしてないのに何故か大勢の中から見つけられる。




「王位継承権第一位は私だ。父になにかあっても国は壊れない。それに、王城へは以前より特殊部隊に向かうよう要請した。お前が父について心配することはなにもない。」





「え、」




「早くしろ」





「あ、はい。」








いや!じゃあそれを先に言え!何だよ!特殊部隊って!とか言いたいことはあったがもう有無を言わさずって感じの声にはいということしかできなかった。




*********************
《???side》






「先に浄化だけさせてもらうか、クソを助けに行くかどうすっかなー」







んん、待てよ。先に浄化してまた発生されたら困るしな。




「あ、いいこと思いついた。」




瘴気に手を伸ばしてそっとその気体に触れる。その手に力を込めてぽうっと気を込めてみると思った通り上手く行った。


これならきっとパット見騙されるだろう。紫輝様も敵も。そのまた敵も。






「やっとあえる。俺らが来たんだからブレないでほしいな紫輝様。アウラは泣いちゃったよ。エルメリアも胡蝶もルキも…皆で来ましたよ。だから、大丈夫ですよ」


************************






《紫輝side》






「……これは…こんなこと…できるの、は」




西に進むに連れ地震が激しくなる。瘴気が人為的に発生しているとわかった今、それに伴って発生する災害も人為的なものだと予想がつく。




地震とともに地面のあちこちが砂漠化し始めていた。水不足などありえないこの国での異常な光景だった。



それだけじゃない。西の周りだけ強烈な竜巻が吹き荒れている。結界内で発生しているのだけでも3つは超える。





くそっ、強度重視の治癒なしの方が…。




[自然で一番弱点がないのは風だ。炎や水とかと違って風は他の自然の影響を受けない。強く吹けば何よりも鋭い刃となり、相手を一切近寄らせない。だから竜巻は…]







[下界の奴らにとって大地は大事なものなんだよ。それが水を蓄え森を創って人々の生活の土台となるからね。大地が枯れていては戦争はできないの。だからね砂漠化は…]



「とっても有効な手段なんだろ?…アルフィ、ジュハ」






後ろから二人。嫌な気配、同時に懐かしい気配がする。瘴気発生の資料を見てからずっと。ずっと嫌な予感がしていた。




ゆっくり振り返る。






「久しぶり。」「久しぶりだな」




「私達の」「俺たちの」





灯火リーダー







苦しくて苦しくて死ぬと思った。








































    
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