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黒妖国
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「これが貴方に浄化してもらう瘴気になります」
そう言って、水鏡と呼ばれた猫目男が笑うのを見たのが最後。そいつにドンと突き飛ばされ俺は真っ暗闇の中に放り込まれた。油断してたわけじゃないのだけど。突き飛ばすなら突き飛ばすと前もって言ってくれてもいいと思う。
「痛ってー…」
対して言うほど痛くもないけど。
倒れたままでいるわけにも行かないので立ち上がる。
見たところ何もない部屋だった。正方形の箱型の実験施設のような感じ。
パッ
視界が一気に明るくなり、先程まで暗闇に慣れつつあった俺の目は眩しさに目を細めた。普通の人間なら明暗差が激しくて目が逝っちゃうんじゃないかっていうくらい。照明弾を間近で喰らったレベル。
「眩しーんですけど?」
言い方に棘を含みつつ斜め前にある窓に向かってそういった。めっちゃ距離遠いけどその窓は先程まで会議をしていた部屋のようだった。
なるほど。ディスタイザー全員に直接お披露目できるという訳だ。監視カメラとかで動きを補足されるだろうなとは思ってたけど。
「これは失礼しました。6代神様はこのような些細なこと気になさらないかと思って。」
水鏡の揶揄するような口調がスピーカーから響き渡る。てっきりまた罵倒でもされるのかと思ってたけどさすが黒妖トップというべきなのか、ディスタイザーの奴らは慎重な面持ちで静観していた。紳士っぽく見せたいんだろうけど。
一方、セルシウスはというとその面々の中に姿は見えなかった。俺、視力バカいいから見えないとかは絶対ないはずなんだよなー。恐らくそこにいないんだろう。いやいや俺の所有者として見届けんのかーい。何を考えてんのか読めない奴だなほんと。普通さ拉致ってきた奴のお披露目会ってなったらさ本人が出てくるべきじゃない?。なんかほっとかれてる感じ、…多少ムカつく。
「じゃあ、瘴気放出しますねぇ。あ、一応言っときますけど俺たちは高濃度の瘴気は浄化できる術を持ってないので、6代神様が浄化できなかった場合助けは来ないですよ?…いいですか?お二人共」
「は?」
待て、お二人共って言ったよね?今。え、この部屋に俺一人しかいないはずじゃ…な…
「構わない」
かなり上の方から声が聞こえた。その声の方へ顔を向けた時さぁっと黒い物体が急降下してきて俺の側へ着地した。
この声、この匂い、この呪力、…。よく知ってる。セルシウスだ。
「ちょっと待て!なんでアンタがここにいるんだよ!」
「何だよ。誰がお前一人でって言ったんだ?」
「バカヤロっ…そうじゃなくて、…アンタ死ぬかもしれないんだぞ?!」
俺がまだ瘴気を浄化できるかもわからないのに。俺は奴の胸ぐらを掴み上げて激しく揺さぶった。俺はめちゃくちゃ真剣なのに。それなのにセルシウスは挑戦的な微笑みをその顔に浮かべながら俺を楽しそうに覗き込む。
「さっき俺が会議室にいないとわかったとき、ほっとかれたみたいな気分になってただろ?」
「なっ!」
予想外に図星の事を言われ、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。俺の反応が余計に面白いのかくくっと声を上げて笑うセルシウス。
「安心していいぞ、嫌というほどお前の近くに俺がいるからな。」
「アンタなんか…」
言いかけた言葉はあいつのの次の言葉に飲み込まれた。
「俺は居なくなったりしない。ずっとお前と同じ場所にいる」
そこにはからかう様な笑みは引っ込んでいて…
恐ろしいほどの綺麗で澄んだ表情があった。
「別に頼んでないけど」
「可愛くない奴だな」
さっきのあいつの笑顔はなんか見ちゃいけないものな気がした。ずっと俺と同じ場所にいる、なんてそんな覚悟してるような顔で言われたらなんて返していいかわからない。セルシウスは敵だ。俺を拉致した張本人だ。
そんなことわかってるのにそうやって言われると嬉しくなってしまうのは抗原のせいだからなのだろうか?
それとも今までずっと一緒だと誓った仲間のほとんどがいなくなってしまったことへの喪失感から逃げたくてずっとそばにいてくれる人が欲しいのか?
「お二人さんもう話はいいよねぇ?充分だよねぇ、じゃぁ…放出するね?」
俺達の返事を待たず猫目男は瘴気の放出口を開いたようだった。
ビーッビーッー
途端けたたましく鳴り響く警告音。
離れてください、危険です、今から、…
そして無機質な機械音声が知らせる避難指示。
1分も立たないうちに天井から瘴気が姿を表した。低濃度時よりもその色はかなり濃く禍々しい邪気を放っている。まぁ、うん、多少の嫌悪感は感じる。確かに触れたくないって思うんだけど、
「なんか懐かしい…匂い」
「はぁ?」
俺が思わず発した言葉に意味がわからないとセルシウスは眉をひそめた。こいつの顔面だけで瘴気祓えそうだわとか思っちゃう。
話がずれた。瘴気の匂いは以外にも臭くなくてむしろ昔嗅いだことがあるような何とも言えない懐かしさを感じる。
「いや、確かってわけじゃないんだけど知ってる匂いに感じた。」
「へぇ…」
まぁ匂いについては今は関係ないかもしれない。どこで嗅いだことがあるか記憶を辿ったが中々思い出せそうにないので気にするのをやめた。
俺らが閉じ込められているこの部屋はかなりでかく瘴気が充満するまでには相当な時間を要するはず。まだ正常な空気があるうちに一気に攻めなければならない。下まで降りてくるのを丁寧に待っているようじゃ駄目だ。それこそセルシウスは直接触れれば耐えきれないだろうし、俺だって崩れ落ちるかもしれない。
久しぶりに飛ぶか、なんてそんな事を考えていた時だった。
「がはっ……………」
バタンと音がした。ふっと横で倒れるのが見えた。
「おい!」
地面に倒れたセルシウスが大量に吐血していた。それもかなりの量。
「な、んだこれ」
上手く喋れないらしく、はぁはぁと荒々しい息だけがこだまする。端正な顔立ちは苦悶の表情で歪められていた。しかも腕や脚、首には薄っすらと茶色いアザのようなものができはじめている。現在進行系で段々とそれは濃くなってきていた。普段の自信満々で余裕のある態度なんて全然なくって、それが余計に俺を不安にさせた。セルシウスは間違いなくあそこにいるディスタイザーよりも身体能力も呪術能力も全てにおいてトップのはず。そんな奴が数分もたたないうちに倒れているのだ。
セルシウスの身体状況を把握するために視線を滑らしたときだった。驚愕したのは…
指先がなくなっていた。
報告を聞いていたとおり、セルシウスの指がパラパラと塵屑のように崩壊していて。その侵食速度はあまりにも速かった。このままでは数十分も持たない。
「…は…がはっ…」
セルシウスの2度目の吐血。
[[し…き……あなたは生きて?……]]
[[ごめ…ん…ね。…]]
フラッシュバックする過去の映像。どれだけ治しても治しても治してもその血は止まることがなくて零れ落ちてきて。俺の視界が涙で滲むから貴方が手を伸ばしてきて拭ってくれて。
「嫌だ…嫌だ嫌だ…。」
ガタガタ震える自分の体。馬鹿みたいだ。セルシウスはあいつじゃないしあいつはセルシウスじゃないことをわかっているのに。仲間が死ぬことの恐怖は骨の髄まで浸透していて上手く体が動けない、動かない。それのせいで俺の思考は一気にネガティブになる。
そもそも身内さえ救えなかった俺が敵国の人間を助けることなんてできるのだっけ、とか。もし「気」を受け取ってもらえたかったら?とか。だって拒絶されればいくら再生魔法を持つ俺でも他人を治すことはできないし。俺は黒妖民が紫灯民と同じだと思ってたし治せると思ってた。でも俺は紫灯以外の人間を治したことがない。セルシウスでさえ治せるかわからない。
今になって先程までの瘴気接触者を俺が治療したいなんてふざけた言葉を発言したことに後悔した。
そんな時、ポツリとかすれた声が響いた。
「紫、輝……だい…じょぶ……だ」、と。
セルシウスが震える自身の手で俺の手をきゅっと握りしめた。俺よりも3つも年下なのに。死ぬかもしれないのに、怖いはずなのに。どうして…
どうしてそこまで俺を守ろうとするんだ。
「俺は……受け入れ……る」
「………」
セルシウスの身体に俺の気を送り込む。こっちは死ぬほど不安だっていうのに本人があんまりにも自分のことより俺のことを心配するもんだから何となく呆れた。んで落ち着いてきた。もういいやって、こいつが受け入れるって言ってんだから俺の恐怖も不安も全て
注いでやろうって。それが俺の出せる今のベストだ。
下界の人間は紫灯国民とは身体構造が違うからいつもより丁寧に細心の注意を払う。「気」が強すぎればセルシウス内部を傷つけかねない。ぽわぁとセルシウスの身体が光り輝いて傷口を癒やしていく。同時に保護魔法を施して瘴気に触れさせないようにもした。前は保護魔法が機能したけど高濃度瘴気に対してどこまで有効かわからないから油断は禁物だけれど。痛みが消えてきたのか歪められていた顔からしんどそうな影が少し消えてきた。
そんな中で考えたこと。今までのセルシウスの行動だった。最初出会った頃は殺す気だったような気がする。船の中やナタリヤ国王との面会、セルシウスの部屋に監禁された数週間…。俺の能力目当てで心を壊して操り人形にしようとしてるのがこいつの目的のはず。それなのに時折俺に向ける目が…こんなんのはなんでだよ。心を壊したいなら早く壊せばいいのに。
たった数週間で少し優しくされた程度で、俺はこいつに死んでほしくないと思ってる。だって、今までだって何人もの敵を見殺しにしてきたのに。死にかけている敵を今更助けようとするなんてどうかしてる。別に治療してやらなくていいのに。むしろ俺を拉致った奴なんて死んだほうがいいじゃないか…俺にとって。
そう思うのに体は勝手にセルシウスを守ろうと動く。
助けたいと思ってしまう。
「し…き?何する気…だ」
セルシウスが俺を見て驚く。何故かその顔は焦っていて俺の方へと手を伸ばした。
ああ
なんて滑稽なんだろう。
[それが貴方でしょ?]
うん、そうだね。自分でも馬鹿だなぁと思うよ。でも救えるならそれでもいいって思ったんだよ。
そう言って、水鏡と呼ばれた猫目男が笑うのを見たのが最後。そいつにドンと突き飛ばされ俺は真っ暗闇の中に放り込まれた。油断してたわけじゃないのだけど。突き飛ばすなら突き飛ばすと前もって言ってくれてもいいと思う。
「痛ってー…」
対して言うほど痛くもないけど。
倒れたままでいるわけにも行かないので立ち上がる。
見たところ何もない部屋だった。正方形の箱型の実験施設のような感じ。
パッ
視界が一気に明るくなり、先程まで暗闇に慣れつつあった俺の目は眩しさに目を細めた。普通の人間なら明暗差が激しくて目が逝っちゃうんじゃないかっていうくらい。照明弾を間近で喰らったレベル。
「眩しーんですけど?」
言い方に棘を含みつつ斜め前にある窓に向かってそういった。めっちゃ距離遠いけどその窓は先程まで会議をしていた部屋のようだった。
なるほど。ディスタイザー全員に直接お披露目できるという訳だ。監視カメラとかで動きを補足されるだろうなとは思ってたけど。
「これは失礼しました。6代神様はこのような些細なこと気になさらないかと思って。」
水鏡の揶揄するような口調がスピーカーから響き渡る。てっきりまた罵倒でもされるのかと思ってたけどさすが黒妖トップというべきなのか、ディスタイザーの奴らは慎重な面持ちで静観していた。紳士っぽく見せたいんだろうけど。
一方、セルシウスはというとその面々の中に姿は見えなかった。俺、視力バカいいから見えないとかは絶対ないはずなんだよなー。恐らくそこにいないんだろう。いやいや俺の所有者として見届けんのかーい。何を考えてんのか読めない奴だなほんと。普通さ拉致ってきた奴のお披露目会ってなったらさ本人が出てくるべきじゃない?。なんかほっとかれてる感じ、…多少ムカつく。
「じゃあ、瘴気放出しますねぇ。あ、一応言っときますけど俺たちは高濃度の瘴気は浄化できる術を持ってないので、6代神様が浄化できなかった場合助けは来ないですよ?…いいですか?お二人共」
「は?」
待て、お二人共って言ったよね?今。え、この部屋に俺一人しかいないはずじゃ…な…
「構わない」
かなり上の方から声が聞こえた。その声の方へ顔を向けた時さぁっと黒い物体が急降下してきて俺の側へ着地した。
この声、この匂い、この呪力、…。よく知ってる。セルシウスだ。
「ちょっと待て!なんでアンタがここにいるんだよ!」
「何だよ。誰がお前一人でって言ったんだ?」
「バカヤロっ…そうじゃなくて、…アンタ死ぬかもしれないんだぞ?!」
俺がまだ瘴気を浄化できるかもわからないのに。俺は奴の胸ぐらを掴み上げて激しく揺さぶった。俺はめちゃくちゃ真剣なのに。それなのにセルシウスは挑戦的な微笑みをその顔に浮かべながら俺を楽しそうに覗き込む。
「さっき俺が会議室にいないとわかったとき、ほっとかれたみたいな気分になってただろ?」
「なっ!」
予想外に図星の事を言われ、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。俺の反応が余計に面白いのかくくっと声を上げて笑うセルシウス。
「安心していいぞ、嫌というほどお前の近くに俺がいるからな。」
「アンタなんか…」
言いかけた言葉はあいつのの次の言葉に飲み込まれた。
「俺は居なくなったりしない。ずっとお前と同じ場所にいる」
そこにはからかう様な笑みは引っ込んでいて…
恐ろしいほどの綺麗で澄んだ表情があった。
「別に頼んでないけど」
「可愛くない奴だな」
さっきのあいつの笑顔はなんか見ちゃいけないものな気がした。ずっと俺と同じ場所にいる、なんてそんな覚悟してるような顔で言われたらなんて返していいかわからない。セルシウスは敵だ。俺を拉致した張本人だ。
そんなことわかってるのにそうやって言われると嬉しくなってしまうのは抗原のせいだからなのだろうか?
それとも今までずっと一緒だと誓った仲間のほとんどがいなくなってしまったことへの喪失感から逃げたくてずっとそばにいてくれる人が欲しいのか?
「お二人さんもう話はいいよねぇ?充分だよねぇ、じゃぁ…放出するね?」
俺達の返事を待たず猫目男は瘴気の放出口を開いたようだった。
ビーッビーッー
途端けたたましく鳴り響く警告音。
離れてください、危険です、今から、…
そして無機質な機械音声が知らせる避難指示。
1分も立たないうちに天井から瘴気が姿を表した。低濃度時よりもその色はかなり濃く禍々しい邪気を放っている。まぁ、うん、多少の嫌悪感は感じる。確かに触れたくないって思うんだけど、
「なんか懐かしい…匂い」
「はぁ?」
俺が思わず発した言葉に意味がわからないとセルシウスは眉をひそめた。こいつの顔面だけで瘴気祓えそうだわとか思っちゃう。
話がずれた。瘴気の匂いは以外にも臭くなくてむしろ昔嗅いだことがあるような何とも言えない懐かしさを感じる。
「いや、確かってわけじゃないんだけど知ってる匂いに感じた。」
「へぇ…」
まぁ匂いについては今は関係ないかもしれない。どこで嗅いだことがあるか記憶を辿ったが中々思い出せそうにないので気にするのをやめた。
俺らが閉じ込められているこの部屋はかなりでかく瘴気が充満するまでには相当な時間を要するはず。まだ正常な空気があるうちに一気に攻めなければならない。下まで降りてくるのを丁寧に待っているようじゃ駄目だ。それこそセルシウスは直接触れれば耐えきれないだろうし、俺だって崩れ落ちるかもしれない。
久しぶりに飛ぶか、なんてそんな事を考えていた時だった。
「がはっ……………」
バタンと音がした。ふっと横で倒れるのが見えた。
「おい!」
地面に倒れたセルシウスが大量に吐血していた。それもかなりの量。
「な、んだこれ」
上手く喋れないらしく、はぁはぁと荒々しい息だけがこだまする。端正な顔立ちは苦悶の表情で歪められていた。しかも腕や脚、首には薄っすらと茶色いアザのようなものができはじめている。現在進行系で段々とそれは濃くなってきていた。普段の自信満々で余裕のある態度なんて全然なくって、それが余計に俺を不安にさせた。セルシウスは間違いなくあそこにいるディスタイザーよりも身体能力も呪術能力も全てにおいてトップのはず。そんな奴が数分もたたないうちに倒れているのだ。
セルシウスの身体状況を把握するために視線を滑らしたときだった。驚愕したのは…
指先がなくなっていた。
報告を聞いていたとおり、セルシウスの指がパラパラと塵屑のように崩壊していて。その侵食速度はあまりにも速かった。このままでは数十分も持たない。
「…は…がはっ…」
セルシウスの2度目の吐血。
[[し…き……あなたは生きて?……]]
[[ごめ…ん…ね。…]]
フラッシュバックする過去の映像。どれだけ治しても治しても治してもその血は止まることがなくて零れ落ちてきて。俺の視界が涙で滲むから貴方が手を伸ばしてきて拭ってくれて。
「嫌だ…嫌だ嫌だ…。」
ガタガタ震える自分の体。馬鹿みたいだ。セルシウスはあいつじゃないしあいつはセルシウスじゃないことをわかっているのに。仲間が死ぬことの恐怖は骨の髄まで浸透していて上手く体が動けない、動かない。それのせいで俺の思考は一気にネガティブになる。
そもそも身内さえ救えなかった俺が敵国の人間を助けることなんてできるのだっけ、とか。もし「気」を受け取ってもらえたかったら?とか。だって拒絶されればいくら再生魔法を持つ俺でも他人を治すことはできないし。俺は黒妖民が紫灯民と同じだと思ってたし治せると思ってた。でも俺は紫灯以外の人間を治したことがない。セルシウスでさえ治せるかわからない。
今になって先程までの瘴気接触者を俺が治療したいなんてふざけた言葉を発言したことに後悔した。
そんな時、ポツリとかすれた声が響いた。
「紫、輝……だい…じょぶ……だ」、と。
セルシウスが震える自身の手で俺の手をきゅっと握りしめた。俺よりも3つも年下なのに。死ぬかもしれないのに、怖いはずなのに。どうして…
どうしてそこまで俺を守ろうとするんだ。
「俺は……受け入れ……る」
「………」
セルシウスの身体に俺の気を送り込む。こっちは死ぬほど不安だっていうのに本人があんまりにも自分のことより俺のことを心配するもんだから何となく呆れた。んで落ち着いてきた。もういいやって、こいつが受け入れるって言ってんだから俺の恐怖も不安も全て
注いでやろうって。それが俺の出せる今のベストだ。
下界の人間は紫灯国民とは身体構造が違うからいつもより丁寧に細心の注意を払う。「気」が強すぎればセルシウス内部を傷つけかねない。ぽわぁとセルシウスの身体が光り輝いて傷口を癒やしていく。同時に保護魔法を施して瘴気に触れさせないようにもした。前は保護魔法が機能したけど高濃度瘴気に対してどこまで有効かわからないから油断は禁物だけれど。痛みが消えてきたのか歪められていた顔からしんどそうな影が少し消えてきた。
そんな中で考えたこと。今までのセルシウスの行動だった。最初出会った頃は殺す気だったような気がする。船の中やナタリヤ国王との面会、セルシウスの部屋に監禁された数週間…。俺の能力目当てで心を壊して操り人形にしようとしてるのがこいつの目的のはず。それなのに時折俺に向ける目が…こんなんのはなんでだよ。心を壊したいなら早く壊せばいいのに。
たった数週間で少し優しくされた程度で、俺はこいつに死んでほしくないと思ってる。だって、今までだって何人もの敵を見殺しにしてきたのに。死にかけている敵を今更助けようとするなんてどうかしてる。別に治療してやらなくていいのに。むしろ俺を拉致った奴なんて死んだほうがいいじゃないか…俺にとって。
そう思うのに体は勝手にセルシウスを守ろうと動く。
助けたいと思ってしまう。
「し…き?何する気…だ」
セルシウスが俺を見て驚く。何故かその顔は焦っていて俺の方へと手を伸ばした。
ああ
なんて滑稽なんだろう。
[それが貴方でしょ?]
うん、そうだね。自分でも馬鹿だなぁと思うよ。でも救えるならそれでもいいって思ったんだよ。
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