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依存
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俺は見たこともない眼の前の光景に眉を潜めた。ほのかなグラデーションを施した青空、周りに広がるのは黄金色の草原。俺は一人、そこに立っていた。
その景色はぞっとするほどきれいで儚くて知らず胸が騒いだ。
『だーれだっ!』
「うわっ!」
突然目隠しをされてめちゃめちゃびっくりした。知らない場所で誰もいないところで心細すぎたから内心安堵してるけど。俺は手の目隠しを外して相手の顔を見た。
「え…」
そこには相原梨杏の姿があった。
『久しぶり!紫輝、元気にしてた?』
美しい銀髪の長い髪の毛、くっきりした眉毛、筋の通った鼻、桃色の薄い唇、まばらに銀色の光が灯る黄金の瞳、バランスの取れた綺麗な身体、純白の翼…そしてその陶器のような白い額に6代神の証拠である石がはめ込まれている。死因となった大きな傷も見当たらず生前となんら変わりない。その人は驚く俺の顔を見てひまわりのような笑顔で微笑んだ。
「な、んで?…」
『その辛気臭い顔やめな!せっかく私の好きな顔なのにー』
そういうなり俺のほっぺたをむにむにとつまんでくる。外から見たらただの微笑ましい絵柄かもしれないがやられてる身としては相当痛い。
「生きてた…の?」
『えー今更それ聞くの?もう3年は経ってるのに』
からからと笑う彼女はとても死んだようには思えなくて、俺が長い間夢を見てたんじゃないかってほんとにそれくらい現実で。でも次の彼女の言葉に頭をハンマーで撃たれたような衝撃で目が覚める。
『ごめんね。私が死んでからずっとずっと紫輝が暗そうな顔してたから、出てきちゃった』
リアンは死んだと言ったのだ。一瞬でも生きてたんじゃないかって喜んだ自分が馬鹿馬鹿しい。
「そっか…。」
『…なんで泣いてるの?』
自分でも気づかないうちに呼吸は段々と浅くなって、全身に鳥肌が立って、目からは涙がぼろぼろこぼれ落ちていた。
「…んで、何で出てくんだよ。俺はっ…俺はまだリアンが死んだなんて現実受け入れてないんだよっ!あんたがいなくなってから世界に、日常に、平和に、何の価値も見いだせなくなった!大戦を必死の思いで終わらせたって何の解決にもならなかった!
俺達の目標なんてあんたを殺した世界になんの意味がある!?俺が生きる活力はもうこの世界にない!あんたが最後に言った言葉なんて綺麗事だ!俺を取り残した癖にへらへら笑ってんじゃねぇよ!…」
ああ、止まらない。違うのに。こんなめちゃくちゃな事を言いたいんじゃないのに。リアンがいなくなって約3年、現実から目を背けることで精神を保っていた俺は限界だった。でも暴言を吐きまくる俺を怒りもせず、リアンは黙って聞いていた。
『うん。私達の夢や私が言ったことはただの絵空事なのかもしれない。…それでも紫輝は生きろ。私の事が全てだったって言ってくれるけどそれは私もおんなじだよ。紫輝が私の世界そのものだった。』
「…ッ…」
『だから、紫輝が生きて笑ってくれさえすればそれでいい。あなたが感じたように動いて。』
「嫌だっ!一緒に、連れてってくれ!…」
『私なら、私達なら側にいる。』
ざぁぁっと強い風が吹き始めて俺の周りを囲った。まるでリアンから遠ざけるように。俺は叫んで手を伸ばした。何度も何度も。それでもリアンに届くことはなかった。俺の意識は徐々に暗闇の中に落とされていった。
シャワー室で意識を失った紫輝を自室のベッドへ寝かせるとセルシウスは、しばらくして紫輝がうなされていることに気づいた。端正な顔立ちが苦悶の表情に歪み、呼吸は浅く、閉じた瞼からは涙をこぼしていた。余程の悪夢を見ているらしい。なんとなく可哀想に思って紫輝に近づき揺さぶって声をかけた。
「おい、だいじょ…」
「離れろ」
セルシウスの心配の声は言い切らなかった。紫輝がセルシウスが起こそうとした瞬間に飛び起きたのである。紫輝はまるで手負いの獅子だった。警戒心が強く、その手はセルシウスの手首をぎちぎちと締め付けている。迫力ある姿に思わず息を呑んで固まってしまった。部屋に妙な緊迫感が流れ始める。紫輝もその雰囲気を感じ取ったらしい。相手がセルシウスだと認識すると気まずそうに目をそらした。
「…申し訳ございません。殿下だと気づかずに…」
ぱっと手が開放された。紫輝はやつれ顔でこちらへ一瞥くれると何事もなかったようにベッドに身体を沈めた。
「随分うなされていたようだが、悪い夢でも見たのか?」
「いえ、お気になさらないでください。」
「…」
これ以上セルシウスの方を見ない紫輝の頑なな態度に軽く呆れていたが、セルシウスは気づいてしまった。紫輝が先程のシャワー室での行為を恥ずかしがっていることに。何せそむけた紫輝の顔から耳にかけて真っ赤に染まっているのである。シャワー室での快楽を知っていく姿、悪夢にうなされて泣いていた姿、そしてそれを恥じらう姿は嗜虐心をそそられる。
「先程のキスがよっぽどよかったか?」
「なっ!違います!!!!」
少しからかうと勢いよく顔をこちらに向けて否定する。これが6代神最強と謳われる素顔か、となかなか見れない様子を見せてくれたことに嬉しさのようなものが湧き上がった。
「期待に応えられなくてすまないが着陸の時間だ。」
「…黒妖国ですか、。俺が下界に行くのは先の大戦以来ですねー」
紫輝は黒妖国というより五大国に余り良い印象がないのだろう。その嫌悪感を隠さない言い方が充分に物語っていた。紫輝は『3柱との聖戦』と呼ばれる戦いで黒妖国の首都レインクラインを壊滅させた張本人である。その戦いは黒妖国史上最悪と呼ばれるほどだった。大勢の人が亡くなったし、建築物は破壊されると言ったような生易しいものではなく元々存在しなかったかのように潰された。近代兵器が保管されている軍の本拠地なんて一欠片も残らなかった。凄惨な情景だった。だがその中でも違和感が残っていた。まず真っ平らにされた土地の中で王城だけはどこも損傷なく無傷だったこと。死傷者の殆どが軍人であったこと、なぜか一般市民は無事だったこと。それは一方的な大虐殺では無く、物理的に戦争をできなくさせる戦い方だったのだ。紫輝がやったことは決して許されることではないと思う。だが、五大国はもっと過激な殺し方をしていたというのに。遺恨はあるが黒妖国民は意外にも受け入れていた。自分達のこれまでの行いへの代償だと…。まあ、その戦いの総司令官だった紫輝はあまりいい思い出はないだろう。
「これから王城グラントフィリオンへ入る。貴方…お前はこれから人質として扱わせてもらう。」
「首都を壊滅させた張本人ですからねー。それくらいの位置にいた方が都合がいいです。」
「へぇ、罪の意識が?」
「……お前達に罪悪感があるか、だって?」
少しからかってみると強烈な殺意を向けられた。本当にわかりやすい男だなと思う。こんな自分の感情を隠さない、正直すぎる性格。仲間を守る存在として上に立つ者はいろんなものを犠牲にしているため、上手に立ち回らなければならない。それを続けていくうちに自然と人間らしさよりも効率の良さを求めてしまって本心を隠すようになるのだ。しかし紫輝は違っていた。本当にきれいだ。心を壊すのに最適なタイプ。6代神最強の力には今の世界で誰一人として太刀打ちできるものはいないだろう。だがそれは今も紫輝の心を蝕んでいる病原体の前では意味をなさない。
『違うのか?』
セルシウスは紫輝の心を支配する声を持つ。そうやって話しかければ抵抗することさえできない。
「うぁ"っ??……」
心がギシギシと軋んできた。3年前に起こった事件により元から壊れていた心なんて支配し、抵抗力を奪うのは容易い。紫輝の想い人はいずれセルシウスになるのだ。
『ようこそ、我が国黒妖国へ』
セルシウスの妖艶な声が鳴り響いていた。
その景色はぞっとするほどきれいで儚くて知らず胸が騒いだ。
『だーれだっ!』
「うわっ!」
突然目隠しをされてめちゃめちゃびっくりした。知らない場所で誰もいないところで心細すぎたから内心安堵してるけど。俺は手の目隠しを外して相手の顔を見た。
「え…」
そこには相原梨杏の姿があった。
『久しぶり!紫輝、元気にしてた?』
美しい銀髪の長い髪の毛、くっきりした眉毛、筋の通った鼻、桃色の薄い唇、まばらに銀色の光が灯る黄金の瞳、バランスの取れた綺麗な身体、純白の翼…そしてその陶器のような白い額に6代神の証拠である石がはめ込まれている。死因となった大きな傷も見当たらず生前となんら変わりない。その人は驚く俺の顔を見てひまわりのような笑顔で微笑んだ。
「な、んで?…」
『その辛気臭い顔やめな!せっかく私の好きな顔なのにー』
そういうなり俺のほっぺたをむにむにとつまんでくる。外から見たらただの微笑ましい絵柄かもしれないがやられてる身としては相当痛い。
「生きてた…の?」
『えー今更それ聞くの?もう3年は経ってるのに』
からからと笑う彼女はとても死んだようには思えなくて、俺が長い間夢を見てたんじゃないかってほんとにそれくらい現実で。でも次の彼女の言葉に頭をハンマーで撃たれたような衝撃で目が覚める。
『ごめんね。私が死んでからずっとずっと紫輝が暗そうな顔してたから、出てきちゃった』
リアンは死んだと言ったのだ。一瞬でも生きてたんじゃないかって喜んだ自分が馬鹿馬鹿しい。
「そっか…。」
『…なんで泣いてるの?』
自分でも気づかないうちに呼吸は段々と浅くなって、全身に鳥肌が立って、目からは涙がぼろぼろこぼれ落ちていた。
「…んで、何で出てくんだよ。俺はっ…俺はまだリアンが死んだなんて現実受け入れてないんだよっ!あんたがいなくなってから世界に、日常に、平和に、何の価値も見いだせなくなった!大戦を必死の思いで終わらせたって何の解決にもならなかった!
俺達の目標なんてあんたを殺した世界になんの意味がある!?俺が生きる活力はもうこの世界にない!あんたが最後に言った言葉なんて綺麗事だ!俺を取り残した癖にへらへら笑ってんじゃねぇよ!…」
ああ、止まらない。違うのに。こんなめちゃくちゃな事を言いたいんじゃないのに。リアンがいなくなって約3年、現実から目を背けることで精神を保っていた俺は限界だった。でも暴言を吐きまくる俺を怒りもせず、リアンは黙って聞いていた。
『うん。私達の夢や私が言ったことはただの絵空事なのかもしれない。…それでも紫輝は生きろ。私の事が全てだったって言ってくれるけどそれは私もおんなじだよ。紫輝が私の世界そのものだった。』
「…ッ…」
『だから、紫輝が生きて笑ってくれさえすればそれでいい。あなたが感じたように動いて。』
「嫌だっ!一緒に、連れてってくれ!…」
『私なら、私達なら側にいる。』
ざぁぁっと強い風が吹き始めて俺の周りを囲った。まるでリアンから遠ざけるように。俺は叫んで手を伸ばした。何度も何度も。それでもリアンに届くことはなかった。俺の意識は徐々に暗闇の中に落とされていった。
シャワー室で意識を失った紫輝を自室のベッドへ寝かせるとセルシウスは、しばらくして紫輝がうなされていることに気づいた。端正な顔立ちが苦悶の表情に歪み、呼吸は浅く、閉じた瞼からは涙をこぼしていた。余程の悪夢を見ているらしい。なんとなく可哀想に思って紫輝に近づき揺さぶって声をかけた。
「おい、だいじょ…」
「離れろ」
セルシウスの心配の声は言い切らなかった。紫輝がセルシウスが起こそうとした瞬間に飛び起きたのである。紫輝はまるで手負いの獅子だった。警戒心が強く、その手はセルシウスの手首をぎちぎちと締め付けている。迫力ある姿に思わず息を呑んで固まってしまった。部屋に妙な緊迫感が流れ始める。紫輝もその雰囲気を感じ取ったらしい。相手がセルシウスだと認識すると気まずそうに目をそらした。
「…申し訳ございません。殿下だと気づかずに…」
ぱっと手が開放された。紫輝はやつれ顔でこちらへ一瞥くれると何事もなかったようにベッドに身体を沈めた。
「随分うなされていたようだが、悪い夢でも見たのか?」
「いえ、お気になさらないでください。」
「…」
これ以上セルシウスの方を見ない紫輝の頑なな態度に軽く呆れていたが、セルシウスは気づいてしまった。紫輝が先程のシャワー室での行為を恥ずかしがっていることに。何せそむけた紫輝の顔から耳にかけて真っ赤に染まっているのである。シャワー室での快楽を知っていく姿、悪夢にうなされて泣いていた姿、そしてそれを恥じらう姿は嗜虐心をそそられる。
「先程のキスがよっぽどよかったか?」
「なっ!違います!!!!」
少しからかうと勢いよく顔をこちらに向けて否定する。これが6代神最強と謳われる素顔か、となかなか見れない様子を見せてくれたことに嬉しさのようなものが湧き上がった。
「期待に応えられなくてすまないが着陸の時間だ。」
「…黒妖国ですか、。俺が下界に行くのは先の大戦以来ですねー」
紫輝は黒妖国というより五大国に余り良い印象がないのだろう。その嫌悪感を隠さない言い方が充分に物語っていた。紫輝は『3柱との聖戦』と呼ばれる戦いで黒妖国の首都レインクラインを壊滅させた張本人である。その戦いは黒妖国史上最悪と呼ばれるほどだった。大勢の人が亡くなったし、建築物は破壊されると言ったような生易しいものではなく元々存在しなかったかのように潰された。近代兵器が保管されている軍の本拠地なんて一欠片も残らなかった。凄惨な情景だった。だがその中でも違和感が残っていた。まず真っ平らにされた土地の中で王城だけはどこも損傷なく無傷だったこと。死傷者の殆どが軍人であったこと、なぜか一般市民は無事だったこと。それは一方的な大虐殺では無く、物理的に戦争をできなくさせる戦い方だったのだ。紫輝がやったことは決して許されることではないと思う。だが、五大国はもっと過激な殺し方をしていたというのに。遺恨はあるが黒妖国民は意外にも受け入れていた。自分達のこれまでの行いへの代償だと…。まあ、その戦いの総司令官だった紫輝はあまりいい思い出はないだろう。
「これから王城グラントフィリオンへ入る。貴方…お前はこれから人質として扱わせてもらう。」
「首都を壊滅させた張本人ですからねー。それくらいの位置にいた方が都合がいいです。」
「へぇ、罪の意識が?」
「……お前達に罪悪感があるか、だって?」
少しからかってみると強烈な殺意を向けられた。本当にわかりやすい男だなと思う。こんな自分の感情を隠さない、正直すぎる性格。仲間を守る存在として上に立つ者はいろんなものを犠牲にしているため、上手に立ち回らなければならない。それを続けていくうちに自然と人間らしさよりも効率の良さを求めてしまって本心を隠すようになるのだ。しかし紫輝は違っていた。本当にきれいだ。心を壊すのに最適なタイプ。6代神最強の力には今の世界で誰一人として太刀打ちできるものはいないだろう。だがそれは今も紫輝の心を蝕んでいる病原体の前では意味をなさない。
『違うのか?』
セルシウスは紫輝の心を支配する声を持つ。そうやって話しかければ抵抗することさえできない。
「うぁ"っ??……」
心がギシギシと軋んできた。3年前に起こった事件により元から壊れていた心なんて支配し、抵抗力を奪うのは容易い。紫輝の想い人はいずれセルシウスになるのだ。
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