その輝きを失わないで

茶碗蒸し

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黒妖国

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ずっと自然躁術を俺が使えなかった理由。



今まで守れなかった紫灯の人々、

平和を夢見て戦い未来に希望を託して死んでいった仲間達、

俺に殺された敵国の人間達、

そして6代神様であるジュハ、アルフィ、リアンの死。


自分の国を守るために神様から授けられた自分の力は
何一つ守れなかった。できたことといえば精々、世界大戦をこの手で止めたことくらい。それも平和的解決などとは程遠い暴力的なやり方で。それでも一瞬でも平和が来たのだからそれでいいって思ってた。だけど平和は来なかった。リアン達は殺された。俺はそこにいたのに。そこで約束した「平和な世界を創ること」も3年経っても実現できそうにない。

 ねぇ、神様。俺が6代神様で良かったのかなぁ?

 シヴァが俺じゃなくて朱輝についてたらもっと

 世界は変わってたかな?


リアン達が居なくなっても世界は変わらなかった。あんなにも平和へ奮闘した3人は時が経つにつれ忘れ去られていく。
 
 俺は与えられた特別な力に幻滅して次第に使わなくなった。何となく生きてる意味を感じなくなって、自然躁術を自分にぶち撒けてみた。その後どうなったかよく覚えてないけど。ぶっ倒れていた俺は発見時とても危険な状態だったと朱輝から聞いた。
それから俺が自然躁術を使うたび心を身体を壊すから、だからシヴァは封印した。俺は何で使わせてもらえないのかよく分かんなかったし、でも使えないならいいやとも思った。


シヴァはその時が来たら返すって言ってたけど。


それは俺の心が治ってからって意味だったんだね。


俺がピンチの時に手をかさなかったのも、


セルシウスなら俺の心を治す手がかりになると


そう見ていたからなんだよね?



でもごめん。そんなのもういい。今更必要ない。









[封印はずしたら今度こそ死ぬかもね?]



「いいよ、それでも。」



[そこまでしてそいつのこと助けたいの?]  



「封印を解くきっかけはそうだね。でも俺が俺の人生を早く終わらせたいから」


[それが今の目標?]



「うん、」


[あはは、笑えるねぇ]


「滑稽だと思うよ」






封印を解けばどうなるのかなんて知らない。




俺は思い切り封印を剥ぎ取った。



封印を解くとき、激痛が身体のどこからともなく走ってきて死ぬかと思った。それだけ危険なことしてるんだなって分かったし、遠いけどシヴァの静止の声も聞こえる。止めても無駄だよ、引きちぎるから。





「自然躁術…闇」




自然躁術の中で唯一俺と朱輝が得意とする宇宙魔法。大規模な瘴気をこの場から消し去るには浄化かもしくは物理的な方法でやるしかない。が、俺は浄化魔法を持ち合わせていない。俺の使う闇は何でもお構いなしに吸収するためもってこいの技だと思った。吸収したものは俺の体内に分解されて蓄積されるからダメージがないわけじゃないけど。




両手を広げて闇を5体ほど出現させる。久しぶりの強烈な技に身体は軋み冷や汗が止まらない。ズキンっと心が疼いてあまりの痛さに意識が飛びそうになる。部屋の下層まで広がっていた瘴気だが闇によってうまく俺の元へと引き寄せられていた。迷いなく吸い込み体内へと取り込む。だが予想通り、瘴気が正常に分解できず体内が腐敗し始めるのを感じた。俺は全身の細胞を活性化し保護魔法で強化、さらに心臓の躍動を大幅に増長させ血圧を高く保つ。こうすることで細胞は瘴気からの腐敗を防ぎ、血流が激しく流れることによって瘴気を体内の一定箇所にたまらないようにする。体内を流れきった瘴気は最後の臓器、心へと辿り着く。俺はそこへ瘴気を全蓄積した。封印解除で壊れかけている心などもはや必要ないと判断したから。いま最優先すべきはこの部屋の瘴気を一層すること、ただそれだけだった。




「やめろっ!!」



身体と自然躁術の無理なコントロールにぼんやりと思考が薄れ始めてきた頃、真下で張り裂けんばかりの声が聞こえた。確認するまでもない、セルシウスだとわかる。あいつもかなりの重症だったため俺を止めるための空中浮遊は不可能だろう。そう思って放置していたのだが、セルシウスは自身の身体など関係なしに飛ぶつもりのようだった。



それじゃ困るんだ。アンタがここに来たら意味ない。俺がいないとここを切り抜けられない弱者は黙ってみとけばいい。



「自然躁術…重…」



グラビティ…通称重と呼ばれるこの術は俺が対象とする周囲の重力をコントロールできるというものだ。便利な術だが少し気を緩めれば相手を押しつぶしかねない。この状況でダブルの自然躁術を繰り出すのはきつかったし、身体はやめろと警告を鳴らすが俺は迷わずその術を使った。バキバキと嫌な音が俺の中で音をたてる。




「うがぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぉおっ…、」


限界、死ぬ…って思った時自分のものとは思えない声が発せられた。


バキバキ


バキバキ




[あーあ、ほら壊れちゃった]



耳奥でそんな声を聞きながら俺は闇の中で意識を手放した。





【ほぉ、貴様がレインの息子か】



「誰?」


【我は今貴様に取り込まれたものよ。貴様らラズリの一族にとっては天敵となる…】



何だ、誰が俺の内側にいる?レインの息子?ラズリの一族?


【まぁ知らなくても無理はないが…。ふむ、心がこれほどまでに腐敗しているとは我らが貴様を手に入れるのも思ったより手こずらなさそうだ】



「何言ってる、早く俺の中から出ろ」



【流石、聞いていた通りの怖いもの知らずだな。貴様の仲間、ジュハとやらから話はよく聞いているぞ】


「ジュ…ハ?は?」


【今ここで知らなくともいずれ知ることになる、嫌でもな。備えろよ6代神最強…我らは既に迫っているぞ。もうすぐそこにいる。ふふ、楽しみだなぁ。】


「だからお前は誰だ」



【我が名はアスタロト…よく覚えておけ。お前の内側に寄生した闇だ】




低くて俺を支配しようと喋るその声の主は目をゆっくりと見開いた。その目は燃えるような紅いろをしていた。その目と目があった瞬間、ぞくりと感じたことのない悪寒が走る。





「いやぁぁぁぁ…たすけてぇぇぇっ」「お許しをおぁぁぁぁぁぁ…ゔぁぁぁっ」「やだ、ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ」



「っ!」



そいつの瞳の中で、見たこともない景色が広がる。そこには何かに苦しめられている大勢の泣き叫ぶ声がこだましていた。







【ふふ、いい顔だ】






奴は俺が怯えたのを満足そうに舌なめずりしている。姿は見えないのになぜかわかる。






ジュハ…アスタロト…俺らの敵…瘴気の懐かしい匂い






あれ何だっけ?




次々と与えられる情報に脳がショートしそうだ。



あー朱輝がいたらわかるのかなぁ?



なんか眠い。







「おい!!おいっ!」





誰かが叫んでる。眠い、寝かせてくれ。






「起きろっ」





もうしつこく呼んでくるもんだから仕方なく目を開ける。セルシウスの焦った顔が目の前を覆っていた。顔がこんなにも完璧人間なのにそんなにしどろもどろになって焦ってんのを見ると何故か笑いそうになる。



【ほぉ、こいつがお前の大切な奴か?お前の心からこいつの匂いが強烈にする。ああ、じゃあこいつを殺せばお前は我のことしか考えれなくなるなぁ…ふふ】







「っ!」



何だこれ。




セルシウスと目があった瞬間、何故か脳内にセルシウスが瘴気で腐敗した姿が広がった。奴は血を吐きながら、どこかへと手を伸ばしている。現実に起こってないのにそれを見てぞっとする。あまりのリアルさに。
奴が…自分のことをアスタロトと名乗った怪物が見せたんだと気づく。



危険だ。セルシウスが危ない。



だが、俺の脳内のおぞましい光景は強制的に打ち消された。ビーッビーッと警告音が再び鳴り響いたからだ。相変わらずやかましい。


ここの瘴気は全部俺が取り込んだはず。今更なる必要なんてないはず。


なんて思うのに嫌な予感は拭えなかった。



まさか…




《瘴気発生…瘴気発生…王都…》




先程大量に取り込んだからなのか、放送を聞く前から瘴気が発生している場所がわかっていた。そしてそれが今のよりもさらに強大なものであるということも。もし、さっきのアスタロト怪物が仕掛けたものだったからとしたら。セルシウスはここにいちゃいけない。俺の側から遠ざけないと。だけど当の本人は俺を止めようと必死だ。全然自分が危険ってことわかってない。俺のことしか考えてない。













「お前みたいなやつ…必要ない」






自分でもなんて言ったか覚えてない。それでもセルシウスが傷ついたのはわかった。














ごめん。セルシウス。アンタは俺を助けようとしてくれてるのに。守りたいんだ、だから












俺から離れて。




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