その輝きを失わないで

茶碗蒸し

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依存

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「えー、ステージ進行完了してないじゃないですか」


へらへらと笑う紅茶色の髪の青年がセルシウスに話しかけていた。
 

「ハオランか…」



青年はそうですよーっとひらひらと手を振って反応を返す。



「才華に帰らなくていいのか?」


「はっはー、何言ってんですか?セルシウス様が呼び出したんでしょうが。」


いつもどんな時でも笑顔を絶やさない目の前の青年は才華国現第一王子リー・ハオラン、そしてセルシウスの弟。本名はレディアス・オリバー。黒妖国の王族オリバー家の第5王子だった。



「早く要件言ってくださいよー。俺だって才華に早く戻って仕事しなきゃいけないんですから」



レティアスは優秀な弟だった。王位継承権第5位のはずなのに上に立つ第一王子であるセルシウスを除く3人の兄よりもずば抜けて。それが幸か不幸か、親父の目に止まった。当時の才華国には王子となれる御子が産まれず、下卑た親父はレティアスはどうか、と勧めたのだ。というよりはむしろ脅迫のほうが近いが。ともかくいろいろ政治的な圧力が働き、レティアスはオリバー家ではなくなりハオラン家として…才華国の人間にさせられた。この時、まだ幼かったレティアスがいきなり国を追われて違う国の上位に君臨させられて…どう思ったのかはわからなかった。それはこいつが感情を一切見せないから。セルシウスは他の3人の弟よりこいつのほうが優秀だと思ったから、こうして偶に呼びつけては仕事をさせているだけであってそれ以外の関係はない。仲が良くも悪くもない。兄弟と言えど何も知らないのだ。



「D-21でいっきに抗原の侵攻を速めようとしたが思わぬトラブルがあった。」



「ヘェ」



「相澤紫輝曰く、6代神には生殖機能がないんだと。つまり自分で性欲処理することもなければもちろん他人ともしたことがない。」



「うっわぁ…いい年してそんな健全な男いるんですか。あの人すんごい顔綺麗なのに」



「それについて少し疑問がある。性欲を感じたことがない、と言ってはいたが俺の前戯には確かに感じていた。あー…勃ってはない。」


「んー、ただのEDじゃなくてですか?」



「いや、今までで一度も出したことがないらしい。未発達とかそういうレベルでもないだろう。そんで頼み事がある。」






「何すか?」





「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」






セルシウスの命令内容を聞いたリーは薄く笑った。この人にだけは捕まりたくないなと心底思った瞬間でもある。だがしかし、そんなことを思ったところで主の命令を遂行しないわけにはいかない。




「了解」





ハオランは音もなく夜の闇に消えていった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




パチリ




そんな音がするくらい勢いよく目が覚めた。少し気怠さを残す身体を起こして周囲を確認する。



「あ…」



眠れた…と気づいた。紫輝は元々どんな状況下に置いても爆睡するタイプだった。が、とある戦いで6代神3人が亡くなった時から眠るという行為ができなくなっていた。


「いや…ここ最近は気絶とかばっかしてるから寝ては、いるか。」


それでもこんな熟睡っていうのは久しぶりだ。悪夢なんて一切見ない綺麗な睡眠だった。寝すぎて怠さが残るくらい寝るなんて…。ちょっと罪悪感。俺が寝れなくなったのは悪夢を見るからもそうなんだけど、なんとなく寝たくないのだ。睡眠で疲れが取れることは知ってるし悪い行為じゃないのはわかってるけど。


「ん…」


「ゔぇっ…」


まっったく気づかなかったけど、アンタ俺の横で寝てたんかいっ!俺が起きた気配に気づいたのか隣で眠る男はんんん、ともごもご喋っている。えー、まじか。他人がいるのに、しかも敵でこいつと寝るなんて。うわぁ自分の事殺したくなるくらい自己嫌悪。まぁいいや、せっかくだしその綺麗な顔面じっくり観察させてもらおっかなーなんて軽い気持ちで近づいたら、そいつに布団の中へと引きずり込まれて抱きつかれた。



「ちょっ!!」   



こいつっ!何でもかんでも急すぎるんだよ!しかも無駄に力強いし!抜け出そうとするもののがっちりとホールディングされており、しかも自分よりも体格がいい男の拘束を外すのはなかなか至難の技だった。いい加減離せと男の顔を振り返って見たとき


目があった…。



長いまつ毛に縁取られた三白眼の瞳。全てを飲み込んでしまうかのような黒色の目は俺の目をまじまじと見つめていた。



「うっ…」


こいつ寝起きでも格好いいとか…最悪見なければ良かった。慌てて顔をそらして深呼吸する。見つめられて赤くなった自分がすごい恥ずかしい。


「お起てんなら話してくださいよ。」


「却下」



低い重低音の声の吐息がふっと耳にかかる。思わず反応しそうになって慌ててこらえた。



「なぁ、紫輝。お前って喋り方変だよな。」



「馴れ馴れしく名前呼ばないでいただけますか?」


「俺のほうが一応年下だろう?それなのに敬語だし、アンタ…って俺のことを呼ぶ」


「敬語は…殿下だからです。王族でなかったらこんな綺麗な敬語使いませんよ」



「じゃあ、敬語使うな」



「へ、」



「別に敬って欲しいわけじゃない。お前はこの国の人間でもないし必要ない」



「えー、あー、はい?」



「そんで、俺も大概だけど年上にさアンタっていうのならわかる。んで年下にお前って使うことね?」




「は?」



「俺のイメージだが。」



「あー、まぁ言ってることわからんでもないです。俺がアンタにお前って言ってアンタが俺にお前って言うってことですよね?」



「そう。」



「ふっ…」




えええええ。意外意外以外!こいつ寝ぼけてるんじゃね?内容うっすいからか寝起きだからかわかんねぇけど喋り方崩れてるし笑。目の前のこいつはーだろう、とかーである、とか王族の話し方って感じだったのに。



「おい、何笑ってる」



「笑ってないです」



「敬語…」



「…」



敬語を使う理由は建前上、王族だからといったけれどそういうわけではない。区別するためだ。敬語を使うっていうのはこいつに心を許してないっていう証拠みたいなもの。敬語外すと一気に近くなるじゃん。それが嫌だ。



「それは強制ですか?俺は敬語で話したいです。」



「強制だ。外せ」



「……」




ううん、あんまり気乗りしないけど。『』使われても困るしな。しょうがない。



「わかっ、…た。」



ちら、と横目であいつの顔を盗み見る。見なければ良かった、と後悔した。だってあんなにも柔らかい笑顔で俺のことを大切っていってるような目で見ていたから。



「あっ!呼び方は別に何でもいい…よな?」


何となく残る気まずさに居心地が悪くって先程までの話題に集中しようとした。こんな人と距離が近いのなんてすごい久しぶりすぎて陽だまりの中に閉じ込められてるみたいだ。


ーこんな平和俺には似合わない。



ふとそんなこと思ってしまう。ネガティブシンキングだな、とか思われるかもしれないけどそんなにポジティブでもいられない。自分が進んできた21年間の道はそんな綺麗なものではないから。俺が今、生きている分、他の誰かの何かを奪ってきた…ということだから。俺は幸せになんてなってはいけないのだ。





「離れろ」




そうやってセルシウスの胸を軽く押して抜け出す。奴も俺を引き留めようとはしなかった。



「呼び方はアンタでもお前でも何とでも言っていい。…だけど名前で呼べるなら呼んでくれ」



「えー、」



「ほら…早く」




拘束は解けたけど、俺の方をめっちゃ見つめてきてほんとにほんとにいたたまれない。何故かこいつに見られるのが恥ずかしい。



「せ、」



「セ?」




男じゃん。てか、名前呼ぶだけで照れるとか今までなかったじゃん。気にすんな気にすんな俺。気にしたら負けなんだ。




「セルシウス」




小さくも大きくもない声でその音は響いた。セルシウスは満足げに目を細め、それでいいと呟く。









ギギギ……





紫輝が知らない間にも打ち込まれた病原恋心は紫輝の心を侵食しつくしていく。









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