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土竜族と洞穴土竜

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「親方を含め、自分達四人は元々、シスケビアノ山脈より更に北西に位置する、隣国との境界線に当たる谷に村を築く種族なんす。名前を土竜トーポ族っていうんすが、谷の洞窟に穴を掘って暮らす、文明もクソもないような原始種族なんすよ。そこにたまたま、金剛石の旦那がやって来て、採掘の腕を見込まれた親方がスカウトされたんす。親方は当時、土竜族の発展の為にっつって、一人でこの国にやって来たんすが……。まぁ~いろいろあったみたいっすね。五年前に、村に帰って来たんすよ」

「五年前と言やぁ……。あの、ハーフウェイ鉱山の山潰し事件があった年だよな?」

   ダッグが尋ねる。

「いかにもそうっす。親方は、金剛石の旦那の意向なしに山を潰しちまって……。それが決定打となって、辞めてやったって言ってるっすね」

「辞めてやったって事は……。ワリオサさんは、首になったわけではなかったのかい?」

   ヒロトが尋ねる。

「違うっすよ。まぁ、表向きはそうなっているんすが……。山を一つ駄目にされても、金剛石の旦那は親方にギルドに留まって欲しかったみたいっすね。採掘師としての親方の腕は、超一流っすから。けど親方は、もう我慢の限界だったんすよ。金の為なら、そこに暮らす生き物の命なんてまるで無い物扱いしやがる、金剛石の旦那のやり方にね」

「……ワリオサさんは、どうして山を……、洞窟を、潰したんですか?」

   スピーの真っ直ぐな目に、ゲイルはふっと笑ってこう言った。

「そこに住む仲間を、親方は守ったんすよ」

   ゲイルの言葉に、スピー、ヒロト、ダッグは、互いに目を見合わせて、いったい何があったのだろうと、心の中で呟いた。

   当時ワリオサは、採掘師としての腕を認められて、国内最大規模の鉱業ギルドである、金剛石の守護団の副団長として活躍していた。
   ワリオサに削れぬ山はなし! そんな風に言われるほどに、金剛石のワリオサと言う名は有名だった。
   しかしその裏側で、ワリオサは常に悩んでいた。
   自分のやっている事は、果たして正しい事なのだろうか? と……
   実際、当時の金剛石の守護団の働き方は、自然破壊に近いものがあった。
   採掘の為ならば平気で山を荒らし、生き物を殺す……、そういう集団だったのだ。
   シスケビアノ山脈の山奥で生まれ育ったワリオサは、その半生を、常に自然と共に生きてきた。
   それなのに、己の欲望を満たす為だけに、その自然を必要以上に破壊するギルドの方針には、いささか心を痛めていたのだった。

   そんな時、ハーフウェイ鉱山の採掘クエストが決行される事となり、副団長であるワリオサも、勿論現地に派遣された。
   先頭切って洞窟を掘り進めた先で、ワリオサが目にしたのは……
   輝く宝石がひしめく鉱脈で、ひっそりと静かに暮らしている洞穴土竜クエバ・トーポの姿だった。

「洞穴土竜って……。まさか、幻獣種指定されている、あの洞穴土竜かいっ!?」

   ヒロトは驚き、声を上げる。

「そうっす。洞穴土竜は、ずっとずぅ~っと昔に絶滅したはずの……、言っちまえば、自分達土竜族の先祖に当たる魔物なんすよ。親方は、その洞穴土竜の群れをハーフウェイ鉱山の洞窟奥深くで発見したんっす。さすがに、幻獣種が住み着いている山は掘れないと、親方は金剛石の旦那に言ったんすが……。金剛石の旦那は、幻獣種である洞穴土竜を捕まえて、闇市で売り捌こうって言ったらしいっす。それを聞いて、もうこれ以上は無理だって……、親方は腹を決めたんす。洞穴土竜の暮らす鉱脈を守る為に、ハーフウェイ鉱山にある全ての洞窟の入り口を、たった一人で、爆薬も使わずに、一晩で埋めちまったんすよ」

「ワリオサさんは、洞穴土竜を守る為に、所属するギルドを敵に回したんだね?」

「そう言う事っす。ま、最初に聞いた時は驚いたっすが……。あの人のやる事に間違いはないっすから」

   へへへっ、と笑うゲイル。

「それが、世に言うクレイジー採掘師ワリオサの、真の姿ってわけか……。自分の先祖である幻獣種を守る為に、国内最大規模の鉱業ギルドを敵に回して……。くぅ~! 格好良過ぎだろっ!? ワリオサ~!!」

   ワリオサの事を、呼び捨てにして叫ぶダッグ。
   失礼きわまりない行いだが、ゲイルはあまり気に留めずに、再度へへへっと笑った。

「じゃあ、その……。今回、シスケビアノ山脈に鉱石ドラゴンを探しに行ったっていうのは、どうしてなんぇすか? ワリオサさんの夢って……?」

   スピーの問い掛けに、ゲイルは笑顔でこう言った。

「勿論、鉱石ドラゴンを守る事っす!」

   ゲイルの言葉に、ヒロトとダッグはなっとくしたようだが、スピーにはその言葉の意味が理解できない。

   守る為に、探しに行った……? 
   どういう事なんだろう??

「ここ数年、金剛石の守護団はシスケビアノ山脈に目を付けてるんすよ。一時期、親方の故郷でもある自分達土竜族の村がある事を理由に、探索や採掘はされてなかったんすけどね。親方が出て行っちまって、金剛石の旦那の中で、そこを掘らない理由が無くなった。だから、金剛石の守護団がシスケビアノ山脈を掘り始めるのも時間の問題……。そうなった時に、そこを住処としている鉱石ドラゴンに危険が及ばないように、親方と自分達で予め、鉱石ドラゴンの住処を見つけて守ろうって事になったんす。世の中では、鉱石ドラゴンは随分昔に絶滅した事になってるみたいっすけど……。シスケビアノで暮らしてきた自分達にしてみれば、見た事ある奴は村に大勢いるっす。自分は見た事なかったっすけど……。シスケビアノのどっかに暮らしているって事は、村に住む奴ならみんな知ってるんで」

「そ、そうなのか……。鉱石ドラゴンは、シスケビアノ山脈に生息して……。それが本当なら、世界的大発見だ。学会の連中が飛び上がるぞ……?」

   ヒロトの言葉に、ゲイルは首を振る。

「よしてくださいよヒロトさん。そんな事言っちゃ、親方に捻り殺されるっすよ?」

   あのワリオサの、筋肉ムキムキな腕でならば、本当にヒロトなんて一瞬で捻り潰されて終わりだろう。
   そんなのはごめんだと、ヒロトはぶるっと体を震わせた。

「……まぁ、簡単に言っちまえば、親方は山に暮らす生き物達の住処を守りたいんすよ。必要以上に鉱石を掘る事、そこを住処としている生き物達を殺してまで鉱石を得る事を、親方は良しとしない。自然の中で、そこに暮らす生き物と共に生きていく、それが親方の理想であり、夢なんす。だから、そこにいる鉱石ドラゴンを、親方は売ったりしねぇっすよ」

   ニカッと笑うゲイルに対し、スピーはホッと胸を撫で下ろすと共に、愛らしく微笑むのであった。
 
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