その輝きを失わないで

茶碗蒸し

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黒妖国

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黒妖国軍はは大きく分けて3つのタイプに分けられる。近接戦が得意なプロペ、中距離戦が得意なメスィ、遠距離戦が得意なマクリア。それらをその時に起こる戦争に合わせて各部隊ごとに分配するのが黒妖の軍構成。それらは常に固定されたメンバーではなくあくまでも全体として動く。この3つが通常の軍である。



そしてこの軍よりも上層に位置するのがディスタイザーと呼ばれるより高度な呪術を扱う者達である。そいつらは一般人よりも高い呪力量を持ち戦闘能力が圧倒的に高い、いわゆる黒妖最強の部隊である。そいつらは特秘部隊らしくあまり表での活動はしないらしい。俺自身は何度かこのディスタイザーと戦ったことがある。俺が黒妖軍を半殺しにするよりも前に何度か黒妖を攻めたことがあるんだけどその時にこいつらの一人の攻撃が当たって空から地上に落下してしまった。数日間黒妖で過ごさなきゃいけなくなったのだ。その時はほんとに幼かったから自然躁術と空中浮遊も上手くできなかったし再生能力も今よりも全然低くってまじで死ぬかと思った。空から落下して怪我をした俺は黒妖のある一人の子供に見つかったんだけどその子は俺を軍に指しだしたりしないで看病してくれたのだ。驚きなのがその子は俺よりも幼かったのにも関わらずディスタイザーに所属していた。何で俺が落ちた森の中に一人で居たのかは知らないがとても優しい子だったのは覚えてる。


まぁ話が逸れちゃったけどディスタイザーはそこそこ強い。若い時は一人でこの部隊を相手するのはしんどかった。まぁ、対戦の最後らへんは俺はすでに最強って呼ばれるくらい強くなってたし一人でも余裕だったけど。



「そしてアンタはそのディスタイザーに所属しているんだな?」



「ああ、」



「ほんとか?俺、何回か戦ったけどアンタみたいな強い奴いたかな」



俺のその言葉にセルシウスはピタッと固まった。それはもうわかりやすく。


「ん?どうした?」



「覚えてないか」



ほんとに小さくぼそっと呟いてすぐに「何でもない」と言って歩き始めた。あ、今はセルシウスが所属するディスタイザーの呪術部隊に向かってる途中。王城から近いみたいで歩いているところだ。



「黒妖呪術って呪い系統が多いけど、やっぱりこれからは会う奴らもそういうのばっか?」



「んー、人それぞれだな。呪言専門もいるし、呪力量が多いパワー系もいるし。俺は…」



「アンタは呪力量も多いし呪言の能力も高い。身体能力や剣術、体術も呪力量で強化してる。アンタ、全部できるタイプだろ?違うか?」



「あの伝説の6代神様にそう言ってもらえるなんて光栄だな」




「思ってもないくせに」




「ははは、思ってるよ」




見てわかると思うけど、あれから俺とセルシウスはだいぶ打ち解けて喋るようになった。何か一度この人のこと知りたいって思ったら心は止まらなくて、セルシウスとずっと一緒にいたいと思ってるようだ。俺のことなんだけど変な感じ。



「ここだ」


話してると、目の前には黒で統一された建物がたくさん建っている場所へ到着した。




「はー、」



そこには見覚えがあった。俺はこの大きな建物を躊躇いもなく破壊した。再建されたのか以前見たものとは少し違っているけれど。自分で知りたいといった割にいざ目の前にすると軽い目眩と吐き気を覚えた。



[あははっ、自分がやった事なのに責められるのが怖いんだ?]



あーまた来た。後ろを振り返るとそこには幼い頃の俺が。最近見ていなかったのに戦争を思い出すとよく見る幻覚。セルシウスとゴタゴタしてた時は俺がしたことなんて思い出す時間が普段よりも減っていたし、何よりあの人リアンのことが薄れていくに連れてこの幻覚も見る回数が減ってたのに。



「別に」



[嘘だね、紫輝。自分が奪って壊して殺したものが悪じゃなかったって知るのが怖いんでしょ?だって何人も何人も何人も殺したもんねぇ?]



うふふと笑うその姿は昔の自分の姿なのに悪魔のようだ。



「おい?いつまで止まってるつもりだ。」



突っ立ったまま一向に動こうとしない俺を不審そうに見るセルシウス。



[彼は優しいねぇ。彼のおかげで紫輝はリアンのことも戦争のことも考える時間が少なくなってる。]


確かにそうだ。紫灯国にいたときはずっと考えていた。頭の中によぎるのは俺が奪ったものと俺が失くしたもの。俺の生きている世界は色を失ったようにモノクロだった。毎晩来る襲撃者達を殺す度に世界に対して希望が持てなくなっていった。



俺は常に携帯している抑制剤を自身の首に打った。これが効いてるうちは忘れられる。代わりに凄まじい音をたてて心が崩れ落ちていく。


「うっ…」
    
あまりの痛さに全身からは汗が出て震えが止まらない。その俺の様子を見て子供は楽しそうにけらけらと笑った。


次第に薬が効いてきたのか段々と俺の姿をした子供は色あせて消えていった。



[また来るよ]



そう言い残して。





「おい!」




大きい声で呼ばれて一瞬で我に返った。見るとセルシウスが俺の手を強く引いている。



「何だそれは」



俺の首に刺さったままの注射器を引っこ抜くとセルシウスはぺろっと下で舐めた。



「ちょっ!何してるんだよ!」



「成分解析」



セルシウスはそう言ってしばらく俺の抑制剤を確かめていた。



「精神安定剤、そして幻覚抑制剤。」



「…」



言い当てられてなんと言っていいのかわからない。




「しかも麻薬中毒度が最も高くなる果実『エデン』が主要成分。お前の心が壊れていたのはこれが原因か?」



「俺の心なんて見えないくせに」



「俺は見えるんだよ。俺の呪術は物理的なものも多いけど精神にも大きく作用させられる。それは俺が他人の心の形が見えるから。」



「嘘つけ」



「別に信じなくてもいい。これはいつから服用しているんだ?」



「大戦後からずっと。毎日使ってたのはあの事件があってから、…最近はアンタに連れてかれたから使う暇もなかったけど」




俺の返答を聞いたセルシウスは急に俺の身体を弄り始めた。



「な!何してんだよ!」


服の中に隠しておいた抑制剤6本くらいを取り上げられる。取り返そうとして手を伸ばしたと同時にセルシウスはその注射器を思いっきり地面に叩きつけた。



ガシャンッー



そりゃそうだ。あんなに勢いよく投げられたら割れるに決まってる。見事にすべて割れ、中の液体も飛び散ってしまっている。




「何してくれてんだよ。この薬高いのに」



わざわざ取り寄せているのだ。紫灯国では麻薬は禁止。心がきれいな人ばかりだから麻薬を使う人なんていない。しかし一部には闇市を経営する裏の人間も居るにはいる。そういうところでこっそり仕入れているのだ。




「今後一切この薬を使うな。」




「無理。やめる気はない。」





「っ…もういい。この話はあとだ、今は行くぞ」





セルシウスはそう言って俺の手をぐいぐい引っ張って中へ入っていった。手離してくれてもいいのに、そう思ったけど、強く引っ張るその手が何処か心地よくて言えなかった。





引っ張られてしばらくしてその足が止まった。



セルシウスはいつもよりも深刻な面持ちで俺を見た。自意識過剰かもしれないけれどこいつはもしかしたら心配してくれているのかもしれない。



「大丈夫だ。こう見えても俺、慣れてるから」



慣れてるけど何とも思わない訳じゃない。俺に対する憎悪、嫌悪、畏怖、嫉妬、数々の良からぬ感情は受けてきた。他国に限らず味方からも。



「俺強いから」



笑って挑むようにセルシウスを見た。目の前の扉が開かれて俺達はそこに入っていった。








ざわざわする空気、広い部屋には大勢の人がいて皆目の色と髪の毛が黒色だった。
「下層のプロペ、メスィ、マクリア寄りもエリートでまとも」
というセルシウスの評価の通り、予想に反して野蛮な奴らではなかった。隊服をきっちり着こなすあたり意外と真面目なのが分かる。俺の国は隊によって規律が違うからこんなちゃんとしているのはめったにない。俺の部下にも見習わせたいくらいだ。

「何故か分からないが呪力量に比例して顔も整う」

のが黒妖の人間なんだとか。ここにいる奴ら皆呪力量が高いから顔面偏差値も高かった。




俺らが入った途端一気に場がシーンと静まる。様々な目線が俺に向けられる。誰も何も言わない時間が数十秒続いた。




「セルシウス、そいつが例の6代神様か?」




一番最初に口を開いたのは部屋の前に佇む、この中ではちょっと歳がいってる人。俺が軍を崩壊させたのもあって今の黒妖軍は若い人が多いらしい。そう聞いていたから珍しく思った。セルシウスを呼び捨てにするくらいだからきっと階級も上なんだろう。




「ええ。今日から俺らの日程に全て参加させます。」

  

セルシウスの言葉に奴らは驚いた顔をした。




「発言してもよろしいでしょうか?」




ザワつく彼らの中で一人挙手をして立ち上がった若い青年がいた。その目つきは厳しいもので俺に対する憎悪がはっきりと見えた。まぁこいつだけに限らず全員
だけど。




「何だ?」




「ここにいる殆どがそいつに家族を殺されています。」



「それが?」



「俺にとって皆んなにとってそいつに復讐することが殺された家族の仇を取ることだと思っています。」



「ああ」




「そんな奴とどうしてこれから過ごさなきゃいけないんですか?今すぐにでも殺したいくらいなんですよ!!?」





「どうぞ?」



俺はセルシウスより一歩前に出てその青年と向き合った。



「セルシウスに連れられてるからと言ってアンタ達が俺に攻撃をしてはいけないというわけじゃない。殺したいと思うなら俺にいつでも攻撃していい。」



「おい、誰がそんなことしていいといっ…」



介入しようとするセルシウスを手で制して黙らせる。ここでこいつに庇われたらそれこそ目の前の奴らは面白くない。



「随分と余裕なんですね」



青年は俺を嘲笑うかのように言った。



「ああ」



「俺らに対して何とも思いませんか?」




青年の言いたいことは凄くわかる。だけど俺もなお前らに対して同じこと思ってるよ。お前ら黒妖が俺らにしたことは俺がしたこと以上に凄惨なものだったよ。できることなら黒妖に限らず五大国すべてを滅亡させたいくらいだよ。でもこいつらは…大戦を知らない若者たちはそれを知らない。自分の国が紫灯へしたことを。俺もそれをいう気はない、だってこいつらにされたわけじゃないから。



「逆に聞くが、俺になんて言って欲しいんだ?」



俺が挑発するかのように首を傾げてそう答えれば、瞬時に部屋の全員から殺気を受けた。殺ってみろよ?というふうに笑ってみせる。



「呪死悪眼」「散憎塊……」などと部屋の中は呪言で包まれる。そして一気に俺を殺すための攻撃が放たれた。







ピカッー





と俺は黒の光に包まれる。抵抗する気なんてさらさらない。目の前が真っ暗になって自分の体は呪いとかで臓器が破裂したり、骨が骨折したり、様々な攻撃を受けた。あーこの感じ懐かしい。全身を引き千切られる痛みは想像を超えるほどだけどそれもすぐに終わる。どんなにこいつらにとって悪でも、俺は神様に愛されているから、死ねない。





「これで終わりか?」




翼を羽ばたかせて黒色の光を吹き飛ばす。俺の体は相変わらず無傷だった。



その俺を見てさらに深まる闇。



青年は黙って座った。




「悪い。躾がなってなくて」



セルシウスは若干申し訳無さそうに謝った。



「あの人は当然のことをしただけだ、悪くない。」



そう言えば何故か苦しげに顔を歪めた。どうした、お前がそんな顔する必要ないのに。




前途多難。どうやって彼らに向き合えばいいのかわからないけれど。こうして俺は黒妖国軍へと入隊?した。






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