その輝きを失わないで

茶碗蒸し

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捕獲

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ぎゃぁあああっ…!

何ィッ何でっ、翼がっ!?

助けてぇぇぇぇぇぇっ


ー逃げ惑う人々の錯乱した声。





俺が王都上空へ到着した時には既に、黄色いガスが街の中心部を覆っていた。中心街は人口が一番密集しているところだ。避難を一刻も早く完了させなくてはならない。
俺は朱輝とソンが張った結界と似たようなものを王都全域に展開した。

ー結界術、塩の壁ー

俺の「気」に呼応するように不透明な膜が王都を包み込んだ。塩の壁は俺が使える結界術でも最高硬度をほこる。ガスが発生している時点で王都は封鎖せざるを得なかったため、国民を匿う結界ではなくガスを王都内にとどめるタイプに変更した。
そしてもう1つ、郊外の大都市の4つに大規模な結界を出現させる。
その後、国民の脳に直接語りかける通信術を使って避難を誘導した。


ー王都内の住民達に告げる。敵国が毒ガスとも思われる気体を王都中心街で放出。そのガスは黄色く、触れれば俺達の翼を枯れさせてしまう作用を持つ。まだ自力で動くことができる者は全力で王都から脱出せよ。王都郊外の、グラジオラス、サルビア、ダリア、サイネリアの4大都市に結界が張ってある。避難者達は全員この中に入るように。
王宮内でも同様の事が起きている。国王様と大神官様は動くことができない。こちらは我々で持ちこたえなければならない。だから皆は全力で逃げてくれ。俺が全部守るから。ー




ザザッー


ー紫輝様は大丈夫なのですか?ー


国民からの応答には俺のことを心配してくれる者がたくさんいた。やさしい国民たちだ。自分のことよりもいつも俺の事を気にかけてくれる。その優しさに心が暖かくなるのを覚えながら絶対に守らなければならない、と改めて心に誓った。
俺にはそのガスは効かないことを伝えると国民たちは安心したらしく、避難の誘導に従って王都郊外を目指してくれた。
まだこれでは安心できない。敵は俺を探している、と言っていた。だから国民を直接捉えて人質にするかもしれないのだ。その可能性は大いにある。俺は空中浮遊をやめて王都内に入った。












「……ッ」


想像を超える毒ガスの威力に俺は絶句していた。
中心街は発生地だったため、突然の異常事態に対応できない者が多くもろに毒ガスを浴びてしまったのだろう、翼の完全崩壊していて意識不明の重体の人が大勢いた。翼には俺達の体にとってすべての術を扱うための「気」の回路を担う。翼が失くなれば例え俺であっても死んでしまう。



「紫輝さまっ!」


急に俺は名前を呼ばれた。振り返るとそこには見覚えのある少女がいた。

「シーシャ?!…ぐぁっ」


シーシャが急に俺の体に抱きついてきて、もろに鳩尾にタックルを食らった。思わぬ攻撃に涙が零れそうになる。

「紫輝さま、シーシャね、翼が茶色くなって動けなくって、紫輝様の声は聞こえたんだけどね、逃げれなくって…。」

幼い少女は俺の腕の中で、泣きもせず必死に耐えていた。


「シーシャの翼もう白いところないの、。紫輝様…シーシャ死んじゃう?」


綺麗な黄金の瞳が不安げに揺れている。

「絶対に死なせない」


俺はそう言って、シーシャに翼に触ってもいいか確認する。こくんと頷いてからそっとシーシャの翼に触れると茶色く変色した部分はぱらぱらと崩れていった。
これはまずい。本当に羽が一枚も残っていない。かろうじて付け根の部分に翼の骨格ともいえる小さな骨が少し残っているだけ。一刻も早く再生させなければならない。
俺はシーシャの翼の付け根部分に手を添えて再生のために必要な「気」をそっと流し込んだ。目を閉じて集中する。シーシャはまだ幼いため、大人と同じ分量で流し込めば急な「気」の増量に体が耐えきれない。


ー再生魔法、アナゲンィシー


そう軽く唱えて術を発動させる。すると、シーシャの翼がパァァァっと光り始めた。翼は無事に再生し始めている。成功したことにほっとしつつも、それだけじゃまた翼が枯れてしまうので新しく生えてきたところに保護魔法をかけてやる。これでもうシーシャはガスの影響を受けないだろう。


「わぁっ…治った!紫輝様がやったの?!」


シーシャはありがとう、とにっこり微笑んだ。


それから俺はシーシャに絶対に俺から手を離さないようにと約束させ、シーシャを抱きかかえながら逃げ遅れた人々の治療にあたった。ただ、あまりにも人数が多いため俺一人では運びきれない。治療してもその場に放置するのはあまりにも不安なので俺は運んでもらうことにした。
俺は小雲達を手元に数百個発現させて、怪我していて動けない人を避難場所まで運んでほしいと頼んだ。

ーあなた達に俺の「気」をお渡しします。それを使って怪我人の応急処置と、4大都市の結界内に運んでください。ー


小雲達は俺の言葉に頷くようにして理解したことを示し、指示に従って動いてくれた。これで全員の避難が完了する。


「ッはぁ…ッはぁ…」


今度は外に避難した人たちの治療に向かわなければ行けない。病院の専門医達が応急処置などはしてくれると思うけど彼らもまた再生まですることができない。一刻も早く治療しなければ多くの命が失われてしまう。それにガスを発生させる装置がどこかにあるなら探し出して壊さなければならない。
なのに俺の身体は、王都全域とその他4ヶ所の地域への大規模な結界術、倒れていた人々300人程度の治療で限界を迎えていた。走り出そうとした瞬間、もつれるわ、翼とか足とか腕は震えるわで動きにくいったらこの上ない。

「くそっ…」


何とか気張って足を踏み出したその瞬間ー。




誰かぁっ…助けてぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!



幼い子供悲鳴が聞こえてきた。俺は考える間もなく全速力で飛んでその場所へと向かった。



「紫輝様っ、だめ!あっちに行ったら!捕まっちゃうっ」


シーシャもその先に何が待ち構えているか想像がつくのだろう。腕の中にいるシーシャは俺のことを力限り抱きしめて何度も何度も止めようとした。




悲鳴が聞こえてきたと思われる場所にたどり着くと、一人の男の子が倒れていた。翼の損傷以外にも殴られたり蹴られたりした跡がある。恐らく俺の居場所を吐けと言われて拷問に近いことをされたのだろう。シーシャよりも幼い子供だというのに…。俺は幼い子供にみんなと同じように再生魔法を施した。


ヒュインッー


「紫輝様、あぶないっ!!」



突然、俺の頭上を何かが横切った。シーシャの声で気づいたものの反応がやや遅れて、シーシャと男の子を抱きかかえたままごろごろと転がった。ろくに受け身を取れなかったため全身がゴキリと嫌な音をたてる。

ー全部想定内なんだよ、クソ野郎ども。



俺の頭上には見覚えのある男二人と、その後ろに黒妖国と才華国の軍団が俺達を見下ろしていた。


















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