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宝石モグラ団ギルド本部

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「確かこの辺りの……、あ! あったあった! ここだよ!」

   ヒロトに連れられて、素材屋アルヨン御一行は、西地区の端までやって来た。
   なんとか約束の時間までには間に合ったようだ。
   だがしかし、ギルド本部とは思えないほどに小さな三階建の建物を前に、ダッグ、コルト、マローの三人は、一抹の不安を抱いていた。

   スピーはというと、かなり上機嫌な様子だ。 
   それもそのはず、生まれて初めて、車というものに乗ったのだから。

   東地区の端にあった素材屋アルヨンから、この西地区の端にある宝石モグラ団のギルド本部までは、かなりの距離がある。
   中央地区を突っ切って、最短距離で行ったとしても、歩けば小一時間ほどかかるだろう。
   そこで、つい最近購入したのだというヒロトの愛車に乗って、一行はここまでやって来たのだった。

   車というのは勿論、魔力で動く魔動車の事だ。
   エンジンがあって、煙や光が発せられるマフラーが付いているものの、動力源は運転手の魔力である。
   つまり、財力があろうとも魔力のない者にはこれは扱えない。
   これの為に大金を払わずとも、魔力を持つ者ならば、手軽な箒という移動手段がある。
   よって、魔法王国フーガにおいては、車はまだまだ普及していない乗り物なのである。
   その為か、乗車中は常に、道行く人々からの視線が五人に突き刺さっていた。

   ヒロトは新しい物好きな傾向があるようで、完全なるノリでこれを買ったようだが……
   残念ながら見た目は、車体に派手な光る模様のような魔法陣を描いている事を除けば、ほぼほぼただの黒い軽トラだ。
   若干格好悪いその魔動車の、運転席にヒロト、助手席にコルト、荷台にダッグとマローとスピーが乗車して、ここまでやって来たのだった。

   みんなが車から降りると、ヒロトは魔法でそれを手の平サイズまで小さくした。
   理由は、盗難を恐れての事と、まだまだ普及していない乗り物故、ゴミだと思われて撤去されないように、という事だ。
   ヒロトはミニカーとなったそれを、大事そうにローブの内側にしまった。

「あ~……、なんつぅか、小せぇな」

   思わず本音が漏れるダッグ。

「そう? 僕の店も小さいけどね」

   ヘラヘラと笑ってかわすヒロト。

「ですが、管理局の許可は取れているようですね。あそこにギルド登録証がありますわ。少なくとも、詐欺師の集団ではないという事ですね」

   コルトの指差す先には、建物の中央にある扉の横に、金属製の看板がぶら下がっていて、デカデカとした文字で《宝石モグラ団》と書かれており、その下に小文字で《国立ギルド管理局・ギルド運営許可登録日:VH2822.5.15》とあった。

「それにしてもセンス悪いね。他にもっと、良い感じのギルドマーク作れなかったのかなぁ? 何あれ? 気持ち悪いよ~」

   マローがそう言うのも無理はない。
   中に入る為の唯一の手段であろう中央の扉の上には、宝石を両手いっぱいに掴んで、ニヤニヤと笑うモグラ獣人のギルドマークが掲げられているのだ。
   一見するとそれは、このギルドは金の亡者の集団ですよ~、という良くない印象しか与えないような、かなりナンセンスなギルドマークなのであった。

「まぁまぁまぁ……。何事も、見た目で判断しちゃいけないよ? さ、入ろう」

   扉を開いて中に入っていくヒロト。
   しぶしぶ後に続く三人。
   最後に残ったスピーは、どんなお仕事をするんだろう? 僕にもお手伝い出来るかなぁ? と、ワクワクしながら、みんなの後について行くのだった。





   中は嫌にだだっ広くて薄暗い。
   窓がなければ家具もなく、上下に繋がる階段以外は本当に何もない。
   ただ、部屋の四隅に置かれているカバーの掛かった荷台には、どうやら大量の鉱石類が入っているようだと、ヒロト達は勘付いていた。

「ごめんくださ~い! 鑑定しに来ました、素材屋アルヨンです~!」

   部屋に誰もいない事を確認して、ヒロトが大きく声を出した。

「あ! は~い~! 少々お待ちを~!」

   階下からのものか、上階からのものかは分からないが、可愛らしい女性の声で返事がきた為に、一行はしばしその場で待つ。
   タンタンタンと、軽快な足音が聞こえて来たかと思うと、パッ! と部屋が明るくなった。

「わっ!?」

「んん!?」

「キャッ!?」

「何々っ!?」

「……わぁ~、すごぉ~い」

   急な事で驚くヒロト達に対し、元々視力の良いスピーはあまり動じず、目の前に現れた見たことの無い獣人の姿に、思わず感嘆の声を上げた。

   現れたのは、黒のサングラスをした、光沢のある銀色の短い毛並みを持つ、かなり丸い体格の、ギルド名に相応しいモグラのような獣人だ。
   声の高さから考えて女性だと思われるものの……、なかなかに出っ張ったお腹、なかなかの三頭身である。
   服装は、特にお洒落というわけではなく……
   言ってしまえばそれは、採掘をする際に着る繋ぎの作業着だった。

「お待ちしておりましたヒロト様~。わざわざお越しくださいましてありがとうございます~。私はトードというものです。本日はよろしくお願いします~」

   間延びした口調ながらも、キチンとした礼儀正しい言葉遣いに、ヒロト達はホッと一安心する。

「此方こそ、よろしくお願いします。僕が素材屋アルヨンの代表者、素材鑑定士のヒロトです。こちらが鉱物鑑定士のダッグ。それから、植物鑑定士のコルトに、生物鑑定士のマロー。そして見習いのスピーです。今日は僕とダッグの二人が鑑定を行って、残りの三人には助手を頼む予定です。えっと……。この間お話をさせて頂いた、ベルナードさんとゲイルさん、ギルドマスターのワリオサさんは、今日はお留守ですか?」

「申し訳ないですが、今は私しか居ません~。みんな揃って、南地区の道具屋まで買い出しに出かけておりまして~。昼頃までには帰ると言ってましたので、値段交渉はそれからでもよろしいでしょうか~?」

「全然構いませんよ。むしろ、全て鑑定してからまとめて値段交渉する方が、こちらも作業しやすいですので助かります」

「そうですか~、良かった~。では~……、早速ですがお願い出来ますか~? この部屋の四隅に荷台が一つずつ、計四台ありまして~……。一応、全て鑑定していただきたいと、ワリオサが申しておりました~」

「分かりました。では、作業に入らせてもらいますね。少々道具を広げたりするので、スペースを取りますが構いませんか?」

「はい勿論~、大丈夫です~。よろしくお願いします~」

   ヒロトとトードの話がまとまった所で、ヒロトはみんなに向き直る。

「じゃあ、コルトは僕とペアを組んで、ダッグはマローと組んでくれ。スピーは……、どうしようかな~」

   初めての仕事に、スピーの小さな心臓はドキドキしていた。
   頑張るぞ! 頑張るぞ!! と、心の中で絶え間なく意気込んでいる。
   先ほどのヒロトとトードの二人の会話の中で、自分が見習いと紹介された事も、スピーはとても嬉しかったのだ。
   張り切らないわけがない。

「スピーは俺に付けてくれ。いいよな、スピー?」

   スピーに目配せをして、ダッグはにやりと笑う。
   つられてスピーもにやりと笑って、勢いよく何度も首を縦に振った。

「オッケー。それじゃあスピーはダッグを手伝ってね。よし……。仕事開始!」

   パンッ! という、ヒロトが手を叩く音が合図となって、スピーの生まれて初めての仕事が始まったのだった。
         
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